平成26年度 研 究 課 題 外 部 評 価 報 告 書 (事 後 ) 作成日 平成27 年6 月8 日 1. 研究課題名 海水循環型資源回収システム構築の検討 2. 開発実施期間 平成26 年度~平成28 年度 3. 研究概要 1) 目的 製塩技術の利用拡大を目標に、昨年度に実施した可能性検討に基づき、製塩技術と淡水化技術と を組み合わせた海水循環型資源回収システムの構築について検討する。 2) 結果の概要 本年度は、海水中のイオンのイオン交換膜電気透析(ED)装置における透過性を評価した。 実験では、逆浸透膜(RO)法によって海水を淡水化し、それにより 2 倍程度に濃縮されたRO 濃縮 海水を製造した。このRO 濃縮海水を用いて、陽イオン交換膜に 2 価イオン難透過処理を施した膜 (選択膜)と施していない膜(無選択膜)を使用して、電流密度0.03A/cm2、25℃の環境下で電気透析を 行い、それぞれの膜におけるイオン透過性について検討を行った。 その結果、選択膜および無選択膜における SO4 の脱塩液中の濃度は脱塩率の増加とともに増大 し、逆にCa、Mg の脱塩液中の濃度は脱塩率の増加とともに徐々に減少するが、減少の度合いは選 択膜より無選択膜の方が大きかった。次に、Na、K、Cl、Br についてはどちらの膜でも脱塩率の増 加に伴って減少傾向を示した。下記に示すような考え方に基づき、シミュレーションを行った。 CSi(n) CBi(n+1) CBNa(n+1) CSi(n+1) ED CSNa(n) CSNa(n+1) CBi(n+1) EDかん水中のiイオン濃度(未知) CBNa(n+1) EDかん水中のNa濃度(未知) CSNa(n) ED入口のNa濃度(既知) CSi(n) ED入口のiイオン濃度(既知) CBi(n+1)= CBSi(n)・CBNa(n+1)/CSNa(n)・ TiNa (1) まず、選択透過係数TiNa は脱塩液中のイオンの組成に関係なく一定値として定義した。次に、(1) 式に示すような逐次計算法により濃縮液中の i イオンの濃度を算出した。本シミュレーションによ り、脱塩率の増加に伴う脱塩液および ED かん水中の各イオンの濃度変化を捉えることができた。 しかし、実験結果から得られた 2 価イオンの選択透過係数は、脱塩率が増大すると脱塩液中のイオ ン組成によって変化するため、シミュレーションの前提とした一定値にならなかった。ただし、今 回の検討範囲では循環水として使用する ED 脱塩液の脱塩率は50%である。そのため、選択透過係 数の変化が比較的小さな脱塩率 50%以下の結果を使用することになり、2 価イオンの選択透過係数 が変化する影響は小さいと思われる。 3) 今後の方針 本シミュレーションを活用し、海水循環型資源回収プロセスの基本設計および最適化の検討を実 施する。なお、本課題については、製塩企業、プラントメーカー、膜メーカーなどとの共同スタデ ィーを構築し、実用化に向けた研究開発を実施する。 4) 特記事項 特になし。 4. 評価項目 評価点数* 5. 評価コメント 1) 研究の進捗度 2) 目標の達成度 5 3) 期待される成果 4 5 4) 本研究による効果 5 合計 19/20 1) 研究の進捗度 製塩技術と淡水化技術とを組み合わせた海水循環型資源回収システムの構築研究に必須となる ED 装置のイオンの透過メカニズムをシミュレーションによって解明しようとしており評価でき る。提案されているモデルおよびシミュレーション法は、ED 装置の操作設計を可能とし、今後の 海水循環型資源回収プロセスの基本設計に活かされることがわかってきたことから進捗度は充分 であると判断する。 2) 目標の達成度 ED 法のイオン透過性に関する知見がモデルに基づくシミュレーションによって得られている。 ただし、今後実プロセスへの応用を考えたとき、モデルの健全性を検討するための実験的検証はこ れからと判断できる。 3) 期待される成果 海水および海水溶存物質を原料としてとらえ、水、および塩を含めた有価資源を回収する技術開 発はグローバル展開を含めこれから益々必要となる技術であり、本研究課題の成果を期待したい。 製塩技術と淡水化技術とを組み合わせたシステム構築は、現塩産業に対しては従来の事業展開を一 新させる可能性が有り、本研究成果による塩産業の活性化も期待される。 4) 本研究による効果 最近のデータでは全世界で約 17,000 基の淡水化プラントが稼働しており,その造水能力は約 8 千万 m3/day 規模になっている。そのプラントの約 6 割は海水が原料である。すなわち、本研究で 検討されているシステムは、塩製造だけでなく、脱塩技術としての位置付けとして、巨大な市場を 持っており、この研究成果の効果は大きい。 5) その他 製塩や淡水化、あるいは苦汁工業などの脱塩に直接展開できる高度な技術は、現在のところ、個 別技術であって,パッケージ化はされていない。本研究課題は、それらの技術を統合化するトリガ ーとしての意味合いを持っていると考えられる。そこで、海水総合研究所が進めている、それらの 技術の統合化には大いに期待したい。 *評価点数の基準:5(適切)・4・3(妥当)・2・1(不適切)
© Copyright 2024 ExpyDoc