253 G - 02 第 50 回地盤工学研究発表会 (札幌) 2015 年 9 月 デコルマ形成メカニズムの数値実験による検証 デコルマ 数値実験 動的荷重 名古屋工業大学 学生会員 ○小枝幸真,栗本悠平,王乾 国際会員 張鋒 海洋研究開発機構 山本由弦,阪口秀 1. はじめに 沈み込み帯におけるプレート境界断層(デコルマ)形成時の 力学特性を理解することは,海溝型地震発生帯の形成メカニズ ムを解明する手がかりになる.これまでにデコルマはランダム 組織を保持したまま高密度な状態 1)であることが確認されてい るが,その要因は未だ解明されていない.そこで,本稿では回 転硬化型弾塑性構成式 Cyclic mobility model2)に基づく土水連成 有限変形静的・動的 FEM 解析プログラム「DBLEAVES」3)を用 いた数値実験により,地震等による動的外力とプレートの沈み 込み過程で生じるせん断変形が後にデコルマになる境界断層 Fig.1 解析メッシュ(平均応力分布) (プロトデコルマ)に及ぼす影響を検証した. 30 地盤工学や地震学において海底岩盤を議論する場合は一度の 0.5 0 -0.5 -1 とが多い.しかしながら,境界断層ではプレート沈み込みに伴 -1.5 う断層運動に起因する材料破壊や破壊に伴うすべり挙動が発生 -2 しているため,弾塑性材料と評価することが海底岩盤をモデリ -10 10 0 0 -10 10 -20 comp.(s =const.) r plane strain -30 0 0.2 0.4 0.6 Time t (sec) 0.8 Fig.2 振動荷重 ング化する上で適切であると考える.そこで,それらの材料特 20 a r 1 v 地震動のみを考慮し,海底岩盤を均質な弾性材料として扱うこ Shock wave (GN) 1.5 2. 地震等の動的外力を受ける海底岩盤の力学特性 -20 Volumetric strain (%) Stress difference - (MPa) 2 1 0 10 20 30 40 Axial strain (%) 50 20 a Fig.3 要素シミュレーション結果 性を考慮した上で地震等の動的外力が境界断層の力学特性に及 Table1 材料パラメータ ぼす影響を数値実験により検証する. 解析メッシュは,Fig.1 に示す二次元海底岩盤とする.また, 南海トラフ付近の沈み込み帯の特徴(沈み込み角度:2~5 度, デコルマ層厚:約 32.6m)を再現するために境界断層の沈み込 み角度を約 2 度とし,境界断層の層厚は 40m とした.境界断層 の深さは実際のプロトデコルマとデコルマの存在が確認されて いるそれぞれの深度約 400m と深度約 800m を参考に 390m~ 640m とする.初期応力は自重応力場として与えた. 海底岩盤に与える振動荷重は地震等による衝撃が伝播してき たことを想定し,Fig.2 に示す振動荷重を解析メッシュの左側面 における深さ 1000m の節点に入力する.また,振動点の周辺 320m(赤線で表示)を構成する節点を x 方向に等変位境界とす ることで,実際に観測されるような地震動を再現する.減衰定 0.70 0.20 9.00E+5 0.11 0.0076 3.90 0.70 0.20 - Elasticity (loading position) 0.70 0.20 1.935E+7 - 0.10 - - 0.25 - - 0.001 - - 0.01 - - 5.00 - 1.00E-9 21.07 0.00 1.00E-9 21.07 1.00E-9 21.07 Elasticity Elasto-plasticity Compression index Swelling index Critical state stress ratio Rf Void ratio N (p'=98kPa on N.C.L) Poisson's ratio Young's modulus E (kPa) Degradation parameter of overconsolidation state m Degradation parameter of structure a Evolution parameter of anisotropy br Initial degree of structure R0* Initial degree of overconsolidation OCR (1/R0) Initial anisotropy 0 Permeability k (m/sec) Wet unit weight t (kN/m3) 数 h は通常のコンクリート部材や軟岩の値として 0.05 とする. なお,振動終了後に慣性力が落ち着いた後は連続的に圧密解析 性材料とした.材料パラメータと拘束圧 5MPa での要素シミュ を実施し,過剰間隙水圧の消散や体積ひずみ挙動にも着目する. レーション結果を Table1,Fig.3 に示す.この結果より,天然の 境界条件は解析メッシュ下端面を鉛直・水平方向固定とし, デコルマで観察される様な骨格構造の喪失に伴う軟化挙動を示 両側面は鉛直方向自由,水平方向固定とした.ただし,振動点 しながら塑性圧縮(大圧縮)が進行する特性を定性的に表現し とその周辺320mを構成する節点は鉛直・水平方向自由とした. ていることが確認できる.なお,海底岩盤に振動荷重を直接与 水理境界については解析メッシュ下端面および両側面を非排水 えると,岩盤が破壊し振動エネルギーは伝播されないため,解 境界とし,地下水位は GL と同じであると仮定した.材料パラ 析メッシュの左側面に存在する幅60mの要素に振動荷重を与え メータは大陸・海洋プレートは弾性材料とし,境界断層はプロ ても破壊しない弾性材料を設けた.その性質は硬岩(ヤング係 トデコルマのような若干の過圧密かつ高位な構造を有する弾塑 数 E=2.0E+7~3.0E+7kPa)を参考にした. Numerical test on the formation mechanism of décollement zone Saeda, Y., Kurimoto, Y., Wang, Q., Cho, H. (Nagoya Institute of Technology), Yamamoto, Y., Sakaguchi, H. (JAMSTEC) 505 解析は数百年に一度の振動荷重 (延長 1sec, 地震によるもの) 4. 結論 とその後の圧密沈下の 1 サイクルを計算する Case A と合計 100 境界断層をプロトデコルマのような弾塑性材料と見なし,地 サイクル(二百年周期)を与える Case B を設け,振動荷重がプ 震等の動的外力とプレートの沈み込み過程を再現した.その結 ロトデコルマの力学特性に与える影響,特に天然のデコルマで 果,沈み込み過程でのせん断変形を受けると大陸プレートと接 観察される様な体積ひずみ 30%程度の大圧縮が発生し得るかを 触する境界断層の最上部で局所的にせん断帯が形成され,せん 検証する.なお,本数値実験では Fig.1 に示す境界断層の x 方向 断帯以外の断層材料はせん断変形をほとんど受けないことが分 沿い 310m,910m,1510m,2110m,2710m に位置する節点(赤 かった.一方,動的外力を二百年に一度与えるサイクルを合計 色で表示)と要素の特性に着目する. 百回与えた場合,境界断層の体積ひずみは 20%以上発生するに Case A における境界断層の平均応力,過剰間隙水圧,体積ひ も関わらず,構造に顕著な変化は見られなかった.これらの結 ずみの時刻歴を Fig.4 に示す.平均応力に着目すると振動後大幅 果より,地震等の動的外力がデコルマの形成要因である可能性 に減少し,過剰間隙水圧は最大約 3.7MPa まで上昇する.また, は非常に高いと言える. 過剰間隙水圧の消散に伴い最大約 1.5%の体積ひずみが生じる ことが分かる.これらの結果より,地盤工学や地震学では一般 塑性材料としての性質を無視することはできず,境界断層を弾 塑性材料と見なす必要があると考えられる.一方,Fig.5 に示す Case B に着目すると,100 サイクルの振動荷重と圧密沈下を受 けると体積ひずみは 20%以上発生している.さらに,構造の発 Mean stress p (MPa) 的に海底岩盤を全て均質な弾性材料として扱われてきたが,弾 展は約 0.024 であり,顕著な構造喪失(完全に構造を喪失した Excess pore water pressure pw (MPa) 5 310m 910m 1510m 2110m 2710m 4 3 2 1 0 場合は R*=1)は見られない.すなわち,境界断層で体積ひずみ 0 10 20 30 40 Time t (sec) 50 60 5 4 3 2 1 0 -1 -2 310m 910m 1510m -3 -4 -5 2110m 2710m 0 (a) 平均応力 が 20%以上発生したにも関わらず,内部構造はランダムな状態 を保持しており,デコルマの特異性と同様の傾向を示した. 10 Volumetric strain v (%) たが,南海トラフで観測される沈み込み速度は年間約 4cm とさ れ,それに起因するせん断変形の影響を適切に検証する必要が 310m 910m 1510m 2110m 2710m 0 1 1.5 ある.そこで,プレートの沈み込みを数値実験で再現し,せん 2 0 1000 断変形がデコルマ形成に及ぼす影響を検証する.解析メッシュ 2000 3000 Time t (year) 4000 および材料パラメータ,水理境界は前章と同様とし,大陸・海 (c) 体積ひずみ 洋プレートを弾性材料,境界断層を弾塑性材料とした.境界条 Fig.4 Case A の解析結果 海洋プレートに年間 4cm のプレート移動量を千年間(強制変 5 10 15 20 25 位 40m のせん断変形)与えた後の偏差ひずみ分布を Fig.6 (a)に 310m 910m 1510m 2110m 2710m 0 5000 10000 15000 Time t (year) 20000 0.025 Degree of structure R* Volumetric strain v (%) 海洋プレート内部に対しても等間隔で強制的に作用させる. 0.03 0 件は大陸プレートを水平方向固定,海洋プレートを鉛直方向固 ラフ付近で観測される年間4cm のプレート移動量を千年間与え, 60 (b) 過剰間隙水圧 0.5 前章では,動的外力がプロトデコルマに及ぼす影響を検証し 込み過程を忠実に再現するために海洋プレートに対して南海ト 50 -0.5 3. せん断変形を受ける海底岩盤の力学特性 定かつ両側面をともに等変位境界とする.また,プレート沈み 20 30 40 Time t (sec) 0.02 0.015 310m 910m 1510m 2110m 2710m 0.01 0.005 0 0 5000 (a) 体積ひずみ 示す.これより,境界断層と大陸プレートが接する境界断層の 10000 15000 Time t (year) 20000 (b) 構造 Fig.5 Case B の解析結果 最上部に局所的にせん断帯が発生していることが分かる.境界 断層における見かけのせん断ひずみは 100%発生(層厚 40m に 対して強制変位は 40m であるため)するはずだが,せん断帯で は 250%以上の偏差ひずみが発生しており,せん断帯以外の境 界断層ではほとんど発生しない結果が得られた.一方,Fig.6 (b) に示す体積ひずみ分布に着目すると,せん断帯において 2%以 (a) 偏差ひずみ分布 上の体積ひずみが発生するものの,せん断帯以外の境界断層で (b) 体積ひずみ分布 Fig.6 解析メッシュ中央拡大図(千年後) は 1%程度であることが分かる.すなわち,一度せん断帯が発 生すると,その後のせん断変形はせん断帯部分でほとんどまか 参 考 文 献 なわれる(変形の局所化;localization)と言え,プレートの沈み 1) Ujiie, K., Hisamitsu, T. and Taira, A. (2003): Journal of Geophysical Research, Vol.100, No.B8, 15221-15231. 2) Zhang, F., Ye, B., Noda, T., Nakano, M. and Nakai, K. (2007): Soils and Foundations, Vol.47, No.4, 635-648. 3) Ye, B., Ye, G., Zhang, F. and Yashima, A. (2007): Soils and Foundations, Vol.47, No.3, 547-558. 込み過程で発生するせん断変形はデコルマの特異性に寄与する ことはなく,デコルマの高密度化を促す要因から排除できる. 506
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