高速電流アンプ試作例

高速電流アンプ試作例
‘05/7
細田
高速の電流アンプを作成したので、その要点を後の参考のために記しておく。なお、理
論等は別紙のレポートを参照。
(1)要求仕様
静大・三村研と共同で冷陰極素子からの出力電流・時間応答波形の測定を行っている。
現在の問題点は以下の通り。
1. レーザーパルス励起で測るのだが、素子の光を当てる穴がミクロンオーダーと小さ
く、光スポット絞り込みが真空中で素子が離れているため難しく、入射光量の問題と、素
子の耐性の問題より、平均電流量が 10pA から 100pA 程度しか得られない。
2. 市販の最高級機種である Keythley の電流アンプでは 100pA のレンジでも 10 マイクロ
秒の応答時間でしか計測できない。
以上より、以下の objective spec.(要求仕様)の電流アンプを作成することとなった。
要求仕様:
10pA 入力で外部のオシロ等で計測可能な数 mV の電圧出力が最低でも出ること。
バンド幅および立ち上がり時間(tr)と立ち下がり時間(tf)は極力高速に。
ノイズは最少に。
以上の要求を満たすアンプおよび電流電圧変換アンプ(trans-impedance AMP, T-Z AMP)
のノイズ理論を調べ、以下の仕様となった。なお、T-Z AMP のノイズ理論に関しては別
のレポートに記す。
実現した仕様:
Band width = 10 MHz
tr/tf = 30 ns
最低計測電流 = 10 pA
電流・電圧変換ゲイン= 0.5 mV / 1pA
ノイズ= 9mV RMS
ノイズ算定に用いた入力総容量= 10pF
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(2)回路
図1に回路図を示す。
使用した OP-AMP の仕様と選択理由を以下に示す。
2-1. 初段、T-Z AMP = AD8067
AD8067 SPEC.
Band product = 540MHz, current noise = 0.6fA/root[Hz], voltage noise = 6.6 nV/root[Hz],
bias current = 5pA max., input offset voltage = 1mV max., drift = 15µV/C, device input capacitance = 4pF(非平衡使用時)。
T-Z AMP の理論から高速電流アンプを考えると、電流アンプのバンド幅を増すには OPAMP のバンド幅が大きい方がよい。加えて、電圧ノイズの小さなものが必要であり、か
つ、微小電流を測るためにはバイアス電流の小さなものを選択する必要がある。この仕
様を満たすのに現在のOP-AMP で最善の選択はAnalog Devices 社のAD8067しかない。な
お、入力電流が 100nA ほど得られる場合には他の選択もあり、例えば、AD8015 などを使
うと 240MHz, MAX3267 (Maxim 社)を使うと 1.9GHz のバンド幅を得ることが出来る。し
かしながら、今回の最低入力電流感度を10pA∼100pAに設定した場合、これらのOP-AMP
IC では対応できない。
2-2. 次段、電圧アンプ
AD8067 では 10pA の電流入力で 10pA x 51k ohm = 0.5mV の出力となり、オシロでの観
測に困難が伴うため、次段に 10 倍の電圧アンプを設けて 5mV まで出力を上げる。
Cf
0.33pF
Low-pass filter
In
R 51k
+
OP1
AD8067
Ro
10µH
OP2
AD8009
L1
+
51Ω
22pF
C1
330Ω
R3
Ro
R2
200Ω
R1
図1 10MHz 電流アンプ
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51Ω
22Ω
Out
AD8009 は 10 倍のゲインにおいて 320MHz のバンド幅を持ち、十分な帯域を持っている。
なお、AD8009 は +-5V の電源で使用するため、前段の AD8067 も +-5V の供給電圧で使用
する。
2-3. ローパスフィルター
回路図で点線で囲った部分はローパスフィルターであり、10MHz から 12dB/oct で広域
をカットする(2 pole filter)。このフィルターの必要性は以下の通りである。T-Z AMP の
ノイズ理論から、T-Z AMP ではカットオフ周波数よりも高い周波数では信号に対するゲ
インは落ちるものの、ノイズに対するゲイン(ノイズゲイン)は落ちずに維持される。そ
のため、オシロで観測する場合には高域のノイズが重畳し、信号を観測しづらくなる。こ
れを防ぐにはT-Z AMPのゲイン帯域よりも高い周波数に対してはローパスフィルターに
よってノイズをカットする方がよい。なお、ロックイン検出を行う場合には、特にはこ
のフィルターは付けなくてもよい。
フィルターはアクティブフィルターを設ける手もあるが、
10MHzという高周波であり、
発振等のトラブルを避けるために受動型を採用した。フィルター部を構成する LCR に対
し、フィルター周波数(-3dB cut-off)は Q 値を 0.5 と取った場合は以下の式で示される。
ω0 = 2πf = 1 / root( LC)
Q = 0.5 = R root( C / L)
まず、R を適当に選ぶ。今回は AD8067 のドライブ能力と IC の出力抵抗= 60 ohm を考え、
330 ohm とした。次に L と C を上記の二つの式より算出する。
2-4. OP-AMP の出力に付いている抵抗、Ro
OP-AMPの出力に浮遊容量等の容量負荷が付くと発振しやすくなり、不安定となる。こ
のため、通常は 20 ∼ 50ohm 程度の抵抗を入れておく。これが回路図にある Ro である。
(3)回路の実装
高周波回路であるので実装はベタアースのプリント基板上にセラミックシールで絶縁
されたIC用のランドパターンを両面テープで貼り付けて、その上にICを半田付けして実
装する。バイパスコンデンサー等は積層セラミックコンデンサーのチップタイプを使用
する。IC の電源端子は最短でバイパスコンデンサーでベタアースにバイパスする。
AD8067の反転入力端子は微小電流の漏れを防ぐために、AD8067のICの足をラジオペ
ンチで注意深く曲げて、空中に浮かし、そこから配線する。IC の形状が大きければテフ
ロン端子もありうるが、AD8067 のサイズは小さいためにこのようにした。なお、IC の足
は折れやすいので、曲げる際に最新の注意を払わないと IC の足を折ってしまい、IC を壊
してしまうので注意。
以上。
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