協同組合と中小企業

協同組合と中小企業
関 英昭
(1)わが国の協同組合に関する法制度の在り
れた法律であるが、後者はあまり馴染みがな
方は複雑である。農業協同組合法、消費生活
い。中央会について、この二つの法律は相互
協同組合法、水産業協同組合法、森林組合法、
にどのような関係にあるのだろうか。中団法
中小企業等協同組合法はよく知られている
は「中小企業団体中央会については、協同組
が、協同組合に関する法律はその他にもたく
合法の定めるところによる」と規定する(101
さんある。最近、中小企業の団体制度にかか
条)だけだ。ここでいう、協同組合法とは、
わりを持つ機会があり、それを機に少し勉強
中協法のことを意味するから、中央会につい
してみた。これまでどちらかと言えば協同組
ては中協法の規定(70条~82条の18)を見る
合法の目抜き通り(?)を中心に歩いてきた
しかない。ここに二つの重要な事柄が隠れて
ので、中小企業の団体制度については殆んど
いる。一つは、中央会については、中協法と
目を向けてこなかったことに気付いた。と同
中団法のどちらが基本法かであり、もう一つ
時にそのことを反省している。反省の証しと
は、中央会の名称が「中小企業団体中央会」
して、中小企業団体に関する勉強を始めてみ
であって「中小企業協同組合中央会」ではな
ることにした。そうすると、とても新鮮で興
いことである。普段気にはならないが、実は
味深いことがわかってきた。ワクワクするも
これらの事柄が重要なのである。
のを感じる。中小企業のための団体法には、
(3)中央会の名称について先に見てみよう。
協同組合法だけでなく多くの法律が存在す
中協法が制定された当時(昭和24年)、「中央
る。そのことは承知していた。しかし、その
会」に関する規定は何もなかった。それが昭
内容には殆んど踏み込まないで過ごしてき
和30年の第8次中協法改正の際に、行政庁の
た。そこで少しばかり眺めてみると、中小企
監督権強化とともに導入されたのが、「中小
業団体には、団体の法主体として、「協同組
企業等協同組合中央会」である。しかも、そ
合」、「協同組合類似の組合」、「その他の団
れがさらに、昭和32年の第11次中協法改正の
体」があり、そのための法律がたくさん用意
時に、現在のような「中小企業団体中央会」
されていることがわかった。
に変更されたのである。
(2)現在、中小企業団体をたばねる中央組織
(4)次に、戦後の法律である中協法と中団法
として、
「都道府県中小企業団体中央会」
(都
の関係であるが、これは現行法の規定を見た
道府県中央会)と「全国中小企業団体中央会」
だけではよくわからない。それらの法制定の
(全国中央会)がある。全国中央会は通常「全
由来を考察することが必要となる。
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中」と呼ばれている。ところで、この中央会
そもそも、中協法制定の由来は、中小企業
制度の設立根拠法に二つの法律があることは
に関する組織制度を中小企業等協同組合法に
ご存じだろうか。一つは、
「中小企業等協同組
一元化する、という連合国総司令部(GHQ)
合法」
(中協法)であり、もう一つは「中小企
の方針に基づくものだ。中協法ができたこと
業団体の組織及び運営に関する法律」(中団
により、それまであった商工協同組合法等は
法)である。前者は協同組合関係者には知ら
廃止され、同時にそれまで存在した商工協同
共済と保険 2015.5
組合、市街地信用組合等は中小企業等協同組
や協同組合類似の団体が多く存在することが
合に組織変更することができることとなっ
わかった。しかもその数、実に4万に近い団
た。しかし、昭和25年の朝鮮戦争後、我が国
体数だ。組合員数でみると、かなりの数にの
の中小企業の世界は、過当競争による経営の
ぼるであろう。協同組合陣営は、このような
不安定等さまざまな事態が発生し、中協法と
中小企業団体のことを良く知る必要がある。
は別の立法措置が必要とされた。そこで「特
中小企業団体の組合員の中には、営利企業で
定中小企業の安定に関する臨時措置法」(昭
あるものが多く存在する。営利とは何か、そ
和27年)や「中小企業安定法」(昭和28年)が
の営利をどのように追求しているか、営利企
制定された後、昭和32年に成立したのが中団
業はどのような経営やガバナンスを実践して
法である。その結果、中団法は中小企業団体
いるか、それらを学ぶことの意義も大きい。
を規制する基本法として位置づけられること
② 協同組合陣営は、これらの団体との連携又
になり、中協法も中団法に包含される体系と
は協働を深めていくことが重要である。2010
なったのである。
年に閣議決定された中小企業憲章は、「基本
(5)そこで、現在の全国中央会の会員の種類
理念」として、
「中小企業は、社会の主役とし
を見てみると、中協法が列挙する組合の他、
て地域社会と住民生活に貢献し、伝統技術や
協業組合や商工組合、商店街振興組合及び生
文化の継承に重要な機能を果たす」とある。
活衛生同業組合等が存在する。これらの団体
これはICA声明の第7原則に相応する。
の法的性質は、中協法の団体は協同組合、中
③ 協同組合陣営では、2012国際協同組合年全国
団法で定める団体には協同組合と協同組合類
実行委員会がまとめた「協同組合憲章草案」が
似の団体、商店街振興組合法の商店街振興組
ある。そこには、政府の「行動指針」として、
合は協同組合類似の団体、その他生活衛生関
「地域社会の活性化を図るために、協同組合な
係営業の適正化及び振興に関する法律に基づ
ど地域社会に根差す諸組織を支援する」こと、
く生活衛生同業組合はその他の団体である。
とある。また、
「むすび」には、
「協同組合は、
その結果、全国中央会は協同組合だけでな
地域のさまざまな組織、政府や地方自治体との
く中小企業団体全体を掌握する組織であるこ
協働を促進し、さらに公益的活動の発展を図る
とがわかる。
決意」があることを表明した。そうである以上、
(6)全国中央会の会員数(27,613)を主要組
協同組合は、地域社会の経済活動の中心をなす
合別に見てみると(平成26年3月現在)、事業
中小企業団体と、率先して歩みを共にしなけれ
協同組合(21,079)
、企業組合(1,041)、商工
ばならない。それが「協同組合は新しい活動分
組合(990)
、商店街振興組合(897)協業組合
野を作りだし、地域の経済と社会のリーダーと
(578)の順となっている。事業協同組合が圧
しての役割を担う」ことの実質であろう。
倒的に多いことがわかる。会員の枠をはずし
大企業優先の我が国のさまざまな仕組みの
て見ても、同年の中小企業団体総数37,772の
中で、協同組合と中小企業団体が手を結び、
うち、事業協同組合の数は29,669組合存在し、
国の経済や国民のくらしを支える重要な主役
全体の約8割を占める。
となり、お互いに協力する。なんとこころ強
(7)そこで、言いたいことをいくつかにまと
めてみたい。
①
④
中小企業団体の中には、協同組合そのもの
いことか。これが最初に述べた「ワクワクす
る」ことの正体である。
(青山学院大学名誉教授)
共済と保険 2015.5
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