C L O S E U P こしじ・たかあき 昭和31年、石川県七尾市出身。昭和59年、京都大 学医学部卒業。松江赤十字病院、京都大学医学部 附属病院、フランス(マルセイユ)留学、熊本中央病 院を経て、平成21年、福井大学医学部教授に就任。 平成24年4月より現職。専門は心臓血管外科学。 医療環境制御センターをけん引役に 多 部 門・多 職 種 が 一 体 に な っ て 医療事故や院内感染を防止。 腰地 孝昭 安全 福井大学医学部附属病院に 安心・安全な医療のけん引役を担う 医療環境制御センターが設置されて 年が経過しました。 医療事故や院内感染を可能な限りなくすため、 医師、 看護師、コメディカル、事務局が一体で活動しています。 同センター長を務める腰地孝昭副病院長に 新病棟における新たな取り組みなど、 最新の医療安全対策をうかがいました。 福井大学医学部附属病院 副病院長(医療安全担当) 医療環境制御センター長 医療 F RONTIER 10 医療人が存分に能力を発揮でき 安心して受診できる環境を整備。 再発防止に向けたルールを設け 医療現場の順守徹底を促す。 安心と信頼の下で﹂ て お り 、集 ま っ た 報 告 を 分 析 し 、再 発 防 ンターへ報告してもらう仕組みになっ があった時に、速やかに医療環境制御セ の は も と よ り 、反 省 し た り 、話 し 合 っ た に お け る﹁ 安 心 と 信 りにとどまっているようでは、全院的な 頼 ﹂の 部 分 を 担 っ て 医療人が思う存分 再発防止につながりません。積極的に情 止に向けたルールを検討・決定します。 に能力を発揮でき、患者さんが安心して 報を公開し、院内のルールづくりまで踏 いる縁の下の力持 受診できる医療環境を整えることに尽 み込む必要があります。 な る の が 人 情 で す 。し か し 、口 を つ ぐ む きるのではないかと思います。 そうした意味で、現場での出来事を包 ミスやエラーが起きた場合、隠したく 院内の安全環境を整備するというよく この任務を遂行するための基礎資料 み隠さずに公開するマインドや病院風 ちと言えるでしょ 似た役割をもっていましたので、機能を となるのがオカレンスレポートです。医 土・文化を確立することが安全確保の根 う 。言 い 換 え る な ら 、 まとめることでパワーアップする狙い 療事故や院内感染につながりかねない 底 で は な い か と 思 い ま す 。現 在 、毎 月 年に医療安全管理部と感染制 でした。このような組織体は全国でも初 リスクを事前に解消するために、現場で 設置して 年が経過しました。両部とも 御部を統合し、医療環境制御センターを めての取り組みだったと聞いています。 ヒヤリとしたり、ハッとしたりした事象 とです。 とがわれわれの目標ではないというこ 寄せられていますが、報告数を減らすこ 3 0 0件 ほ ど の オ カ レ ン ス レ ポ ー ト が 本 院 の 理 念 で あ る﹁ 最 高・最 新 の 医 療 を 平成 医療環境制御センター あらためてその使命を説明しますと、 16 10 オカレンスレポート 4 F RONTIER 交通整理のおまわりさん役 もちろんルールさえ作れば終わりで はなく、現場で実践しなければ意味があ り ま せ ん 。そ の た め 、交 通 整 理 を す る お まわりさんのように、安全確保の観点か ら﹁ここは一旦停止です﹂﹁ここは右折禁 止 で す ﹂と い っ た よ う に 、ル ー ル 順 守 を 促すこともわれわれの重要な任務と なっています。 しかし、徹底するのはなかなか難しい の が 現 実 で す 。現 場 か ら は﹁ 自 分 は こ こ で曲がりたいんだ。なぜ行かせてくれな ほど出てきます。当事者に対する事情聴 いのか﹂といった声が必ずと言ってよい 取でも、ともすれば詰問のような雰囲気 に な っ て し ま う 場 合 も あ る の で 、﹁ 検 察 官や裁判官のようだ﹂といった非難めい 3月 で 定 年 退 任 さ れ た 井 隼 彰 夫 名 誉 教 や長らく医療安全管理部長を務め、この 乱を生じないよう院内ラウンドをこま したので、慣れない環境と人間関係で混 ことになり、看護師の大量異動もありま あるわけですから、なるべく押し付けに 再発防止に向けた改善策を探ることに 目的は犯人探しではなく、あくまでも るリスクマネジャー︵医療事故防止担当 全 管 理 者 ︶が い て 、各 病 棟 に 配 置 し て い ラ ル リ ス ク マ ネ ジ ャ ー︵ G R M、医 療 安 医療安全管理部には部長の下にゼネ に対する理解が浸透してきたと感じて の意義、情報公開やルール順守の重要性 ようやく院内の大半にわれわれの活動 に努めています。時間はかかりましたが、 レーションを繰り返し、従来からの安全 新病棟オープンに際してはシミュ とする複数体制に拡充しました。 は 薬 剤 師 G R M︵ 兼 任 ︶も 含 め た 多 職 種 適合させることに力を注ぎました。特に 管理策をスムーズに新しい環境に移行・ 年を機に、そうした苦労も含め 新たに臓器・疾患機能別のセンター化に 発足 てこれまでの活動をまとめた記念誌を 踏み切ったため、従来は別々に動いてい 手術部の仲介役となることで、迅速に対 ですが、感染制御部が施設管理担当者と 想定より弱いという事象が発生したの 漏水とか、外部の空気流入を防ぐ陽圧が ば 、私 が 部 長 を 務 め る 手 術 部 で も 、軽 い なトラブルがいくつか生じました。例え た だ 、実 際 に 運 用 を 開 始 す る と 、小 さ にしました。 めに行い、精力的に現場にかかわるよう 授らにも寄稿いただいており、 年の足 跡が一望できる内容になっています。 ならないように、現場から具体的な改善 者 ︶を 統 括 し て い ま す 。G R Mは 看 護 師 薬剤払い出しミスを防ぐため 自動ピッキングシステム導入。 診療科と対等に渡り合えるよう 医療安全管理部長に専任教授。 策を出してもらうようにしていますし、 長クラスの専従職と、平成 年4月から 根気強く現場と合意を形成できるよう た誤解が生じがちです。 医療環境制御センター 10周年記念誌 発 刊 し ま し た 。私 の 前 任 者 で 初 代 セ ン GRMミーティング 10 います。 25 た診療科や病棟が一体的に運用される 10 ター長を務められた熊切正信名誉教授 5 U P C L O S E センター設置10年を経て 院内に幅広く浸透した 情報公開マインドと 医療安全重視の文化 インフォームドコンセント 策を講じることができました。 新病棟では薬剤投与のミスを防ぐた めにバーコード照合によるピッキング 自動払い出しシステムも導入しました。 しょう。 化﹂の覚悟を示す英断だったと言えるで で す し 、病 院 と し て も﹁ 医 療 安 全 徹 底 強 てたわけですから重い決断だったはず 職を完全に離れての転身です。メスを捨 が、後任の秋野裕信教授は泌尿器科医の 確 認 し ま す 。重 要 度 が 高 く 、改 善 が 必 要 逐 一 I C Nが 現 場 に 足 を 運 ん で 状 況 を 合はもちろん、ありふれた菌であっても、 や不都合を生じやすい菌が発生した場 チームでミーティングを実施し、耐性菌 上 が っ て き ま す 。そ れ に 基 づ い て 日 々 、 り組みを強化しています。 様、院内ラウンドの回数を増やすなど取 た上で検討し、対策を決定します。 な 事 案 に つ い て は I C Tが ラ ウ ン ド し 新病棟稼働後は、医療安全管理部と同 血液培養検査 (細菌検査部門) 血液培養検査情報をベースに チームで感染制御を推進。 新病棟での院内巡回を増やし スピーディーに対応。 一 方 、感 染 制 御 部 は 、感 染 管 理 認 定 医 師 、感 染 管 理 認 定 看 護 師 を は じ め 、感 染 症に造詣の深い関連部署のメンバーで インフェクションコントロールチーム ︵感染制御チーム、ICT︶を組織してい ま す 。専 従 の イ ン フ ェ ク シ ョ ン コ ン ト ロ ー ル ナ ー ス︵ I C N︶を 4 月 か ら 2人 に増員して配置しており、各部署での感 染制御を担うリンクナースを統括して います。 時間稼働で血液培養検査を 院内感染を未然に防ぐために、細菌検 査部門が 行 っ て お り 、毎 日 、感 染 制 御 部 に 情 報 が 24 薬 剤 の 取 り 違 え は 、医 師 の オ ー ダ ー 、薬 剤師の払い出し、看護師の手渡しという 3つ の 段 階 で 発 生 す る リ ス ク が あ り ま す 。各 段 階 で ダ ブ ル チ ェ ッ ク 、ト リ プ ル チェックを行って防止に努めているわ け で す が 、よ り 精 度 を 高 め る た め 、ま ず は薬剤師の払い出し業務を機械化した ものです。引き続き他の段階でも精度向 上を目指した改善に取り組みます。 4月 か ら は 医 療 安 全 管 理 部 長 に 専 任 ICTラウンド 教授を配置し、各診療科と対等に渡り合 える体制を強固にしました。これまでの 井隼教授もほぼ専任に近かったのです ピッキング自動払い出しシステム 6 F RONTIER 平成 年 7月 に あ る 病 棟 で 患 者 さ ん が持ち込んだ流行性角結膜炎が集団発 生しかかったことがありました。ごく一 般的な病気ではありますが、重症で体力 が弱っている患者さんが多く入院して いる本院の特性に鑑み、すぐに当該病棟 に入院制限をかけました。 そ の 結 果 、病 棟 内 で 終 息 さ せ 、病 院 全 体への拡大を防ぐことができました。 感染した入院患者さんは治癒するまで 入 院 を 継 続 し 、退 院 後 も 全 員 を フ ォ ローアップするなどきめ細かく対応し インフルエンザ対策も重視しており、 した。 説明を受けていただけるようになりま ました。 も し 職 員 が 罹 患 し た 場 合 は 、即 刻 、勤 務 また、医師が1時間近くかけて懸命に 説 明 し て も 、﹁ 難 し い こ と は よ く 分 か り を休むというルールを徹底しています。 ませんので、お任せします﹂と、内容を十 分に理解しないまま一任される患者さ んやご家族が少なくありませんので、言 着いて説明を聞いたり、質問したりでき 的 で し た の で 、正 直 、患 者 さ ん 側 が 落 ち やご家族に対する説明を行うのが一般 ナースステーションの一角で患者さん した。旧病棟では周囲がざわついている 棟に最低3カ所の患者説明室を設けま ま す 。そ の 一 環 と し て 、新 病 棟 で は 各 病 明 と 同 意 、I C︶の 質 向 上 に 着 手 し て い 関してはインフォームドコンセント︵説 さらなる安全確保に向け、医療安全に らICの書式を取り寄せたところ、優れ 準化していく方針です。すべての部署か 質 に ば ら つ き が あ り ま す の で 、極 力 、標 さらに、診療科や医師によってICの おり、具体化を急ぎたいと考えています。 に関する患者さんアンケートを終えて 構築につなげるものです。ICのあり方 ることで、より深い人間関係や信頼性の 十分に理解していただけるよう工夫す やすく説明し、手術に伴うリスクなどを して説明する方策も検討します。分かり ションなどビジュアルなツールを活用 葉や文字だけではなく、動画やアニメー る環境ではありませんでした。新病棟の 患者説明室を大幅に拡充し 静かで落ち着いた環境を確保。 患者さんの理解度向上に向け 動画やアニメの活用を検討。 患者説明室は周囲からセパレートされ たものがいくつもありました。それらを 参 考 に し な が ら 、個 別 に 分 析 と 評 価 を 行った上で現場にフィードバックし、全 院的なレベルアップを進めたいと考え ています。 感染制御部では、本院内にとどまらず、 地域全体の感染制御のレベルアップに 取 り 組 ん で い ま す 。例 え ば 、多 剤 耐 性 菌 をもつ患者さんが転院すると、感染が拡 散する恐れがあります。本院だけでは防 止するのは困難ですので、地域の医療機 関が情報やスキルを共有し、連携しなけ ればなりません。 すでに本院の感染制御チームがリー ダーシップを発揮して、一定の感染制御 スキルを有する病院間の合同会議を立 ち上げています。大学病院ならではの取 り組みであり、大いに成果を期待してい ます。 ICのあり方に関する患者さんアンケート 24 ていますので、静かな空間でじっくりと 7 U P C L O S E 院内はもとより 地域全体の安全確保にも リーダーシップ発揮する 感染制御チーム 患者説明室
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