大阪市立大学 医学部附属病院(先進医療)

■ 経頚静脈肝内門脈大循環短絡術
●適応疾患: ①門脈圧亢進症に起因する消化管静脈瘤、消化管出血
②肝硬変に伴う難治性腹水、難治性肝性胸水
③門脈血栓症 ④肝性Budd-Chiari 症候群
技術のポイント
解 説
手技はInterventional
Radiology のテクニックを駆使
した低侵襲なもので、局所麻
酔のみで実施可能であり、要
する時間は約2時間です。
TIPS用に開発された経頚静脈
肝内門脈アクセスセットを用い
てX線透視下に肝静脈から肝
内門脈を穿刺し、肝静脈から
肝内門脈にガイドワイヤー、カ
テーテルを挿入して短絡路を
確保した後、同短絡路をバ
ルーンカテーテルにて拡張し
金属ステントを留置します。
経頚静脈肝内門脈大循環短絡術(以下 TIPS)は、門脈圧亢進症に起
因するさまざまな症状に対する治療法であり、経皮的に肝内で門脈
大循環短絡路を作成することで亢進した門脈圧を減圧します。
低侵襲で大きな門脈圧低下が得られるため、欧米では既に広く普及
しており、本邦においても近年症例数が急速に増加しつつあります。
門脈圧亢進症に起因する症状の中で、食道胃静脈瘤においては従
来、内視鏡的硬化療法が一般的に施行され良好な治療成績が示さ
れています。
しかし、硬化療法は自然に発生した門脈静脈短絡路を閉鎖するの
で、さらなる門脈圧亢進を招き、その結果、静脈瘤再発や腹水貯留等
の門脈圧亢進症上を惹起する症例も多数経験しています。
TIPSはこのような内視鏡的治療だけではコントロール困難な静脈瘤
症例に対し、門脈の減圧が得られる極めて有効な治療法となります。
また、内視鏡の到達できない部位に発生した静脈瘤や硬化療法困難
な portal hypertensive gastoropathy においてもTIPSは第一選択の低
侵襲治療と考えられています。
効 果
診療科
肝硬変に合併する腹水症例の中で、利尿剤や 放射線科・肝胆膵内科
肝庇護療法が無効な難治性腹水や肝性胸水に
対してもTIPSは有効で、欧米、および自国にお
いて難治性腹水症例の約2/3で、TIPSが奏功し
たと報告されている。
経頚静脈肝内門脈大循環短絡術の費用は、1回につき536,100円となっています。この費用は保険給付の適用外ですので、全額が患者さまのご負担となります。(基本的に
は、所得税法上の医療費控除の対象になります。)
なお、保険給付の適用が認められている他の診療費用については、加入されている保険に定める負担金が必要となります。
■培養細胞によるライソゾーム病の診断 ●適応疾患:ライソゾーム病(酵素補充療法の適応となるものを除く)
技術のポイント
治療が遅れると重篤になる先
天性代謝異常症を出生前もし
くは新生児期に診断し、早期
治療を行います。
解 説
効 果
診療科
先天性代謝異常症は代謝に関係する酵素に先天的な異常があって、 早期発見、治療により先天性代謝異常症の治 小児科
生体の正常な代謝が行われないため、発育や知能の発達の遅れを 療がより適切に行えます。
はじめとする重大な症状を示し、乳幼児期に死亡することも多い遺伝
性の病気です。数百種類にも及ぶといわれている先天性代謝異常症
のうち、わが国での頻度が高く、早期発見し、治療すれば障害を防ぐ
ことができるフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン
尿症、ヒスチジン血症、ガラクトース血症の五つの病気については、
簡単な血液検査でスクリーニングが行われています。さらに詳しく検
査するには、アミノ酸自動分析器やガスクロマトグラフィー法が使われ
ていますが、最近ではガスクロマトグラフィーとマススペクトロメーター
をコンピューターに連動して、先天性代謝異常症を検出する方法が開
発されました。検査の材料は、胎児もしくは新生児の細胞を採取し培
養したものを用います。
胎児の細胞は子宮の羊水中に浮遊しているものを採取します。この
ため、妊娠16~20週くらいで、出生前診断が可能になります。新生児
の場合は5mm角程度のごく小さな皮膚片や白血球を採取し培養して
検査をします。
培養細胞によるライソゾーム病の診断の費用は、1回につき56,000円となっています。 この費用は保険給付の適用外ですので、全額が患者さまのご負担となります。 (基本的
には、所得税法上の医療費控除の対象になります。)
なお、保険給付の適用が認められている他の診療費用については、加入されている保険に定める負担金が必要となります。
■ フェニルケトン尿症の遺伝子診断
●適応疾患:フェニルケトン尿症、高フェニルアラニン血症又はビオプリテン反応性フェニルアラニン水酸化酵素欠損症に係るものに
限る
技術のポイント
解 説
フェニルケトン尿症、高フェニ
ルアラニン血症はフェニルアラ
ニン水酸化酵素の欠損により
発症します。その確定および
病型診断は食事の影響を受け
る血中フェニルアラニン値に
よってなされため、しばしば不
確定なことがありました。本診
断では、血液中の白血球から
DNAを抽出し、遺伝子解析に
よりその原因となる遺伝子変
異を同定します。この遺伝子診
断はフェニルケトン尿症の確定
および病型診断を可能とし、各
患者に応じたより適切な治療
を行うことができます。
フェニルケトン尿症、高フェニルアラニン血症は新生児マススクリーニ
ングで発見され、精密検査の結果診断されます。フェニルケトン尿症
は1) 血中フェニルアラニン値が高値であること、2) プテリジン分析や
ビオプテリンへの反応性からビオプテリン欠乏症ではないこと、3) 肝
障害の有無などのチェックの上診断されます。血中フェニルアラニン
値は食事中のタンパク量や母乳と人工乳の違いの影響を強く受け変
動します。そのため、その病型診断はしばしば不確定なことが多く、摂
取フェニルアラニン量のチェックや血中フェニルアラニンの頻回測定を
必要とすることもあります。特に最近明らかにされたビオプテリン反応
性フェニルアラニン水酸化酵素欠損症の診断には入院を必要とする
ことが多く、また、通常のビオプテリンの服用と血中フェニルアラニン
の測定だけでは、しばしば判断のつかない場合が有ります。
これまでのフェニルケトン尿症の遺伝子解析の研究結果から、疾患
の臨床的重症度を決定しているのは基本的にはフェニルアラニン水
酸化酵素の遺伝子変異であり、遺伝子診断で臨床病型とビオプテリ
ン反応性フェニルアラニン水酸化酵素欠損症の決定が可能であると
推定されています。これまで当院で行われた日本在住フェニルケトン
尿症患者200 例以上の遺伝子解析では、60種類の遺伝子変異で95%
の対立遺伝子の変異を同定することができています。同定された遺
伝子変異の組み合わせにより各病型診断とビオプテリン反応性フェニ
ルアラニン水酸化酵素欠損症の診断が可能です。遺伝子診断には入
院加療の必要もなく、1度の外来での採血で行えます。
効 果
診療科
遺伝子診断を行うことで、これまで診断が困難 小児科
であったビオプリテン反応性高フェニルアラニン
血症の確定診断を可能とする。また、病型診断
を確定でき、各患者に応じた食事療法とビオプ
テリンの治療が可能となります。
フェルニケトン尿症遺伝子診断の費用は、1回につき30,000円となっています。 この費用は保険給付の適用外ですので、全額が患者さまのご負担となります。 (基本的には、
所得税法上の医療費控除の対象になります。)
なお、保険給付の適用が認められている他の診療費用については、加入されている保険に定める負担金が必要となります。
■ 多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術 ●適応疾患:白内障
技術のポイント
白内障手術時に、従来の単焦
点眼内レンズを挿入するので
はなく、多焦点眼内レンズを挿
入します。
解 説
効 果
単焦点眼内レンズを使用する従来の白内障手術では、調節力が失わ 多焦点眼内レンズを挿入することにより、遠方と
れるため、遠方又は近方のいずれに焦点を合わせるのかを決める必 近方の2ヶ所に焦点を合わせることができます。
要があります。
単焦点眼内レンズを使用する従来の白内障手術では、調節力が失わ
れるため、遠方又は近方のいずれに焦点を合わせるのかを決める必
要があります。
多焦点眼内レンズを使用する場合は、単焦点眼内レンズと同程度の
遠見時の裸眼視力に加え、単焦点眼内レンズでは得られない近見視
力が同時に得られます。
診療科
眼科
多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術の費用は、1回につき314,400円となっています。この費用は保険給付の適用外ですので、全額が患者さまのご負担となります。
(基本的には、所得税法上の医療費控除の対象になります。)
なお、保険給付の適用が認められている他の診療費用については、加入されている保険に定める負担金が必要となります。
■ ペメトレキセド静脈内投与及びシスプラチン静脈内投与の併用療法
●適応疾患:肺がん
(扁平上皮肺がん及び小細胞肺がんを除き、病理学的見地から完全に切除されたと判断されるものに限る)
技術のポイント
解 説
効 果
ペメトレキセドとシスプラチンの 現在は、外科手術を行い非扁平上皮非小細胞肺がんII-IIIA期であっ ペメトレキセドとシスプラチンの組み合わせは転
点滴を3週間ごとに1回行い、こ た場合、外科手術後に化学療法を行う治療法(術後化学療法)が、外 移性非扁平上皮非小細胞肺がんに対して高い
れを4コース繰り返します。
科手術のみより高い治癒率が期待できる治療法として行われていま 効果があることが報告されています。術後の再
す。
発予防効果はまだ不明ですが、臨床試験にお
現在、ビノレルビン(製品名:ナベルビン、ロゼウスなど)、シスプラチ いて効果が認められた場合は術後化学療法とし
ン(製品名:ランダ、ブリプラチンなど)という抗がん剤の組み合わせが ての適応拡大につながる可能性があります。
一般的に用いられています。
一方、最近開発されたペメトレキセド(製品名:アリムタ)という薬も非
扁平上皮非小細胞肺がんへの効果が認められています。ペメトレキ
セドとシスプラチンの組み合わせは、転移性非扁平上皮非小細胞肺
がんに対して高い効果があることが報告されていますが、術後の再
発予防効果はまだ不明です。
この2つの治療を比べる臨床試験の一環として、ペメトレキセドとシス
プラチンの併用療法を行います。
診療科
呼吸器内科
ペメトレキセド静脈内投与及びシスプラチン静脈内投与の併用療法 では、ペメトレキセドの薬剤費は製薬企業より無償提供されるため無料となりますが、薬剤費以外の先進医
療に関する費用として、1回につき 1,820円のご負担をいただきます。この費用は保険給付の適用外ですので、全額(10割)が患者さまのご負担となります。 (基本的には、所
得税法上の医療費控除の対象になります。)
なお、保険給付の適用が認められている他の診療費用については、加入されている保険に定める負担金が必要となります。
■ 術後のホルモン療法及びS-1内服投与の併用療法
●適応疾患:原発性乳がん(エストロゲン受容体が陽性であって、HER2が陰性のものに限る)
技術のポイント
解 説
効 果
標準的術後ホルモン療法と同 原発性乳がんでエストロゲン受容体が陽性であり、HER2が陰性の方 従来行われてきたホル モン療法単独の術後再
時にTS-1(S-1の製品名)の内 で比較的再発リスクの高い方を対象に手術後に標準治療であるホ ル 発予防の治療法に比べ、抗癌剤であるTS-1
服投与を行います。
モン療法を行うグループとホルモン療法に飲み薬の抗癌剤であるTS- (S-1)を加えることでより再発を抑制する効果が
1(S-1)を加えるグルー プに抽選で無作為に分けて治療を行います。 あるかを検証します。この試験に参加される
TS-1(S-1)の投薬についてのみこの先進医療が適用されます。
方々の直接的な利益、不利益は現時点では不
明です。ホルモン療法にTS-1(S-1)を加えた方
が再発予防効果が高いという結果が得られれ
ば、これが将来の標準治療になります。
診療科
乳腺内分泌外科
術後のホルモン療法及びS-1内服投与の併用療法ではTS-1(S-1)の薬剤費は製薬企業負担のため無料となりますが、高度医療に関する事務作業にかかる費用として1コー
スにつき280円の ご負担を頂きます。この費用は保険給付の適用外ですので、280円全額(10割)が患者さまのご負担となります。 (基本的には、所得税法上の医療費控除の
対象になります。)
■ 急性リンパ性白血病細胞の免疫遺伝子再構成を利用した定量的PCR法による骨髄微小残存病変(MRD)量の測定
●適応疾患:小児および成人の急性リンパ性白血病(ALL)/小児および成人の非ホジキンリンパ腫(NHL)で、初発時に骨髄浸潤を
認めるリンパ芽球性リンパ腫とバーキットリンパ腫
技術のポイント
初発時に骨髄 (リンパ節・胸
水・腹水なども可) から白血病
細胞やリンパ腫細胞の腫瘍特
異的免疫グロブリン (Ig) 又はT
細胞受容体 (TCR) 遺伝子の
再構成をPCR法という遺伝子
増幅方法で検出し、腫瘍特異
的プライマーを作成します。次
に化学療法開始後の一定の
時期に骨髄やリンパ節から細
胞を採取しMRD (微少残存病
変) 量を、初発時に作成したプ
ライマーを用いて定量的PCR
法にて測定します。
解 説
効 果
診療科
小児急性リンパ性白血病(ALL)は小児悪性腫瘍の中で最も多い疾患 この技術により、ALL患者のより正確な予後予
小児科
であり、小児急性白血病の約70%を占め、その全体の予後は着実に 測が可能となります。治療開始後の測定の結
改善し、ほぼ80%の患者で長期寛解が得られるようになっています。 果、MRDの値が大きければ、その白血病細胞の
抗がん剤による化学療法が奏功し白血病細胞を十分減らすことがで 治療反応性は悪いと判断し、造血幹細胞移植な
きたとき、これを寛解とよびます。しかし寛解状態となっても、体内に ど、より強力な治療の適応が検討されます。ま
白血病細胞がわずかに残存していることが知られており、治療終了ま た、MRDの値が十分小さければ、不必要な強い
でにこれが消失しないことには治療が成功したとは言えません。臨床 化学療法を減らすことができます。
上このわずかに残存する白血病細胞を微少残存病変 (MRD: minimal
residual disease) といいます。MRDは、白血病細胞に特異的な遺伝子
異常をPCR法(微量な遺伝子を増幅して検出する方法)などを用いて
検出します。
ドイツを中心とした小児がん研究グループ (BFMグループ)は、早くか
らPCR法によるMRD測定を小児ALLの治療層別化に利用してきまし
た。これにより、個々の患者白血病細胞の治療への反応性をモニタリ
ングすることが可能になりました。また、従来の予後因子に較べても、
より患者特異的な個別適正治療への道を切り開く手段として期待され
る画期的な新技術です。近年、欧州では多施設共同研究で用いる定
量的なRQ-PCR技術によるMRD測定法とその解釈を標準化するため
の組織 (ESG-MRD-ALL) が設立され、欧州の主要研究グループで
は、それに基づいたMRD層別化治療研究が実施されています。本邦
では、唯一、愛知医科大学において定量的なRQ-PCR測定法の技術
導入がなされており、2010年1月にESG-MRD-ALLへの正式施設参
加が認められました。
急性リンパ性白血病細胞の免疫遺伝子再構成を利用した定量的PCR法による 骨髄微小残存病変(MRD)量の測定 の費用は、1回につき92,800円となっています。この費用
は保険給付の適用外ですので、全額が患者さまのご負担となります。 (基本的には、所得税法上の医療費控除の対象になります。) なお、保険給付の適用が認められている他
の診療費用については、加入されている保険に定める負担金が必要となります。 (当先進医療については助成制度を利用できる場合があります。詳しくは担当医に確認してくだ
さい。)