講義レジュメ

講義レジュメ
1
2
Chapter1
法の意義
1 法とは
国家によって定立される各人に社会全体が期待する行動を取らせるための規範
社会規範
→ 法、道徳、宗教など
《道徳・宗教・法の相違点》
人々の社会生活においては、各人の行動を規律する何らかのルールが形成されている。このル
ールを社会規範というが、これには、法や道徳、宗教などが含まれる。
道徳
→ ・個人の良心を通じて社会全体が期待する行動をとらせる
・自らの良心をもとに形成される自律規範
・道徳に反した行動をとっても、正しい行動が強制されることはなく、単に周囲か
ら非難・軽蔑されるにとどまる
宗教
→ ・神仏を中心として一定の教義が定められ、信仰者間でのみこれを遵守することが
期待される
・教義をもとに形成される他律規範
・教義に反した行動をとった場合、反省や自戒を促され、または教義に則り罰が与
えられる
法
→ ・国家により定立される規範によって社会全体が期待する行動を各人に取らせる
・他律規範
・法に反した行動を取った場合、社会全体の秩序維持や社会正義を実現するため、
国家によって一定の制裁が科されることがある
3
2 法の分類
法は、次のように分類することができる。
第1 成文法と不文法
1
成文法
一定の手続や形式を通じて文字で表記される形で制定されている法
ex.憲法、条約、法律、命令(政令・省令等)
、条例、規則など
※ 成文法の形式的効力には序列があり、上位の法が下位の法に優先する。
憲法 > 条約 > 法律 > 命令 > 条例 > 規則
2
不文法
文字以外の形で存在する法
ex.判例法、慣習法、条理など
①判例法
判例 → 裁判で争われた法律の解釈(争点)につき裁判所が示した判断内容
※ 英米法の分野では、一般に判例の拘束力を認める傾向にあるが、わが国では、最高裁判所の判
例は、後の裁判を事実上拘束するにとどまる。
②慣習法
→ 慣習が繰り返されることにより社会一般に認識され、法としての効力を有
するに至ったもの
ex. 刑法における慣習刑罰の禁止(罪刑法定主義)など
③条 理
→ 物事の道理(成文法や慣習法などが存在しない場合に適切な結論を導くた
めに用いられるもの)
4
第2 実体法と手続法
1
実体法
権利義務の発生・変更・消滅などの要件を規定する法
ex.民法、商法、会社法、借地借家法など
2
手続法
実体法上の内容を実現する手続について規定する法
ex.民事訴訟法、刑事訴訟法、不動産登記法、民事執行法、民事保全法など
第3 一般法と特別法
1
一般法
人・場所・事柄など適用すべき場面を限定しないで定められる法
ex.民法と会社法との関係における民法(私人一般の権利義務)
2
特別法
特定の場面においてのみ適用される法
ex.民法と会社法との関係における会社法(会社の権利義務)
第4 公法と私法
1
公 法
国家の内部組織・国家と私人の関係を規律する法
ex.憲法、行政法、刑法、国際法など
2
私 法
私人間の権利義務を規律する法
ex.民法、商法、会社法など
5
3 法の効力
法の効力に関して、①場所的範囲、②人的範囲、③時間的範囲が問題となる。
第1 場所的範囲
国内における法の効力 → 領土・領海・領空に及ぶ
ex.刑法
原則:日本国内のすべての犯罪に適用(属地主義)
例外:日本国外にある日本船舶・日本航空機内での犯罪にも適用
第2 人的範囲
国内における法の効力 → 国内にいるすべての人に及ぶ(属地主義)
※ 刑法では、例外的に、国外で日本国民が重大犯罪を犯した場合であっても、日本国民に刑法が
適用される(属人主義)
第3 時間的範囲
1 法の効力の発生時期(公布・施行)
(1) 法律
① 公布:官報を通じて国民に法律を知らせる
② 施行:公布の日から起算して 20 日を経過した日に法律の効力が認められる
(法の適用に関する通則法 2 条)
。
(2) 条例・規則
① 公布:公報・掲示場を通じて住民に条例・規則を知らせる
② 施行:公布の日から起算して 10 日を経過した日に効力が認められる
(地方自治法 16 条 3 項・5 項)
。
※ 法律は、原則として施行日以降の事案について適用される(法律不遡及の原則)
。刑罰法規につ
いても、遡及的処罰を禁止されている(事後法の禁止・憲法 39 条)
。
2 法の失効時期(改正・廃止等)
法が改正・廃止された場合 → その部分は法として失効
法の効力の有効期間を定めた場合(限時法)→ 有効期限の到来により失効
6
Chapter3
紛争処理制度・司法制度改革
1 紛争処理制度
民法は、私人間の権利義務を規律する法律であるが、この権利義務が現実に発生
するかなどの紛争が生じた場合、公的にその紛争を解決する手段が必要となる。
たとえば、Aは、Bに対して 1 年後を返済期限として 100 万円を貸し付けたが、1 年経過し
ても、Bがいつまでも返済しなかったので、AがBに支払いをするよう求めたところ、Bは、そ
もそも金銭を借りていないと主張したとする。
民法上、Aは、Bに対して金銭消費貸借契約に基づいて貸金返還請求をすることができるが、
Aは、B が返還しないからといって自力で金銭を取り上げるようなことをしてしまうと、恐喝罪
などの犯罪になってしまうおそれがある。
つまり、たとえ自己の権利の行使といえども、法の下では実力行使によって実現すること(自
力救済)は禁止されているため、公的な機関を通じて金銭の返還をさせる制度が必要となる。
そこで、民事上の紛争解決手段として、次のような制度が設けられている。
①民事訴訟
②調停
③仲裁
④支払督促
⑤強制執行手続
→ 上記①~④の制度によって確定した権利義務を現実に履行させる制度
13
第1 民事訴訟
私人間の権利義務に関する紛争について、裁判所が権利義務の存否などの判断を
して紛争の解決を図る制度
1 裁判制度
(1) 裁判所の組織・構成
裁判所には、最高裁判所を頂点として、その下位に、高等裁判所、地方裁判所、
家庭裁判所、簡易裁判所といった下級裁判所が設けられている(裁判所法 2 条 1
項)
。
《最高裁判所》
15 名の裁判官を構成員として組織
→ このうち 1 名を最高裁判所長官として、内閣の指名に基づいて、天皇が任命する(憲法 6 条
2 項、裁判所法 39 条 1 項)
。
→ その他の最高裁判所判事は、内閣が任命し、天皇が認証する(憲法 79 条 1 項、裁判所法 39
条 2 項・3 項)
。
任期・定年など
最高裁判所裁判官には、任期はなく 70 歳が定年(裁判所法 50 条)
すべての最高裁判所裁判官は、一定の期間ごとに国民審査を受ける(憲法 79 条
2 項ないし 4 項、裁判所法 39 条 4 項)
。
最高裁判所の審理・裁判
→
大法廷(裁判官全員の合議体)
または
小法廷(裁判官 3 人以上の合議体)
(裁判所法 9 条)
※ 大法廷・小法廷のいずれとするかは、原則として、最高裁判所の定めによるが、当事者の主張
に基づいて法律・命令などが憲法に適合するかを判断するときなどの場合には、大法廷で審理・
裁判がなされる(裁判所法 10 条)
。
14
《下級裁判所》
下級裁判所の裁判官
= 高等裁判所長官、判事、判事補、簡易裁判所判事
→ 最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命する。
(憲法 80 条 1 項、裁判所法 40 条 1 項)
任期・定年
下級裁判所裁判官の任期は、任命から 10 年間(その後は再任)
高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所の裁判官の定年 65 歳
簡易裁判所の裁判官の定年
70 歳(裁判所法 50 条)
家庭裁判所
①家事事件手続法で定める家庭に関する事件の審判・調停
②人事訴訟法で定める人事訴訟の第1審の裁判
③少年法で定める少年保護事件の審判
(裁判所法 31 条の 3 第 1 項)
簡易裁判所
①訴訟の目的の価額が 140 万円を超えない請求
②罰金以下の刑にあたる罪、選択刑として罰金が定められている罪にかかる訴訟
などの第 1 審の裁判権(裁判所法 33 条1項)
(2) 三審制
→ 裁判所により判断された内容について、当事者に不服がある場合には、さ
らに上級裁判所に対して最大 2 回まで不服申立てを認める制度
三審制における通常の流れ
①地方裁判所(第 1 審)が判決を下す
↓
②高等裁判所(第 2 審)に対し不服申立て(当事者に不服がある場合)
↓
③最高裁判所(第 3 審)に対し不服申立て(当事者に不服がある場合)
(裁判所法 24 条 1 号、16 条 1 号等)
※ 人事訴訟などの場合には、家庭裁判所が第 1 審裁判所となる。
15
※ 例外として、訴訟の目的の価額が 140 万円を超えない請求は、簡易裁判所を第 1 審裁判所と
して訴訟提起することが認められており、当事者が判決に不服がある場合、
「地方裁判所」が第
2 審裁判所、
「高等裁判所」が第 3 審裁判所となる(裁判所法 33 条 1 項 1 号、24 条 3 号、
16 条 3 号)
。
三審制
最高裁判所
(第 2 審)
上告
敗訴判決
高等裁判所
(第 1 審)
控訴
敗訴判決
地方裁判所
判決に不服
16
判決に不服