曲面結び目のカンドルコサイクル不変量の多重化公式

曲面結び目のカンドルコサイクル不変量の多重化公式
成瀬 透∗
京都大学数理解析研究所修士 2 年, 2015 年 2 月
曲面結び目とは連結閉曲面の 4 次元ユークリッド空間への滑らかな埋め込みの像のことをいう.
曲面結び目の古典的な不変量として,1 次元結び目と同様補空間の基本群やアレキサンダー多項式,
n 彩色数やその一般化であるカンドル彩色数が定義される.ここでカンドルとは,1 次元結び目ダ
イアグラムのライデマイスター移動に対応する 3 つの公理をもつ代数である.1990 年代に,カン
ドル彩色数の改良版である (1 次元結び目や) 曲面結び目のカンドルコサイクル不変量が定義され
た ([1, 2]).特に曲面結び目理論には三重点数の評価を与えるなど様々な応用をもたらしている.1
次元結び目に対しては,不変量が定められたときその不変量の多重化公式が発見されることがあ
る.1 次元結び目の不変量の多重化公式とは,1 次元枠つき結び目を枠に沿って多重化することで
得られる 1 次元絡み目をもとの 1 次元枠つき結び目の不変量で記述したものである.不変量の多
重化公式を示すことの利点の一つに,多重化公式から別の不変量を発見することを期待できるとい
うことがある.例えば 1 次元結び目の不変量であるジョーンズ多項式の多重化公式からは,色つき
ジョーンズ多項式という別の不変量を得ることに成功している.1 次元結び目の不変量については
このような多重化公式に関する研究が盛んにされているものの,曲面結び目の不変量にはそういっ
た多重化公式は知られていなかった.
本講演では,枠つき曲面結び目 F の枠に沿って n 重化して得られる曲面絡み目 F (n) のカンドル
コサイクル不変量を,F のラックコサイクル不変量で記述できること(カンドルコサイクル不変量
の多重化公式)について概説する.この定理のポイントは,F (n) の有限カンドル X を用いたカン
ドルコサイクル不変量が,
(n に依らず)X のみから定まる有限種類のラックのラックコサイクル
不変量でかけることである.特に有限カンドル X として,位数が奇素数 p の二面体カンドルや四
面体カンドルの場合に関して得られた結果についても合わせて紹介する.
参考文献
[1] J.S.Carter, D.Jelsovsky, S.Kamada, L.Langford, M.Saito, State-sum invariants of knotted curves and surfaces from quandle cohomology, Electron. Res. Announc. Amer. Math.
Soc. 5 (1999) 146–156
[2] J.S.Carter, D.Jelsovsky, S.Kamada, L.Langford, M.Saito, Quandle cohomology and
state-sum invariants of knotted curves and surfaces, Trans. Amer. Math. Soc. 355
(2003), 3947–3989
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