腰部 3 軸加速度を用いた歩行距離推定に関する研究 A study on the

腰部 3 軸加速度を用いた歩行距離推定に関する研究
A study on the walking distance estimation using accelerometer on the lumbar
コンピュータグラフィックス学講座 0312011075 菅原昂太
担当教員:松田浩一 亀田昌志
1.はじめに
近年、センサ技術の発展や記憶デバイスの小型
大容量化に伴い、位置や時間といった情報を活用
しようとする試みが活発に進んでいる。特に小型
センサを用いた情報の取得・推定は、場所や環境
に対して依存しない汎用的で低コストの測位形式
として研究が進められている。小型センサを用い
た測位形式の一つに移動軌跡の推定がある。屋内
の移動軌跡の推定においては GPS(Global
Positioning System)衛星の電波が届かないため、
移動体に測位機器を付与する自律測位法が用いら
れる。歩行者自律測位法において、2 階積分を用
いる推定手法である積分法では、得られた加速度
を積分することで、移動方向や移動距離を算出し、
初期位置からの相対的な位置を推定する。岩村ら
1)は、
携帯電話に搭載された加速度センサや地磁気
センサを用いて自己位置推定を行うことを目標と
し、携帯端末を手に持った状態での、歩数と歩幅
を算出することで、歩行距離を推定することを目
指した。結果として歩数検出の誤差などにより、
精度的成果には課題が残ったが、2 階積分を用い
ない歩行推定における可能性が示唆された。
そこで本研究では、歩行における小型センサを
用いた移動距離の推定において、2 階積分を用い
ない精度の高い推定手法の提案を目的とする。本
稿では、3 軸小型加速度センサを用い、腰部の加
速度情報から得られる歩行特徴に着目した移動距
離推定手法を提案する。
2.歩行特徴と加速度センサ
本研究における歩行特徴は、歩行における腰部
の挙動に着目する。腰部は人が運動をする際の重
心移動の要であり、手足に比べて挙動がきわめて
単純で再現性が高い。
本研究では歩行特徴の抽出に 3 軸加速度センサを
使用する。歩行者にはセンサを腰部に取り付けて
もらい歩いてもらう。歩行特徴を抽出するにあた
り、歩行において外的要因の影響を受けにくいと
考えられる滞空期(遊脚期:片足が浮いている状
態)に着目し、加速度センサの 3 軸の合成加速度
が 1G 以下の状態が一定時間以上続く区間を一歩
の歩行における着目区間とする。自然歩行におけ
る一歩間の加速度とその着目区間の例を図 1 に示
す。また、着目区間から抽出する歩行特徴として、
図 1:歩行中の一歩間の加速度
1G 以下区間時間(図 1 ①)と区間最大振幅値(図
1 ②)を抽出する。1G 以下区間時間は歩行におけ
る腰部の滞空期を表す。また、区間最大振幅値は
腰部が持つ推進力を示している。この二つの特徴
情報には、自然歩行における同じ歩幅の歩行情報
において、歩行時間が短ければ歩行にかかる推進
力が強く、歩行時間が長ければ推進力が弱い、と
いった関係がみられる。このことから、特徴情報
の関係を用いた距離推定が可能であると考えられ
る。
既存手法では、サンプリングデータ毎の距離推
定を行っていたため、精度が分解能に依存するこ
とや累積誤差が大きくなる傾向があった。本研究
では、滞空期の加速度に着目した推定により、一
歩毎の距離推定とすることができ、数値誤差累積
の大幅な削減が期待できる。
3.提案手法
本研究では、加速度情報を用いた歩行一歩間に
おける腰部の加速度に着目した移動距離推定の方
法について提案する。センサで取得した加速度情
報から一歩間における歩行特徴を抽出し、抽出さ
れた特徴を基に距離の推定を行う。
一歩間の歩行特徴として、滞空期における 1G
以下区間時間と、区間最大振幅値の二つの特徴情
報を抽出することで、一歩間における歩行距離の
推定を行う。この二つの特徴情報には、自然歩行
における同じ歩幅の歩行情報において、歩行時間
が短ければ歩行にかかる推進力が強く、歩行時間
が長ければ推進力が弱い、といった関係がみられ
る。このことから同じ歩幅の歩行における二つの
特徴情報に反比例の関係があると仮定すると、式
(1)が得られる。
(1)
ここで T[ms] は 1G 以下区間時間、W[mG]は区間
最大振幅値、α は定数を表す。α は歩幅が同じ場合
一定の値をとる。この α と歩幅の関係モデルを定
義することにより、二つの特徴情報から一歩間に
おける歩行距離の推定が可能となる。
以下に本研究で用いた関係式モデル作成の手順
を示す。本研究ではモデル作成のためのサンプル
データを取得予備実験として、自然歩行による
10m 直線歩行を被験者 3 名に対し、1 名につき 3
回(9 サンプル)行った。歩行時に、カメラを歩
行者と歩行経路を撮影するように置き、歩行にお
ける一歩の距離をカメラで取得した画像から計測
することで、検証に必要な、歩行における腰部の
加速度情報及び一歩間の距離情報を取得した。取
得した加速度の合成加速度値から、二つの特徴情
報を抽出する。抽出において、1G 以下区間時間は、
区間開始時間と区間終了時間の差から求めるもの
とし、区間最大振幅値は、着目区間における最小
値と 1G の差から求めるものとする。抽出した二
つの特徴情報の積のサンプルと、一歩幅の距離の
関係を図 2 に示す。サンプルは各歩幅における α
の平均値とし、サンプルにもっとも近似する式と
して以下の 4 次式が求められた。
(2)
ここで、x は一歩の移動距離を示し、α は式(1)
の定数を表す。この x について解くことで、加速
度情報から一歩の移動距離を推定する。
4.実験・考察
3 章の全てのデータの、一歩毎に得られる 1G 以
下区間時間 T[ms]と区間最大振幅値 W[mG]より α
を求め、式 2 に代入し、一歩毎の移動距離を求め
た。この一歩毎の移動距離を合計することにより、
歩行全体の距離を推定した。
図 2:一歩幅の距離と α の関係図
その結果、自然歩行において平均 2.89%(最大
0.7%、最少 0.15%)の誤差が確認された。関連研
究と比較すると、充分な精度であると考えられる。
追加実験として、70cm 歩幅指定の歩行による
10m 歩行による 9 データ(被験者 3 名、1 名につ
き 3 回)を取得し、距離推定をしたところ、平均
6.27%(最大 13.2%、最少 0.87%)の誤差が確認
され、自然歩行でない場合の推定では精度が落ち
る場合があることが分かった。
5.まとめ
本研究では腰部の合成加速度の挙動から歩行特
徴を抽出し、抽出した情報を用いて、その関係式
を求めることで歩行距離を推定する手法の提案を
行った。実験により、仮定した関係性が確認され、
関係モデルによる距離推定を行ったところ、関連
研究と比較しても、同等以上の精度が得られた。
しかし、歩幅指定歩行においては自然歩行に比べ
精度が落ちることが分かった。また、本検証に用
いたデータは関係式を作るにあたって利用したモ
デルデータであるため、精度が高い数値が得られ
た可能性が考えられる。よって今後は、モデルに
作成に利用していないデータ群に対して関係式を
用いた検証を進める必要がある。
参考文献
1) 岩本健嗣,上坂大輔,村松茂樹,横山浩之,
手持ちセンサを利用した人物の歩幅推定手法
の検討,マルチメディア通信と分散処理のワ
ークショップ,pp193-198(2008).