Title 未熟B細胞のアポトーシスシグナル伝達経路の解析( 論文 要旨

熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
未熟B細胞のアポトーシスシグナル伝達経路の解析
Author(s)
田邊, 香野
Citation
Issue date
2015-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/32161
Right
学位論文要旨
未熟B細胞のアポトーシスシグナル伝達経路の解析
(Analysis of apoptosis signal transduction pathway in immature B cells)
田邊 香野
Tanabe Kano
指導教員
乾
誠治 教授
熊本大学大学院保健学教育部博士後期課程保健学専攻
学位論文要旨
[ 目的 ]
特異抗原が B 細胞表面に発現する B 細胞受容体 (BCR) に結合しクロスリンクを誘導すると、細胞内に
シグナルが伝えられる。BCR クロスリンクにより誘導される反応は成熟 B 細胞では活性化であるのに対
して未熟 B 細胞間では死という全く反対の結果を生じる。未熟 B 細胞におけるアポトーシスによる細胞
死は自己反応性 B 細胞の除去に重要であることが分かっている。しかし、このような反応性の違いを示
す理由は解明されていない。これまでに未熟 B 細胞のアポトーシスではミトコンドリアを介した系である
こと、Bcl-xL が重要であること以外は詳細なシグナル伝達経路は明らかとされていない。本研究では
Bcl-xL Ser62 のリン酸化に着目し、WEHI-231 細胞を用いて未熟 B 細胞のアポトーシスシグナル伝達
経路を解明することとした。さらに c-jun N-terminal kinase (JNK) による Bcl-xL Ser62 のリン酸化を制御
する分子の機能解析を HEK293T 細胞を用いて行うこととした。
[ 方法 ]
Bcl-xL のセリン 62 番目のリン酸化は未熟 B 細胞株 WEHI-231 を 10μg/ml の 抗 IgM 抗体で刺激し、
リン酸化を特異的に認識する抗体によって検出した。Bcl-xL のリン酸化を制御する分子を解析するた
めに JNK 阻害剤 SP600125 およびホスファターゼ阻害剤 オカダ酸を用いた。未熟 B 細胞の細胞生存
率は Cell Counting Kit-8 を用いて検出した。未熟 B 細胞のアポトーシスシグナル伝達に対するα4 の
機能を解析するため、HEK293T 細胞に Bcl-xL、JNK、α4 または C-terminal α4 の cDNA を HilyMax
を用いてトランスフェクションした。α4 と他分子の結合は免疫沈降とウエスタンブロットで検出した。さら
に内在性のα4 をノックダウンするために RNAiMAX を用いて siRNA α4 を HEK293T 細胞にトランス
フェクションした。ラット大脳を細胞質、核、ミトコンドリアに分画したサンプルを準備し、ウエスタンブロッ
トを用いて Bcl-xL、JNK、α4 の細胞内局在を決定した。
[ 結果/考察 ]
WEHI-231 細胞を抗 IgM 抗体で刺激すると Bcl-xL Ser62 のリン酸化が 15 分後に検出され、6 時間以
降から Bcl-xL のユビキチン化とタンパクの減少が認められた。この Bcl-xL Ser62 のリン酸化は JNK 阻
害剤 SP600125 により抑制されたことから JNK が担っていることが示唆された。次に Bcl-xL Ser62 のリ
ン酸基を脱リン化するホスファターゼを検討したところ PP6 であることが明らかとなった。Bcl-xL Ser62 リ
ン酸化は Bcl-xL のユビキチン化を誘導し、分解に導くことでアポトーシスを引き起こしていることが示唆
された。これらの反応は正常マウス未熟 B 細胞でも同様に認められた。さらに JNK の Bcl-xL Ser62 のリ
ン酸化をシグナル伝達分子 α4 が促進していることが HEK293T 細胞を用いた実験により明らかとなっ
た。またα4 の 220 番目のアミノ酸から C 末端領域のミュータント (C-terminal α4) は JNK による
Bcl-xL のリン酸化に対してドミナントネガティブとして機能することが分かった。Bcl-xL、JNK、α4 による
反応は主に細胞質で行われていることが示唆された。
[ 結論 ]
BCR クロスリンクにより誘導される未熟 B 細胞のアポトーシスには Bcl-xL Ser62 のリン酸化により誘導さ
れる Bcl-xL の分解が重要である。リン酸化と脱リン酸化はそれぞれ JNK と PP6 によって制御される。さ
らに JNK による Bcl-xL Ser62 のリン酸化はα4 が促進することが明らかとなった。また C-terminal α4
は Bcl-xL とは結合するが JNK とは結合せず、ドミナントネガティブとして機能する。これらの反応は主に
細胞質で行われていることが示唆された。