興奮の伝導と伝達~電気が走って物質が出る

環境応答プリント No2
興奮の伝導と伝達~電気が走って物質が出る
この時間の目的
● 神経細胞は刺激を受けて陽イオンが移動することで活動電位が生じ、やがて静止電位に戻る
ことがわかる。
● 神経細胞には興奮を生じる閾値があり、個々の細胞の興奮の頻度や興奮する細胞の数などで
信号の強さを伝えていることがわかる。
● シナプスでは、神経伝達物質を用いた情報の伝達が行われていることがわかる。
● 神経細胞は他の多くの神経細胞とシナプスを形成し、ネットワークをつくり、情報を統合し
て活動電位が生じていることがわかる。
● 興奮の伝導と伝達のそれぞれの特徴を説明することができる。
課題1 教科書P25、P220を読み、P221図6に関して、以下の内容を確認せよ。
●静止状態ではカリウムチャネルを通じて+の電荷をもつK+(カリウムイオン)が細
胞外へ移動するため膜電位は負である。これを静止電位という。
●刺激が加わるとナトリウムチャネルが開き、Na+(ナトリウムイオン)が細胞内へ
移動し、膜電位は正になる。これを活動電位という。
●活動電位の発生が興奮である。
●もともと開いていたカリウムチャネルとは別のカリウムチャネルが開くことでK +が
細胞外に移動し、再び静止電位に戻る。
●一連の過程で移動したK+やNa+は、ナトリウムポンプのはたらきによりもとの状態
に戻る。
課題2 シャーペンの芯で手をつつくと「痛い」という感覚が生じる。教科書P222~P22
3の内容を参考に以下の問に答えよ。
①あるところまでは「痛い」という感覚は生じない。これはなぜか説明せよ。
②「痛い」という感覚が生じても、押す力が強くなれば「痛みの強さ」も変化する。な
ぜ「痛みの強さ」を感じることができるのか説明せよ。
考えるポイント
●「全か無かの法則」とは何か?
●「全か無かの法則」だけでは、
「信号の強さ」は表現できないはず。どんな工夫があるか?
●1個のニューロンで「信号の強さ」を伝えるには?
●複数のニューロンで「信号の強さ」を伝えるには?
課題3 教科書P223~P225を読み、P224図10で説明されている内容を確認せよ。
課題4 教科書P223図11を参考に、なぜ有髄神経線維では無髄神経線維に比べて伝導速度
が大きいのか説明せよ。
課題5 神経細胞どうしのつなぎ目であるシナプスでは、細胞間に空間があるため、電気信号で
興奮を伝えることはできない。シナプスでの興奮の伝達を説明した、教科書P225図
12①~⑥の過程を理解せよ。
課題6 シナプスでの興奮の伝達は普通は長い時間持続することはない。これはなぜか説明せよ。
課題7 「興奮の伝導」は刺激の加わった場所から両方向に起こる。一方、
「興奮の伝達」は、シ
ナプスで興奮が伝わる方向が決まっている(細胞A→細胞Bはできるが、
逆はできない)
。
この違いはなぜ生じるか確認せよ。
理解し覚えておくべきキーワード
静止状態 興奮状態 静止電位 膜電位 活動電位
興奮の伝導 不応期 髄鞘
興奮 閾値 全か無かの法則 活動電流
有髄神経線維 ランビエ絞輪 跳躍伝導 シナプス小胞
神経伝達物質 リガンド 興奮性シナプス 抑制性シナプス
授業を通じて成長したい人のための発展課題
発展課題1
神経細胞で活動電位が生じるプロセスは、
「全か無か」というデジタル的なプロセスである。一方
で刺激の大きさを伝える際には、興奮の頻度や興奮するニューロンの数といったアナログ的なプ
ロセスもある。このような性質の異なるプロセスを組み合わせることのメリットは何か考察せよ。
発展課題2
ある情報をやり取りするために、1本の神経線維でダイレクトに情報を伝えるのではなく、シナ
プスにより何度か神経細胞間での情報の伝達をはさむことは、非効率的であるようにも思えるが、
このようなシナプスを介した情報の伝達を行うことにはどのような利点があると考えられるか説
明せよ。
発展課題3
教科書P226には、シナプス間隙に放出された神経伝達物質は、シナプス前細胞に回収される
とあるが、その具体的なしくみを考察せよ。
発展課題4
教科書P226、P227の内容を理解した上で、1つの神経細胞が多くの神経細胞とシナプス
を形成する利点を考察せよ。
発展課題5
同じ刺激が続くと「神経が興奮しづらくなる」慣れという現象が生じる。シナプスでどのような
ことが起こった結果として「慣れ」が生じるのか考察せよ。
。
発展課題6
乱用薬物は神経にどのように作用するか、
「コカイン」を例に説明せよ。
発展課題7
覚醒剤の「耐性」はなぜ生じるのか、神経細胞で起こる変化に触れて考察せよ。
発展課題8
うつ病の患者では普通の人に比較して、シナプスでのセロトニンなどの神経伝達物質の量が少な
くなっていることがある。これを改善するために抗うつ剤として使用されているSSRIはどの
ように作用していると考えられるか説明せよ。
「興奮の伝導と伝達」参考資料
うつ病の原因と抗うつ剤の効くしくみ
「うつ病教室」より引用
http://www.utu-net.com/utur/treat01.html
●脳の中の変化
「こころと脳の関係」の項で説明したように、うつ病はこころとからだを活性化するセロトニンや
ノルアドレナリンといった脳内神経伝達物質の減少によって引き起こされると考えられています。
図で記したように、うつ病患者さんの場合は普通の人に比較して、神経伝達物質の量が少なくなっ
ています。そのため、うつ病の治療ではくすりによって、神経伝達物質がもとの神経細胞に再び取
り込まれるのを阻害して、神経伝達物質の量を正常に近い状態に戻します。
●従来の抗うつ薬
神経終末のセロトニンやノルアドレナリンを増やすことを目的として開発されたくすりですが、セ
ロトニンやノルアドレナリン以外にも作用するため、くすりの副作用が比較的現れやすいといわれ
ています。
(主な副作用)―口渇、便秘、排尿困難、眠気など
●SSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)
SSRI は、最近開発された抗うつ薬で、世界中で幅広く使用されています。これは、従来の抗うつ
薬が、複数の脳内神経伝達物質に作用するのに対して、SSRI はうつ病の原因となるセロトニン系
だけに選択的に作用して、神経終末のセロトニンを正常に近い状態に調整することによりうつ状態
を改善するといわれています。従来の抗うつ薬に比べ、必要な受容体のみに選択的に作用するため
副作用が少ないとされています。
●治療を受けるときのポイント
・まず、うつ病は、こころの弱さや努力不足が原因ではなく、病気であることを自覚することです。
・うつ病は直線的に改善するわけではなく、「よくなったり、悪くなったり」を繰り返しながら、
徐々によくなっていく病気です。あせらず、気長に治療に取り組むことも大切です。
・くすりの服用は医師の指示に従うことです。抗うつ薬はのみ始めて数日たってから序々に効き始
め、次第に 1~4 週間のうちに効果が現れてきます。また、その後症状が安定しても再発を防ぐた
めにしばらく服用を続けます。自分で判断してくすりをやめたりしないようにしましょう。
Wikipedia「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」より引用
●副作用やリスク
有効性についてはほぼ評価が確立していたが、近年「プラセボよりは有効だが、従来考えられてい
たほどの効果ではない」という主張が出てきており、再検討が行われている。SSRI の多用でうつ
症状が改善する率が 3 割ほどある一方、悪化する例が 3 割というように、SSRI の反応性には個人
差があることが指摘されている。不安や恐怖感を高める受容体の働きを抑え、抑うつ症状を改善さ
せる SSRI だが、人によっては衝動性を抑える受容体の働きも鈍くなるといわれている。恐怖感が
なくなり、さらに衝動性が高まることにより、攻撃的な行動に駆られるのではと考えられている。
SSRI は、新薬である、神経症からうつ病まで幅広く作用する、三環系や四環系など従来の抗うつ
薬に比べ副作用が少ない等の背景から、 第一選択薬として選ぶ医療機関も多く多用される傾向に
あるが、個人によっては強い副作用が出ることもある。特に、飲み始めにより服用が逆効果になる
こともあり得る。服用においては、飲み始め・減薬・絶薬・依存を含め、リスクと効果を見極めつ
つ、個々の体質も含め慎重になされなければならない。
SSRI には食欲不振や増加、体重増加または減少、性欲異常などの副作用が比較的多くみられる。
特にセロトニンの再吸収阻害作用が強くなるにしたがって性機能副作用は増加する。(薬力価、服
用量に比例する)抗うつ薬の中では SSRI は取扱が楽であるが、双極性障害(躁うつ病)では、躁
転のリスクがあり、単独での使用は推奨されていない。
急に服薬を止めると、めまい、頭痛、幻聴など気分や体調が悪くなることがあるので、重篤な副作
用が起きた場合や躁転した場合を除いて、勝手に服用をやめてはいけない。(これらの症状は一過
性であり、依存や中毒ではない。)このことは、同剤の添付文書にも明記されており、投薬量の増
減には慎重な判断が必要である。