複合材料の機械的強度に及ぼす粒径と粒度分布の影響

55ろ
複合材料の機械的強度に及ぼす粒径と粒度分布の影響
山崎尭右・山崎重明米・宮地豊房・保田栄造
(農学部 機械工学研究室.*文理学部 化学教室)
Effect
of
Grain
Size
and
its
of
Takasuke
Distribution
Composite
Yamasaki,
Jumei
on
Eizo
Strength
Material
Yamasaki*.
弓nd
Mechanical
Toyofusa
MiYADI
Yasuda
Lahorator:y
of Mechanical
Engtれeering,
Faculty of Agriculture
*Laboratory
of Chemistr:y,
Faculりof
Literature
and Science
Abstract
: On reviewing the past, !scarcelyfind out the effect of grain size and its distribution
on ultimate strength. In this paper, we describe th^ experimental results of these effectson compression, bending and Charpy impact strengths, especiallyin the case of utilizingthe typical com・
posite material made of para伍n・E耳lerya s the most simple brittlemodel which would be fractured
only at intergrains and not at intragrains.
be the characteristicsof such a materials.
As the result多of them,
Petch's tendency was found to
緒 言
凍土,鉄鋼材料,近年におけるS.
A. P.その他にみられる複合材料は単一相よりはるかに機械
的強度が優れていることから,その基礎的な機構を追求することは重要である'。しかし一般に分散
する粒子と母材の組合せは複雑なため,その各々の破壊に対する挙動も一律ではない。またその結
合状態も色々のCaseがあろう。ここでは,粒子と母材の開か単に機械的接触のみであって,さら
に母相と粒子の両者が破壊するような・複雑な現象を避け,単に母相のみが破壊する場合を基本的な
複合材料の組合せの一つと考えてとりあげた。
粒子の形状係数は多少問題が残るが,極端に粒子の強度が大きい例として研磨材のエメリを選
び,母材としてのなじみと取り扱いの上からパラフィンを使用した。結果的には,低温では,非常
に望ましいモデルとしての脆性を示している。
実 験 方 法 と 材 科
以下使用する記号をここで定義する。
A:テストピース断面
Z・ : 曲げ試験用テストピース幅
〔C
「〕
〔Cm〕
j:粒径(ただしここではふるい目びらきとする)
〔μ〕
八:曲げ試験用テストピース高さ
〔Cm〕
Z:曲げ試験機支点間距離
〔Cm〕
訂:最大曲げモーメント
〔kg
?:最大荷m‘
〔kg〕
R:衝撃試験機ハンマの重心半径
〔m〕
T ・-時定数
〔分〕
ト
・ cm〕
高知大学学術研究報告 第21巻 自然科学 第22号
ろ54
ひ :シャルピ衝撃値 〔kg ・m/C
「〕
y:テストピース容積 〔cml〕
Vi : パラフィンの占める容積 〔c
「〕
y2: エメリの占める容積 〔c
「〕
Fパエメリの占める混合割合 〔−〕
W.:テストピース重m 〔gr〕
w
:衝撃試験機ハンマ重量 〔kg〕
α :ハンマのテスト前の振上角度 ,〔度〕,
β :ハンマの打撃後余勢で振よった角度 〔度〕
γ1 :″ラフィンの比重量 〔g/c
「〕
γ2 :エメリの比重量 ・〔g/c
「〕
(7 :エメリ粒子の標準偏差 〔μ〕
ら :曲げ強度 ‘〔kg/c
(y.:圧縮強度 , 〔kg/c
「〕
「〕
実験材料には,緒言で述べたごとく,母相のみで破壊する脆性材料で,テストヒースの製作上常
温付近で溶け,混ぜあわせよく,互に親和性があり,安価で,かつ空隙の生じないものとして,パ
ラフィンとエメリを使用した。両者の概要は次の通りであるJ
(1)パラフィン:供試パラフィンの実測の結果,比重m
0.890 gr/c
「,融点55°C∼5,6°Cでパラ
フィンのみの破壊に対する強度は図12,13,14に示す。
(2)エメリ:使用したものは宇治電化学製トサエメリ・エキストラであ’つて,細粒の銑鉱状の研
摩材であり,磁鉄鉱,赤鉄鉱,石英などか混じっている。供試材は,
4.0∼16.0,A1203
SiOz 8.0∼22.0, FezOs
62%以上のものであった。なお,エメリの比重量は実容積測定装置によっ
た。
本実験に使用したエメリのふるい通過百分率による粒度分布曲線は図1に示す通りである。なお
図1中,曲線1,2,3,
5, 6, 7, 8,11は前記会社の製品のままのものであって,曲線4,
9, 10,
12, 13はそれらを2から4種混合して作成したものである。
電熱機にて水槽中の容器でとかしたパラフィンに工。メリを道量混入攬排したものを,テストピー
ス仕上り寸法より2から3cm大きいめの型枠に静かに流しこみ,自然放熱したのち,沈澱した下
部よりの眉を規定寸法のテストヒースに削りだした。型枠はガラス板で仕切ったものを油紙でおお
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一
一
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…
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500 1000
粒 径〔μ〕
Fig. 1. エメリーの粒度曲・線
Size Distributiono f Emery
500O
ろ55
い直方形にセロファンテープで固定したものである。混ぜ合わせるエメリとパラフィンの量は多少
粒径によってもことなるが,ほゞエメリの量が容積にして,全体の45%以上になれば混合しにくく
なり,25%以下になるとエメリが沈澱するので,その間の混合割合で,図1の粒度分布のものにつ
いて,各々混合割合を変えて4個づつ作成した。なお,混合割合は後述する。テストヒースは1日
を経て充分に冷却を行ったのち,型枠を取りはずし,1週間以上経過した後,形削り盤によって,
定まった寸法に序々に少しづつゆっくり削りとり,残留歪の影響のないようこころがけた。
圧縮試験については,島津万能試験機(Type RH-30,最大30
tw)に加圧板をはさみ,荷重速
度を1.44 mm/分,試験温度10.5°C∼13.5°Cの条件で行った。テストヒースの寸法は高さ65±1
mm,縦横35±1mmである。衝撃試験は同じく島津製作所のシャルピ型衝撃試験機である。試験
温度は10°C∼10.5°C,α=90°に統一した。テストヒースの寸法は高さ25±1
mm,幅30±1
mm,
長さは70±2mmとし,切り欠きは設けなかった。曲げ試験については,コンクリニト用ミハエリ
スニ重テコ形の丸東製作所製の曲げ試験機によ・つた。試験温度は9.4°C∼10.5°Cで行った。この
場合エッジがテストピースにくい込むので,厚さ1
mm,幅1
cm,
長さはテストピ,ス幅の35inm
のジュラルミン板をテストヒースと圧子との間にはさみ試験した。テストヒースの寸法は/zが40
Table。I
万言三
種 類‘1長さ〔mm〕| 幅〔mm〕
0 0 0
6 7 7
−
二二三
曲げ試験用
40
40
圧縮試験用
岨阿仁
‘115 38 8 ③
ワ
40
衝撃試験用
征二ド匹L
±1 mm.幅が35±1
mm.長さが160±2mmに
仕上げた。
①曲げ試謝lj②圧縮試嶮川
≫WK≪)llテストヒースの熱電対の
まづ最初に,パラフィンのみのテストヒース
Fig.
における各強度の温度依存性を吟味した。すな
わち,あらかじめパラフィンの圧縮,曲げ,衝
Tt
=
2 温(3)
端子の?ご
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口
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リー
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63.2%
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堀
端
Tt=0
0
10
20
30
時間t
〔分〕
40 50 60
Fig. 3 パラフィンのみのテストヒースにおける温度と時間の関係
Thermal
Responce of Specimens
高知大学学術研究報告 第21巻 自然科学 第ぬ号
356
撃試験の規定寸法に作られたテストヒースの図2の個所に,銅コンスタンタンの熱電対の端子を埋
めこみ,18°CからO°Cの氷水の中に急に入れた場合および,氷水から18°Cの室温に急に変化させ
た場合について,各場所の応答を測定した結果,図3に示すごとく,時定数が略34分とえられ,場
所による相異はあまりみられなかった。次に,各テストヒースを冷蔵庫のO°Cの雰囲気および40°C
の湯の中に半時間以上放置したのち,取り出し,室温で圧縮,曲げ,衝撃試験を行ない,そのとき
の経過時間から図3の関係によってテストピースめ平均温度を求めた。 これらの結果を図4に示
30
−
●
−
0.8
│。
?
の曲げ強度
・衝撃値
o圧縮強度
・
0.6
●
ミ
=
O
0,4
Φ
−
+ /J
0.2
=
●
-・- 40
∼
0
10 20 30
徊頒沼出bM4b弓
○
20 10 0
︹jUi3/m.35[] 刎S5ffi.^-i”
1.2
1.0
︹︱。へI︺
1.4
温 度 〔゜C〕
Fig. 4 パラフィンの強度の温度依存性
Effect of Temperature
す。これより,圧縮,曲げ,衝撃強さ共,温度が低いほど強い傾向を示している。このように温度
の効果が著しいため,試験中の周囲の温度は±1.5°Cの変勁以内におさえ,誤差を極力避けた。各々
の強度は次式によった。すなわち(y。=MIZ,ただしZは断面係数でbhV6とする。M=Pl/4,
?は最大荷重である。また,
a<,= P/A,び=
WR
(cosβ−cosα)/ん(この場合沢=0.75m)の
関係にあり,その他の試験方法の詳細は金属の場合に準じた。
実 験 結 果
以上の手順によって,試験を行った結果,たとえば圧縮試験の図5の例のように,荷重と変位の
関係はほとんど直線で破壊にいたり,完全な脆性の挙動を示した。
0 0
0 0
0 0
0 0
0 0
0
LT -^ CO CM
︹j︺ DBOl
写真1,2,3は曲げ試験,圧縮試験,衝撃試
験を行った後のテストヒースの破面の形状であ
る。写真1
,2 ,3において,枇の列は混合した
エメリの粒径の大小を示し,左より右に図1の
曲線のNo.
13, 12, 11,………No.
1の順とな
り,写真で右に行くほど粒径は微細になってい
I-1
る。縦の列は同一の粒径でエメリの混合割合の
ことなるテストヒースである。
一一0 1 2 〔cm〕
Alength in the direction
of compression
Fig. 5 伸び荷重線図
Compression Test Diagram
これらのことにより,本実験の温度の雰囲気
では,各テストピj-スとも,脆性破壊としての
破面の特徴が認められる。
次に√土メリの混合割合のちかいをみるため
ろ57
Pholo. 1 Specimens
in Bending
Photo. 2 Specimens
Test
in Compression
Test
l f。 一 一 1 .
今⊃うら
3 Specimens
Photo.
in Impact
に,仕上がったテストヒースの重量W。(gr)と容積y(c
Test
「)を測定することによって,次式か
らエメリの混合割合yyを求めた。すなわち,
y2=(W。−γ1y)/(γ2−γ1)
y1=(一Wi,十γ2y)/(γ2−γ1)
∴巧=(y2/y)X100 (%)
叩6,図7,図8は圧縮,曲げ,衝撃強さと前述の方法によって求めたエメリの混合割合との関係
を,各粒径別に示したもので,パラメーターとしてエメリ粒度分布の標準偏差をあらわした。図6,
図7,図8より各強さとも,粒径によっては多少の傾向がみられるが,全体的にみれば,本実験の
範囲ではちがいかないようである。
次に,エメリの粒度分布の粒のそろい具合,すなわち標準偏差を変えた場合を調べた。
エメリの粒度分布を決定する図1において,50%の粒径が等しく,かつ分布のことなる曲線N0.
3,4,8とNo』,
9. 10,または,
No.
11, 12, 13の組み合せについて,各々標準偏差を求め,
粒径別に圧縮強さ,曲げ強き,およびシャルピの衝撃イ直と標準偏差の関係を求めた。
図9,図10,図11はこの混合割合をパラメーターに示したものである。これにフいても同様に,
多少のばらつきがあるものの,粒径の分布はこの程度ではあまり効いてこないと思われる。
最後に,エメリの50%粒径を横軸に各々の強さを図示すれば,図12,図13,図14の傾向となる。
いづれの場合も多少のばらつきはあるが,粒径の小さくなるほど著しく強くなる傾向が認められ
る。これらの関係を両峙数にプロットしてみると,圧縮試験と曲げ試験による結果はいづれもほゞ
(7occ;-l/2で,衝撃値はc7cゞj ̄1/sの傾向を示すことがわかった6
ぐ
高知大学学術研究報告 第21巻 自然科学 第22曼
558
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Effectof 5096 Grain Dia. on the Bending Strength
これらの傾向はPetchによって知られている分散強化型複合材料の一般の傾向と一致する。
結 論
以上の実験より次の諸点が明らかとなった。
i)分散強化型複合材料のモデルとして,供試材料は極めて良好である。
ii)粒径の小さくなるにつれて,強さが極めて増大する傾向はPetch(5’による粒界,母材両
者の破断する事例と一致しており,この傾向は母材の破壊の特微が主体をなしていると考えられ
る。
iii)本実験の範囲の粒度分布,母材との割合では機械的強度に大きな差異を与えず,50%粒径を
代表寸法として採用できる。
今後は,粒径を小さくしていって,どこ迄強度が増加するかを追求したい。
丁度,懸濁液中での光の透過,音波の吸収についてはよく知られているように限界があり,最終
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的に無限に小さく均一相に近づけば,単一の材料の性質を示す筈であって,材料中を伝播するエネ
ルギの分散の挙動の統一的な機構に支配されているものと考える。
文 献
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6)
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