HYORON Book Review 私のおすすめ この1冊! 日本歯科評論 増刊 2015 子どもの患者の治療・対応に上手くなろう! 各成長ステージにおける対応ポイント 朝田芳信 編著 A4 変判・160 頁・定価(本体 5,800 円+税) 2015 年 10 月 13 日 ヒョーロン・パブリッシャーズ刊 嘉ノ海龍三 兵庫県姫路市/カノミ矯正・小児歯科クリニック ■小児歯科への関心は高まっている いるといえるだろう.そのため,治 きたいこと」は是非とも熟読してい 私事ではあるが,ほぼ 40 年にわ 療計画の立案や治療において高度な ただきたい.“子どもを見守るとい たり小児歯科・矯正歯科に携わって 知識や経験・技術を要求される. う視点をもつこと” “小児は大人を きた.開業当初はむし歯の洪水の時 ■本書の内容と特徴 小さくしたものではないこと” .ま 代であり,齲 処置だけで抱えきれ 本書の特徴は,小児の診療を行っ さに私が日常の診療において実践し ないほどの患者さんが来院され診療 ていく中で誰しも遭遇するであろう てきたことだ.頭ではわかっている を行っていた.それはまさに野戦病 事例の問題点や疑問点のすべてが網 つもりであっても,根本まで理解す 院のようであった.一方,現在は少 羅されているところにある. そして, るにはそれなりに時間を要すること 子化であり小児の数自体が減ってき それらがわかりやすくコンパクトに と思う.しかし,この部分をしっか た.加えて齲歯保有者の割合も減少 まとめられているので,読みやすく りと汲み取ることができるようにな してきている. 理解しやすい.齲 れば,小児歯科医療の奥深さや面白 しかし,小児歯科の需要も同じよ 幼若永久歯への対応,外傷,習癖に うに減ってきたかというと,そうで 対するアプローチ,矯正治療,そし * はない.むしろその逆で,保護者の て小手術と多岐にわたる.このよう 小児歯科専門でなくても,一般歯 小児歯科への関心は高まっている. に,小児歯科医療が扱う範囲は実に 科医院において子どもを診療する機 「むし歯を治したい」はもちろんで 広い.子どもを診ていれば,どれも 会は必ずある.そんな時に子どもの あるが, 「予防のためフッ素を塗り 頻繁に遭遇する事例である.私自身 対応が上手であればどうだろうか. たい」 「歯列が気になる」 「指しゃぶ も本書を読みながら自身の診療を振 保護者の信頼を獲得することがで りを治したい」などを主訴として来 り返ることができ,大いに参考に き,結果としてその歯科医院への信 院されることが多くなった.無論, なった. 頼度も高まるであろう.実際に当院 これは歓迎されることで,本来の小 各トピックの最後に追記されてい でも,子どもの診療をきっかけに, 児歯科の姿だと思うことがある.25 る ONE POINT ADVICE では,一 保護者が当院の成人歯科部門への受 年前にアメリカの小児歯科を見学し 歩踏み込んだところまで言及してあ 診を希望されることが多い. たことがあるが,まさに今,日本が るところが面白い.成書に書かれて もちろん,子どもは成長していく やっと追いついた感がある.私たち いるとおりに行ってみたがうまくい ので,子どもに対する医療というの もそれらの要望に応える準備をして かない時に使える技や,気をつけて は“生涯を通じた健康の出発点”で おかなければならない. おきたいポイント,また小児歯科専 あることはいうまでもない.小児歯 一方で,子どもの口腔内に無関心 門の歯科医師からの助言に,はっと 科医療の果たす役割はそれほど大き な保護者が増加しているのも事実 させられることも多いはずだ.何よ い.そんな小児歯科医療の指南書と で,ランパントカリエスである子ど りも,巻頭に書かれている「小児歯 して,本書はまさにうってつけの1 ももいる.まさに,二極化が進んで 科治療を始める前に GP が知ってお 冊だと,私は思う. 処置の手順から さを実感していただけるだろう. 日本歯科評論(通刊第878号) 1
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