次に、選定したターゲットペプチドの特異性を検 LC-MS/MS 法を用いた 証するため、マウス血清を用いてブランクサンプル (抗体医薬品未添加)と抗体医薬品添加試料(血清 抗体医薬品の分析法の開発と 中抗体医薬品濃度として 1.00 μg/mL)を調製し、 LC-MS/MS で測定した(図 2)。抗体医薬品添加試 マウス血清中抗体濃度測定 料では 6.93 分にピークが検出されたのに対し、ブラ ンクサンプルでは測定に影響するピークは検出され 薬物動態研究部 秦 麻美 なかった。従って、選定したペプチドは測定対象で ある抗 HER2 抗体に対して特異性が高く、また良好 1. な感度を有することから、ターゲットペプチドとし はじめに て適切であることが確認された。 抗体医薬品の血中薬物濃度測定には従来、抗原抗 体 反 応 を 利 用 す る 免 疫 測 定 法 ( 主 に ELISA 法 や ECL 法)が用いられてきた。免疫測定法は高い親和 採血 性や特異性を有する 1 次抗体を用いることで高感度 抗体医薬品 な分析を可能としている。しかし、内因性抗原や中 内因性抗体 内因性成分 (タンパク質など) 和抗体などの妨害物質が分析精度に影響を及ぼすこ とが知られており、これら免疫測定法を補完する分 析法の開発が望まれている。 プロテインGを用いた アフィニティ精製 抽出 LC-MS/MS 法は高感度、高選択性の特長を有し、 信頼性の高い分析法として医薬品の分析に広く利用 抗体医薬品を含むIgG されている。また汎用性も高く、抗体医薬品の分析 に対する適用も期待できることから、LC-MS/MS を 分子量 約15万 用いたマウス血清中の抗 HER2 ヒト化モノクロー ナル抗体(以下、抗 HER2 抗体)の分析法を開発し、 酵素消化 ELISA で得られた定量値との相関性を評価した。 2. 抗体の断片化 定量分析に 適切な分子量 前処理法 測定対象である抗 HER2 抗体は、マウスモノク アミノ酸配列の比較 ローナル抗体の抗原結合部位のアミノ酸配列を、ヒ ト IgG1 の相当部分に遺伝子工学的に置換して作製 抗体医薬品由来の ペプチドを抽出 特異的なペプチドの選定(高分解能MSを使用) されたヒト化モノクローナル抗体である。分子量が 約 15 万と大きく、ESI を原理とする LC-MS/MS で LC/MS/MS分析条件の検討 (超高感度MSを使用) は定量することができない。そこで抗 HER2 抗体を 酵素消化して適切な分子量に断片化し、その消化物 の中から抗 HER2 抗体に特異的なアミノ酸配列を 有したペプチドを定量することを試みた。(図 1) ここでは、前処理における各工程の中で最も重要 図1 抗体医薬品の測定までの流れ な“特異的なペプチドの選定”について紹介する。 まず、プロテイン G でアフィニティ精製された抗 体医薬品の消化物を四重極飛行時間型質量分析計で 測定し、ペプチドの実測質量をタンパク質のデータ ベースと照合し同定した。その結果をもとに、IgG 可変領域であると推定される配列が、トリプシンに よって切断された時のアミノ酸配列をシミュレート し、アミノ酸 9 残基(分子量:969)をターゲット ペプチドの候補として選定した。 東レリサーチセンター The TRC Journal 2015 年 9 月号 ・1 従来法である ELISA で取得したデータと比較し、 2100 ブランクサンプル (抗体医薬品未添加) min 図2 することができた。これらの結果より、LC-MS/MS 6.93分で検出 を用いて抗 HER2 抗体の定量が可能であることが示 された。 15.0 min 血清中抗体医薬品濃度(μg/mL) 6.93分に夾雑ピークなし 同等の感度と定量性、類似したプロファイルを確認 抗HER2抗体添加試料 (1.00 μg/mL) Intensity (cps) Intensity (cps) 2100 15.0 LC-MS/MS 分析におけるマウス血清試料のクロ マトグラム(左図:ブランクサンプル、右図:抗体 医薬品添加試料) 3. 定量性の確認 10 mg/kg投与群 1000 1 mg/kg投与群 100 10 1 0 5 10 15 20 25 投与後時間(day) マウス血清を使用して、直線性及び再現性を評価 した(絶対検量線法)。その結果、良好な直線性と再 図4 現性を確認した(表 1 及び表 2)。 濃度の経時推移 直線性:1.00~400 μg/mL LC-MS-MS 法を用いたマウス血清中抗体医薬品 まとめ 5. 再現性:2.00 μg/mL、50.0 μg/mL、300 μg/mL 抗体医薬品(抗 HER2 抗体)に特異的なペプチド 表1 検量線の真度 CS1 1.00 Found concentration (μg/mL) 1.09 Accuracy (%Nominal) 109.0 CS2 3.00 2.33 77.7 Concentration (μg/mL) CS3 CS4 CS5 10.0 30.0 100 8.51 31.5 110 85.1 105.0 110.0 配列を選定し、血中に内在する抗体と識別して高感 度かつ精度良く定量することを可能とした。マウス CS6 200 216 108.0 CS7 400 429 107.3 血清中濃度測定では ELISA 法で取得したデータと 同等の結果が確認された。従って、LC-MS/MS 法が 抗体医薬品の測定において有用性の高い手法である ことが示された。 表2 再現性サンプルの真度と精度 6. Found concentration (μg/mL) Mean (μg/mL) Accuracy (%Nominal) Precision (%CV) Concentration (μg/mL) LQC MQC HQC 2.00 50.0 300 2.14 41.9 267 2.02 43.3 327 1.99 48.1 313 2.05 44.4 302 102.5 88.9 100.8 3.9 7.3 10.4 参考文献 1)[APPLICATION NOTE]UPLC/MS/MS Method for the Quantification of Trastuzumab in Human Serum at the 5-nM Level Using Xevo TQD MS and ACQUITY UPLC H-Class System, Waters Corp. ■秦 4. マウス血清中濃度測定 麻美(はだ 薬物動態研究部 あさみ) 薬物動態研究室 主な業務:生体試料中の薬物濃度分析 マウスに抗 HER2 抗体を以下の条件で単回静脈内 投与し、血清中濃度を LC-MS/MS を用いて測定した (図 4)。 投与量 :1 mg/kg、10 mg/kg 血清使用量:20 μL 採血時点:投与後 0.5、1、4、8、24、48、96、168、 336 及び 504 時間(10 時点) 東レリサーチセンター The TRC Journal 2015 年 9 月号 ・2
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