京都三大学教養教育研究・推進機構における大学間連携特有の質保証と

京都三大学教養教育研究・推進機構における大学間連携特有の質保証と評価観点
-設置形態を超えた教養教育共同化の取組を事例として-
児玉 英明(京都三大学教養教育研究・推進機構)
Ⅰ はじめに -100 年を超える歴史を持つ京都三大学と教養教育への期待-
京都工芸繊維大学(国立)
、京都府立大学(公立)
、京都府立医科大学は、それぞれ 100 年を超える歴史
を持つ。三大学ともに距離も近く、相互の行き来が可能である。また、専門性の異なる小規模大学ゆえに
大学間連携を図ることで、シナジー効果が発揮される。その結果、教養教育科目に関する選択の幅が、京
都工芸繊維大学では 2 倍、京都府立医科大学看護学科では 5 倍へと広がっている。
2005 年 9 月に、三大学連携推進協議会の教養教育共同化部会が、
『中間まとめ(教養教育共同化の考え
方)
』を示し、教養教育共同化の具体的な枠組みを示した。2012 年、文部科学省「大学間連携共同教育推
進事業」と京都府の支援を得て、2014 年度から、教養教育共同化を開始した。三大学の学生が学ぶ「教養
教育共同化施設(稲盛記念会館)
」は、2014 年 9 月、京都府立大学の敷地内に建設された。建設にあたっ
ては、京都に本社を構える京セラ創業者の稲盛和夫氏から、20 億円の寄付をいただいた。
(1)京都工芸繊維大学の概要
京都工芸繊維大学は、1899 年に設立された京都蚕業講習所および 1902 年に設立された京都高等工芸学
校に端を発する歴史の中で、
「知と美と技」を探求する独自の学風を築き上げてきた。現在は、工芸科学部
の 1 学部(1 学年 600 名)で、生命物質科学域、設計工学域、造形科学域、先端科学技術課程(夜間主コ
ース)からなっている。
(2)京都府立大学の概要
京都府立大学は、1895 年に設立された京都府簡易農学校に端を発する。京都府簡易農学校は、後に京都
府立農林専門学校と改称された。1949 年 4 月に、京都府立農林専門学校と京都府立女子専門学校を前身と
して開設された西京大学が、1959 年に京都府立大学と改称して誕生した。現在は文学部、公共政策学部、
生命環境学部の 3 学部 11 学科(1 学年 400 名)からなっている。
(3)京都府立医科大学の概要
京都府立医科大学は、1872 年に、府民自らの寄付によって、京都市東山の青蓮院に建設された療病院か
ら誕生した日本最古の医科大学である。140 年の歴史の中、人々の健康に貢献する人材を育成し、全人的
な医療を実践してきた。現在は医学部医学科と看護学科の 1 学部 2 学科(1 学年 200 名)からなっている。
Ⅱ 単位互換から共同化への進化 -高等教育政策との連携-
(1)2005 年『中間まとめ(教養教育共同化の考え方)
』の公表
2005 年 9 月に、三大学連携推進協議会の教養教育共同化部会が、
『中間まとめ(教養教育共同化の考え
方)
』を示し、教養教育共同化へとつながるビジョンが示された。そこでは、第一に、共同化によって教養
教育カリキュラムの選択幅を拡大することで、一大学では対応できない学生の多様な知的好奇心に応える
ことがうたわれた。第二に、共同化によって三大学の学生・教員の交流を図り、京都市北山地域における
新しいライフスタイル、新しい大学像を目指すことがうたわれた。
(2)2012 年「文部科学省 大学間連携共同教育推進事業」への申請
2012 年度に入ってからは、2011 年度までの検討内容をふまえ、文部科学省「大学間連携共同教育推進事
業」への申請を軸に、三大学連携推進協議会の教養教育部会、企画委員会での検討が進められた。
「大学間
連携共同教育推進事業」の公募通知後、2012 年 6 月末に申請書を提出した。その後、9 月初旬に採択通知
を受け、採択後は、従来の三大学連携推進協議会の教養教育部会、企画委員会、事務全体会議、ワーキン
ググループという体制に代わり、
「京都三大学教養教育研究・推進機構」を設置した。
(3)
「北山文化環境ゾーン構想」を中心とした京都府との連携
2009 年に京都府が策定した「北山文化環境ゾーン構想」の中で、京都府立大学は、
「京都府立植物園」
「京都府立総合資料館」
「京都コンサートホール」とともに、文化・芸術・環境地区を構成する要素として
位置付けられている。現在、京都府立大学も「北山ガーデンキャンパス」としての整備が進められている。
北山文化環境ゾーンには、2014 年に完成した教養教育共同化施設とともに、その東側には「新総合資料館」
の建設が進められている。新総合資料館には、
「国際京都学センター」
「京都府立大学附属図書館」などが
入る。このように教養教育共同化の取組は、キャンパス計画とも連動したうえで進行している。
Ⅲ 大学間連携特有の質保証 -評価観点の事例と教職協働-
(1)実務から見えてきた質保証の制度的側面
大学間連携の実務に携わると「履修登録の質保証」
「学年暦の質保証」
「成績評価の質保証」など、個別
大学の自己点検・評価では見えてこなかった問題が浮上してくる。特に、京都三大学教養教育研究・推進
機構のように、
「単位互換」から踏み込んで、自大学の正課科目として「共同化」する場合、それを制度的
側面から支える様々な教務事務のすり合わせ業務が発生してくる。これらの業務は、教員のみで解決でき
るものではないし、職員のみで解決できるものでもない。大学間連携の質保証を進めようとすれば、自然
と教職協働で業務を行う余地がひらけてくる。このような大学間の教務事務のすり合わせは、今後展開さ
れる他の連携事業の先行事例となる。また、連携事業が実質化されているかどうかの評価観点にもなる。
(2)履修登録の質保証
大学間連携の実務に携わって、初めて気付いたことだが、複数の大学が正規授業で連携する場合、
「履修
登録」という事務作業がかなり重要性を増してくる。京都三大学教養教育研究・推進機構では、三大学そ
れぞれのシステムで履修登録を行っている。また、教養教育共同化科目に関しては、各科目で定員を設け
ている。2014 年度の科目定員のルールは、科目提供大学が履修定員の 50%、残りの席数を二大学の学生比
率に応じて配分している。履修希望者が定員を超えた場合は、抽選を行う。そのため、抽選にもれた場合
を想定し、学生は同時間帯に複数の履修希望を出せるように履修登録制度を変更した。
共同化が本格的にスタートした 2014 年度後期の課題は、学生の履修希望に十分に応えられなかったこ
とである。2014 年度後期は、第一希望で履修登録できた学生の割合は 76%だった。通常、それぞれの大学
では、履修希望者数に応じて、配当教室を調整することで学生の履修希望に対応しているため、第一希望
の科目を登録できることが通例である。しかし、共同化開始初年度は、大学間で履修登録期間が異なって
いたため、残席の再分配ができなかった。2015 年度からは履修登録期間をすり合わせ、配当教室の変更や
残席の大学間の再分配を行った結果、第一希望で登録できた学生は 91%へと改善された。
(3)学年暦の質保証
①「履修登録期間」
「授業の開始時間」
「15 回の授業回数」
「休講基準」など
大学間連携における学年暦の調整は、
「授業の開始時間」
「15 回の授業回数」
「休講基準」などを保証す
れば済む話ではない。学生の履修希望を叶えることに比重を置き、履修登録の残席を大学間で融通するの
であれば、学年暦における「履修登録期間」を三大学ですり合わせることが極めて重要になる。
②「15 回の授業回数」の保証と単位認定の上限 -単位互換と共同化のちがい-
現在、京都三大学教養教育研究・推進機構では、共同化科目として 74 科目を開講している。また、共同
化科目と併行して、教養科目の単位互換制度も維持しており、単位互換科目は 41 科目である。2006 年度
から開始された単位互換制度においては、科目提供大学の学年暦が前提とされていたため、他大学からの
受講生には必ずしも 15 回の授業が保証されていなかった。それに対し、単位互換制度から踏み込んだ共同
化においては、共同化科目は全て自大学の科目として単位認定されるため、その前提として、15 回の授業
回数を保証するために三大学で学年暦のすり合わせを行った。
「単位互換科目」については単位認定の際に
上限があるが、
「共同化科目」については自大学科目と同じ扱いになるため、単位認定の際に上限はない。
③月曜日午後の時間割のゾーニング
月曜日の午後に関しては、三大学の 1 回生の時間割は、共同化科目のみを開講している。そのため、1
回生は、月曜日の午後に関しては、必然的に、教養教育共同化施設で共同化科目を履修することになる。
また、キャンパス間移動が伴う京都工芸繊維大学の 1 回生は、2 時限目には授業を配当していない。
(4)成績評価の質保証 -担当科目を教養科目として再構築する FD(科目担当者会議)-
従来であれば、京都工芸繊維大学は単科大学ということもあり、数学の教員は、自大学の理系の学生の
みを対象にして授業を行うことができた。しかし、共同化後は、数学の授業に、京都府立大学の文学部の
学生や公共政策学部の学生も受講してくる可能性がある。このように文系の学生と理系の学生が混在した
場合、教養教育科目のカリキュラムや成績評価の方法には、どのような工夫が求められるのか。
共同化が開始される前の教養教育は、自大学の学生を対象とした「専門基礎科目」としての色合いが強
かった。教養教育共同化後は、各科目担当者が自分が専門とする領域を、三大学の学生を対象に、教養教
育科目としてどのように再構築するかが求められる。
「教養教育科目として担当科目を再構築する」という
視点は、教養教育担当者のコミュニティ意識の醸成にもつながる。教養教育科目には、専門教育科目以上
に、カリキュラムのデザインにおいて、創意工夫の余地がある。ここに発揮される教員の「職人魂」を支
援するような場を、科目担当者会議として定期的に開催し、情報共有に努めている。