日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 6(2015) 理科授業において設定される問題の型に関する研究 The study of the classification of the problem in the science lesson 中釜理恵 棟田一章 中城満 NAKAGAMA, Rie MUNEDA, Kazuaki NAKAJO, Mitsuru 高知大学教育学部理科教育コース Science Education Section, Faculty of Education, Kochi University [要約]本研究では理科の授業づくりのための視点を明確にするために、1時間の理科学 習における課題の内容を吟味し、これらの類型化を試みた。その結果、①活動目的型、② 真理追究型、③中間型、④融合型の4パターンにわけることができた。また、それぞれの 型について次のような特徴が明確になった。活動目的型の特徴は、授業の活動内容が具体 的にわかり、実験方法を改めて考える必要がないが、結論を考えるための段階を用意する 必要がある。一方、真理追究型の特徴は、結論を考えるための段階を用意する必要がない が、授業の活動内容が抽象的でわかりにくく、実験方法を明示する必要があるということ である。 [キーワード] 課題設定,見通し,活動目的型,真理追究型,興味・関 1.はじめに 一して「課題」と呼ぶことにする。したがっ これまでに観察してきた多くの研究授業の中 て、教師が一方的に提示した場合も、子どもと で、理科授業における最初の課題提示の内容に 共に教師が設定した場合も共に課題と表記する よってその授業の成否が大きく左右される場合 こととする。 が多いことを知った。このことは、理科授業に おいて課題提示の内容を吟味することが理科の 2.本研究主題設定の理由 小学校学習指導要領解説理科編の教科におけ 授業づくりをする上で非常に重要であるという ことだと考えられる。これは同時に、子どもが る目標に「自然に親しみ、見通しをもって観 自ら目的をもてるような課題提示の内容であれ 察、実験を行い、問題解決の能力と自然を愛す ば、その学習に対して見通しをもって観察や実 る心情を育てるとともに、自然の事物・現象に 験に臨むことができることを意味している。 ついての実感を伴った理解を図り、科学的な見 理科に限らず、学習指導においては、多くの 場合、授業のはじめ、または前半において、何 方や考え方を養う。」(文部科学省,2008:7)とあ る。 この中で特に、「見通しをもって授業に臨むこ らかの課題や問題が教師から提示されたり、教 師の提示した現象等を通じて、子どもに本時の と」は、理科の学習を成立させるためには重要 めあてを見出させたりする。問題解決学習にお である。そして、「見通しをもつ」ための重要な いては、これらの課題を「問題」と呼んだり、 ポイントの1つとして、授業における課題設定 「疑問」と呼んだりすることが多い。これらも が挙げられる。なぜなら、課題提示によって、 含め、授業の初期に確認されるその時間の学習 子どもが授業前半においてどのような活動をす における指標となる教師の明示を本研究では統 ればよいか、何を目的に活動すればよいかにつ ― 7 ― 日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 6(2015) いて明確に捉えることができれば、その学習に しかし、課題設定を分類したり、その内容につ 対する見通しをもつことができるからである。 いて吟味したりしている先行研究はほとんどな 一方、同解説には、問題解決の能力を育てる い。したがって、課題設定の類型が明らかにな ことについて「児童が自然の事物・現象に親し れば、理科の授業づくりの視点がより明確にさ む中で興味・関心をもち、そこから問題を見い れると考える。 だし、予想や仮説のもとに観察、実験などを行 また、明らかにされた課題の類型を活用する い、結果を整理し、相互に話し合う中から結論 ことができれば、新たに授業構成する際、学習 として科学的な見方や考え方をもつようになる に応じて、この類型を利用することによって、 過程が問題解決の過程として考えられる。この 授業づくりの明確な視点を得ることができるの ような過程の中で、問題解決の能力が育成され である。 る。」(文部科学省,2008:8)とある。 4. 研究の方法 このことから、問題解決学習が成立するため 本研究において対象とした理科授業は高知県 には、興味・関心をもち実験や観察をすること が重要であるということが読み取れる。そし 内の小学校、中学校において平成 25 年から平成 て、子どもが学習における問題を自分の課題と 27 年にかけて実施されたものである。この授業 して見出すためには、興味・関心のもてる導入 について授業記録を収集した。実際に抽出した や課題の提示が求められる。子どもが問題を自 授業は 40 件あるが、例としてそのうちの 5 件を 分の課題として見出すことができれば、主体的 以下の表に示す。 に実験や観察に取り組むことができる。したが 表1 抽出し、研究した授業の一部 って、子ども自身が学習内容に対して興味・関 番号 日付 学年 心をもつような課題設定の吟味を行うことは、 1 2013/9/5 中学校 3年 問題解決学習を成立させるための重要な視点と 2 なるのである。 3 以上のことから「子どもが見通しをもって授 4 業に臨む」「興味・関心をもつ」ための授業構成 5 の視点として、学習における課題設定が大変重 中学校 3年 小学校 2013/12/9 4年 小学校 2013/12/9 4年 中学校 2013/12/13 2年 2013/9/24 単元名 課題の内容 タマネギの根はどこが 生命の 成長しているのだろ 連続性 う? 生命の 有性生殖のしくみ 連続性 電気の 直列つなぎってどんな 働き つなぎ方? 電気の 直列つなぎってどんな 働き つなぎ方? 日本の 大気圧について考え 気象 よう 授業分析にあたっては、明確に課題設定が行 要であると考え、本研究テーマを設定した。 われた研究授業を抽出し、授業で実際に提示、 3. 研究の目的 または確認された本時の課題内容について分析 理科の授業づくりのための視点を明確にする した。さらに、これらの内容を類型化し、その ために、1時間の理科学習における課題の内容 型ごとに分類するとともに、型ごとの特徴に応 を吟味し、これらの類型を明らかにすることを じて名称を付した。 本研究の目的とする。 課題設定は、授業を構成する中で十分吟味さ れなければならない内容の1つであり、学習活 なお、抽出した授業の番号は、実施された日 付順に付けている。また、単元名は学習指導要 領解説に準じている。 動の成否を左右する重要なポイントでもある。 ― 8 ― 日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 6(2015) 5. 結果 ④融合型 課題の内容を類型化した結果、課題設定を以 融合型とは活動目的型と真理追求型が融合し 下の4パターンに分類することができた。①活 た型である。表 5 はその代表的なものである。 動目的型、②真理追究型、③中間型、④融合型 表5 である。それぞれの型について以下に例をあげ 番号 学年 単元名 課題の内容 身近な 水圧実験装置を使っ 中学校 31 2014/11/15 物理現 て水圧について調べ 1年 象 よう! ぼうじしゃくにつけた 小学校 磁石の 38 2015/2/7 鉄くぎは、じしゃくの力 3年 性質 をもつのだろうか。 説明していく。 ①活動目的型 活動目的型とは授業の活動内容が明示された ものであり、その時間に子どもが実際に行う内 日付 抽出した 40 の授業を①活動目的型から④融合 容がそのまま表記されたものである。表 2 がそ 型に分類した結果を下に示す。 の代表的なものである。 表2 番号 日付 1 2013/9/5 6 2014/2/1 融合型の授業例 表6 分類した結果 活動目的型の授業例 学年 ①活動目的型 ②真理追究型 ③中間型 ④融合型 単元名 課題の内容 タマネギの根はどこが 中学校 生命の 成長しているのだろ 3年 連続性 う? LEDと豆電球のそれ 小学校 電気の ぞれの回路に流れる 6年 利用 電流は、どれくらいち がっているかな? 13 17 7 3 5. 考察 ②真理追究型 それぞれの型の特徴について考察する。活動 その時間に追究し明らかにすべき、自然現象 目的型は表 2 からわかるように、授業での活動 等の概念が明示されたものである。したがっ 内容が具体的にわかる。しかし、子どもに結論 て、本時の指導案に明記される「本時の目標」 を考えるという段階を用意する必要がある。例 と内容が重なる場合が多い。表 3 がその代表的 えば、表 2 の 1 の課題はどの部分を観察すれば な例である。 よいかが明示されている。したがって、子ども 表3 番号 5 9 真理追究型の授業例 日付 学年 中学校 2年 中学校 2014/5/29 2年 2013/12/13 単元名 日本の 気象 音の性 質 は検証の方法を十分把握することができる。し かし、その観察結果からは、どのような結論を 課題の内容 大気圧について考え よう 音の発生するしくみを 考えよう 導き出せばよいかは、明示されていない。その ため、観察後に改めて教師が結論を考える過程 ③中間型 を示さなければならなくなるのである。 中間型とは活動目的型とも真理追求型とも解 真理追究型は表 3 からわかるように、授業で 釈できる型である。その原因については、後に の活動内容が抽象的でわかりにくい。しかし、 考察する。表 4 がこの型の代表的な例である。 この型は課題に導かなければならない結論の内 表4 番号 日付 7 2014/2/1 13 2014/6/20 中間型の授業例 学年 単元名 すがた 小学校 をかえ 4年 る水 容が明示されているため、子どもはこの授業に 課題の内容 おいても何を明らかにすべきかを把握すること 水がふっとうしたとき に出てくるあわは何だ ろうか? ができる。したがって、この型の課題は、どの ようにして検証するか、どのような活動を具体 植物の 根がとり入れた水分 小学校 つくりと は、くきのどこを通っ 6年 はたら て吸い上げられるの か。 き 的に行うのか、といった活動内容を改めて子ど ― 9 ― 日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 6(2015) もに示す必要がある。 子どももいれば、普遍的な概念としての水と解 以上のような特徴をまとめたのが表 7 であ 釈する子どもも生まれるのである。 る。 これより、授業づくりのときに課題設定にお 表7 活動目的型と真理追究型の いて「言葉の意味の解釈」をしっかり吟味した メリット、デメリット メリット 授業の活動内 容が具体的に わかる。実験 活動目的型 方法を改めて 考える必要が ない。 上で、授業に活用する必要がある。 以上のような流れを意図して授業に臨むこと デメリット によって、子どもが課題を誤解することなく受 結論を考える ための段階を 用意する必要 がある。 け取ることができるのである。 6.最後に 授業の活動内 結論を考える 容が抽象的で ための段階を わかりにくい。 真理追究型 用意する必要 実験方法を改 がない。 めて考える必 要がある。 今回の研究では、明確に課題提示が行われた 授業のみを研究対象とした。したがって、明確 な課題提示が行われていないが、子どもが問題 意識をしっかりもって授業に取り組んでいた授 表 7 より、活動目的型と真理追究型のどちら 業や、反対に、子どもの問題意識が生じていな の内容も兼ね備えたのが融合型である。しか い授業もあった。今後はそのような授業にも注 し、この型についても課題は考えられる。それ 目し、さらに授業成立のための条件を探りた は、課題の内容が多くなってしまうために、課 い。 題の確認に時間がかかってしまうことである。 また、各単元の学習内容に適した課題設定の 次に、③中間型は①活動目的型と②真理追究 型を探っていきたい。 型のどちらにも解釈できるあいまいな課題設定 さらに、学年が低いほど、活動目的型が多く であった。その原因として考えられるのが、③ なる印象がある。そのような、学年、学校種に 中間型は課題設定の言葉の解釈によって、どち よる違いについてもこれから研究していきた らとも考えられることである。表 4 の 13 を例に い。 して説明する。 表8 番号 13 日付 中間型の授業の1つ 学年 単元名 植物の 小学校 つくりと 2014/6/20 6年 はたら き 引用文献及び参考文献 文部科学省:小学校学習指導要領解説理科編, 課題の内容 根がとり入れた水分 は、くきのどこを通っ て吸い上げられるの か。 7;8,大日本図書株式会社,2008 文部科学省:中学校学習指導要領解説理科編,大 日本図書株式会社,2008 「水分」という言葉を「子どもが実験で用いる 個々の植物においての水分」と解釈すると活動 目的型になる。「一般的な植物においての水分」 と解釈すると真理追究型になる。 したがって、子どもの立場に立てば、次のよ うな混乱を生じる可能性がある。この言葉を上 記のような、個別の現象としての水と解釈する ― 10 ―
© Copyright 2024 ExpyDoc