【秋田県立ゆり養護学校】 Ⅱ 詳細報告 1 研究の内容等 (1)現状の分析と研究の目的 研究主題 自ら考え、自ら活動する児童生徒の育成 ~生徒指導の観点を大切にした授業づくりと教育課程の改善を通して~ 本校に在籍する児童生徒は、経験や自信の不足に加え、人との適切な関わり方や気 持ちの伝え方が分からないことにより、自己肯定感が低かったり、望ましい行動がと れなかったり、周囲の人に頼ったりすることが多い。 本研究では生徒指導の3つの観点「自己存在感」「共感的人間関係」「自己決定力」 を大切にした授業づくりを行うことで、児童生徒の自己肯定感の高まりや、よりよい 人間関係の構築、一人一人の自信や意欲の向上につなげたいと考えた。また、行動上 の課題が見られたときの指導体制や連携の在り方、障害特性に応じた指導方法につい ては、より専門性を高めるための研修を充実させる。教育課程の編成に関しては、各 学部の特色やつながりを意識し、実践を共通理解していく。そして、実践から明らか になった課題については、全職員で組織的・計画的に見直し、改善を図っていく。 以上の取組が、自ら考え、自ら活動する児童生徒の育成、ひいては学校教育目標の 達成にも結び付くと考え、本主題を設定した。 (2)研究内容 ①自ら考え、自ら活動するための授業づくり ・児童生徒の目標や手立て、評価の共通理解 ・生徒指導の観点を大切にした指導目標・内容や単元・題材構成の確認、検討 ・生徒指導の観点を大切にした評価シートの活用 ・授業改善に向けたワークショップ型研究協議会の実施 ②障害特性や個々の課題への対応について理解を深めるための研修の充実 ・校内研修会(生徒指導に関する専門性を高めるための研修会や抽出児童生徒の 事例検討会)~生徒指導部と連携し、年間4回実施 ・児童生徒情報交換会(全校児童生徒の配慮事項について担任が情報を提供し、 対応方法などを共通理解)~生徒指導部と連携し、年間2回実施 ・特別支援教育研修会(本荘由利地区の教職員と共に、障害特性に応じた対応な どについて情報を共有)~総合支援部と連携し、年間2回実施 ③教育課程の見直しと改善 ・教育課程の見直し( 「教育課程を語る会」を計画的に実施) ・教育課程の改善(成果と課題を教育課程検討委員会で整理) 2 研究仮説の検証 研究仮説 児童生徒が学ぶ楽しさや達成感を味わ 検証の結果 生徒指導の観点を踏まえた「授業デザイ ったり、互いに認め合い学び合ったり、 ンミーティング」や「授業評価シート」の 自分で考えて表現したりする授業づくり 活用が浸透し、計画的な研修を通して、障 を重視し、児童生徒の障害特性や個々の 害特性の理解や専門性の向上につながった。 課題への対応方法について全職員が理解 また、実践から見えてきた教育課程上の課 を深め、実践から見えてきた教育課程上 題を検証し、改善に結び付けた。教職員を の課題を改善することで、 「自ら考え、自 対象にしたアンケートからも、ほぼ9割の ら活動する児童生徒」が育まれるだろう。 職員が研究仮説は達成されたと答えている。 3 研究の成果 (1)自ら考え、自ら活動するための授業づくり ・個別の指導計画を活用し、児童生徒の目標や手立て、評価を計画的に共通理解 したことで、客観性・妥当性のある指導につながった。 ・「 授業デザインミーティング」を実施し、指導目標や指導内容、単元構成等に ついて確認、検討を行ったことで、年間の授業づくりの見通しがもちやすくな り、根拠のある指導に結び付いた。 ・生徒指導の観点で整理した「授業評価シート」を日々の授業づくりに活用し、 生徒指導の観点で自身の指導を振り返ったり、指導後の評価を基にした話合い を行ったりしたことで、授業改善につながった。 ・研究授業に当たっては、授業後にワークショップ型研究協議会を実施し、グル ープごとに授業の課題点を絞り、改善策を導き出すことができた。 (2)障害特性や個々の課題への対応について理解を深めるための研修の充実 ・生徒指導に関する研修を通して、指導者の傾聴や共感の姿勢の大切さ、感謝さ れる体験を通した自尊感情の高め方などについて、職員の専門性を高めた。 ・「 自ら考え、自ら活動する」という観点で具体的な方策が必要な対象児童生徒 に対して事例検討会を実施した。グループ協議で出された解決策や教育専門監 の助言を生かした指導を行い、3か月後に変容を確認できた。 (3)教育課程の見直しと改善 ・カリキュラムデザイン表を作成したことで、各学部で大切にしたい観点や小・ 中・高のつながり、指導の系統性が分かりやすくなり、全校一丸で作業学習製 品販売活動や地域貢献活動等に取り組むための土壌が蓄積された。 ・地域社会の力を活用した取組を、生徒指導の観点と関連させて捉えたことで、 自己存在感が高まるような「感謝される体験」、共感的人間関係が育つような 「交流体験」、自己決定の力が高まるような「選択場面や活躍場面」について指 導者が意識して実践を積み重ねることができ、児童生徒の変容につながった。 ・「 ゆり養実践集」を作成し、地域社会の資源を生かす取組など実践例を簡潔に まとめたことで、職員間の共通理解が深まり、他校へも情報発信ができた。 【各学部・寄宿舎における主な成果】 ○小学部~一人一人の目標を共通理解し、授業デザインや生徒指導の観点を大切に した授業づくりをしてきたことで、児童が「自分でできる」 「楽しい」 「頑 張った」と実感することができ、充実感や達成感につながった。 ○中学部~単元・題材構成や指導内容などを「授業デザインミーティング」を通し て多角的に検討した。また、生徒を語る会等で実態把握を行い、生徒が 活躍できる課題や場面設定を工夫したことで、生徒が次の学習を楽しみ にしたり、自分の役割を理解して意欲的に学習に取り組んだりした。 ○高等部~具体的な目標設定、生徒への見通しと体験の積み重ね、発問の工夫、生 徒同士の評価などの工夫が、生徒自身の意欲ややりがいにつながり、自 分から進んで考えを提案したり発表したりするなど、最後まで活動に取 り組む姿勢につながった。 ○寄宿舎~棟会の内容及び会の運営の見直しを行ったことで、互いに学び合い、関 わり合う場面が増えた。リーダーを経験する機会を増やしたことで、リ ーダーの自覚をもち、周囲と協調する大切さを学んだ。生徒指導の観点 を取り入れた支援により、自分から発言したり、行動したりする姿が増 えてきた。 4 評価計画 評価計画 (1)授業づくりの評価 ①児童生徒の評価 結果等 ①児童生徒の評価について、学期ごとに各学部におい て共通理解を図った。活動に自信をもって取り組む、 自分から友達に関わるなど、主体的な児童生徒の姿 が見られるようになった。 ②「授業デザインミーティ ②③職員を対象にしたアンケートから、各シートの活 ング」の評価 ③「授業評価シート」の評 価 用を通して生徒指導の観点を踏まえた授業づくりが 定着し、特に「授業デザインミーティング」の有効 性が明らかになった。 ④参観者の評価 ④公開研究会や各授業研究会のグループ協議やアンケ ート、指導助言を基に成果と課題が明らかになり、 授業改善に結び付く建設的な改善策が出された。 (2)研修の評価 ①研修内容の評価 ①アンケートでは、9割以上の職員が各研修会が障害 特性の理解や専門性の向上につながったと回答した。 ②事例対象児童生徒に関す ②児童生徒7名に対して事例検討会を実施し、指導の る評価 手立ての工夫が児童生徒の変容につながるケースを 全職員で共通理解できた。 (3)教育課程の評価 ①改善された教育課程に関 する評価 ①教育課程を語る会を通して、今年度改善された指導 内容や重点事項に関して確認や検討をしたことで、 小・中・高の系統性が見えやすくなった。 ②学期ごとに成果と課題を ②教育課程検討委員会が中心となって、実践から見え 明らかにする評価 た成果と課題を焦点化し、改善策を導き出した。 ③本校の特色を生かした取 ③職員アンケートで、今まで実践を重ねてきた地域社 組に関する評価 会の資源を生かした取組と生徒指導の観点を関連さ せた取組、小・中・高の系統性を意識した取組に関 して評価を行った。一定の成果が見られた結果とな った。 5 研究の課題と今後の方策 (1)授業づくりについて 「授業評価シート」の形式や活用方法について課題があり、授業改善に一層つな げるための方策について、話合いの持ち方を含めて再検討する。また、今年度成 果が見られた授業デザイン力を高める「授業デザインミーティング」を継続する。 (2)研修の在り方について より緊急性のあるケースに関して、事例検討を実施したいという要望が多かっ た。VTRによる分析を含め、授業づくりと関連させながら指導者の支援方法を 検討し、児童生徒の変容につながる研修機会を計画的に実施する。 (3)教育課程の編成について 実践から見えてきた課題を踏まえ、児童生徒の実態に即したグループ編制や時 数の検討を行い、再編成した教育課程について計画的に評価を行う。また、今年 度成果が見られた地域社会の資源を生かした取組をさらに焦点化し、小・中・高 のつながりやねらいをより明確にした学習活動を全校体制で計画的に実践する。 Ⅲ 指定校の概要及び研究の体制 1 指定校の概要 (1)児童生徒数 学校名:秋田県立ゆり養護学校(あきたけんりつゆりようごがっこう) 教育の対象とする障害種:知的障害 児童生徒数 小学部 中学部 計 高等部 視覚障害 0 0 0 0 聴覚障害 0 0 0 0 知的障害 4 7 41 52 肢体不自由 0 0 0 0 0 0 0 0 重複障害 14 14 9 37 計 18 21 50 89 病 弱 (2)教職員数 2 校長 副校長 教頭 1 2 (人) 主幹教諭 助教諭 養護教諭 非常勤講師 実習助手 事務職員 寄宿舎指導員 看護師 指導教諭 養護助教輸 教諭 44 14 2 0 3 3 14 1 その他 計 18 102 研究組織の整備 本校 ・ 分教室合同全校研究会 全 校 研 究 会 分教室研究会 教育課程検討委員会 拡 大 研 究 部 会 生徒指導部 小 学 部 研 究 部 中 学 部 分教室研究部 高 等 部 寄 宿 舎 ◎拡大研究部会 メンバー:校長、教頭、各学部主事、教育専門監、研究主任、生徒指導主事、進路指導主事、研究部員 業 3 務 :研究推進に係る校内外の調整。研究の計画、組織、内容の確認と検討。 連絡担当者 ①名称 秋田県立ゆり養護学校 ②住所 〒015-0885 秋田県由利本荘市水林456-3 ③連絡先 電話番号 0184-27-2630 FAX番号 0184-22-8706 E-mail(代表) [email protected] ④校長名 齊藤 陽子 ⑤事業実施担当者名 教頭 館山 峰夫
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