当院における皮下免疫療法の実際 ――治療成績と患者満足度について―― 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 齋藤正治 2014. 4. 16. 鼻アレルギーの治療法 ①薬物療法 ②アレルゲン免疫療法(減感作療法) ③手術療法 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 鼻アレルギー診療ガイドライン 2013年度版 重症度 軽症 中等症 病型 くしゃみ・鼻漏型 ①第2世代 抗ヒスタミン薬 ②遊離抑制薬 ③Th2サイトカイン 阻害薬 ①第2世代 抗ヒスタミン薬 ②遊離抑制薬 ③鼻噴霧用 ステロイド薬 ①,②,③のいずれ か1つ。 鼻閉型または鼻閉 を主とする充全型 ①抗 LTs薬 ②抗PGD2・TXA2薬 ③Th2サイトカイン 阻害薬 ④鼻噴霧用 ステロイド薬 通年性アレルギー性鼻炎の治療 治療 重症 くしゃみ・鼻漏型 鼻閉型または鼻閉 を主とする充全型 鼻噴霧用 ステロイド薬 + 第2世代 抗ヒスタミン薬 鼻噴霧用 ステロイド薬 + 抗LTs薬または 抗PGD2・TXA2薬 必要に応じて点鼻用 血管収縮薬を治療開 始時の1~2週間に 限って用いる。 ①,②,③のいずれ ①,②,③,④のい か1つ。 ずれか1つ。 必要に応じて①また 必要に応じて①,②, は②に③を併用する。 ③に④を併用する。 鼻アレルギーの基盤療法 鼻閉型で鼻腔形態異常を伴う症例では手術 アレルゲン免疫療法 抗原除去・回避 重症度 初期療法 軽症 中等症 病型 花粉症の治療 治療 ①第2世代 ①第2世代 抗ヒスタミン薬 抗ヒスタミン薬 ②遊離抑制薬 ②鼻噴霧用 ③抗LTs薬 ステロイド薬 ④抗PGD2 ・TXA2 薬 ⑤Th2サイトカイ ン 阻害薬 ①と点眼薬で治 療を開始し,必 くしゃみ・鼻漏型 要に応じて②を に は ① , ② , 鼻 追加。 閉型または鼻閉 を主とする充全 型には③,④, ⑤ の いずれか 1 つ。 重症・最重症 くしゃみ・ 鼻漏型 鼻閉型または鼻閉を 主とする充全型 くしゃみ・ 鼻漏型 鼻閉型または鼻閉を 主とする充全型 第2世代 抗ヒスタミン薬 + 鼻噴霧用 ステロイド薬 抗 LTs薬または 抗PGD2・TXA2薬 + 鼻噴霧用 ステロイド薬 + 第2世代 抗ヒスタミン薬 鼻噴霧用 ステロイド薬 + 第2世代 抗ヒスタミン薬 鼻噴霧用 ステロイド薬 + 抗LTs薬または 抗PGD2・TXA2薬 + 第2世代 抗ヒスタミン薬 必要に応じて点鼻用 血 管収縮薬を治療開 始時 の1~2週間に 限って用いる。 鼻閉が特に強い症例 では経口ステロイド薬 を 4~7日間処方で 治療 開始することも ある。 点眼用抗ヒスタミン薬または遊離抑制薬 点眼用抗ヒスタミン薬,遊離抑制薬 またはステロイド薬 鼻閉型で鼻腔形態異常を伴う症例では手術 アレルゲン免疫療法 抗原除去・回避 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック アレルゲン免疫療法とは ■免疫療法は1911年にNoon1)によって紹介され、 100年以上の歴史がある。 ■あえて体にアレルギー物質を与えることにより、 アレルギーに慣れさせ、症状を緩和させる治療。 (免疫寛容を得る治療) 方法 【皮下免疫療法】 アレルギー物質を極低濃度から皮下注射で投与開始。 1-2/Wの通院で約半年をかけて徐々に増量し、 最終的には1/Mの頻度で最低3年、目標は5年以上継続。 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 長所 ●アレルギー性鼻炎やアレルギー喘息に対する唯一の根治的治療法。 ●その効果はHD、ダニで80%、スギでは70%の有効率がある2)。 ●小児期のアレルギー性鼻炎に対する免疫療法が、その後の喘息発症 も抑制できる3)。 ●新規感作の抑制も期待できる。 ●妊娠中も継続できる。 1) Noon L:Prophylactic inoculation against 2) 大久保公裕 アレルゲン免疫療法の論理と展望 呼吸 hay fever.Lancet 1:1572-1574,1911. 2011;759-760 3) Müller,C.,Dreborg,S.et al.:Pollen immmunotherapy reduces the development of asthma in children with seasonal rhinoconjunctivitis(the PAT-study).J.Allegy Clin.Immunol.109:251-256,2002. 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 短所 ●即効性がない。 ●通院回数が多い。 ●長期の通院が必要。 ●稀ながらアナフィラキシーが生じる。 患者ベースで1~6%、 注射ベースで0.01~0.3%。 ・喘息発作は、注射 1000~2000回に1回。 ・致死的な副作用は、注射 200万回に1回。 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 禁忌 ●冠動脈疾患、高血圧でβ ブロッカーを使用している患者。 副作用としてアナフィラキシーが生じたとき エピネフリンが使用できないため。 ●重症喘息 × 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 免疫療法の作用機序 ●抑制性T細胞(Treg)の誘導 IL-10やTGFβを産生 Th2細胞を抑制 IgG4抗体の誘導 肥満細胞の活性化を抑制 免疫寛容に働く メディエーター産生を抑制、 好酸球の生存や活性化を抑制 樹状細胞の抗原提示能を抑制 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 当院における皮下免疫療法 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 免疫療法の方法 ●適応はRASTにてスギ、 HDが原因抗原と証明された 6歳以上の鼻アレルギー患者。 ●冠動脈疾患、高血圧(βブロッカー使用)、重症喘息、 悪性疾患、免疫不全などの患者は対象外。 ●投与方法は上腕外側皮下注射とし、抗原は2種類まで。 ●皮内反応閾値テストは行わず、低濃度から開始。 ●投与量は医師、看護師など必ず2名以上で確認。 ●注射後は待合室で15分間待機。 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック ● 50%増量法。1~2回/週の通院。 ●注射後の発赤、腫脹が50mmを超え、 持続期間が2日以内 スケジュール通り増量 3日以内 再度同じ量 4日以上 一旦減量 ●目標とする維持量は10×0.1ml以上 HD 10000倍× 0.03ml 1000倍× 0.03ml 100倍× 0.03ml 10倍× 0.03ml 10000倍× 0.05ml 1000倍× 0.05ml 100倍× 0.05ml 10倍× 0.05ml 10000倍× 0.07ml 1000倍× 0.07ml 100倍× 0.07ml 10倍× 0.07ml 10000倍× 0.1ml 1000倍× 0.1ml 100倍× 0.1ml 10倍× 0.1ml 10000倍× 0.15ml 1000倍× 0.15ml 100倍× 0.15ml 10倍× 0.15ml 10000倍× 0.2ml 1000倍× 0.2ml 100倍× 0.2ml 10倍× 0.2ml 10000倍× 0.3ml 1000倍× 0.3ml 100倍× 0.3ml 10倍× 0.3ml 1W 1W 1W 目標とする維持量 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック ●100%増量法。200JAU以降は50%増量法 1~2回/週の通院。 ●注射後の発赤、腫脹が50mmを超え、 持続期間が2日以内 スケジュール通り増量 3日以内 再度同じ量 4日以上 一旦減量 ●目標とする維持量は2000JAU×0.1ml以上 スギ 0.02JAU× 0.05ml 2JAU× 0.05ml 200JAU×0.03ml 2000JAU× 0.03ml 0.02JAU× 0.1ml 2JAU× 0.1ml 200JAU× 0.05ml 2000JAU× 0.05ml 0.02JAU× 0.2ml 2JAU× 0.2ml 200JAU× 0.07ml 2000JAU× 0.07ml 0.02JAU× 0.3ml 2JAU× 0.3ml 200JAU× 0.1ml 2000JAU× 0.1ml 0.2JAU× 0.05ml 20JAU× 0.05ml 200JAU×0.15ml 2000JAU× 0.15ml 0.2JAU× 0.1ml 20JAU× 0.1ml 200JAU×0.2ml 2000JAU× 0.2ml 0.2JAU× 0.2ml 20JAU× 0.2ml 200JAU×0.3ml 2000JAU× 0.3ml 0.2JAU× 0.3ml 20JAU× 0.3ml 1W 1W 目標とする維持量 1W耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 開院後5年間における免疫療法の症例数 (平成19年5月~平成24年4月) 総数:108例 ■HD単独 12例 16.0±6.8歳 40例 29.6±13.2歳 ■スギ単独 ■ HDおよびスギ 56例 18.6±9.1歳 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック ■脱落の頻度 11/108 症例 10.2% ● HD :10000倍~1000倍 スギ:0.002JAU~0.02JAU の初期低濃度のうちに10例が脱落 ●アナフィラキシー症例の1例が脱落 ■終了症例数 7症例 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 目標維持量の達成率 ■HDにおいて、維持量が 10×0.3mlに達した患者の割合 50/50 症例 100% ■スギにおいて、維持量が 2000JAU×0.1~0.3mlに達した患者の割合 65/73 症例 89% 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック ■アナフィラキシーの頻度 ◆HD単独の患者ではなし。 ◆スギの患者では6例。 ①蕁麻疹 (スギ class 4 HD class 0 スギ2000JAU×0.05ml) 自宅で生じ、呼吸苦もなし 経過観察 ②蕁麻疹および呼吸苦 (スギ class 6 HD class 2 喘息なし スギ2000JAU×0.2ml ) 頚部狭窄音、肺雑音なし 窒息の危険性 を示す 抗ヒスタミン薬、ステロイド静注 30分後帰宅 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック ③呼吸苦 (スギ class 3 HD class 5 喘息あり スギ2000JAU×0.03ml 頚部狭窄音、肺雑音なし HD10×0.3ml ) 気管支拡張剤吸入 30分後帰宅 ④呼吸苦 (スギ class 3 HD class 0 喘息なし スギ2000JAU×0.1ml ) 気管支拡張剤吸入 軽度の喘鳴あり 30分後帰宅 ⑤蕁麻疹および気道狭窄 (スギ class 6 HD class 6 喘息なし スギ200JAU×0.3ml 顔面紅潮あり 喘鳴あり ⑥蕁麻疹および気道狭窄 (スギ class 5 HD class 0 エピネフリン筋注、 酸素投与 ステロイド静注 60分後帰宅 喘息なし スギ200JAU×0.05ml ) エピネフリン筋注、 酸素投与 頚部狭窄音あり ステロイド静注 顔面紅潮あり 喘鳴あり HD10×0.1ml ) 60分後帰宅 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 副作用対策 症例ベースで 6/108 症例 5.6% アナフィラキシーの頻度は、文献報告において1~6%である ことに対し、当院の頻度は高い傾向。 ①注射後の発赤、腫脹の持続期間をさらに厳格に聴取して、 濃度調節をする。 (総IgE値が1000U/ml以上の症例では、特に厳格化。) ②軽症持続型以上の喘息患者は適応から除外する。 ②スギにおいて、高濃度の200JAUの濃度に達したら、 全患者に、注射当日の来院前に抗ヒスタミン薬を内服させる。 これにより、以後の新規約70症例において アナフィラキシーは生じていない。 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック ■当院でのアナフィラキシー対策 ●生体情報モニターの使用(心電図、血圧、血液酸素飽和度) ●酸素投与 ●輸液ルートの確保 ●エピネフリン、抗ヒスタミン薬、ステロイドの投与 ●気管支拡張剤の吸入 ●気管内挿管(小児から成人サイズのチューブを用意) トラヘルパー ●AED 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 皮下免疫療法の 満足度調査結果 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 検討対象患者背景 ■症例数:73例 男性:41例 女性:32例 平均年齢:21.9±13.6歳 ●HD単独 : 5例 ●スギ単独 :31例 ●スギ+HD :37例 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 満足度は? 【HD単独】 n-=5 かなり不満 かなり満足 不満 満足 まあまあ 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 満足度は? 【スギ単独】 かなり不満 0% n-=26 不満 4% まあまあ かなり満足 満足 かなり高い満足度を示した。 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 【HD+スギ】 満足度は? n-=37 不満 0% かなり不満 0% まあまあ かなり満足 満足 かなり高い満足度を示した。 89%の人が、高濃度の2000単位の0.1ml以上の維持量に達しており、 充分な免疫寛容が得られたためと思われる。 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 改善した症状は? 【すべての免疫療法患者】 n=59 ※回答重複あり 75% 鼻みず 68% 鼻づまり くしゃみ 46% 眼のかゆみ 41% 32% 鼻のかゆみ その他 効果なし 3% 2% 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 一番改善した症状は? 【すべての免疫療法患者】 くしゃみ n=58 鼻のかゆみ 2% 眼のかゆみ 鼻みず 鼻づまり 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 免疫療法に対する不満は? n=71 スギエキスは50%グリセリンを含むため痛い ※回答重複あり 41% 注射後の痛み 注射時の痛み 23% 頻回の通院が必要 24% 長期間の通院が必要 24% 治療を行える抗原が 限られている 限られた施設でしか行えない その他 13% 6% 1% 特になし 約4分の1がスムーズに治療が行えている。 23% 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 薬物使用状況 【HD単独】 維持量に達した症例における、春季での調査状況 【H22年 少量飛散年】 飛散総数:433個/cm2 薬剤2種以上を定期使用 使用なし 薬剤1種を定期使用 n=5 【H23年 大量飛散年】 飛散総数:7580個/cm2 薬剤2種以上を定期使用 使用なし 薬剤1種を定期使用 n=5 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 薬物使用状況 【スギ単独】 維持量に達した症例における、春季での調査状況 【H22年 少量飛散年】 【H23年 飛散総数:433個/cm2 大量飛散年】 飛散総数:7580個/cm2 薬剤2種以上を定期使用 薬剤2種以上を定期使用 使用なし 使用なし 薬剤1種を定期使用 薬剤1種を定期使用 頓用 n=13 n=22 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 薬物使用状況 【HDとスギの免疫療法患者】 維持量に達した症例における、春季での調査状況 【H22年 少量飛散年】 【H23年 大量飛散年】 飛散総数:433個/cm2 飛散総数:7580個/cm2 n=22 n=22 薬剤2種以上を定期使用 薬剤2種以上を定期使用 使用なし 使用なし 頓用 頓用 薬剤1種以上定期使用 薬剤1種以上定期使用 免疫療法の今後の課題 ●通院回数、通院期間の短縮 ●注射の痛み、痒みの改善 ●より安全性の高い免疫療法の確立 ●抗原の標準化 ●治療効果を予測する方法やパラメータの確立 ●免疫療法が可能な施設の増加 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 課題の改善策 ●通院回数、通院期間の短縮 ●注射の痛み、痒みの改善 ●より安全性の高い免疫療法の確立 ●抗原の標準化 ●免疫療法が可能な施設の増加 改善には 舌下免疫療法 スギ花粉症免疫療法の もう一つの課題 ◆スギ免疫療法中の患者が、ヒノキ飛散期に増悪すること。 スギ花粉症患者の80%にヒノキ花粉症が併存。 スギとヒノキ花粉の主要抗原エピトープは似ており、90%以上のアミノ 酸配列に相同性があることから、理論的にはスギ花粉エキスはヒノキ花粉 の抗原エピトープにも反応し、ヒノキ花粉症の免疫寛容に向かってもよい はず。 しかし、ヒノキ花粉の飛散期には増悪。 ヒノキ抗原に対する免疫寛容を充分に誘導できない可能性。 ヒノキ花粉飛散期には計画的な薬物治療の併用も必要となる。 ヒノキの免疫療法も、今後、検討されるべき。 総括 ◆皮下免疫療法は、薬物の使用頻度を下げ、満足度の 高い治療であることが確認された。 ◆舌下免疫療法は皮下免疫療法の欠点を克服した治療 と成り得る。⇒ 早くで保険適応に・・・ ◆舌下免疫療法が広く普及させるには、その手技が正 しく行われ、治療効果を上げることが重要である。 ⇒登録医のみが処方できるのは妥当! 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック 耳鼻咽喉科・アレルギー科 さいとうクリニック
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