豊穣圏 alg-d http://alg-d.com/math/category/ 2015 年 10 月 12 日 ※この PDF は書きかけ (?) で,証明等にギャップがかなりあります. 大雑把に言うと,HomC (x, y) が集合ではなく,他の (良い) 圏 V の対象になっている ような C を V -豊穣圏という.豊穣圏においても Kan 拡張を定義することができ,通常 の圏と同様な定理が成り立つ.これを使うと,様々な定理を示すことができる.(全ての 概念は Kan 拡張である!) それを説明することがこの PDF の目的である. 目次 1 定義 2 2 基本的概念 6 2.1 関手 U . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.2 双対圏 C op . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 2.3 V -豊穣圏 V . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 2.4 テンソル積 C ⊗ D . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 2.5 V -関手 ⊗ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 2.6 V -関手 C(−, −) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 2.7 表現可能関手 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 2.8 power, copower . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 2.9 自由 V -豊穣圏 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 3 随伴 10 4 エンド 11 1 5 Kan 拡張 15 6 極限 19 7 普遍随伴 24 1 定義 この PDF では,モノイダル圏は常に対称モノイダル閉圏で,完備かつ余完備であると しておく. 定義. V = (V, ⊗, I, α, λ, ρ) をモノイダル圏とする.V -豊穣圏 (V -enriched category) C とは,以下の条件を満たすものである. (1) 対象の集まり Ob(C) が与えられている. (2) a, b ∈ C に対して,V の対象 C(a, b) ∈ V が与えられている.(これを a から b への 射の集まりと考える.) (3) a, b, c ∈ C に対して,V の射 mabc : C(b, c) ⊗ C(a, b) −→ C(a, c) が与えられている. (これが射の合成を与えると考える.) (4) a ∈ C に対して,V の射 ja : I −→ C(a, a) が与えられている.(これが c の恒等射 を与えると考える.) (5) V における次の図式が可換である.(即ち,結合律が成り立つ) ( ) C(c, d) ⊗ C(b, c) ⊗ C(a, b) α ( ) C(c, d) ⊗ C(b, c) ⊗ C(a, b) mbcd ⊗id id⊗mabc C(b, d) ⊗ C(a, b) C(c, d) ⊗ C(a, c) macd mabd C(a, d) 2 (6) V における次の図式が可換である.(即ち,ja は恒等射である.) I ⊗ C(a, b) λ jb ⊗id C(a, b) C(a, b) ⊗ I mabb ρ id⊗ja C(b, b) ⊗ C(a, b) C(a, b) maab C(a, b) ⊗ C(a, a) また,Ob(C) が集合となるとき,C を小 V -豊穣圏という. ※ この定義から分かるように,豊穣圏は一般のモノイダル圏に対して定義されるが, 始めに注意したようにここでは,モノイダル圏 V は常に対称モノイダル閉圏で,完備 かつ余完備であるとする.(この仮定がなくても成り立つ定理も以下にはあるが,ど の定理にどの仮定が要るかについては特に注意を払わないことにする.) 例. Set-豊穣圏が通常の (locally small な) 圏である. 例. モノイダル圏 V に対して,I を • Ob(I) := {∗} • I(∗, ∗) := I • m∗∗∗ := λ : I ⊗ I −→ I • j∗ := id∗ : I −→ I で定めれば,これは V -豊穣圏になる.これを単位 V -豊穣圏という. 例. 2 = {0 → 1} はモノイダル圏である.前順序集合 P を圏とみなすとき HomP (x, y) ∈ 2 と考えることができる.これにより P を小 2-豊穣圏とみなすことができる.逆に,小 2-豊穣圏は前順序集合とみなすことができる. 例. アーベル群の圏 Ab はモノイダル圏である.(積はテンソル ⊗,単位元は巡回群 Z.) R を (可換とは限らない) 単位的環とするとき,Ab-豊穣圏 C を以下のように定めること ができる. • Ob(C) := {∗} • C(∗, ∗) は加法群 R とする. • 合成 C(∗, ∗) ⊗ C(∗, ∗) −→ C(∗, ∗) は乗法 R × R ∋ (r, s) 7−→ rs ∈ R から定まる射 とする. • j∗ : Z −→ R を j∗ (1) := 1 で定める. 3 逆に,Ob(C) = {∗} となるような Ab-豊穣圏 C に対して R := C(∗, ∗) は単位的環である. この対応により,単位的環と,1 点 Ab-豊穣圏を同一視することができる.また小 Ab-豊 穣圏を ringoid と呼ぶことがある. 例. k を可換環とする.k 加群の余鎖複体 {X n , dn }n∈Z がなす圏を Ch(k) で表す. Ch(k) はテンソル積 (X ⊗ Y )n = ⊕ Xp ⊗ Y q p+q=n dX⊗Y := dX ⊗ idY + idX ⊗ dY によりモノイダル圏となる.Ch(k)-豊穣圏を dg-k-圏,もしくは単に dg 圏という (dg は differential graded の略).対象が一つの dg 圏を dg 代数という. 例. R+ := {x ∈ R | x ≥ 0} ∪ {∞} に ≥ により順序を入れて圏としたとき,これは + を 積,0 を単位元とするモノイダル圏である.(X, d) を距離空間としたとき,R+ -豊穣圏 C を以下のように定めることができる. • Ob(C) := X • C(a, b) := d(a, b) • 三角不等式 d(b, c) + d(a, b) ≥ d(a, c) が成り立つから,射 C(b, c) ⊕ C(a, b) −→ C(a, c) が一意に存在する.これにより m を定める. • d(a, a) = 0 だから射 0 −→ C(a, a) が一意に存在する.これにより ja を定める. こうして,R+ -豊穣圏を一般化された距離空間と見なすことができる. 定義. C, D を V -豊穣圏とする.V -関手 F : C −→ D とは以下の条件を満たすもので ある. (1) 各対象 a ∈ C に対して,対象 F a ∈ D が与えられている. (2) a, b ∈ C に対して,V の射 Fab : C(a, b) −→ D(F a, F b) が与えられている. (3) 次の図式が可換である.(即ち合成と可換である.) C(b, c) ⊗ C(a, b) m Fbc ⊗Fab C(a, c) Fac D(F b, F c) ⊗ D(F a, F b) 4 m D(F a, F c) (4) 次の図式が可換である.(即ち恒等射を保つ.) jc I C(c, c) Fcc jF c D(F c, F c) 対象を V -豊穣圏,射を V -関手とすれば (通常の) 圏となる.この圏を V -Cat と書く. 例. Set-関手は通常の関手である. 例. 2-関手は順序を保つ写像である. 例. 距離空間 (X, dX ), (Y, dY ) を R+ -豊穣圏とみなす.F : X −→ Y を R+ -関手とする. 定義より,x, y ∈ X に対して R+ の射 Fxy : X(x, y) −→ Y (F x, F y) が存在するから dX (x, y) ≥ dY (F x, F y) である.即ち F は Lipschitz 定数が 1 以下の Lipschitz 連続写像 である. 定義. C, D を V -豊穣圏,F, G : C −→ D を V -関手とする.V -自然変換 θ : F =⇒ G とは 以下の条件を満たすものである. (1) 各対象 c ∈ C に対して,V の射 θc : I −→ D(F c, Gc) が与えられている. (2) 次の図式が可換である. I ⊗ C(b, c) λ θc ⊗Fbc −1 D(F c, Gc) ⊗ D(F b, F c) m C(b, c) D(F b, Gc) m ρ−1 C(b, c) ⊗ I Gbc ⊗θb D(Gb, Gc) ⊗ D(F b, Gb) V -自然変換 θ : F =⇒ G,τ : G =⇒ H に対して垂直合成 τ ◦ θ : F =⇒ H を,合成 τc ⊗θc m I∼ = I ⊗ I −−−−→ D(Gc, Hc) ⊗ D(F c, Gc) −→ D(F c, Hc) により定める.これにより,C から D への V -関手全体 Fun(C, D) は (通常の) 圏となる. Fun(C, D) の同型射を V -自然同型という. 5 2 基本的概念 2.1 関手 U V -豊穣圏 C に対して U (C) := Fun(I, C) と置く.I = {∗} だから,F ∈ U (C) に 対して対象 F (∗) ∈ C が定まる.逆に対象 c ∈ C に対して,F (∗) = c となる V -関手 F ∈ U (C) を取る.このとき V の射 F∗∗ : I(∗, ∗) −→ C(c, c) が得られる.V -関手の条件 から F∗∗ ◦ j∗ = jc である. I j∗ I(∗, ∗) F∗∗ jc C(c, c) I の定義から I(∗, ∗) = I ,j∗ = id∗ である.故に F∗∗ = jc でなければならない.よっ て,c ∈ C に対して F (∗) = c となる V -関手 F : I −→ C はただ一つ存在することがわか る.従って Ob(U (C)) = Ob(C) とみなすことができる. 次に Hom について考える.V -自然変換の条件の可換性は常に満たされる事が分かるか ら,c, d ∈ U (C) に対して HomU (C) (c, d) = {f : I −→ C(c, d)} = HomV (I, C(c, d)) であ る.また f ∈ HomU (C) (c, d),g ∈ HomU (C) (d, e) の合成 g ◦ f ∈ HomU (C) (c, e) は g⊗f m I∼ = I ⊗ I −−−→ C(d, e) ⊗ C(c, d) −→ C(c, e) により得られる. V -関手 F : C −→ D に対して関手 U (F ) : U (C) −→ U (D) を次により定める. • c ∈ U (C) に対して U (F )(c) := F c. • c, d ∈ U (C) に対して U (F )(f ) := Fcd ◦ f . U (F ) ( f I− → C(c, d) ∈ HomU (D) (F c, F d) ∈ HomU (C) (c, d) ) ( ) f F I− → C(c, d) −−cd → D(F c, F d) . こうして U は (通常の) 関手 U : V -Cat −→ Cat を与える.U (C) を C の underlying category,U (F ) を F の underlying functor という. 6 2.2 双対圏 C op V -豊穣圏 C に対して,V -豊穣圏 C op を以下のように定める. • Ob(C op ) := Ob(C) • C op (b, c) := C(c, b) • 合成は C op (b, c) ⊗ C op (a, b) = C(c, b) ⊗ C(b, a) ∼ = C(b, a) ⊗ C(c, b) → C(c, a) = C op (a, c) から得られる射とする. • 恒等射は jc : I −→ C(c, c) = C op (c, c) とする. 2.3 V -豊穣圏 V 今 V がモノイダル閉だから,x, y, z ∈ V に対して HomV (z ⊗ x, y) ∼ = HomV (z, [x, y]) が成り立つ.ここで z = I と取れば,I ⊗ x ∼ = x より HomV (x, y) ∼ = HomV (I, [x, y]) で ある.そこで V -豊穣圏 V を • Ob(V) := Ob(V ) • V(x, y) := [x, y] • 合成 m : [y, z] ⊗ [x, y] −→ [x, z] は α id⊗ev ev ([y, z] ⊗ [x, y]) ⊗ x − → [y, z] ⊗ ([x, y] ⊗ x) −−−−→ [y, z] ⊗ y −→ z から得られる射とする. • 恒等射 jx : I −→ V(x, x) は,V の恒等射 idx ∈ HomV (x, x) ∼ = HomV (I, V(x, x)) に対応するものを取る. により定めれば,これは U (V) = V を満たす.こうして,V は自然に V -豊穣圏となる. 定義から分かるように HomV (x ⊗ y, z) ∼ = HomV (x, V(y, z)) が成り立つ.また w ∈ V に 7 対して自然に HomV (w, V(x ⊗ y, z)) ∼ = HomV (w ⊗ (x ⊗ y), z) ∼ = HomV ((w ⊗ x) ⊗ y, z) ∼ = HomV (w ⊗ x, V(y, z)) ∼ = HomV (w, V(x, V(y, z))) であるから,米田の補題により V(x ⊗ y, z) ∼ = V(x, V(y, z)) が成り立つ.今 V が対称だ から V(x, V(y, z)) ∼ = V(x ⊗ y, z) ∼ = V(y ⊗ x, z) ∼ = V(y, V(x, z)) となる. 2.4 テンソル積 C ⊗ D V -豊穣圏 C ⊗ D を以下のように定める. • Ob(C ⊗ D) := Ob(C) × Ob(D) • C ⊗ D(⟨c0 , d0 ⟩, ⟨c1 , d1 ⟩) := C(c0 , c1 ) ⊗ D(d0 , d1 ) • 合成は ( ) ( ) C ⊗ D(⟨c1 , d1 ⟩, ⟨c2 , d2 ⟩) ⊗ C ⊗ D(⟨c0 , d0 ⟩, ⟨c1 , d1 ⟩) ( ) ( ) ∼ = C(c1 , c2 ) ⊗ D(d1 , d2 ) ⊗ C(c0 , c1 ) ⊗ D(d0 , d1 ) ∼ = C(c1 , c2 ) ⊗ C(c0 , c1 ) ⊗ D(d1 , d2 ) ⊗ D(d0 , d1 ) → C(c0 , c2 ) ⊗ D(d0 , d2 ) ∼ = C ⊗ D(⟨c0 , d0 ⟩, ⟨c2 , d2 ⟩) から得られる射とする. jc ⊗jd • 恒等射は I ∼ = I ⊗ I −−−−→ C ⊗ D(⟨c, d⟩, ⟨c, d⟩) とする. C ⊗ D を C と D のテンソル積という. 2.5 V -関手 ⊗ 関手 ⊗ : V × V −→ V は V ⊗ V(⟨x, y⟩, ⟨x′ , y ′ ⟩) −→ V(x ⊗ y, x′ ⊗ y) を V ⊗ V(⟨x, y⟩, ⟨x′ , y ′ ⟩) ⊗ (x ⊗ y) = (V(x, x′ ) ⊗ V(y, y ′ )) ⊗ (x ⊗ y) ∼ = (V(x, x′ ) ⊗ x) ⊗ (V(y, y ′ ) ⊗ y) ev ⊗ ev −−−−→ x′ ⊗ y ′ から定めれば,V -関手 ⊗ : V ⊗ V −→ V とみなせる. 8 2.6 V -関手 C(−, −) ⟨c, d⟩ 7−→ C(c, d) により関数 Ob(C op ⊗ C) −→ Ob(V) が得られる.c0 , c1 , d0 , d1 ∈ C を取る.射の合成により V の射 C(d0 , d1 ) ⊗ C(c0 , d0 ) ⊗ C(c1 , c0 ) −→ C(c1 , d1 ) が得られる.よって同型 HomV (C(d0 , d1 ) ⊗ C(c0 , d0 ) ⊗ C(c1 , c0 ), C(c1 , d1 )) ∼ = HomV (C(c1 , c0 ) ⊗ C(d0 , d1 ), V(C(c0 , d0 ), C(c1 , d1 ))) = HomV (C op (c0 , c1 ) ⊗ C(d0 , d1 ), V(C(c0 , d0 ), C(c1 , d1 ))) = HomV (C op ⊗ C(⟨c0 , d0 ⟩, ⟨c1 , d1 ⟩), V(C(c0 , d0 ), C(c1 , d1 ))) により V の射 C op ⊗ C(⟨c0 , d0 ⟩, ⟨c1 , d1 ⟩) −→ V(C(c0 , d0 ), C(c1 , d1 )) が得られる.これに より V -関手 C(−, □) : C op ⊗ C −→ V が得られる. また c ∈ C に対して C(d0 , d1 ) ⊗ C(c, d0 ) −→ C(c, d1 ) に よ り V の 射 C(d0 , d1 ) −→ V(C(c, d0 ), C(c, d1 )) が 得 ら れ る .こ れ に よ り V -関 手 C(c, −) : C −→ V が得られる.C(−, d) : C op −→ V に対しても同様である. 2.7 表現可能関手 定義. V -関手 F : C −→ V が表現可能 ⇐⇒ ある c ∈ C と V -自然同型 F ∼ = C(c, −) が存在する. 定理 1. T : C op ⊗ D −→ V を V -関手として,各 c ∈ C に対して T (c, −) が表現可能で あるとする.このときある V -関手 F : C −→ D が存在して D(F c, −) ∼ = T (c, −) となる. 更にこれは c に関して自然である. 2.8 power, copower 定義. x ∈ V ,c ∈ C を取る. (1) V -関手 V(x, C(c, −)) が表現可能なとき,これを表現する対象を copower object (もしくは tensor object) といい x ⊙ c で表す.即ち C(x ⊙ c, d) ∼ = V(x, C(c, d)). 9 (2) V -関手 V(x, C(−, c)) が表現可能なとき,これを表現する対象を power object (も しくは cotensor object) といい x ⋔ c で表す.即ち C(d, x ⋔ c) ∼ = V(x, C(d, c)). 例. V の場合を考える.V(x, V(y, z)) ∼ = V(y, V(x, z)) だった.この同型を与える射を θx : V(x, V(y, z)) −→ V(y, V(x, z)) とする.即ち ( ) θx ∈ HomV V(x, V(y, z)), V(y, V(x, z)) ( ( )) ∼ = HomV I, V V(x, V(y, z)), V(y, V(x, z)) である. これにより V -自然変換 θ : V(−, V(y, z)) =⇒ V(y, V(−, z)) が定める.これは V -自然同型を与える.よって x ⋔ z = V(x, z) = [x, z] である.同様にして x ⊙ y = x ⊗ y が分かる.以上により V は任意の power,copower を持つ. 任意の x ∈ V ,c ∈ C に対して copower x ⊙ c が存在するとき,copower が V -関手 ⊙ : V ⊗ C −→ C を定めることが分かる.同様にして power は V -関手 ⋔ : V op ⊗ C −→ C を定める. 2.9 自由 V -豊穣圏 underlying category を与える関手 U : V -Cat −→ Cat は左随伴 F を持つ.それには C ∈ Cat に対して F C ∈ V -Cat を • Ob(F C) := Ob(C) ⨿ • F C(c, d) := I x∈HomC (c,d) で定めればよい.これを自由 V -豊穣圏という. 3 随伴 定義. F : C −→ D,G : D −→ C を V -関手とする.F が G の左随伴である,もしくは G が F の右随伴である (記号 F ⊣ G で表す) ⇐⇒ V -自然同型 D(F −, □) ∼ = C(−, G□) が存在する. jF c jGd 通 常 の 圏 と 同 様 に ,随 伴 か ら ηc : I −−→ D(F c, F c) ∼ = C(c, GF c) と εd : I −−→ C(Gd, Gd) ∼ = D(F Gd, d) が得られ,これらは V -自然変換となる.η : id =⇒ GF を unit,η : F G =⇒ id を counit という. 10 定義. C, D を V -豊穣圏とする. (1) V -関手 F : C −→ D が V -同値 ⇐⇒ V -関手 G : D −→ C と V -自然同型 η : idD ∼ = GF ,ε : F G ∼ = idC が存在する. (2) C, D が V -同値 ⇐⇒ V -同値 F : C −→ D が存在する. (3) V -関手 F : C −→ D が忠実充満 ⇐⇒ 任意の c, d ∈ C に対して V の射 Fcd : C(c, d) −→ D(F c, F d) が同型射. (4) V -関手 F : C −→ D が本質的全射 ⇐⇒ 任意の d ∈ D に対して,ある c ∈ C が存在して,U (D) での同型 F c ∼ = d が成 り立つ. 定理 2. F : C −→ D が V -同値 ⇐⇒ F が忠実充満かつ本質的全射である. 証明. (=⇒) G : D −→ C ,η : idC ∼ = GF ,ε : F G ∼ = idD とする.ε が V -自然同型 だから,U (ε) : U (F G) =⇒ U (idD ) も自然同型である.故に任意の d ∈ D に対して U (ε)d : U (F G)(d) = F (Gd) −→ U (idD )(d) = d は U (D) での同型を与える.よって F は本質的全射である.また ε が V -自然同型だから F は忠実充満である. (⇐=) F が 本 質 的 全 射 だ か ら ,各 d ∈ D に 対 し て Gd ∈ C と U (D) の 同 型 射 εd : F (Gd) −→ d が取れる.即ち εd ∈ HomV (I, D(F Gd, d)) であるが,このとき ε は V -自然変換 F G −→ idD である. F ε ◦ d V -自然変換 σ : C(−, G□) −→ D(F −, □) が σcd = (C(c, Gd) − → D(F c, F Gd)) −− → D(F c, d) により得られる.F が忠実充満で,ε が同型だから σ も同型である. 4 エンド エンドとは,普遍性を持つ wedge であった.通常の圏で,d ∈ D から T : C op ×C −→ D への wedge σ とは C の射 f : b −→ c に対して T (b, b) σb T (idb ,f ) T (b, c) d σc T (c, c) 11 T (f,idc ) を可換にする {σc }c∈C であるが,この可換性は HomD (T (b, b), T (b, c)) ◦σb T (b,−) HomC (b, c) HomD (d, T (b, c)) ◦σc T (−,c) HomD (T (c, c), T (b, c)) の可換性で表せる. 定義. C, D を V -豊穣圏,T : C op ⊗ C −→ D を V -関手とする.d ∈ D から T への wedge ·· σ : d −−→ T とは,以下を満たすものである. (1) 対象 c ∈ C に対して,V の射 σc : I −→ D(d, T (c, c)) が与えられている. (2) 対象 b, c ∈ C に対して,次の図式が可換である. D(T (b, b), T (b, c)) ◦σb T (b,−) C(b, c) D(d, T (b, c)) ◦σc T (−,c) D(T (c, c), T (b, c)) 定義. C, D を V -豊穣圏,T : C op ⊗ C −→ D を V -関手とする.T のエンドとは組 ⟨e, λ⟩ であって,以下を満たすものである. (1) e ∈ D は対象である. ·· (2) λ : e −−→ T は wedge である. ·· (3) σ : x −−→ T を wedge とするとき,V の射 p : I −→ D(x, e) が一意に存在して λc ◦ p = σc となる. p x σc e λc T (c, c) ∫ この e を記号 ∫ T (c, c) で表す.双対的にコエンド c∈C 12 c∈C T (c, c) も定義される (省略). 定理 3. C を V -豊穣圏,T : C op ⊗ C −→ V を V -関手とする.C が small ならばエンド ∫ T (c, c) は存在する. c C, D を V -豊穣圏とし,C は small であるとする.V -豊穣圏 [C, D] を以下のようにして 定める. (1) 対象は V -関手 C∫−→ D である. D(F c, Gc) ∈ V とする. (2) [C, D](F, G) := c∈C この [C, D] を関手圏という.U ([C, D]) = Fun(C, D) である. 小 V -豊穣圏 C に対して Cb := [C op , V ] と置く.V -関手 y : C −→ Cb が y(c) := C(−, c) により定まる.y を米田埋込と呼ぶ. 補題 4. C を小 V -豊穣圏,G : C op −→ V を V -関手とする.このとき c ∈ C に対して ∼ HomU (C) b (y(c), G) = HomV (I, Gc) が成り立つ. 証明. α : y(c) =⇒ G を V -自然変換とする.このとき αc : C(c, c) −→ Gc である.よっ jc αc て V の射 f (α) : I −→ C(c, c) −→ Gc が定まる.逆に f ∈ HomV (I, Gc) と a ∈ C に対 ◦f G して V の射を α(f )a : C(a, c) − → V(Gc, Ga) −→ V(I, Ga) ∼ = Ga により定めれば,これ は V -自然変換 α(f ) : y(c) =⇒ G となる.これらの対応が互いに逆であることを示せばよ い. 定理 5 (米田の補題). C を V -豊穣圏,F : C op −→ V を V -関手とする.このとき c ∈ C b に対して V での同型 C(y(c), F) ∼ = F c が成り立つ. b 証明. 定義により C(y(c), F ) = [C op ∫ , V](y(c), F ) = V(C(d, c), F d) である.故に d∈C op F c が V(C(−, c), F □) のエンドであることを示せばよい. b = ModR (右 R 加群の圏) とみ 例. 単位的環 R を 1 点 Ab-category とみなしたとき,R なせる. . . . ) F : Rop −→ Ab を Ab-関手とする.このとき M := F (∗) はアーベル群であり, r ∈ R の M への右作用が F r : M −→ M により定まり,M は右 R 加群となる.逆 に M を右 R 加群とすれば,Ab-関手 Rop −→ Ab が定まることも分かる. F, G : Rop −→ Ab を Ab-関手として V -自然変換 θ : F =⇒ G を考える.即ち射 θ∗ : 1 −→ HomAb (F (∗), G(∗)) である.これは R 準同型とみなせる.逆に R 準同型 から V -自然変換が定まる. 13 b = ModR とみなせる. 以上の対応により R 同様にして R −→ Ab は左 R 加群であり,R ⊗ S op −→ Ab は左 R 右 S 加群である. b を米田埋込とすれば y(∗) ∈ y : R −→ R b と す れ ば 米 田 の 補 題 に よ り R(y(∗), b R M) b は右 R 加群 R である.よって M ∈ R ∼ = M (∗) で あ る .こ れ は 言 い 換 え る と HomR (R, M ) ∼ = M である. 次に M : Rop −→ Ab,M : R −→ Ab を Ab-関手とする.即ち M は右 R-加群で N は左 R-加群である.このとき Ab-関手 T = M ⊗ N : Rop ⊗ R −→ Ab が T (∗, ∗) := ∫ M ⊗Z N ,T (r, s) := M r ⊗Z N s により定まる. ∗∈R T (∗, ∗) = M ⊗R N である.それ を示すため,まず写像 f : M × N −→ M ⊗R N を f (m, n) := m ⊗R n で定める.これ は双線型である. M ×N ⊗ M ⊗Z N f M ⊗R N λ∗ よってテンソル積の普遍性により準同型 λ∗ : M ⊗Z N −→ M ⊗R N が得られる.m ∈ M , n ∈ N ,r ∈ R に対して λ∗ ◦T (id, r)(m⊗Z n) = m⊗R rn,λ∗ ◦T (r, id)(m⊗Z n) = mr⊗R n ·· となる.従って λ∗ ◦ T (id, r) = λ∗ ◦ T (r, id) である.よって λ : T −−→ M ⊗R N は wedge である. ·· σ : T −−→ X を wedge とする.m ∈ M ,n ∈ N ,r ∈ R に対して σ∗ ◦T (id, r)(m⊗Z n) = σ∗ (m ⊗Z rn),σ∗ ◦ T (r, id)(m ⊗Z n) = σ∗ (mr ⊗Z n) なので σ∗ (m ⊗Z rn) = σ∗ (mr ⊗Z n) である.故に f : M ⊗R N −→ X を f (m ⊗R n) := σ∗ (m ⊗Z n) で定めれば f ◦ λ∗ = σ∗ ∫ となる.またこのような f は明らかに一意である.以上により M ⊗R N = ∗∈R T (∗, ∗) である. 定理 6 (Fubini の定理 ). T : C op ⊗ C ⊗ X op ⊗ X −→ V を V -関手として,任意の x, y ∈ X ∫ に対してエンド T (c, c, x, y) が存在すると仮定する.このとき c∈C ∫ T (c, c, x, x) ∼ = ⟨c,x⟩∈C⊗X ∫ ∫ T (c, c, x, x). x∈X c∈C 但し,この式は,どちらか一方が存在すればもう一方も存在して同型となることを意味す る. 14 5 Kan 拡張 定義. C, D, M を V -豊穣圏,F : C −→ D,E : C −→ M を V -関手とする.F に沿った E の左 Kan 拡張とは組 ⟨F † E, η⟩ であって,以下の条件を満たすものである. (1) F † E は V -関手 D −→ M,η は V -自然変換 E =⇒ F † E ◦ F である. D F †E =⇒ F η C M E (2) 他に V -関手 S : D −→ M と V -自然変換 θ : E =⇒ S ◦ F が存在したとき,V -自 然変換 τ : F † E =⇒ S が一意に存在して θ = τF ◦ η となる. D S τ † F E =⇒ =⇒ F η C θ E M 同様にして,F に沿った E の右 Kan 拡張 ⟨F ‡ E, η⟩ が V -自然変換の向きを逆にして得ら れる. D S τ ‡ F E =⇒ =⇒ F θ η C E M 定義により,次が分かる. 命題 7. Kan 拡張 F † E が存在する ⇐⇒ 任意の S : D −→ M に対して全単射 HomFun(C,M) (E, SF ) ∈ ∼ ∈ HomFun(D,M) (F † E, S) τ τF ◦ η が存在する. 15 一般には,Kan 拡張 F † E が存在したとしても [D, M](F † E, S) ∼ = [C, M](E, SF ) が成り立つとは限らない.しかし,M が power を持てばこれが成り立つ.即ち 定理 8. F : C −→ D ,E : C −→ M,S : D −→ M を V -関手とする.Kan 拡張 F † E が 存在し,M が power を持つとする.このとき [D, M](F † E, S) ∼ = [C, M](E, SF ) 証明. まず [C, M] が power を持つ事を示す.x ∈ V ,K, L ∈ [C, M] に対して ∫ ∼ V(x, [C, M](K, L)) = V(x, M(Kc, Lc)) c∈C ∫ ∼ V(x, M(Kc, Lc)) = c∈C ∫ ∼ M(Kc, x ⋔ (Lc)) = c∈C ∼ = [C, M](K−, x ⋔ (L−)) である.故に power x ⋔ L が存在する.よって [D, M](F † E, x ⋔ S) ∼ = V(x, [D, M](F † E, S)) [C, M](E, x ⋔ SF ) ∼ = V(x, [C, M](E, SF )) が成り立つ.よって HomFun(D,M) (F † E, x ⋔ S) ∼ = HomV (x, [D, M](F † E, S)) HomFun(C,M) (E, x ⋔ SF ) ∼ = HomV (x, [C, M](E, SF )) が成り立つ.命題 7 より HomFun(D,M) (F † E, x ⋔ S) ∼ = HomFun(C,M) (E, x ⋔ SF ) が成り立つから HomV (x, [D, M](F † E, S)) ∼ = HomV (x, [D, M](E, S ◦ F )) である.よっ て (圏 V での) 米田の補題により [D, M](F † E, S) ∼ = [D, M](E, SF )) を得る. 定理 9. M が power を持つとする.Kan 拡張 F † E が存在すれば任意の d ∈ D と m ∈ M に対して b M(F † E(d), m) ∼ −, d), M(E−, m)) = C(D(F である. 16 証明. M が power を持つから,V -関手 S : D −→ M に対して [D, M](F † E, S) ∼ = [C, M](E, SF ) が成り立つ.S := D(−, d) ⋔ m と置けば (左辺) ∼ = [D, M](F † E, D(−, d) ⋔ m) ∫ ∼ M(F † E(e), D(e, d) ⋔ m) = ∫e∈D ∼ V(D(e, d), M(F † E(e), m)) = e∈D op op ∼ = [D , V](D(−, d), M(F † E(−), m)) ∼ = M(F † E(d), m) (右辺) ∼ = [C, M](E, D(F −, d) ⋔ m) ∫ ∼ M(Ec, D(F c, d) ⋔ m) = c∈C ∫ ∼ V(D(F c, d), M(Ec, m)) = c∈C op ∼ = [C op , V ](D(F −, d), M(E−, m)) b だから M(F † E(d), m) ∼ −, d), M(E−, m)) である. = C(D(F 系 10. F † y(d) ∼ = D(F −, d),特に y † y ∼ = id である. 逆に 定理 11. F : C −→ D ,E : C −→ M,T : D −→ M を V -関手とする.任意の d ∈ D と m ∈ M に対して b M(T d, m) ∼ −, d), M(E−, m)) = C(D(F が成り立つならば T ∼ = F † E である. 17 証明. 任意の S : D −→ M に対して ∫ [D, M](T, S) = M(T d, Sd) ∫ d∈D b C(D(F −, d), M(E−, Sd)) d∈D ∫ ∫ = V(D(F c, d), M(Ec, Sd)) d∈D c∈C op ∫ ∫ = V(D(F c, d), M(Ec, Sd)) c∈C op d∈D ∫ = [D, V](D(F c, −), M(Ec, S−)) c∈C op ∫ M(Ec, SF c) = = c∈C = [C, M](E, SF ) であるから HomFun(D,M) (T, S) ∼ = HomFun(C,M) (E, SF ) が成り立つ. ∫ c∈C 定理 12. 任意の d ∈ D に対して D(F c, d) ⊙ Ec が存在するならば Kan 拡張 F † E も存在し ∫ F E(d) ∼ = † c∈C D(F c, d) ⊙ Ec である. 18 ∫ 証明. L(d) := c D(F c, d) ⊙ Ec と置けば S : D −→ M に対して [D, M](L, S) ∼ = ∫ M(Ld, Sd) ) (∫ c ∫ ∼ D(F c, d) ⊙ Ec, Sd = M d ∫ ∫ ∼ M(D(F c, d) ⊙ Ec, Sd) = d c ∫ ∫ ∼ V(D(F c, d), M(Ec, Sd)) = d c ∫ ∫ ∼ V(D(F c, d), M(Ec, Sd)) = c d ∫ ∼ = [D, V](D(F c, −), M(Ec, S−)) ∫c ∼ = M(Ec, SF c) d c ∼ = [C, M](E, SF ) であるから Kan 拡張 F † E は存在し,F † E ∼ = L である. 右 Kan 拡張に対しても同様の定理が成り立つ.(省略) 6 極限 V -豊穣圏においても極限,余極限を考えたい.しかし一般の V -豊穣圏の場合,∆ が自 然に定義できないため,∆ の左随伴,右随伴として定義することはできない.なので,ど のように定義すべきかを考える必要がある. 普通,どのような考えで定義するのかよく分からないが,ここでは「余極限による各 点 Kan 拡張ができる」ように定義することを考える.通常の圏では,Kan 拡張が各点 Kan 拡張であるとは Hom(F † E(d), u) ∼ = Hom(Hom(F −, d), Hom(E−, u)) が成り立つ ことだった.Hom(Hom(F −, d), Hom(E−, u)) ∼ = Hom(F ↓ d → C → U, ∆u) だから, F † E(d) ∼ = colim(F ↓ d → C → U ) となるのである. そこで 定義. C, J を V -豊穣圏,F : J −→ C と W : J −→ V を V -関手とする.V -関手 c 7−→ [J , V](W −, C(c, F −)) が表現可能なとき,これを表現する対象を weighted limit といい,limW F と書く.即ち C(c, limW F ) ∼ = [J , V](W −, C(c, F −)) である.また C op 19 での weighted limit を weighted colimit という.これは言い換えると以下のようになる: F : J −→ C と W : J op −→ V を V -関手とする.V -関手 c 7−→ Jb(W −, C(F −, c)) が表 現可能なとき,これを表現する対象を weighted colimit といい,colimW F と書く.即ち C(colimW F, c) ∼ = Jb(W −, C(F −, c)) である. 以下,weighted limit を単に極限,weighted colimit を単に余極限という. b 例. M(F † E(d), m) ∼ −, d), M(E−, m)) のとき F † E(d) ∼ = C(D(F = colimD(F −,d) E . 例. 米田の補題により limJ (j,−) F = F j ,colimy(j) F = F j である. 例. C = V の場合,x ∈ V に対して ( ∫ ) ∼ V(x, [J , V](W, F )) = V x, V(W j, F j) j ∫ ∼ = V(x, V(W j, F j)) j ∫ ∼ = V(W j, V(x, F j)) j ∼ = [J , V](W −, V(x, F −)) だから limW F ∼ = [J , V](W, F ) である.よって一般の V -豊穣圏 C において C(c, limW F ) ∼ = [J , V](W −, C(c, F −)) ∼ = limW (C(c, F −)) C(colimW F, c) ∼ = [J op , V](W −, C(F −, c)) ∼ = limW (C(F −, c)) が成り立つ.また F : J −→ V ,W : J op −→ V に対して V(colimW F, x) ∼ = Jb(W −, V(F −, x)) ∫ ∼ V(W j, V(F j, x)) = j∈J op ∫ ∼ V(F j, V(W j, x)) = j∈J ∼ = [J , V](F −, V(W −, x)) だから colimW F ∼ = colimF W である. 20 定理 13. F : J op −→ V ,G : J −→ Cb,H : C −→ D を V -関手とする.colimF G ∈ Cb が存在し,各 j ∈ J に対して colimGj H ∈ D が存在するとする.このとき F colimF (colimG− H) ∼ = colimcolim G H. 但し,この式は,どちらか一方が存在すればもう一方も存在して同型となることを意味 する. 証明. d ∈ D に対して自然に D(colimF (colimG− H), d) ∼ = Jb(F −, D(colimG− H, d)) ∼ b D(H□, d))) = Jb(F −, C((G−)□, F ∼ b G, D(H□, d)) = C(colim F ∼ = D(colimcolim G H, d). 例. V = Set の場合.F : J −→ C ,W : J op −→ Set を関手とする.W は表現可能関手 の余極限で書けるので,W ∼ = colimi∈I HomC (−, ci ) と書けば colimW F ∼ = colimcolimi∈I HomC (−,ci ) F ∼ = colim colimHomC (−,ci ) F i∈I ∼ = colim F ci i∈I である.即ち V = Set の場合は任意の weighted colimit が通常の余極限に書き直せる. ∫ 例. もし T (c, c) が存在すれば c ( ∫ ) ∫ D d, T (c, c) ∼ D(d, T (c, c)) = c c∈C ∫ ∼ [C op , V](y(c), D(d, T (−, c))) = ∫c∈C ∫ ∼ V(C(c′ , c), D(d, T (c′ , c))) = ′ op ∫c∈C c ∈C ∼ V(C(c′ , c), D(d, T (c′ , c))) = ⟨c′ ,c⟩∈C op ⊗C op ∼ = [C ⊗ C, V](C(−, □), D(d, T (−, □))). 21 ∫ ∫ C 故に T (c, c) = lim T である.同様にして c T (c, c) = colimC T となる. c 定義. (1) V -豊穣圏 C が V -完備 ⇐⇒ 任意の小 V -豊穣圏 J と V -関手 F : J −→ C と W : J −→ V に対して,極 限 limW F が存在する. (2) V -豊穣圏 C が V -余完備 ⇐⇒ 任意の小 V -豊穣圏 J と V -関手 F : J −→ C と W : J op −→ V に対して,余 極限 colimW F が存在する. 定理 14. V -豊穣圏 M が V -余完備 ⇐⇒ C, D を V -豊穣圏,F : C −→ D,E : C −→ M を V -関手とするとき,C が small な らば Kan 拡張 F † E : D −→ M が存在する. 証明. (=⇒) d ∈ D に対して Wd : C op −→ V を Wd := D(F −, d) で定める.C が small b だから colimWd E ∈ M が存在し,M(colimWd E, m) ∼ −, d), M(E−, m)) が成 = C(D(F り立つ.故に F † E は存在し,F † E(d) = colimWd E である. (⇐=) J を小 V -豊穣圏,T : J −→ M,W : J op −→ V を V -関手とする.米田埋込 y : J −→ Jb を考える.仮定により Kan 拡張 y † T が存在する.このとき m ∈ M に対 して M(y † T (W ), m) = Jb(Jb(y−, W ), M(T −, m)) = Jb(W, M(T −, m)) である.故に colimW T ∼ = y † T (W ) である. 定理 15. 左随伴は余極限と交換する. 証明. F ⊣ G : C −→ D,T : J −→ C ,W : J −→ V とする. D(F colimW T, d) ∼ = C(colimW T, Gd) ∼ = [J op , V](W −, C(T −, Gd)) ∼ = [J op , V](W −, D(F T −, d)). よって F colimW T ∼ = colimW (F T ) である. 定理 16. C, D, M, N を V -豊穣圏で C は small で M, N は V -余完備とする.F : C −→ D,E : C −→ M,K : M −→ N を V -関手とする.K が余連続ならば K ◦ (F † E) = 22 F † (K ◦ E) である.(即ち,余連続関手は Kan 拡張と交換する.) Cb F F † (K◦E) F †E C E M K N 証明. M, N が余完備だから,余極限による各点 Kan 拡張を使えば K ◦ (F † E)(d) = K(colimWd E) = colimWd K ◦ E = F † (K ◦ E)(d) となる. 系 17. 左随伴は Kan 拡張と交換する. 証明. 左随伴は余連続だから,定理 16 より従う. 定理 18. C, D, J を V -豊穣圏,F : J op −→ [C, D],W : J −→ V を V -関手とする.各 c ∈ C に対して関手 Fc := evc ◦F と定める.各 c ∈ C に対して余極限 colimW Fc が存在 するとする.このとき余極限 colimW F ∈ [C, D] が存在し,(colimW F )(c) = colimW Fc である.即ち,関手圏の余極限は各点ごとに計算できる. 23 証明. V -関手 T : C −→ D を T c := colimW Fc で定める.K ∈ [C, D] に対して ∫ [C, D](T, K) = D(T c, Kc) ∫ c∈C D(colimW Fc , Kc) = ∫c∈C [J op , V](W −, D(Fc −, Kc)) ∫c∈C ∫ V(W j, D(Fc j, Kc)) = c∈C j∈J op ∫ ∫ = V(W j, D(F j(c), Kc)) c∈C j∈J op ∫ ∫ = V(W j, D(F j(c), Kc)) j∈J op c∈C ∫ ∫ = V(W j, D(F j(c), Kc)) j∈J op c∈C ∫ = V(W j, [C, D](F j, K)) = j∈J op op = [J , V](W −, [C, D](F −, K)) だから T = colimW F である. 系 19. c ∈ C に対して evc : [C, D] −→ D は余連続である. 証明. 命題 18 で示した様に F : J op −→ [C, D],W : J −→ V に対して evc (colimW F ) = colimW (evc ◦F ) だからである. 系 20. C が small で D が V -余完備ならば [C, D] も V -余完備である. 系 21. C が small ならば Cb は V -余完備である. 7 普遍随伴 C, M を V -豊穣圏で,C は small,M は V -余完備とする. 定理 22. F : Cb −→ M が余連続のとき,ある E : C −→ M が存在して F ∼ = y † E となる. 証明. E := F ◦ y とすれば定理 16 により y † E = y † (F ◦ y) ∼ = F ◦ (y † y) ∼ = F ◦ (idCb) = F 24 となる. 定理 23. y : C −→ Cb を米田埋込,F : C −→ M を V -関手とすれば随伴 y † F ⊣ F † y が成 り立つ. Cb y y† F F †y C F M 証明. 定理 9 とその系を使えば,P ∈ Cb と m ∈ M に対して b C(y−, b M(y † F (P ), m) ∼ P ), M(F −, m)) = C( ∼ b M(F −, m)) = C(P, ∼ b F † y(m)). = C(P, 系 24. 余連続な F : Cb −→ M は右随伴を持つ. 証明. F が余連続だから定理 22 により F ∼ = y † E と書ける.よって定理 23 より F ⊣ E † y となる. b −→ M に対して,ある E : C −→ M が存在して F ∼ 系 25. 任意の随伴 F ⊣ G : C = y† E , G∼ = E † y となる. 証明. 左随伴は余連続だから定理 22 により F ∼ = y † E と書ける.随伴の一意性と定理 23 から G ∼ = E † y である. 定義. C を V -豊穣圏とする. (1) c ∈ C が small projective ⇐⇒ C(c, −) : C −→ V が余連続 (2) V -関手 F が conservative ⇐⇒ U (F ) が conservative (= 同型を反射する) (3) F : B −→ C が strongly generating ⇐⇒ F † y が conservative (4) 集合 X ⊂ Ob(C) が strong generator ⇐⇒ strongly generating な F により X = F (Ob(B)) と書ける 定理 26. V -豊穣圏 C が,小 V -豊穣圏 A により C ∼ = Ab と書ける ⇐⇒ C が V -余完備で,small projective な対象からなる集合 A ⊂ Ob(C) が存在して,A 25 が strong generator となる. b としてよい.Ab は V -余完備である.米田埋込 y : A −→ Ab により 証明. (=⇒) C = A A ⊂ Ab と見なす.y(a) ∈ Ab は small projective である. . . b b . ) A(y(a), P ) ∼ −) ∼ = P a だから A(y(a), = eva である.eva は余連続だったから, y(a) は small projective である. b は strongly generating である. また,y † y = idA は conservative だから,y : A −→ A b は strong generator である. 故に Ob(A) ⊂ Ob(A) (⇐=) 仮定の A を取り,C の充満部分 V -豊穣圏 A ⊂ C とみなす.包含関手を i : A −→ C と書く.米田埋込 y : A −→ Ab を取れば,定理 23 により随伴 y † i ⊣ i† y が得られる. Ab y y† i i† y A i C この随伴が V -同値を与えることを示せばよい. a ∈ A が small projective だから,i† y は余連続である.よって i† y◦(y † i) ∼ = = y † (i† y◦i) ∼ † ∼ y y = id b である. A 一方,A が strong generator だから i† y は conservative である.c ∈ C を取る.定 理 14 より i† y(c) = y † y(i† y(c)) = colimi † i† y ◦ y † i(colimi y(c) y) = colimi i† y ◦ y † i ∼ = id である. † y(c) † y(c) y である.よって i† y ◦ y † i ◦ i† y(c) = (i† y ◦ y † i ◦ y) = colimi † y(c) y = i† y(c) となり 以上により C ∼ = Ab である. 例. 順序集合 X が集合 A により X ∼ = P(A) と書ける ⇐⇒ X が余完備で,アトミック 証明. (=⇒) 明らか. (⇐=) 順序集合 X を 2-豊穣圏とみなす.アトム a ∈ X は small projective である. 26 A := {x ∈ X | x はアトム } と置き,i : A −→ X を包含関手とする. P(A) y† i y i† y A X i x ∈ X に対して i† y(x) ∼ = X(i(−), x) = {a ∈ A | a ≤ x} である.よって i† y は conservative である.X がアトミックだから A は strong generator である.故に定理 26 により X ∼ = P(A) と書ける. 例. (X, d) を距離空間,Y ⊂ X を部分空間とする.f : Y −→ R を f ≥ 0 となる Lipschitz 連続関数とし,L を f の Lipschitz 定数とする.(即ち |f (y0 ) − f (y1 )| ≤ Ld(y0 , y1 ) であ る.) このとき fe: X −→ R を fe(x) := inf (f (y) + Ld(x, y)) で定めればこれは f の延長 y∈Y で Lipschitz 連続である. 証明. X, Y の距離を d′ := Ld に変えた距離空間を X ′ , Y ′ とする.このとき f : Y ′ −→ R は Lipschitz 定数が 1 となる Lipschitz 連続関数である.よって f を R+ -関手 Y ′ −→ R+ とみなすことができる.i : Y ′ −→ X ′ を包含関手として,Kan 拡張 i† f : X ′ −→ R+ を 考えれば i† f : X ′ −→ R は Lipschitz 連続となる. X′ Y′ † 更に i f (x) = ∫ y∈Y ′ i† f =⇒ i f R+ X ′ (i(y), x) ⊙ f (y) = inf (f (y) + Ld(x, y)) である. y∈Y 定理 27 (Eilenberg-Watts). R, S を単位的環として,F ⊣ G : ModR → ModS を Ab随伴とする.このときある左 R 右 S 加群 P が存在して F ∼ = − ⊗R P ,G ∼ = HomS (P, −) と書ける. b だから,定理 25 によりある P : R −→ Sb が存在して F ∼ 証明. ModR = R = y† P , 27 G∼ = P † y となる. b R F y G R Sb P b,N ∈ Sb に対して このとき P は左 R 右 S 加群であり,M ∈ R y P (M ) ∼ = † ∫ ∗∈R b R(y(∗), M ) ⊙ P (∗) ∼ = ∫ ∗∈R M (∗) ⊙ P (∗) ∼ = M ⊗R P b −, N ) ∼ P † y(N ) ∼ = S(P = HomS (P, N ) となる. 定義. (通常の) 圏の射 r : a −→ b が retraction ⇐⇒ ある i : b −→ a が存在して r ◦i = idb 補題 28. ε : F =⇒ G が自然変換で,a に対して εa : F a −→ Ga が同型射であるとする. このとき r : a −→ b が retraction ならば εb : F b −→ Gb も同型射である. 証明. ε : F =⇒ G が自然変換で,r ◦ i = idb だから次が可換である. ε−1 a Fa Ga εa ε−1 a Fa Ga εa Fr Fi Gi Fb Gb εb id Fb Gr id Gb εb よって f := F r ◦ ε−1 a ◦ Gi : Gb −→ F b と置けば f ◦ εb = idb ,εb ◦ f = idb である. b が small projective ⇐⇒ P が有限生成射影右 R 加群 補題 29. P ∈ R 証明. (=⇒) P の有限生成部分右 R 加群全体を X とすれば P = colim N と書ける.こ N ∈X b b b N ) である. のとき P が small projective だから R(P, P ) = R(P, colim N ) = colim R(P, N ∈X idP N ∈X b b ∈ R(P, P ) が存在するから,これに対応する x ∈ R(P, N ) がある N ∈ X に存在す 28 b る.このとき P = N となる.よって P は有限生成.また R(P, −) が余連続だから特に 全射を保存し,よって P は射影加群である. (⇐=) P を有限生成射影右 R 加群とすれば,P はある Rn の直和因子となる.即ちあ る M が存在して Rn = P ⊕ M と書ける.π : Rn −→ P を射影,i : P −→ Rn を包含と すれば π ◦ i = idP である.即ち π : Rn −→ P は retraction である. 余極限の普遍性により,自然変換 ε : colim Hom(−, N ) =⇒ Hom(−, colim N ) N N が存在する.εRn が同型だから,retraction π : Rn −→ P により εP も同型である.よっ て P は small projective である. b∼ 定義. 単位的環 R, S が森田同値 ⇐⇒ Ab-同値 R = Sb が成り立つ 定理 30. 単位的環 R, S が森田同値 ⇐⇒ 有限生成射影右 S 加群 P が存在して,P が generator かつ環同型 R ∼ = HomS (P, P ) が成り立つ. b −→ Sb,G : Sb −→ R b,GF ∼ 証明. (=⇒) F : R = idRb ,F G ∼ = idSb を Ab-同値とする.F ⊣ G としてよい.このとき P := F ◦y と置けば F ∼ = y† P ∼ = −⊗R P ,G ∼ = P †y ∼ = HomS (P, −) b である.よって R ∼ = GF (R) ∼ = G(R⊗R P ) ∼ = G(P ) ∼ = HomS (P, P ) である.また R ∈ R b も small projective である.故に前補題か が small projective だから P = F (R) ∈ S b は generator だから P = F (R) も ら P は有限生成射影右 R 加群である.また R ∈ R generator である. (⇐=) P が有限生成射影右 S 加群だから,P は small projective である.V -関手 b −) : ModS −→ Ab は conservative である. S(P, . . b b N ) を与えるとする. b f ) : S(P, b M) ∼ . ) S の射 f : M −→ N が同型 S(P, = S(P, b f ) = 0 である.今 P が generator だ b −) は連続だから S(P, b ker f ) ∼ S(P, = ker S(P, から ker f = 0 が分かる.また P が small projective だから余連続でもある.従って b coker f ) ∼ b f ) = 0 となり,P が generator だから coker f = 0 であ S(P, = coker S(P, る.以上より f は同型である. b∼ 従って P は strong generator である.よって,定理 26 の証明から R = Sb となること が分かる. 例. 単位的環 R に対して Mn (R) を R の元を成分とする n 次行列全体がなす単位的 29 環とする.Rn は有限生成射影右 R 加群である.また Rn は generator で,Mn (R) ∼ = Hom(Rn , Rn ) である.従って ModMn (R) ∼ = ModR であり,よって R と Mn (R) は森 田同値である. 参考文献 [1] G.M. Kelly, Basic Concepts of Enriched Category Theory, Cambridge University Press, Lecture Notes in Mathematics 64 (1982), http://tac.mta.ca/tac/reprints/articles/10/tr10abs.html [2] F. W. Lawvere, Metric spaces, generalized logic, and closed categories, Rendiconti del Seminario Matematico e Fisico di Milano, 43:135–166, 1973 [3] Borceux Francis, Dejean Dominique, Cauchy completion in category theory, Cahiers de Topologie et Gomtrie Diffrentielle Catgoriques, 27 no. 2 (1986), 133– 146, http://www.numdam.org/item?id=CTGDC_1986__27_2_133_0 30
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