地域活性化事例(都市から地方への新しい人の流れ)

平成 27 年 7 月 9 日
奈 良 県
都市から地方への新しい人の流れ
~奈良県川上村と東吉野村における人口減少対策の取り組み~
【奈良財務事務所】
1.奈良県の人口
奈良県の人口は、戦後、経済の急速な成長に伴い右肩上がりに増加しました。特に 1965 年から 1995
年頃に人口は急増しています。しかし、2000 年以降減少に転じており、今後も減少は続く見通しとなっ
ています。ピーク時の 2000 年には 144 万人超だった人口は、2040 年には 110 万人程度にまで落ち込む
と予想されています(グラフ①)
。
また、
「日本創生会議・人口減少問題検討分科会」は、
【グラフ①】今後の奈良県の人口推移
(人)
(%)
1,600,000
0.0
人口
2010 年を基準として 2040 年までに 20~39 歳の女性の
1,400,000
人口が半減する市町村を『消滅可能性都市』と位置づけ、
1,200,000
県内では 39 市町村のうち 26 市町村が指定されました。
1,000,000
-3.0
800,000
-4.0
地理的にみれば県南部が多く、特に川上村は若年女性人
増減率
結果となっています 1。
-2.0
1,096,162
600,000
口の減少率が全国ワースト 2 位の▲89.0%という深刻な
-1.0
-5.0
-5.6
400,000
-6.0
2015
2020
2025
2030
2035
2040
(暦年)
(出典)
「日本の地域別将来推計人口(平成 25 年 3 月推計)」
(国立社会保障・人口問題
研究所)(http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/t-page.asp)
2.奈良県の人口の特徴
人口の増減については、出生・死亡などによる自然増
減と、県外からの転入、県外への転出などによる社会増
【グラフ②】奈良県人口の自然増減率・社会増減率
-5.0
1955~1960
0.0
5.0
-3.0
1960~1965
1970~1975
に社会増が自然増を上回り、社会増減の影響が大きかっ
転入が特に多い時期と重なっており、大阪府や京都府な
6.5
1980~1985
どの都市部へのアクセスが良好であることなどからベ
ッドタウン化が進んだことがうかがえます。
しかし、1995 年以降は転出・転入共に減少傾向とな
っており、2000 年以降は転出超過により社会減の影響
9.3
7.8
3.2
4.7
2.1
1990~1995
3.3
1.4
1995~2000
-0.3
2000~2005
2005~2010
7.4
4.4
1985~1990
たことが分かります(グラフ②)。この間は奈良県への
社会増減率
1.8
5.2
1975~1980
-1.9
-1.1
20.0 (%)
15.0
自然増減率
4.0
1965~1970
減に分けられます。奈良県は 1965 年から 1995 年の間
10.0
3.5
2.6
1.1
0.4
-0.4
(暦年)
(出典)
2000~2005 年までは「大正 9~平成 17 年国勢調査結果」
(総務省統計
局)(http://www.stat.go.jp/data/chouki/02.htm)
2005~2010 年は「人口推計」(総務省統計局)
( http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001029996&
cycode=0)
があらわれ、人口も減少に転じています(グラフ③)。他府県への転出先は、近隣地域への転出を除けば
東京都、愛知県、神奈川県の順に多くなっています 2。これらの都県は事業所数 3、所得環境 4 ともに奈良
県よりも上位に位置しており、就業の機会が豊富で所得水準も高いことが分かります。特に東京都は 2 位
以下を大きく引き離しており、少しでも良い仕事を求めた選択の結果となっています。
このまま奈良県などの地方から都市部への人口流出が続けば、地方の人口は減少し、経済をはじめ様々
な面で都市と地方の格差が広がる可能性が出てきます。さらに地方の人口減少は相対的に都市へ流出する
人口の減少を引き起こし、いずれは日本全体が地盤沈下することも考えられます。このように人口の都市
への集中は地方だけではなく、日本全体で取り組まなければならない大きな問題となっています。
奈良県では既に県をはじめ、市町村でも様々な人口減少対策が行われており、今回はその中から川上
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村と東吉野村の取り組みを紹介します。
【グラフ③】奈良県における転出・転入者数の年次別推移
1954
1959
1964
1969
1974
1979
1984
1989
1994
80,000
1999
2004
2009 (暦年)
30,000
転出者数(左軸)
60,000
転入者数(左軸)
20,000
超過数(右軸)
40,000
10,000
20,000
0
0
-20,000
20,000
-10,000
-40,000
40,000
-20,000
60,000
-60,000
-80,000
80,000
(人)
(出典)
(人)
-30,000
「住民基本台帳人口移動報告」(総務省統計局)
(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001039741&cycode=0)
3.移住・定住促進プロジェクト「川上 ing 作戦」
(奈良県川上村)
○プロジェクトのきっかけ
川上村は基幹産業である林業により発展してきましたが、その林業は外国産材の流入や、住宅建築様
式の多様化などにより木材需要が減少したことなどから長期的に不振が続いています。林業の衰退等を
背景に人口の流出が続いており、今後はさらに減少する見通しとなっています。また、高齢化率も 5 割
を超えている状況です。
○移住・定住に向けた取り組み(川上 ing 作戦)
川上村役場では人口減少、高齢化に向けた対策として、平成 25 年 4 月、これからの村を担う若手職
員を中心に「仕事」
、
「いえ」
、
「子育て・教育」の分野別にプロジェクトチームを立ち上げました。
当初は村に住む場所を作ろうと村営住宅の建設を計画しましたが、住宅の整備もさることながら、働
く場所や買い物、子育てなど暮らしのフォローも重要であると考え、村内にそれらがどれだけ整ってい
るのか調査することとしました。その結果、
「仕事」に関しては就業者のうち 70%以上の人が村内で働
いているなど、まだまだ働く場所があることが分かりました。また、村内の全事業所に対してヒアリン
グを実施し、何を必要としているか調査したところ、後継者の不在で廃業を検討しているなど「人」を
必要としていることが分かりました。そこでハローワーク等で求人募集している事業所の情報を、役場
で作成した「川上 ing 作戦」のホームページやイベントなどを通じて全国に情報発信することにしまし
た。また、平成 26 年からは 1 泊 2 日で村内に宿泊してもらい、事業所見学や事業所経営者との交流が
できる「かわかみんぐツアー」を実施し、村外から若い世代を呼び込み、事業所とのマッチングを図っ
ています。
次に、移住した若い世代の方々から川上村には交流できるところがないとの声が上がったこともあり、
若い世代向けシェアハウス、
「川上の家」の建設を計画しました。これは労働意欲のある若い世代を受
け入れる体制を整えてほしいとの事業所からの声や、移住者が住み慣れない村で安心して生活できるよ
うにする必要を感じたことから、若者が共同生活するシェアハウスとしての機能を持たせたものです。
また、村民と川上村を訪れる観光客が出会い、交流する場所としてのイベント施設の機能も兼ねたもの
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となっています。20~30 歳代の職員が中心となって設計しており、平成 27 年度に着工予定となってい
ます。
他にも買い物などの暮らしのフォローとして、平成 27 年 6 月にはならコープと県内自治体初の連携
協定を結びました。へき地や高齢者の買い物の利便性を高めるため、移動店舗の導入を検討するなどよ
り暮らしやすい村づくりを進めています。
○川上 ing 作戦の効果
「川上 ing 作戦」も 3 年目に入り移住希望者からの問い合わせが多くなっており、一定の効果が出て
きています。移住した方の出身は京阪神地区が多く、山間部にありながら大規模商業施設のある橿原市
等へのアクセスが比較的良好であることや、自然も多いなど村の良さを感じてもらいやすいことが背景
にあると考えられます。これまでの移住・定住促進策によって、合計で 174 名が移住し、現在も 89 名
が定住されています。約半数は転出していますが、定着率は高い水準となっています。
また、今年 2 月に実施した「かわかみんぐツアー」では京阪神等から 12 名の参加があり、川上村へ
の移住を真剣に考えている方々の存在が確認されています。
○今後の課題
働く場所や住まい、暮らしなどのフォローは一定程度整えられましたが、やはり「子育て・教育」に
ついては限界があると感じられています。教育に関しては、保育所・小学校・中学校が 1 つずつありま
すが、高校・大学は県北中部に集中しているため、川上村に住み続けながら通うことは難しく、子供の
進学を機に橿原市などに出ていく方もおられます。医療に関しては診療所はありますが、ある程度の規
模の病院を川上村に誘致するのは難しく、県内の大きな病院との連携を図るほかないと考えられます。
また、割りばし等の伝統技術を持った事業所だけでなく、ガソリンスタンドやプロパン配達など生活
に必要な事業所で人材が不足する恐れもあり、若者の就業支援をさらに推し進めていく必要があると考
えられます。
「川上の家」概要
4.クリエイティブビレッジ構想(奈良県東吉野村)
○構想のきっかけ
東吉野村も川上村と同じく人口の流出が続いており、近年は年間約 100 人のペースで人口が減少して
います。林業の衰退などを背景に高齢化率も 5 割を超えており、人口減少対策として、中学生までの医
療費無料化や高校生への通学定期の補助といった子育て支援などの取り組みを実施し、また、それ以外
にさらなる取り組みを模索してきました。
こうしたなか、中学時代に山村留学体験があった商業デザイナーの方が村に引っ越して来られました。
インターネットを使えばどこでも仕事が出来るため、都会に住む必要がなく、その後、都会で同じよう
な仕事をするクリエーターが村に集まるようになり、そのつながりで平成 25 年には 2 組の家族が移住
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されました。
「場所を選ばずに働ける人に来てもらいたい。
」という水本村長(現職)の以前からの想い
もあり、村ではデザイナーなどクリエイティブな若者を呼び込む「クリエイティブビレッジ構想」を立
ち上げました。
○主な取り組み
「クリエイティブビレッジ構想」では若者を呼び込み、そして移住につなげていくことが必要となり
ます。そのためには働く場所が必要ですが、村内には働く場所が多いわけではありません。そこで、自
宅やアトリエで仕事が出来る建築や服飾などのデザイン関係者や、ネット販売関係者など、働く場所に
縛られずに仕事が出来る職種をターゲットに移住定住支援を進めることとしました。
まず、移住定住希望者はどこに相談すればよいか分かりづらいのではないかと考え、様々な手続きの
ほか、暮らしに関する相談にも対応するワンストップ相談窓口を役場に設けました。
次に、村でのワークスタイルを体験できる施設を用意することとしました。役場近くの空き家を改装
し、移住者をはじめ村を訪れたクリエーターが仕事などに活用出来る共有施設として平成 27 年春にシ
ェアオフィス『Office CAMP Higashiyoshino』をオープンしました。内装は先に移住されたデザイナー
の方が担当され、交流の場としても活用出来るよう打合せ用スペースやキッチンも設けています。オー
プン後の利用状況は 3 月 23 日~5 月 7 日の間で延べ 73 名、見学者延べ 250 名となっており、日本国内
だけでなく、アメリカ、イギリス、ドイツ、中国などの訪問者もおられ、村にも活気が出て来ています。
インターネットなどによる情報発信や、先に移住された方々のつながりで、若手クリエーターに東吉
野村での生活に関心を持っていただくことが、クリエイティブビレッジ構想成功に向けての第一歩とな
っています。
○今後の課題
構想はまだ始まったばかりですが、折角移住してもらっても、村の生活に馴染めないといった理由か
ら村を離れてしまう方も出てくることが考えられます。村に住み続けてもらうには、暮らしの中の不安
など些細なことでも村で話を聞く機会を設けることが必要です。そして移住してくれる方を温かく迎え
入れることが出来るよう村全体でこれらの取り組みに関心を持つことが重要となっています。
(写真左)『Office CAMP Higashiyoshino』
(写真中、右)屋内の一部
5.最後に
以上のように川上村、東吉野村の両村では職住近接など移住者の「生活」のフォローも行われており、
今後の人口減少に対する効果が期待されます。
人口減少問題は奈良県に限らず日本全国でみられるようになっています。山間部などの一部地域では
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集落の存続がかかった深刻な問題となっています。人口の減少は日常生活に不可欠なサービス従事者の
減少にもつながり、今後そういったサービスを集約する必要が出てくるかもしれません。
奈良県は県南部を中心に過疎化が進行しており、例えば鉄道が通っていないため、乗用車やバスが移
動ツールとなっている地域では、川上村や東吉野村のような人口減少対策の取り組みに加え、長期的な
視点から学校、診療所、高齢者福祉施設、スーパーなど日常生活に不可欠な施設を自動車の交通の便の
良い役場等を中心とした一帯に集約することも求められるのではないでしょうか。
人口減少に歯止めをかけるとともに、都市から地方への新しい人の流れをつくるための受け皿も求め
られています。
1
出典:全国市区町村別「20~39 歳女性」の将来推計人口(日本創生会議・人口減少問題検討分科会)
(http://www.policycouncil.jp/)
2
出典:「住民基本台帳人口移動報告」(総務省統計局)
(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001039741&cycode=0)
3
上位から、東京都、大阪府、愛知県、神奈川県、埼玉県となっており、奈良県は 40 番目。
出典:「平成 24 年経済センサス-活動調査結果」
(総務省・経済産業省)
(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001049846&cycode=0)
4
上位から、東京都、神奈川県、大阪府、愛知県、京都府となっており、奈良県は 11 番目。
出典:「平成 25 年賃金構造基本統計調査」
(厚生労働省)
( http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001051279&cycleCode=0&requestSen
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