CRE - 佐賀大学医学部附属病院

平成27年度 第1回 感染防止対策連携病院カンファレンス
2015年6月22日
CRE
Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌
1) CREの現状
2) CREの検査・治療
3) CREの感染対策
CRE
Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae
ESBL産生菌など耐性グラム陰性桿菌に、切り札的な
抗菌薬カルバペネムが効かない腸内細菌科の細菌
代表的な腸内細菌科の細菌
大腸菌
クレブシエラ
エンテロバクター
プロテウス
セラチア
シトロバクター
モルガネラ
2000年代~
世界的にカルバペネム耐性の
腸内細菌科細菌が増加
2010年頃~
新規多剤耐性菌のひとつ“CRE”
として追加
etc…
国内では、
2014年9月~感染症法で
CRE感染症が5類感染症に指定
●世界的に感染者が急増
●ほぼ全ての抗菌薬に耐性
=治療が極めて困難
(致死率40-50%という報告)
●“悪夢の耐性菌”
●最も高い脅威レベル
MRSA
ESBL
VRE
MDRP
日本におけるCREの現状
2014年9月~2015年6月16日現在
544例が報告
CREの院内感染事例
CREの検査について
1.対象細菌
腸内細菌科の菌
○通性嫌気性グラム陰性桿菌
○チトクロームオキシターゼ陰性
○亜硝酸塩還元
○ブドウ糖を24時間以内に発酵
大腸菌、肺炎桿菌、セラチア菌
赤痢菌、チフス菌、ペスト菌
通常殆ど薬剤に対して感受性を示す
2.CREの薬剤耐性とは
βラクタマーゼ(カルバペネマーゼ)
βラクタム剤分解酵素
セリン型
メタロ型
Class A
KPC 、SME
Class D
OXA-48
Class B
IPM、VIM、
SPM、NDM
3.CREの検査法
MIC値(μg/mL) ディスク(mm)
メロペネム
≧2
≦22
イミペネム
≧2
≦22
セフメタゾール
≧64
≦12
4.CREの実例
ほぼすべての
抗菌薬に耐性
Enterobacter sp.
ABPC
PIPC/TAZ
ABPC/SBT
CEZ
CAZ
CTRX
CFPM
CPZ/SBT
CMZ
MEPM
TOB
AMK
FOM
CPFX
LVFX
normal
32.0
≦2.0
32.0
> 32.0
≦1.0
≦1.0
≦1.0
≦1.0
> 64.0
≦0.5
≦1.0
2.0
128.0
≦0.25
≦0.25
AmpC
> 32.0
64.0
> 32.0
> 32.0
> 32.0
2.0
≦ 1.0
8.0
> 64.0
≦ 0.5
≦ 1.0
4.0
8.0
≦ 0.25
≦ 0.25
ESBL
> 32.0
4.0
16.0
> 32.0
2.0
8.0
32.0
2.0
64.0
≦ 0.5
8.0
2.0
128.0
≦ 0.25
0.5
CRE
> 32.0
> 64.0
> 32.0
> 32.0
> 32.0
> 32.0
> 32.0
> 32.0
> 64.0
4.0
16.0
2.0
16.0
4.0
2.0
CREによる感染症
腸内細菌科の感染症
尿路感染
肺炎
胆道感染
カテーテル関連血流感染
(CRBSI)
腹腔内膿瘍
創部感染
CRE感染症の届出基準
2014年9月~ CRE感染症は感染症法で5類感染症に指定
CREの基準を満たす
+
感染症と診断(患者/死亡者の死体)
7日以内に最寄りの
保健所へ届出
検体の種別によって、
①通常無菌の検体から検出(血液、髄液、胸水など)
全例が届出の対象となる
②常在菌混入のある検体(喀痰、尿など)
保菌ではなく感染症と判断した場合のみ届出
CRE感染症 届出のフローチャート
耐性を示す腸内細菌科細菌の検出
CREとしての耐性の確認
CREの条件を満たす
CREの条件を満たさない
分離された検体の確認
通常無菌検体
(血液、髄液、
胸水など)
通常無菌で
ない検体
(喀痰、尿など)
感染症
7日以内に
保健所へ届出
保菌
報告の対象外
CREに対する治療
 現在までにわかっていること
•
•
•
確立された治療レジメンはない
感受性試験を参考に検討する
選択を考慮できる抗菌薬は数種に限られる。
(基本的にβラクタム系[ペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペ
ネム系]は、感受性に関わらず無効と考えるべき)
 感受性を参考に以下の抗菌薬から単剤もしくは併用療法を検討する
•
•
•
•
•
•
アミノグリコシド系(アミカシン、トブラマイシン、ゲンタマイシンなど)
モノバクタム系(アザクタム)
ホスホマイシン系(ホスミシン・・・尿路感染に限定)
サルファ剤(バクタ)
キノロン系(シプロキサン、クラビット・・・耐性が多いとされる)
新規の抗耐性菌薬・・・次のスライド
近年発売となった耐性菌治療薬
商品名
タイガシル®
オルドレブ®
成分名
(分類)
チゲサイクリリン
(グリシルサイクリン系)
コリスチン
(ポリペプチド系)
メーカー/発売
ファイザー/2012年11月
グラクソ/2015年5月
おそらく“魔法の抗菌薬“ではない
適応
外観
本剤に感性の大腸菌、シトロバク
ター属、クレブシエラ属、エンテロバ
クター属、アシネトバクター属。本剤
の使用は、β-ラクタム系、フルオロ
キノロン系及びアミノ配糖体系のう
ち2系統以上に耐性の場合にのみ
使用すること。
適応菌種は「コリスチンに感性のグラ
ム陰性桿菌(大腸菌、シトロバクター
属、クレブシエラ属、エンテロバクター
属、緑膿菌、アシネトバクター属)」で、
βラクタム系、フルオロキノロン系およ
びアミノ配糖体系の3系統の抗菌薬に
耐性を示す各種感染症
CREの感染対策
①CREを作らない
・抗菌薬、特にカルバペネムの適正使用
②CREを広げない
・基本的には、接触予防対策
・国内での検出はまれであり、
MRSAやESBL産生菌などより
より厳重な感染対策が必要である。
①CREを作らない
抗菌薬の適正使用
抗菌薬を使用して感受性菌が減少すると、耐性を有する菌が増殖する
カルバペネムを使用すると、カルバペネムに耐性を有する菌が増殖する
カルバペネム系抗菌薬の
厳格な適正使用が重要
②CREを広げない
CRE検出時の感染対策
要注意:CRE MDRP
VRE
VRSA
など
・感染症を発症した場合の治療が困難
↓
1名検出された時点で、厳重な接触予防策
↓
・個室対応 コホーティング
・手指衛生 防護具使用
・物品の専用
・環境清掃
* 感染対策が実施できているかの確認を行う
感染対策の基本
標 準 予 防 策
感染経路別予防策
接触予防策
飛沫予防策
空気予防策
CD
インフルエンザ
結核
耐性菌
マイコプラズマ
水痘
MRSA
風疹
麻疹
ESBL
CRE
接触感染予防策
医療従事者の汚染した手により、感受性のある患者に伝播する
ことがないよう手指衛生対策に重点をおく
対策
個室 または
コホーティング
環境の整理整頓・清掃
防護具着用
手指衛生
専用
手洗い
使用後物品の取扱い
常日頃の標準予防策を徹底することが重要!
感染症の有無に関係なく、すべての場面において
血液や体液、分泌物、排泄物などが・・・
衣服に飛ぶ
可能性
手に触れる
可能性
口、鼻に飛ぶ
可能性
手指衛生
目に飛ぶ
可能性
採
吸
血
創部に触れる
引
尿廃棄
創部洗浄
耐性菌検出
キャップ
感染対策のまとめ
・日常の標準予防策の徹底が重要である。
・感染対策は、標準予防策および接触感染予防策
で対応する。
・薬剤耐性菌の中でも、治療困難なCREは、検出
された時点で厳重な接触予防対策が必要である。
・もし、同一病棟で複数例分離患者が発生した場合
は、院内伝播と判断して対応する。
院内伝播と判断した場合
・CREが複数検出された場合
→ 院内伝播 と考える。
1)環境培養調査の検討
2)入院患者のスクリーニング検査の実施検討
3)院内感染対策委員会で情報共有と対策の
検討
4)スタッフへの情報共有と感染対策の徹底
5)必要時、院外施設へ感染対策調査依頼
6)保健所等へ報告(アウトブレイク)
まとめ
①CREを作らない
~抗菌薬の適正使用~
②日常の感染対策
~標準予防策の徹底~
③CREを広げない
~接触予防策の徹底・環境整備~
参考資料
・米国CDCガイドライン
2012 CRE Toolkit - Guidance for Control of Carbapenem-resistant
Enterobacteriaceae (CRE)
http://www.cdc.gov/hai/organisms/cre/cre-toolkit/index.html
・厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05140912-1.html
・国立感染症研究所ホームページ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/drb-m/drb-iasrtpc/5238-tpc418-j.html
・ベクトンディキンソンホームページ
http://www.bdj.co.jp/safety/articles/ignazzo/hkdqj200000u4umw.html
平成27年度 第1回感染防止対策連携病院カンファレンス
な
ぜ
動
向
を
注
視
す
べ
き
か
?
2015/6/222
中東呼吸器症候群について
✔ ヒトへの感染力を有する
インフルエンザ程ではない
✔ 死亡率が高い
インフルエンザよりはるかに高い
✔ 韓国で沢山感染者が出ている
佐賀に入ってくるかも知れない
佐賀大学医学部附属病院感染制御部 青木洋介
ヒ
ト
に
感
染
す
る
コ
ロ
ナ
ウ
イ
ル
ス
の
特
徴
発生年
発生地域
死亡者/感染者
感染者の年齢
症状
重症者の特徴
SARS
中東呼吸器症候群
重症急性呼吸器
症候群
ヒト鼻かぜ
229E, C43, NL63,
HKU1
2012年~現在
2002年~2003年
毎年
アラビア半島,韓国
中国広東省
人類蔓延
448 / 1204
774 / 8098
不明/70憶人
2~94歳
(50.5)
0~100歳
(41.4)
5歳以下
高熱,肺炎,下痢
高熱,肺炎,下痢
はな風邪
MERS
高齢者,心不全,糖尿病患者,等
重症化しない
咳(飛沫),接触
感染経路
不明(散発的)
ヒトーヒト感染
ヒトーヒト感染
潜伏期間
2~15日
1~10日
数日(不明)
自然宿主
コウモリ,
ヒトコブラクダ
キクガシラコウモリ
ヒト
ヒトーヒト感染
1人→数人
1人→十数人
1人→多数
(不明)
伝播の特徴
モダンメディア 2014,60:137(引用・改変)
2015年6月18日現在
報告された 感染者数 / 死者数 / 退院者数
合計: 166 / 23 / 25
加来浩器先生
http://www.jamsnettokyo.org/mers%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%83%85%E5%A0%B1/
MERS(中東呼吸器症候群)
判
明
し
て
い
る
こ
と
(1)
加来浩器先生
http://www.jamsnettokyo.org/mers%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%83%85%E5%A0%B1/
MERS(中東呼吸器症候群)
判
明
し
て
い
る
こ
と
(2)
加来浩器先生
http://www.jamsnettokyo.org/mers%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%83%85%E5%A0%B1/
MERS(中東呼吸器症候群)
判
明
し
て
い
る
こ
と
(3)
加来浩器先生
http://www.jamsnettokyo.org/mers%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%83%85%E5%A0%B1/
MERS-CoV Key Facts
MERSはウイルス性呼吸器感染症であり,2012年にサウジアラビアで
初めて分離された新型コロナウイルスである
MERSの典型的臨床像は,発熱,咳嗽,息切れである。肺炎の頻度も
高いが,常に発症する訳ではない。下痢など消化器症状を認める事もある。
死亡率は30~40%である(448/1204 名:過去の報告事例の総
計)。
多くの患者はヒトーヒト感染であるが,ウイルスの主たる宿主はコウモリおよび
ラクダであり,食肉や乳汁も感染源となりうる。しかし,詳細な感染ルートは
不明である。
緊密な接触が無い限り,容易にヒトーヒト感染する訳ではない。
患者に接する場合はPPEを必要とする
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/mers-cov/en/
感
染
経
路
と
伝
播
防
止
(1)
■飛沫感染
■標準予防策(咳+発熱)
患者 → 咳エチケット
医療者 → サージカルマスク,手指消毒
■感染経路別防止策(診断確定後)
飛沫/接触・空気予防策
→ PPE(含:ゴーグル)
→ 空気予防策(飛沫核発生時)
感
染
経
路
と
伝
播
防
止
(2)
■診断確定後
患者を完全隔離(containment)
適切な感染対策のもとでケアすれば周囲に伝播しない
→ WHOが「緊急事態宣言」の対象としない理由
ヒトへの親和性・感染性の違い
インフルエンザはシーズン第1例目を隔離しても
伝播防止にはならない
WHO
MERS-CoV
の
拡
大
伝
播
の
要
因
が
指
摘
す
る
韓
国
に
お
け
る
2015
6/17
医療従事者を含む社会全体のMERSに対する
情報・知識の欠落
多くの医療機関における日頃の感染対策の
不在/不足
多くの患者で混雑する救急部門,あるいは入院
大部屋におけるMERS患者との近接かつ長時間
の接触
患者による日常的なDr. shopping
患者家族および多数の見舞客が入院患者の部屋に
留まる慣習
http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2015/ihr-ec-mers/en/
加来浩器先生
http://www.jamsnettokyo.org/mers%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%83%85%E5%A0%B1/
加来浩器先生
http://www.jamsnettokyo.org/mers%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%83%85%E5%A0%B1/
感
染
経
路
と
伝
播
防
止
(3)
■伝播防止
診断確定後・医療機関収容後の方が対応はより易しい
疑似患者あるいは接触者をどのように監視・検疫するかが
より難しい
感
染
経
路
と
伝
播
防
止
(3)
■伝播防止
診断確定後・医療機関収容後の方が対応はより易しい
疑似患者あるいは接触者をどのように監視・検疫するかが
より難しい
・可能性(+)の例,疑い例を早期に検出する
・医療機関受診前の留意点を社会に周知
・医療機関スタッフへ周知(ポスター,メール)
・渡航歴の確認と対応
・標準予防策の再々々周知と厳守(≠遵守)