カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の発生動向と耐性遺伝子の検出

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の発生動向と耐性遺伝子の検出
秋山由美(健康科学研究センター感染症部)
12
男(33名)
女(17名)
10
患
8
者
数 6
人
4
( )
【はじめに】
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は、
2014年9月19日に5類全数把握疾病に指定され、2015年9月
6日までに全国で1,372名、兵庫県内で50名の患者が報告さ
れている。ヒトの腸管や上気道などに常在する腸内細菌
科細菌は多くの場合無害であるが、院内感染などにより、
尿路感染、手術部位感染などを起こすことがあり、カル
バペネム系抗生物質に対する耐性の獲得は治療を困難に
する。そこで、患者情報及び病原体情報を収集・解析し、
CRE の感染源・感染経路の解明に貢献することが、地方
衛生研究所の重要な役割である。
今回、感染症情報センターで集計した CRE 感染症の発
生動向と、当研究センターに搬入された CRE から検出さ
れた耐性遺伝子の解析結果について報告する。
【方法】
1. 感染症発生動向調査
各健康福祉事務所及び保健所が感染症サーベイランス
システム(NESID)に入力した患者情報を基に、CRE 感
染症の発生動向を把握した。
2. 耐性遺伝子の検出
健康福祉事務所から搬入された CRE について、マルチ
プレックス PCR 法で、カルバペネマーゼ遺伝子(IMP、
VIM、KPC、NDM 及び OXA48)及び基質特異性拡張型
β-ラクタマーゼ(ESBL)遺伝子(TEM、SHV 及び CTX-M)
の検出を行った。さらに、検出された遺伝子について、
ダイレクトシークエンス法で塩基配列を解読し、サブタ
イプを決定した。
3. プラスミドの塩基配列解析
耐性遺伝子が保持されているプラスミドの相同性に関
する解析を、国立感染症研究所(感染研)に依頼した。
【結果】
1. CRE 感染症の発生動向
2014年9月~2015年8月に兵庫県下で届出されたCRE 感
染症患者50名(男性33名、女性17名)の年齢分布を図1に
示した。男女ともに80歳代が最も多く、60歳以上が全体
の90%を占めた。
2
0
40-49 50-59 60-69 70-79 80-89 90-99
年齢(歳)
図1 CRE 感染症患者の性別年齢分布
(2014年9月~2015年8月)
患者から分離された CRE の菌種別では、Enterobacter
属菌が36%、
Klebsiella 属菌が26%、
大腸菌が16%を占めた。
2. CRE が保有する耐性遺伝子の解析
同一病院に入院中の3名から分離された CRE4株(大腸
菌3株、肺炎桿菌1株)を対象として行った耐性遺伝子の
解析結果を表1に示した。4株すべてから、カルバペネマ
ーゼ遺伝子IMP-6とESBL遺伝子CTX-M-2が検出された。
感染研細菌第2部と病原体ゲノム解析研究センターで
実施されたプラスミドの塩基配列解析の結果、この2つの
遺伝子は互いに類似の塩基配列を有するプラスミド(Inc
type N)の上にコードされていた。
【考察】
今回の入院患者の事例で、CRE から検出されたカルバ
ペネマーゼ遺伝子 IMP-6と ESBL 遺伝子 CTX-M-2を含む
Inc type N のプラスミドは、2008年頃から日本国内で複数
検出されているものと同様の型であった。このプラスミ
ド遺伝子の多様性は限られているため、相同性の高さが
必ずしも疫学的関連を担保するものではないが、腸内細
菌科細菌の間では、プラスミドの水平伝達が起こりやす
いことから、感染防止対策が重要である。
表1 CRE の菌株情報と耐性遺伝子の検出及びプラスミド塩基配列の解析結果
菌株
No.
患者 No.
症状
検体
採取日
検査
材料
菌種
検出された耐性遺伝子
IMP-6 及び CTX-M-2 遺伝子を
含むプラスミド
Inc type
塩基長(bp)
遺伝子数
1
1(保菌者)
―
2014.10.27
褥瘡膿
大腸菌
IMP-6
CTX-M-2
TEM-1
N
52,846
71
2
2(患者)
尿路感染症
褥瘡感染症
2014.07.14
尿
大腸菌
IMP-6
CTX-M-2
CTX-M-14
N
53,296
71
尿路感染症
2014.12.12
尿
肺炎桿菌 IMP-6
CTX-M-2
SHV-11
N
52,822
75
尿路感染症
2015.01.17
尿
CTX-M-2
TEM-1
N
53,603
71
3
3(患者)
4
大腸菌
IMP-6