反射型電子線断層撮像・ 再構成法による局所高周波漏れ磁界分布の 3

反射型電子線断層撮像 。再構成法による局所高周波漏れ磁界分布 の
3 次 元計測に関する研究
松田 甚 一
長岡技術科学大 学 工学部
電気系 教 授
1. は しめ に
近年 ,高 密度化 の 進む磁 気記録 にお いて , ミ ク ロ ンオ
ー ダの ギ ャップ 幅を もつ 超小型磁気 ヘ ッ
ドの 開発 が盛 ん に行 なわれ て いるが ,こ れ ら磁気 ヘ ッ ドの 特性評 価 の ため にはギ ャ ップ極 近傍 の
。
漏れ磁 界分布 に関す る詳 細 な情 報 が 不 可欠 であ り,そ の 計測 評価手法 の 開発 が重 要 な課題 とな
ってい る.
ー ダ ー の ギ ャップ幅を持 つ 磁気 ヘ ッ ドの ギ ャ ップ極近傍 にお ける漏れ
本研 究 では ,サ ブ μmォ
磁 界分布 の 高精度 3次 元計 測 を 目指 して,新 たに, 2次 元 ア レイ 状 に走査 しなが ら電子線 を磁気
ヘ ッ ド面 に入 射 し,反 射 して きた電子線 の 偏 向量 か ら断層撮影法 的手法 によ リヘ ッ ド全域 にわた
る磁 界 分布 を 3次 元 的 に再構成す る電子線 トモ グラ フ ィ手法を提案 し,そ の 再構 成精度 を コ ンピ
ー
ュー タ ・シ ミュ レー シ ョ ンによ り検 証 し,さ らに,市 販 の 走査 型 電子顕 微鏡装置 を ベ スに新 た
に試作 した磁 界計測装 置 を用 いて実 際 に磁界分布 の 計測実験 を行 い ,本 計測手法 の 有効性 を実験
的に明 らか に した 。 なお,以 下 では ,こ の 手法を反射 型電子線 トモ グラ フ ィ と呼ぶ ことにす る。
2_再 構成原 理
2.1 偏
向量 の 計潤
図 1に 反射 型電子線 トモ グラフ ィによ る磁 界分布 再構成 の 原理 図を示す 。 図に示す よ うに,鏡
ー
ー
面加 工 ,ま たは金属膜 な どで コ テ ィ ングされ た磁気 ヘ ッ ド表面 に対 して垂直 に電子 ビ ム を入
射 し,磁 気 ヘ ッ ド表 面 で鏡 面反射 されて戻 ってきた電子線 の 出射位置 を磁気 ヘ ッ ド表面 の上 方 に
設置 され た位 置検 出素 子 に よ り測定す る。 この 測定 を磁界 が 存在 しな い 場合,す なわ ち,磁 気 ヘ
ッ ドの 励磁 電流 がゼ ロの 場合,お よび磁 界 が 存在 す る場合 につ いて行 い ,こ れ ら電子線 の 出射位
置 の 差 か ら磁 界 によ る偏 向量 ベ ク トル を求め る。 同様 の 測定 を 2次 元 ア レイ状 に電子線 の入射位
ー
置 を走査 しなが ら繰 り返 し,こ の よ うに して得 られ た全偏 向量デ タか ら断層撮 像 的再構 成手法
を用 いて 対象磁 界分布 を 3次 元的 に再構成す る.
Scanning
Detecting plane
beam
Reference axis
plane
ス
図 1 . 反 射型 電子線 トモ グラ フ ィによ る
磁界再構成 の原理
-21-
head)
2_2 初
期 値 の設 定
断層撮像 手 法 に基 づ いて磁 界分布 を再構 成す る場 合,一 般 に,反 復補 正 回数 の 低減 な らびに解
の妥 当性 を保 証す るためには,初 期 値 と してできるだけ真 値 に近 い値を用 い る こ とが望 ま しい と
され て い る。 ここで は,初 期 値 を以 下 の よ うに して決定 した.
磁界 の大き さは,図 2に 示すよ うに,磁 気 ヘ ッ ド表面 か ら遠 ざかるとともに指数 関数 的,す な
Zで
わち, e・
減少 して行 くと仮定 し,電 子 の運動方程式を近似的に解 くと,偏 向量ベ ク トル Dの
Xお よびY成 分 Dy(X,y), Dy(X,y)を用 いて磁 気 ヘ ッ ド表面における磁界の X成 分 Bx(X,y,0)お
よびY成 分 By(X,y,0)は,式
B.(0)(I,メ ,0)〓
(2)で 与え られ る.
(1),式
α
2 秘
。z 0
Dy(I,メ
2 夕 { 1 - ( 1 + αL ) e x p αL
( 一) 〕
α
By(0)(I,y,0)=―
2 初
υ z 0
2夕 tl― (1+α L)exp(―αDl
なお, 磁 界 の Z 成 分 B 2 ( X , y , 0 ) は, 式
( 1 )
)
(2)
D.(I,y)
( 2 ) お よびd i v B = 0 を用 いて 計算 して いる。
(1),式
)位
)は
Bz的
B.的
α
zf)△
z
,y,D=Σ
,メ
,O expい
i=0
)位
+ΣBy的
α
zf)Δ
z
e xp←
,メ
,働
(3)
iヨ
3
この よ うに して求 め た磁気 ヘ ッ ド面上 にお ける初期磁界分布 B(°)(x,y,0)を境 界条件 と して,反
射面 か ら検 出面 間 に広 が る 3次 元磁 界分布 B(0)(x,y,z)を境界要素法 によ り求め てい る。
2.3 磁
界 分布 の 反復補 正
上記 の よ うに して求 めた 初期 磁 界 分布 を も とに,以 下 に述べ る反復推定手順 に従 い, 3次 元磁
界分布 を推定 。再構 成す る.ま ず ,初 期磁界 中を計測時 の 入射条件 に合 わせて入 射 した電子線 に
つ いて ,磁 界通 過後 の 偏 向量 ベ ク トル Dc(x,y)を ,電 子運動 方程式 を用 いて ,数 値計算 によ って
求め る。 次 に ,こ れ らを実 際 に計測 した偏 向量 ベ ク トル Dm(x,y)と 比較 して磁 界 の 補 正 量 δB(x,
y)を算 出 し,磁 気 ヘ ッ ド面 ,す なわ ち,反 射 面上 の磁 界 を補正す る.こ こで ,(q+1)回
目の
補 正後 の磁 界分布 B(q+1)(x,y,0)は , q回 日の補 正 後 の磁 界分布 B(q)(x,y,0)を 用 いて 次式 の よ
うに表 され る。
3くq・1)(I,y,0)=Bくq)(.,y,0)+δ β (q)(I,y)
(4)
なお,補 正量 δB(x,y)は 次 式 を用 いて算 出す る.
-1
δ
BrO伍
"=(幾
= ( 維- 1
δ
B r 地♪
B.(q)(I,y,0)
aU
B プ( q ) ( I , y , 0 )
さらに,補 正 後 の磁界分布 につ いて 同様 の処理を補正量が設定値以下 になるまで繰 り返 し,
ー
ー
次元磁界分布 を再構成す る。 図 3 に磁界再構成 の手順を フ ロ チ ャ トにまとめてお く.
-22-
。
zrLO■ 00EG︼り一
〇
Z3
事
Z5
Z0
8縛腎
]3‖
8品
8head)
(i掃
図 2.反 射 面か らの磁 界 の変化
て流れ図
再 構成法 の
図3 再
図
3_再 構 成 アル ゴ リズ ムの 評価
ユ シ れ
ミヽ 一 ヽ
り
シ レ 7
え
析 モ デル
。 ユ 与
ミ で
夕 ヽ
ン >
一
ヽ
3.1 解
磁界 分布 が解 析 的 に求 め られ る矩 形 ワンタ ー ンコイル を モデル に選 び ,コ ンピュ
レー シ ョ ンに よ り本 再構 成 アル ゴ リズ ムの 評価 を行 った。 図 4に ,コ ン ピュー タ ・
ョ ンに 用 いた モ デル 図を示す 。 図 4の 矩形 ワ ンター ンコイ ルの磁 位 関数 は,式
従 って ,磁 界 の 各成分 は,式
H
4
岬一
Ω (x,y,z)=
―tan l
(8)か
ら求め られ る。
+争
い)
は
い〕e+秒
)2
(x+隼
)2+y2+(z_隼
)2
(xⅢ
阜)2+沖
(z+隼
←多いつ
(7
―tan 1
)2
(x_a)2+y2+(z+阜
―
は
つい)
(7)
(x―
阜)午
y2+(z_隼
)2
Ω( X , y , カ
B x =十―
00
B y = 五Ωは' y , つ
1戸
Ω
B2 孝
は
,y,Z)
m の 矩形 ワ ンタ ー ンコイル に l A の 電流 を流 した
場合 に つ いて 考 えた 。 以 下 では , 一 例 と して電子 ビー ム偏 向量 ベ ク トル の検 出面 と反射 面 間距離
ー
( 作動 距離 ) を 1 0 μ m と した場合 につ いて述 べ る。 表 1 に , 磁 界分布 の 再構 成 シ ミュ レ シ ョ
今 回 の シ ミュ レー シ ョ ンでは , 1 辺 1 0 0 μ
ンに 用 いた諸 パ ラメ ー タ値 をま とめて示す 。
表1 シ
Detecting plane
Reflec8ng plane
um]
a=100【
ー
図 4 . シ ミュレ ションモデル
-23-
ミュ レー シ ョ ンの諸条件
Side width of coli
Excitation current
Accelerating voltage
VVork distance
DenectiOn data size
Measuttng intervat
Measuring area
100um
lA
15kV
10um
4 1 ×4 1
4um
160um× 160um
ミュ レー シ ョ ン結 果
3. 2 シ
シ ミュ レー シ ョ ンは, 次 の 手順 で 行 な った. ま ず , 2 . 1 で
ル 計測 に代 えて, こ こで は, 式
(8)か
述 べ た 電子 ビー ムの 偏 向量 ベ ク ト
ら求 め られ る理論磁 界を用 いて , 実 際 の 計測 時 の入射条
件 に合 わせ て偏 向量 ベ ク トル を数 値計算 によ って算 出 した 。次 に , こ れ らの偏 向量 ベ ク トルか ら,
逆 に, 2 . 3 で
図 5に ,式
述 べ た再構 成 アル ゴ リズ ム によ って 元 の磁 界分布 の 再構 成 を試 み た.
(8)か
ら求 め た理 論磁 界分布 と本再構 成手法 によ る磁 界 再構成 の 結 果 を示す 。 図
5 か ら, 両 者 の 磁 界各成分 の 形状 が , よ く一 致 して いることがわか る。
図 6 に 両磁 界分布 の 差 を, ま た, これを再構成誤 差 と して式 ( 9 ) , ( 1 0 ) を
用 いて定量 評
価 した結 果 を表 2 に 示す 。
,"-3を位,)│
Σ IBrし
X100[%]
Ea=
』tし
,p12
耳IBrttP)―
X100[%]
万12
夏IJれ,)一
Ev=
ここで, 式
(9)
( 9 ) は 正 規化 絶対平均誤 差, ま た式 ( 1 0 ) は
いずれ の 評価 法 によ って も再構 成誤 差 は, 2 0 % 程
(10)
正 規化誤差分散 であ る。 表 2 か ら,
度 であ る こ とがわか る。 なお, 作 動 距離 を長
くすると再構成誤差が増加 し,例 えば,作 動距離 lcmの 場合には,再 構成誤差が 50%程 度 と
なる。
勢: 涯雄『歎刺パ 匝
X一CompOnent
X ―C o m p O n e n t
融
ち
劇
塾膜
[協 ﹁さ ︼︺
さ
7当 さ︼〓︹
イ″
ち
,7 -3b
Y_Component
Z―Component
on
(a)Theorettcal distribu“
(b)Reconstruded distttbu“
on
図 5.理 論磁界分布 と再構成磁界分布
表 2 誤 差評価結果
-24-
4.計 潤装置
図 7お よび図 8に ,今 回試作 した計測装置 の外観 図およびその概略図を示す 。 計測装置は,市
ー
)を ベ ースと し,反 射電子 ビ ムの位置検 出装置
販 の走査型電子頭微鏡 (日立製 :S-800型
ー ー
ー
料微動装置,電 子 ビ ム位置 コ ン トロ ラ および計測 システ ム全体を制
(2次 元 PSD),試
ー
御す るパ ーソナル コ ンピュ タ (NEC PC9801AP)か ら成 っている。対物 レンズか ら試料反射面 ま
射面)ま での距離 (作動距離)は 12mmである.
での距離は22mm,試 料反射面 か らPSD(入
試料表面 に対す る電子線 の位置決 めは,磁 気ヘ ッ ド (試料)の ギ ャップ近傍 の 2次 電子像を基
に行 った。磁 気 ヘ ッ ド面は電子線 の光軸 に対 して 45° 傾 けた状態で設置 して いる.電 子線 の入
ー
射位置 の制御 は,対 物 レンズの偏 向 コイルに適 当なバ イアスを与えるための 電子線 コ ン トロ ラ
4096で
m,ま た最大走査範囲は 4096×
装置を用 いてお り,最 小走査分解能 は 0.25μ
ある。 なお,試 料表面 で反 射 された電子線は,反 射面 に対 して平行 に設置 された電子線位置検 出
装置 (2次 元 PSD)で
検 出 して いる.
Delecting co,1
図 8.磁 界分布計測装置 の概略図
図 7.磁 界分布計測装置 の外観図
5,磁 気 ヘ ッ ド磁 界 分布 計潤実験
ダブ ル ギ
今 回 の 実験 では,計 測試料 と して,ギ ャップ 幅 が 100μ m, ト ラ ック幅 が 3mmの
ャ ップオ ー デ ィオ 用磁気 ヘ ッ ドを用 いた。磁気 ヘ ッ ドの概 略図を図 9に 示す 。 さ らに,試 料 表面
ー
には,試 料表 面 にお ける電子線 の鏡 面反射 を保証す るため,ま た,測 定 中の チ ャ ジア ップを回
金 の蒸 着膜 で被 った 厚 さ 150μ
避す るため に,厚 さ 100nmの
mの ガ ラス板 を試料 表面 に密
着 させ反射面 と して いる。
電子線 の 加 速 電圧 は 15kV,磁
気 ヘ ッ ドの励磁 電流 は 25mA,ま
子線 の 入射角度 は 45° であ る。 試料 表面 の 領域 (4mm×
は 21×
21, し たが って入 射 電子線 の入射 間隔は 200μ
た ,試 料 表面 に対す る電
4mm)に
対 して電子線入 射総点数
mで あ る。 表 3に 主 な パ ラメ ー タを
ま とめて示す .
まず ,予 備 実験 と して,電 子線 を走査 しなが ら 2次 元格 子状 に反射面 に入射 し,反 射 後 の 電子
線 の 位 置検 出特性 を計測 した.本 計測装置 の 光学的配置 に基 づ く幾何学 的歪 みが 出力像 に生 じる
下 に抑 え る こと
が ,こ れはア フ ァイ ン変換 を用 いて 補 正す る ことに よ り空 間的歪 みを 0.3%以
ができ,偏 向量 ベ ク トル計測 に及 ぼす幾何学 的歪 み の 影響 はほ とん ど無視 でき る ことを確認 した ,
磁気 ヘ ッ ド磁 界分布 の 再構成結果 を図 10に 示す 。 図 10か ら,こ の 磁気 ヘ ッ ドの 最 大磁 束密
度 は約 150Gauss,そ
して磁気 ヘ ッ ドの ギ ャップ近傍 か ら z軸 方 向,す な わ ち,磁 気 ヘ ッ
ド表面 に対 して垂直 方 向 に比較 的急 峻な磁 界分布 が 形成 されてい る様子 が 分 か る .
- 2 5 -
mミ
8縛
2.4mm
Measurement
表 3,実 験条件
Z
Excitation current
Accelerating voitage
incident angie
spacing
VVork distance
Number ofthe measuring points
Scanning interval
Area ofthe recons
\
144mm
y3ぶ
し
蛍
X
100nm
(Au■ lm)
150um
(Glass plane)
図 9.オ ー デ ィオ用 消去 ヘ ッ ド
25mA
15kV
45deg
150um
12mm
21X21
200um
4mmx4mm
旨
│モ
、
20堪
0
的
宮 8言
│
y―compOneni
図 10.磁
z―compOnent
界分布再構成結果
6。 まとめ
磁気 ヘ ッ ド極近傍 にお ける漏れ磁界分布 の 3次 元計測を 目的 と した反射型電子線 トモ グラフィ
手法を提案 し,実 際 に試作 した計測装置を用 いて市販 の磁 気 ヘ ッ ドの 3次 元磁界分布 の 再構成を
試み た.コ ンピュー タ ・シ ミュレー シ ョンによる磁 界分布再構成精度 の検討によれば,誤 差は,
50%と
まだまだ大 きい ものの,従 来困難であ った ギ ャップ極近傍 の磁界分布 の 3次 元計測には
じめて成功 した ことで,所 期 の研究 目的をほぼ達成す る ことがで きたと考えて いる[1][2].試 作
装置 の納期 の 遅れな どのため,高 周波漏れ磁界分布 の再構成実験 を実施す るまでには至 らなか っ
たが,今 後 の課題 と したい。
現在,
(1)偏 向量 ベ ク トルの計測精度 の 向上
(2)3次
元磁界分布 の 再構成アル ゴ リズ ムの改善
(3)高 周波磁界分布 の 3次 元再構成実験
(4)磁 界分布 の コ ンピュー タによる数 値解析結果 と再構成結 果 との比 較検討
などを進めている。
器
本研究を遂行す るにあた り,(財
)高 柳記念電子科学技術振興財団よ り多大 の ご援助 を賜 りま
した。 ここに,理 事長は じめ財団関係者 の皆様方に謹 んで御礼 申 し上 げます 。
参考文献
松 田甚 一 ,大 多和康彦,野 水重明 :"反 射電子線 トモ グラフィによる磁界再構成
情報通信学会論文誌 C工
[2]
,Vol,J78C工
",電
子
,No.1,pp。 4653(199501)
J.Matsuda, S.Nomizu, Y.Jun: " Reconstruction of magnetic fields by reflection
tomography" , INTERMAC'95, April 18-21, 1995
- 2 6 -