垂直都市東京の研究

垂直都市東京の研究
1110822D
第 1 章 序論
近年、
「グローバルな都市間競争」や「人口減少」を背景に、
尾家涼
中でも都心・副都心・湾岸部といった特定の地域に集中し、局
所的な都市空間の垂直化が起こった。
国土開発及び都市開発の有り方が、経済性や効率性を優先した
「選択と集中(投資吸収が可能な地域を選択し、その地域に資源
第 4 章 東京都における市街地再開発事業の特性
を集中させる)」へ変化したことで、東京では局所的な巨大建築
【研究手法】東京都が発刊している「東京都における『市街地
物の開発が進展し、都市空間の垂直化が起こっている。そして、
再開発事業の概況』平成 26 年 3 月」を用いて、所在地、区域面
東京だけでなく地方においても「コンパクトシティ」構想の推
積、敷地面積、延べ床面積、容積率、地上階数などのデータを
進に伴って、同様の流れが起ころうとしている。
集計し、東京都内における市街地再開発事業の特性について分
地方に先んじて変化してきた東京の都市空間を分析すること
析する。
は、今後の国土開発及び都市開発の有り方を考慮する上で重要
【結果と考察】年類型から市街地再開発事業を分析すると、土
になると考えられる。
地の広さに関しては、経年に伴って小規模な区域も増加してき
そこで本研究では、国土開発・都市開発に関する制度・政策、
東京都における市街地再開発事業、J-REIT、都内の超高層マン
ションに着目し、
「選択と集中」の理論に基づいて局所的な垂直
化が進展する都市空間の実態について明らかにする。
ている一方で、平均容積率や高層階の割合は増加傾向にあるた
め、局所的な都市空間の垂直化が進展していると分かる。
また、区市別に市街地再開発事業の敷地面積、延べ床面積、
容積率を分析すると、2000 年以降、敷地面積と延べ床面積では、
千代田区・中央区・港区・新宿区・品川区といった都心 5 区に
第 2 章 国土開発に関する諸制度・諸政策
集中する傾向が見られた。容積率に関しては、都心 5 区以外の
【研究手法】国土開発に関する諸制度・諸政策に着目して、国
区市においても、都心 5 区と同等あるいはそれ以上の地域が見
土開発の実態について分析する。
られる。そのため、都心 5 区以外の区市においては、都心 5 区
【結果と考察】国土開発に関する計画の変遷に着目すると、2005
以上に局所的な巨大建築物の開発が行われているといえる。
年に「全国総合開発計画」から「国土形成計画」へと転換され、
都内全域でみると、都心 5 区においては、再開発が様々な場
2014 年には「国土のグランドデザイン 2050~対流型国土の形成
所で行われることで全体的に垂直化し、都心 5 区以外の区市に
~」が公表された。これに伴って、国土開発の基調が、政府が
おいては、区市内で投資吸収が可能な一部の地域(一等地)に再
地方経済全体を主導する「地域間の均衡ある発展」から、投資
開発が集中することで、局所的な垂直化が進展していることが
吸収が可能な自立的地域に対してのみ資源を集中させる「選択
分かる。
と集中」へと変化した。
また、都市機能を中心市街地へ集約する「コンパクトシティ」
第 5 章 不動産証券化の変遷と J-REIT にみる不動産投資
や大胆な規制改革等を実行するための特別区域を指定する「国
の特性
家戦略特区」が、今後の国土開発の中心的な政策に位置付けら
【研究手法】国土交通省の「土地総合情報ライブラリー」と
れていることから、
「選択と集中」の理論がますます進展してい
「JAPAN-REIT.COM すべての投資家のための不動産投信情報ポ
くと考えられる。
ータル」より不動産投資の特性を分析する。
【結果と考察】近年は、様々な不動産証券化のスキームのうち
第 3 章 都市開発に関する諸制度・諸政策
J-REIT の占める割合が増加している。J-REIT には、民間資本だ
【研究手法】都市開発に関する諸制度・諸政策に着目して、都
けでなく日銀の買い取りという形で政府の資本も投下されてお
市開発の実態について分析する。
り、今後も規模の拡大が予想される。
【結果と考察】近年の都市開発に関する制度・政策には、建築
J-REIT 対象建築の延べ床面積に着目して、不動産投資の特性
規制の緩和と手続き簡略化の流れがある。都市再開発法では、
を分析すると、東京への極端な集中と首都圏への集中の実態が
再開発事業の促進を図るために民間活力の導入と手続き簡略化
判明した。さらに、東京都内では、港区を中心に都心 5 区への
に向けた法改正が進んだ。また、総合設計制度や地区計画制度
集中が起こっており、全都道府県に対する割合を見ても、
における規制緩和メニューの追加や、都市再生緊急整備地域・
28.15%という高い割合を占めている。そして、投資の集中する
特定都市再生緊急整備地域の指定によって、特定の地域で従来
地域の対象建築は超高層である割合が高く、不動産投資が都市
の都市計画法・建築基準法による規制が次々と緩和された。
空間の垂直化を助長していることが分かった。
こうした政策の展開によって、民間資本が東京、さらにその
J-REIT における不動産投資が東京や都心に集中している実態
は、不動産証券化市場の規模拡大や J-REIT の買い取りといった
の超高層マンションは、平均平米単価が高くなっただけでなく
政府の政策が、東京重視の政策誘導であることを示している。
最上階の価格も高くなっており、最上階とそれ以外で規模と価
格に大きな差異が生じている。かつて都心・副都心・湾岸部の
第 6 章 マンション・超高層マンションの特性
みでみられていた空中における住宅市場の格差が、郊外にまで
【研究手法】不動産経済研究所の「新規マンション・データ・
波及していることが分かる。以上の変化は、郊外における超高
ニュース」より、首都圏・東京都内のマンション及び超高層マ
層マンションがますます周辺地域の文脈から孤立した存在にな
ンションの価格や分布を分析し、その特性について明らかにす
っていることを示している。
る。
超高層マンション開発が、都心・副都心・湾岸部に集中する
【結果と考察】首都圏マンション価格の分析より、都区部では
傾向や、価格特性の変化を総合的に分析すると、今後、最上階
首都圏の他の地域と比較して、価格の変動幅が大きく、都心で
の価格が突出して高く、それ以外の価格は階数が上がるにつれ
はその都区部と比較しても価格の変動幅が大きいことが分かっ
て微増する「鉤型」
、住戸階数とともに価格が等比級数的に高く
た。これは、制度や政策、投資など様々な資本の投下に影響さ
なる「曲線型」の超高層マンションが増加する一方で、住戸階
れて価格が変動していることが背景にあり、首都圏の中でも都
数が上がるにつれて価格が微増していく「直線型」の超高層マ
区部に、都区部の中でも都心に、資本の投下が集中しているこ
ンションは減少していく可能性が高い。つまり、空中における
との表れであると考えられる。
住宅市場の格差が、東京都内全域でますます進展していくこと
また、首都圏マンション及び超高層マンションの棟数・戸数、
が予想される。
地域差を分析すると、超高層マンションの数は 2000 年以降急激
に増加しており、その分布をみると、全国に対しては首都圏に、
首都圏に対しては都区部に、都区部に対しては都心に、という
ように投資吸収が可能な地域への集中が起こっていることが分
かる。さらに、図1をみると、この傾向は少なくとも 2017 年ま
で続くことが分かる。2018 年以降は、都区部での超高層マンシ
ョンの開発が一段落し、都区部に代わる新たな選択肢として、
神奈川県の投資吸収可能な地域が選ばれていると考えられる。
図2、超高層マンションの棟全体の平均平米単価と最高階平平
米単価、最低階平均平米単価
第 8 章 結論
本研究で明らかになったことは、以下の 2 点に要約できる。
1、東京における都市空間の垂直化は、自由経済の結果ではな
く不動産価格の維持、あるいは不動産バブルの発生を目的とし
図1、超高層マンションの完成(予想)年次別計画戸数の割合
た政府の政策誘導に起因している。
2、政府の政策誘導によって引き起こされた都市空間の垂直化
第 7 章 都内に立地する超高層マンションの価格特性
は、水平方向と垂直方向の両方で空間の格差を拡大させた。
【研究手法】都内に立地し、2014 年 4 月以降に竣工又は竣工予
政府の政策誘導によって、特定の地域に超高層建築物が集中
定の超高層マンション(20 階以上のマンション)の中から、価格
する垂直都市が開発されてきたが、緊急措置的な政策を実施し
の詳細が記載された販売資料を入手できた 10 棟を対象に、各住
続けなければ地価を維持できないような都市空間に持続可能性
戸の階数と専有面積、平米単価、及び販売価格の関係を明らか
があるとは考えられない。また、空間的な格差が地域間だけで
にし、超高層マンションの価格特性を立体的に分析する。
なく地域内においても発生しつつある現状は、政府の政策展開
【結果と考察】かつて郊外の超高層マンションの平均平米単価
(都心部への投資が都市全体を牽引するという理論に基づいた
は、都心・副都心・湾岸部といった地域の超高層マンションの
政策誘導)に限界があることを露呈している。
平均平米単価と比較すると低い傾向にあった。しかし現在は、
政府は、
「選択と集中」の理論に基づいた垂直都市の開発から
図2を見ても分かる通り、郊外においても湾岸部の平均平米単
脱却し、成熟期に突入した国に相応しい持続可能性のある、地
価を超える超高層マンションが開発されている。こうした郊外
域間・地域内で調和のとれた都市の開発を目指すべきである。