ラオス国における環境に配慮した稲作技術の実践(PDF形式、259kバイト)

(平成 20 年度(第 7 回)助成団体の活動概況報告⑤】
ラオス国における環境に配慮した稲作技術の実践・活動概要
特定非営利活動法人
日本国際ボランティアセンター
東南アジアの内陸部ラオスには周辺国と比べても豊かな森が残っている。村の人たちの多くが森や川
からの狩猟採取、稲作を行い、暮らしている。2005 年度より、環境に配慮した新しい稲作技術を用いて、
ラオスの村人の問題となっている「米不足」の改善を図りながら、減少しつつある貴重な資源である土
や田にいる生物や生態系の保全を促進する「幼苗一本植」の活動を実施してきた。
JVC ラオスが活動を実施したカムアン県は雨季には洪水、乾季には水不足と自然環境が厳しく、特に
米不足が深刻だった。このため、収量増加のために化学肥料を用いた近代農業に取り組み始めている村
人も近年多く見られるようになってきた。しかし、化学肥料の投入は収量の増加をもたらすものの、毎
年の投入量が増えてくることや、購入コストの高くなっていること、自然資源の減少にもつながってい
るが村人の間でも問題となっていた。ラオスの人たちは田の中で取れる野草や蛙、小魚を採取して食べ
ており、現金収入が少ない村人にとっては食料や栄養確保、現金収入につながっていた。このため、JVC
では牛糞や木の葉など村内で入手できる自然資源を活用することにより、稲作のコストを押さえ、収量
の増加を図りながら、地域の生態系を守る自然農業の推進を 1997 年から同県で実施してきている。
2005 年から実施している新しい稲作技術は「幼苗一本植:System of Rice Intensification(以下 SRI
とする)
」と呼ばれ、①発芽後 15 日以下の若い苗を、②1 本~3 本で、③20cm~30cm 間隔で植えるこ
とにより、分桔を促進し多くの稲穂を付け収量を上げるという特徴がある。この技術を使用して作付を
行った結果、最高 6.8t/ha(乾季作)の収穫を上げることができるようになった。貴助成により平成 20
年度はこれまでの成果をもとにさらに普及するため、SRI のリーフレットや技術紹介のためのビデオを
作成し、ラオス政府や他 NGO、国際機関などに近代型農業の代案として、自然環境保全につながる SRI
を広く広報していくことに力を入れた。
主な成果
貴助成により実施した SRI 活動では3つの大きな成果を確認することができた。
第 1 の成果としては、SRI 技術を利用して実施した村や世帯数は 25 村 55 世帯とこれまで 3 年間取り
組んで来た中でも、最も多い数を記録した。多くの人が関心を示し、小さい規模でも実践していた。5
月からの雨季作では一部の村で害虫が発生し、幼苗の段階で稲の枯死が多くの地域で見られたが、多く
の稲は枯死後、新しい苗が芽を吹き返し、大きなダメージにはならず、平均 1t/ha~3.5t/ha の収穫と
なった。55 世帯のうち、多くの世帯はまだ SRI の実施面積が 1 ライ(約 0.3ha)と限られているが、最
も多い世帯で 1ha で実施する世帯が出現するなど、耕作面積も序々に広がってきている。耕作面積を広
げているのは、SRI 実施 2 年目~3 年目に入る村人であり、初めは半身半疑であった村人が自らの実践
を通じてその効用を実感し、拡大を図った。
第 2 の成果は村人自身の創意工夫に基づいた技術改善が進んだことや、第 3 の成果としては、自然環
境を守ることの大切さや意味を多くの村人が改めて意識するようになったことである。実施世帯を増や
すためにも、様々な地域で農民交流を実施した。これら実施地域にて行った農民交流により、今年度発
生した害虫の各村独自の対処法や、土の改善方法などの具体的な対応策を村人同士でアドバイスし合う
機会となった。また、実践者の中には 2 本植えや 3 本植え、幼苗と言っても 8 日目の苗や 10 日目、15
日目など様々な種類の苗や種で試している村人がおり、日々田を観察しながら、どの種や土地にどの苗
や植え方が合うのかなど個々人で技術改善に取り組んでいる姿が見受けられた。
森や田などの自然環境から多くの食料を調達してきた村人は田に化学肥料などを使用することで自然
資源の劣化や田の中の生物多様性の減少を経験してきている。米不足解消のためには化学肥料の投入以
外の方法を知らなかったことから、コスト高になっても使用してきていたが、SRI は化学肥料を使用し
なくとも堆肥などの利用で確実に収量を上げることができる。牛糞や液肥など自然資源の肥料の使用に
より、田やその周辺の自然環境を守ることができたという声が村人から出てきた。
これらの成果を元に、8 月に SRI を実施する他団体とのネットワーク会議を開催しラオス政府や他団
体などに村人の取り組みの実践例を SRI の成果として紹介することができた。会議には国際 NGO4 団
体に加え、農林省からも行政官が参加し、各団体がこれまでの成果を報告し合うと共に、技術的な意見
交換も行った。この会議の結果、SRI ネットワークを作り今後も普及と技術の改善を実施していくこと
になった。
葉につく芋虫のような害虫が大量に発生
し、枯死が心配されたが、幸いながら新た
な葉が出てきて大きな問題にはならなかっ
た。にんにくや唐辛子を利用した自然の防
虫剤を作成。
村人や NGO 職員や行政官を含め、総勢 30 名弱の参加
者があった。会議の午後には JVC 対象村を訪問し、
SRI
の田の見学を行った。