いちご苗の育て方 ―プロ農家が解説!初心者でもおいしいいちごが必ずできる育て方― いちご苗の栽培スケジュール(普通栽培) 苗の定植 10 月中旬~12 月中旬 追肥、葉欠き及びマルチ 2 月~3 月 脇芽取り、敷き藁 4 月中旬 収穫 5 月~6 月 <参考>その他の栽培方法(プロ農家の栽培方法) ・ 促成栽培・・・暖房機で加温して栽培(収穫:12 月~5 月) ・ 半促成栽培・・・小さいトンネルで栽培(収穫:12 月、4~5 月) いちご苗の基礎知識 <土壌> ・ 栽培する土壌は、排水性の良い土壌がよい。排水性の悪い土壌では、高めの畝に植える。 ・ 土壌の酸度は PH5.5~6.0。野菜とほぼ同等で、普通に野菜が育つ畑であれば問題ない。 ・ バラ科の植物で連作障害があるので、同じ畑での栽培は避ける(同じ土地で作ると年々病気が増えて 栽培ができなくなります)。 <気温> ・ 寒さに強く、暑さに弱い。 ・ ・ ・ ・ このため、夜温 25 度以上では病気に感染しやすくなる。 一方寒さには非常に強く、雪に埋もれても大丈夫。休眠して春を待つ。 寒さに当てることで花芽分化する。 実を成らせるときの適温は、夜温 6 度以上、日中 20~25 度(30 度までは大丈夫) <肥料> ・ 根が肥料焼けしやすいので元肥は少なめ ・ 肥料の3要素(窒素・りん酸・カリウム)の中で、窒素成分が少なく、りん酸の多い肥料を使う。 <結実するための条件> ・ 生殖成長と栄養成長があり、冬場の低温に十分当てなかったり、肥料が多すぎたりすると栄養成長に なってしまい、花が咲かずに実が採れなくなる。 ・ 結実するためには、自然の風やミツバチによる受粉が必要。 <鳥獣、病害虫対策> ・ おいしい実をつけるので、当然鳥や獣が食べにくるため、ネット等の対策が必要(モグラ、野ネズミ、小 鳥、カラス、たぬき等) ・ 発生しやすい病害虫は次のとおり。 ― ヨトウムシ、アブラムシ、ハダニ、アザミウマ、センチュウ ― うどんこ病、灰かび病、イオウ病、炭そ病 プランターによる栽培 注意! 追肥は2~3月に行います。培養土はもともと肥 料が入った土なので、追肥を行う際も肥料のあげす ぎに注意します。 (当園でいちご苗をご購入いただい た方には、いちご用肥料を1株につき 100g差し上げ ていますが、培養土を使う場合はこのうちの 50gの みを追肥としてお使いください。) 畑での栽培 <概要> ・ 当園では、畝の高さは 25~30cm の高畝にして外側に実がつくようにしますが、10cm 程度の低い畝の ほうが潅水で崩れたりしないので管理が楽です ・ 通常の畑の場合、多少肥料分はあるので、元肥はなしでも大丈夫です。 ・ 定植直後はマルチをしません。マルチがないほうが根が地中深くまで伸びるので大粒の実を成らせる 丈夫な苗に育ちます。 ・ 3月上旬に株の周囲に追肥をしてからマルチを掛けます。マルチの下に潅水チューブを入れておくと水 くれが楽です。 ・ その後、敷き藁等をおき、実がマルチに直接落ちないようにします。 (詳細)畑の準備~定植 ① 雑草の生い茂った畑 ② 雑草をきれいに取ります。 ③ 堆肥(※下に説明あり)をまいて ④ くわなどを使って土を掘り起こして ⑤ 鋤で土を盛り上げて(10cm くらい) ⑥ 平らにならします。 反転させます。土を砕いて、土のかた 畝を作ります。 まりができないようにします(耕うん)。 ⑦ 植穴を掘り、水を入れます。 植穴の間隔は 25~30cm ⑧ ポットから苗を取り、土を落として 植えます。中央が土を少し残した状 態、左が土をすべて落とした状態。中 央と左、どちらの状態でも OK です。 【定植するときの注意点(1)】 【定植するときの注意点(2)】 畝の外側に実が成るよう、苗の向きに 深植えしすぎず、浅植えしすぎないよ 注意します。 う注意します。 ⑨ 定植します。 ↑ベストな深さ こんな虫がいたら・・・ ⑩ 定植完了 これはカナブンの幼虫、通称根切り虫 です。いちごの根っこを食べてしまうの で、見つけたらすぐに取り除きましょ う。 ※堆肥について ・ 堆肥は連作障害の防止に有効なため、畑の状態にもよりますが、いちごを初めて作る畑なら入れなくても大 丈夫です。 ・ 堆肥は土壌改良資材となるため、良い土づくりには欠かせません。継続して入れることで土をフカフカな状 態にしてよい作物ができるようになります。いちごの場合はどんな堆肥(腐葉土、畜フン堆肥、残飯をコンポスト で堆肥化したもの、その他)でも問題ありません。 ・ ポイントは、完熟した堆肥を使うことです。完熟堆肥は、土に混ぜてからすぐに定植することができます。当 園では、畑の前面に堆肥を入れますが、家庭菜園の場合は植穴にひとつかみ堆肥を入れ、よくかき混ぜてか ら水を入れ、苗を植えれば OK です。 ・ 堆肥として家庭の残飯を使用したものを使う場合は、残飯は動物性有機物も含まれており非常に栄養豊富 なため、肥料は少なめにする必要があります。肥料なしでも OK なくらいです。 ・ 堆肥のほかに使用する土壌改良資材としては以下のようなものがあります。使用量は袋に明記されている 分量を守ること、また、定植や種まきの2週間以上前に畑の土になじませることが大事です。 化石石灰・有機石灰・苦土石灰 その他 ・ いくら肥料をあげてもいちご(ほかの野菜も含めて)がうまく育たない場合は、土壌の PH が酸性に傾いてい ることが多いので、上記のような石灰質の土壌改良資材を入れます。 ・ 土壌が酸性に傾いているかの判断方法ですが、もちろん土壌分析をするのが良いですが、家庭菜園程度で はなかなか難しいですよね。方法としては、作物の育ち具合をみて判断するやり方があります。特にPHに敏感 な作物は、ほうれん草です。酸性に傾いた畑では芽が出ても育たず、葉が黄色くなって枯れてしまいます。 そ のほかにも、PH メーターで調べるのも一つの方法です。ホームセンターで 2000 円程度で購入できます。 使う畑の性質を理解して(畑栽培) いちご苗を植える畑の性質を理解していると、良い栽培が可能です。 以下は、当園の新しい畑にいちご苗を植える際に土壌診断した結果です。 ただ、家庭菜園では土壌診断までは難しいと思うので、葉物野菜が普通に育つ畑であれば、いちご苗もよ く育ちます。 いちご苗の定植後の管理(プランター及び畑栽培共通) ・ 普通栽培の場合、定植直後はマルチをしません。潅水チューブも不要です。 ・ 定植後~2月ごろまでは絶対に肥料はあげないでください(病気になります)。 <水やり> ・ 定植後は、新しい根が伸びるまで(完全に土を落として植えた苗は定植後2週間程度、土をあまり落と さずに植えた苗は定植後1週間程度)一日一回毎日水をあげます。なお、曇りや雨の日は不要です。 ・ ポイントは、水を土にしっかり染み込ませることです。上からあげた水はなかなか土の中に染み込まな いので注意します。 ・ およそ2週間くらいすると(土をあまり落とさずに植えた苗の場合は1週間くらいすると)、新しい根が伸 びてきて苗が元気になり、新しい葉が展開してきます。朝葉の先端に水滴がつくようになればベストです (写真参照)。このように水滴がつくようになったあとは、水やりは控えめにし、乾いたら潅水するようにし ます。 ・ 12月に入ったら、極端に乾かない限り水は必要ありません。 <ランナー、わき芽、花蕾とり> ・ 10、11月は栄養生長から生殖生長に変わる時期です。栄養生長のときはランナーが伸びてきます が、実をつける株に栄養を蓄えるため、伸びてきたランナーは付け根から手で取り除きます。ランナーと一 緒にわき芽も伸びてきますが(写真参照)、これも一緒に取り除きます。 ・ 生殖成長に変わるとランナーの代わりに花芽が出てくるため、ランナーは出てこなくなります。 ・ 10、11月に花が咲いた場合ですが、いちご苗は12月になり寒くなると休眠してしまうので、この時期 にできた実は熟す前に株が休眠してしまうことが多いです。よって、株に栄養を蓄えるためにもこの時期に 咲いた花は取り除いてしまいます。ただ、気候等によっては熟すこともあるかもしれませんので、これを楽 しみたい場合は残しておいてもいいかもしれません。 ・ 12月になって寒くなると紅葉し休眠するので、地温が上がる3月までこのままで OK です。 3月以降の作業 3月になったら、畑栽培の場合は、いちご苗の周囲に肥料をまいて潅水チューブをいれ、マルチをします。 プランター栽培の場合もいちご苗の周囲に肥料をまきます。潅水チューブとマルチは必要ありません。 肥 料(プランター及び畑栽培共通) いちごの肥料は、りん酸の多い肥 料を使います。 当園で使っているのは、ぼかし肥が 主体の肥料で(肥伝アルファー:肥伝 研究会)、この肥料を一株当たり100 g使用します(当園のネットショップで いちご苗をご購入いただいた方に は、この肥料を一株当たり100g差し 上げます)。ただし、プランター栽培で 培養土を使用した場合は、培養土の 中にもともと肥料が含まれているの で、使用する肥料は半量の50gでO Kです。 肥料が多すぎると次のような症状が出ます。これを「肥料焼け」といいます。 肥料焼けしたいちご苗 正常ないちご苗 葉の周囲が枯れています。この苗の場合、新葉 は問題ないので大丈夫ですが、新葉にも症状が 出ると枯れてしまいます。 新葉が大きく展開しています。 害獣よけ(プランター及び畑栽培共通) いちごが鳥や獣に荒らされないよう、必要に応じてネットを張ります。 虫よけのために防虫ネットを張る場合は、大雪が降るとつぶれてしまいますので、注意してください。 病害虫 図1 ハダニ(体調 0.1mm、卵 0.05mm) 葉裏に寄生して吸汁します。クモの仲間なので移動は歩行のみ。ルーペで観察でき、雨に弱 く乾いた状態が好きなので、ハウスにビニールを掛けると活発に増殖し気温が高くなるとより 繁殖力が増します。吸汁された部分は黄緑色になり(図2)、苗は栄養成長ができなくなりま す。数が増えてくると糸を出してコロニーを作るため、葉の周りには図3のように糸が見られる ようになります。 図2 【対処法】 ・殺虫殺菌剤「ベニカマイルドスプレー」(図4)を使用します。ハダニを包んで呼吸を止め殺虫 する殺虫剤で、食品添加物(でんぷん)が有効成分のため安心して使用でき、また収穫前日 まで使えて使用回数の制限もありません。 ・露地栽培の場合は、毎日冷たい水を葉裏に吹きかけて増殖を防いでおけば、寒くなってくる と自然に消えていく場合もあります。 図4 ・農薬使うか水を吹きかけるだけにするかは、ハダニの増殖の様子を観察しながら決めま す。 図3 ヨトウムシ(蛾の幼虫) 10 月~11月にかけて出てきて、葉をバリバリ食べます。 日中は土の中にもぐっていて夜になると葉を食べに出てきますが、朝早いうちはまだ土にもぐ っていないので見つけることができます。虫を見かけたら手で取りましょう。 アブラムシ 周囲の雑草に沢山見かけます。初めにいちごのランナーの先端に取りつき吸汁します。分泌 液を出すので、周囲はベタベタ汚れます。早目に防除しないと実が販売できません。苗の成 長もできなくなります。 アザミウマ(体調 1mm) 周囲の雑草の花に沢山見かけます。成虫は花に寄生し、その幼虫がいちごの実を食害しま す。寄生されるといちごの実が黄色く変色して固くなってしまい、売り物にならなくなります。 その後の栽培方法についても順次掲載していきます。 解説の中での疑問点、また、栽培していてわからないことなどございましたら、お気軽にお問い合わせください。 email : [email protected] tel :0493-54-1278 (※)いちご苗は横田農園ネットショップでも購入できます。
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