随伴関手定理

随伴関手定理
alg-d
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2015 年 4 月 9 日
定理 1. F : C −→ D を関手とするとき以下の条件は同値である.
(1) F は右随伴を持つ.
(2) F に沿った idC の Kan 拡張 ⟨F † idC , η⟩ が存在し,任意の関手 K : C −→ X が
Kan 拡張 F † idC と交換する.
D
D
C
idC
F † idC
C
=⇒
=⇒
η
=
id
K
X
F
F †K
=⇒
K◦(F † idC )
F
C
idC
C
K
X
(3) F に沿った idC の Kan 拡張 ⟨F † idC , η⟩ が存在し,F が Kan 拡張 F † idC と交換
する.
またこのとき F ⊣ F † idC であり η がその unit である.
証明. (1 =⇒ 2) F ⊣ G とする.このとき圏 X に対して G−1 ⊣ F −1 : X D −→ X C で
あった.即ち K : C −→ X ,S : D −→ X に対して自然に
HomX D (KG, S) ∼
= HomX C (K, SF )
となる.よって F † K ∼
= KG であり,特に K = idC の場合を考えれば G ∼
= F † idC を得
る.また K ◦ (F † idC ) ∼
= KG ∼
= F † K も分かる.
随伴 F ⊣ G の unit を η : idC =⇒ GF とする.自然な同型 HomX D (KG, KG) ∼
=
HomX C (K, KGF ) で idKG に対応する自然変換を θ : K =⇒ KGF とすれば,θ が Kan
1
拡張を与える自然変換となる.
D
F †K
=⇒
F
θ
C
X
K
この θ は合成
GK
=⇒
F
η
C
id
G
X
=⇒
D
K
C
id
で与えられるのであった.故に
D
D
F
idC
C
=⇒
=⇒
F idC
η
C
=
†
id
X
K
F †K
=⇒
K◦(F † idC )
F
θ
C
C
idC
K
X
となり,Kan 拡張 F † idC は任意の関手 K : C −→ X と交換する.
(2 =⇒ 3) 明らか.
(3 =⇒ 1) G := F † idC と置く.Kan 拡張 F † F = F ◦ G の普遍性により,自然変換
ε : F ◦ G =⇒ idD が一意に存在し,εF ◦ F η = idF が成り立つ.
D
idD
η
C
idC
G
F
=
=⇒
=⇒
F
idF
ε
C
D
F
C
idD
=⇒
D
idC
C
故に後は Gε ◦ ηG = idG を示せばよい.
D
C
idC
C
ε F
D
⇒
=⇒
η
G
=⇒
idD
F
η
G
idC
C
2
F
D
その為には,Kan 拡張 ⟨G, η⟩ の普遍性により,(Gε ◦ ηG )F ◦ η = η を示せばよい.
(Gε ◦ ηG )F ◦ η = GεF ◦ ηGF ◦ idC η
= GεF ◦ GF η ◦ ηidC
= G(εF ◦ F η) ◦ η
= GidF ◦ η
= η.
命題 2. 圏 C に対して
C が終対象 1 を持つ ⇐⇒ colim(idC ) が存在する.
また,このとき colim(idC ) ∼
= 1 が成り立つ.
証明. 終対象とは対角関手 ∆ : C −→ C 0 = 1 の右随伴である.
1
C
=⇒
1
∆
idC
C
(=⇒) 終対象 1,即ち ∆ の右随伴が存在するから,定理 1 により Kan 拡張 ∆† idC が存
在する.ところで ∆† = colim だったから colim(idC ) が存在することが分かる.
(⇐=) 定理 1 により ∆ が colim(idC ) と交換することを示せばよいが,それは明らか.
colim(idC ) ∼
= 1 も明らかである.
定理 3 (General Adjoint Functor Theorem). C, D を圏,C は余完備で関手 F : C −→ D
は余連続であるとする.更に,任意の d ∈ D に対してある集合 S ⊂ Ob(F ↓ d) が存在し
て次を満たすとする.(この条件を solution set condition と呼ぶ)
任意の ⟨c, f ⟩ ∈ F ↓ d に対してある ⟨s, k⟩ ∈ S と射 ⟨c, f ⟩ −→ ⟨s, k⟩ が存在する
Fs
k
f
Fc
d
Fs
′
このとき F は右随伴を持つ.
3
k′
π
証明. 各 d ∈ D に対して colim(F ↓ d −
→ C) が存在することを示せばよい.
. .
idC
. ) この余極限 colim(F ↓ d → C) = colim(F ↓ d → C −−→
C) が存在したとする.
d
D
=⇒
1
F ↓d
π
F
C
C
idC
idC
このとき Kan 拡張 F † idC が存在し,F † idC (d) = colim(F ↓ d → C −−→ C) である.
今 F が余連続だから,F は Kan 拡張 F † idC と交換する.従って定理 1 により F は
右随伴を持つ.
d ∈ D とする.solution set condition を満たす集合 S ⊂ Ob(F ↓ d) を取る.S ⊂ F ↓ d
を充満部分圏とみなす.π を S に制限した関手 π|S : S −→ C を考える.S は small で C
は余完備だから,余極限 θ : π|S =⇒ ∆(colim(π|S )) が存在する.colim(π|S ) が π の余極
限であることを示せばよい.
まず自然変換 η : π =⇒ ∆(colim(π|S )) を定める.⟨c, f ⟩ ∈ F ↓ d を取る.このとき S
の取り方から,ある ⟨s, k⟩ ∈ S と g : c −→ s が存在して f = k ◦ F g となる.
s
Fg
g
Fs
k
f
c
Fc
d
Fs
′
k′
これを使って η⟨c,f ⟩ := θ⟨s,k⟩ ◦ g と定める.
s
θ⟨s,k⟩
g
c
η⟨c,f ⟩
colim(π|S )
θ⟨s′ ,k′ ⟩
s′
これは well-defined である.
. .
. ) ⟨s0 , k0 ⟩, ⟨s1 , k1 ⟩ ∈ S と g0 : c −→ s0 ,g1 : c −→ s1 が f = k0 ◦ F g0 = k1 ◦ F g1
4
を満たすとする.
s0
F g0
g0
F s0
k0
f
c
Fc
g1
d
F g1
s1
F s1
k1
C が余完備だから,左の図式の pushout p が存在する.また F が余連続だから,F p
も pushout である.
s0
F g0
g0
p
c
F s0
Fp
Fc
g1
k0
d
F g1
s1
F s1
k1
よって pushout の普遍性により,射 F p −→ d が一意に伸びる.
F g0
F s0
k0
Fp
Fc
d
F g1
F s1
k1
k
2
S の性質により,この射 F p −→ d はある ⟨s2 , k2 ⟩ ∈ S を使って F p → F s2 −→
dと
書ける.
F g0
F s0
k0
Fp
Fc
F s2
F g1
F s1
k1
5
k2
d
このとき C の次の図式を得る.
θ⟨s0 ,k0 ⟩
s0
g0
p
c
θ⟨s2 ,k2 ⟩
s2
colim(π|S )
g1
s1
θ⟨s1 ,k1 ⟩
図式の左側は,pushout だから可換である.また右側は,θ が自然変換であること
により可換である ( S が充満部分圏であることに注意する).よって全体が可換で,
θ⟨s0 ,k0 ⟩ ◦ g0 = θ⟨s1 ,k1 ⟩ ◦ g1 となり,well-defined 性が分かった.
また,η は自然変換となる.
. .
. ) 射 h : ⟨c, f ⟩ −→ ⟨c′ , f ′ ⟩ を取る.このとき,well-defined のときと同様にして次
の可換図式が得られる.(h = id の場合が,先の図式である.)
c
η⟨c,f ⟩
g0
s0
θ⟨s0 ,k0 ⟩
p
π(h)
s2
s1
colim(π|S )
θ⟨s1 ,k1 ⟩
g1
c′
θ⟨s2 ,k2 ⟩
η⟨c′ ,f ′ ⟩
故に η が自然変換であることが分かった.
x ∈ C と自然変換 φ : π =⇒ ∆x を任意に取る.このとき自然変換 φ|S : π|S =⇒
(∆x)|S が得られるから,colim(π|S ) の普遍性により,射 h : colim π|S −→ x が一意に伸
びて φ⟨s,k⟩ = h ◦ θ⟨s,k⟩ となる.即ち次の図式の下の三角形は可換である.
φ⟨c,f ⟩
c
η⟨c,f ⟩
g
θ⟨s,k⟩
colim(π|S )
s
φ⟨s,k⟩
6
h
x
また η の定義から左の三角形は可換で,φ の自然性から外側の三角形も可換だから,上の
三角形も可換であり,φ⟨c,f ⟩ = h ◦ η⟨c,f ⟩ が分かる.よって φ = ∆h ◦ η となる h が一意
に存在するから colim π = colim(π|S ) である.
補題 4. C, D, U を圏で U は co-wellpowered で余完備,F : C −→ D ,S, T : C −→ U
を関手,φ : S =⇒ T をエピな自然変換とする.このとき Kan 拡張 F † S が存在するなら
ば F † T も存在する.
D
=⇒
F †S
F
η
S
U
φ
⇒
C
T
π
T
証明. d ∈ D に対して colim(F ↓ d −
→C−
→ U ) が存在することを示せばよい.
π
S
各点 Kan 拡張により F † S(d) = colim(F ↓ d −
→C−
→ U ) である.⟨c, f ⟩ ∈ F ↓ d に対
して,標準的な射を σ⟨c,f ⟩ : Sc −→ F † S(d) と書く.これと自然変換 φ : S =⇒ T を合わ
せて,次の可換図式を得る.
F † S(d)
id
F † S(d)
σ⟨ci ,fi ⟩
Sci
σ⟨cj ,fj ⟩
φcj
Scj
φci
T cj
T ci
今 U は余完備だから,次の図式のように pushout を取ることができる.また,pushout
7
の普遍性から点線の射が延びる.
mj
F † S(d)
uj
id
mi
F † S(d)
φcj
Scj
Sci
ui
T cj
T ci
φci
仮定から φci はエピ射で,エピ射の pushout はエピ射だから,mi もエピ射である.U が
co-wellpowered だから,mi たちの余極限 v を取ることができる.
F † S(d)
uj
v
†
ui
F S(d)
Scj
Sci
π
φcj
T cj
T ci
φci
T
v = colim(F ↓ d −
→C−
→ U ) であることを示そう.その為に任意の θ : T ◦ π =⇒ ∆w を
取る.
w
F † S(d)
uj
v
F † S(d)
ui
Scj
Sci
φci
φcj
θ⟨cj ,fj ⟩
T cj
T ci
8
θ⟨ci ,fi ⟩
このとき θ ◦ φ : S ◦ π =⇒ ∆w が得られるから,普遍性により F † S(d) −→ w が一意に延
びる.よって pushout の普遍性から ui −→ w が一意に延びる.よって v の普遍性から
π
T
v −→ w が一意に延びる.以上により v = colim(F ↓ d −
→C−
→ U ) である.
定理 5 (Special Adjoint Functor Theorem). C, D が圏で,C は余完備,co-wellpowered
で,small generating set S を持つとする.このとき関手 F : C −→ D に対して
F が余連続 ⇐⇒ F が右随伴を持つ.
証明. (=⇒) 各点 Kan 拡張 F † idC が存在することを示せばよい.
generating set S ⊂ C を充満部分圏とみなし,i : S −→ C を包含関手とする.S が
small で C が余完備だから Kan 拡張 i† i,(F ◦ i)† i が存在する.
D
=⇒
=⇒
=⇒
=⇒
=⇒
F
C ■
■
■
i
S
(F ◦i)† i
i† i
η
C
i
故に F † (i† i) も存在して,F † (i† i) = (F ◦ i)† i が成り立つ.また idC : C −→ C を考えれ
ば,Kan 拡張の普遍性により φ : i† i =⇒ idC が一意に取れる.
idC
C
i† i
=⇒
=⇒
i
φ
η
S
i
idi
C
φ はエピ射である.
. .
. ) c ∈ C に対して φc : i† i(c) −→ c がエピ射であることを示せばよい.各点 Kan 拡
張の構成を思い出せば,φc は i† i(c) = colim(i ↓ c → S → C) = colim c の普遍性
⟨c,f ⟩∈i↓c
9
から定まる射である.
cj
cj
fj
fj
φc
i† i(c)
c
fk
ck
c
fk
ck
u, v : c −→ d を射で,u ̸= v とする.S が generating set だったから,ある s ∈ S と
g : s −→ c が存在して u ◦ g ̸= v ◦ g となる.このとき ⟨s, g⟩ ∈ i ↓ c である.
cj
fj
u
φc
i† i(c)
c
v
d
fk
ck
よって u ◦ φc ̸= v ◦ φc でなければならない.故に φc はエピ射である.
D
=⇒
F † (i† i)
F
η
⇒
C
i† i
φ
U
idC
よって補題 4 により F † idC が存在し,各点 Kan 拡張で書ける.
双対的に,以下の定理も成り立つ.(証明は同様である.)
定理 6. G : D −→ C を関手とするとき以下の条件は同値である.
(1) G は左随伴を持つ.
(2) G に沿った idD の右 Kan 拡張 ⟨G‡ idD , ε⟩ が存在し,任意の関手 K : D −→ X が
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右 Kan 拡張 G‡ idD と交換する.
C
C
K◦(G‡ idD )
D
idD
G‡ idD
D
id
=
X
K
G
D
G‡ K
=⇒
η
=⇒
=⇒
G
idD
D
K
X
(3) G に沿った idD の右 Kan 拡張 ⟨G‡ idD , ε⟩ が存在し,G が右 Kan 拡張 G‡ idD と
交換する.
またこのとき G‡ idD ⊣ G であり ε がその counit である.
定理 7 (General Adjoint Functor Theorem). C, D を圏,D は完備で関手 G : D −→ C
は連続であるとする.更に,任意の c ∈ C に対してある集合 S ⊂ Ob(c ↓ G) が存在して
次を満たすとする.(この条件を solution set condition と呼ぶ)
任意の ⟨d, f ⟩ ∈ c ↓ G に対してある ⟨s, k⟩ ∈ S と射 ⟨s, k⟩ −→ ⟨d, f ⟩ が存在する
Gs
k
f
c
Gd
k′
Gs′
このとき G は右随伴を持つ.
定理 8 (Special Adjoint Functor Theorem). C, D が圏で,D は完備,wellpowered で,
small cogenerating set S を持つとする.このとき関手 G : D −→ C に対して
G が連続 ⇐⇒ G が左随伴を持つ.
また,関手の表現可能性について次の定理が分かる.
定理 9. D を完備な圏,G : D −→ Set を連続な関手で solution set condition を満たす
とする.このとき G は表現可能関手である.
証明. General Adjoint Functor Theorem により G は左随伴関手 F : Set −→ D を持
つ.このとき d ∈ D と 1 ∈ Set に対して HomD (F (1), −) ∼
= HomSet (1, G−) ∼
= G であ
る.故に G は表現可能関手である.
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定理 10. D を完備,wellpowered な圏で,small cogenerating set S を持つとする.こ
のとき関手 G : D −→ Set に対して以下は同値である.
(1) G が連続である.
(2) G が左随伴を持つ.
(3) G が表現可能関手である.
証明. 1 ⇐⇒ 2 は Special Adjoint Functor Theorem である.
(2 =⇒ 3) G の左随伴関手を F : Set −→ D とすれば d ∈ D と 1 ∈ Set に対して
HomD (F (1), −) ∼
= HomSet (1, G−) ∼
= G である.故に G は表現可能関手である.
(3 =⇒ 1) 表現可能関手 HomD (d, −) は連続だから明らか.
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