突発的なトラブルへの対処術

ケアマネジャーに求められる
られる日常茶飯事の
突発的なトラブルへの対処術
複数の事例から振り返る,新規利用者の支援が
「重なった」場合のケアマネジメント上の留意点
柏 範和 KASHIWA _Norikazu
社会福祉法人 恭生会
和朗園ケアプランセンター 所長
主任介護支援専門員
ケアマネジャーは多忙だ。日々,より良いケア
複数の新規利用者が重なることだけでなく,従来
マネジメントを目指し実践に取り組む一方,さま
から担当する利用者(以下,継続利用者)への支
ざまな居宅介護支援上の業務を遂行する必要があ
援業務の状況にも左右されるため,新規利用者へ
る。また,主任ケアマネジャーの中には,自身が
の支援同様に,アクティブな支援が必要であった
所属する居宅介護支援事業所の管理や,地域の
継続利用者への支援経過も検討対象に加えること
ネットワークづくりなどの役割に奔走する方も多
にした。
いであろう。
同時期に複数の新規利用者を支援しなければな
らない場合,一度に集中する業務を効率良く,し
2
社会福祉士。介護老人保健施設の支援相談員を経て,医療法人の
居宅介護支援事業所にてケアマネジャーとして活動を開始。2003
年から管理者。医療ソーシャルワーカー,地域の在宅医との連携に
厚いケアマネジメントを推進する一方,新規利用者の分担方法な
ど,事業所マネジメントの手法開発にも注力。2007年から大阪介
護支援専門員協会 高槻・島本支部会長。2015年4月より現職。
16事例を基にした繁忙期の
課題抽出
かもケアマネジメントの質を落とさずに遂行し得
まず,当該6カ月間の新規利用者9人(事例A~
る に は, ど う す れ ば よ い か。 多 く の ケ ア マ ネ
I)に対する支援の概要を表1にまとめた。表1
ジャーが抱えるこの課題について,本稿の執筆に
では,事例の詳細な内容ではなく,居宅介護支援
あたり,改めて考えてみたところ,
「とにかく頑
業務(以下,業務)の多少に関連する事柄を中心
張るしかないのでは…」としか思い浮かばず,自
に記し,個人が特定できないよう倫理的にも配慮
身のケアマネジメント実践について,甚だ意識化
した。
できていないことに我ながら愕然とした。
次に,新規利用者9人と継続利用者7人(事例
そこで本稿では,筆者が過去,非常に業務多忙
1~7)への支援経過を,ごく簡潔に時系列で示
であったと実感する時期を6カ月間ピックアップ
した(表2)
。表2では,居宅介護支援経過(第
し,この期間に受託した複数の新規利用者に対す
5表)に記録されている活動のみを厳密にピック
る支援の経過を総体的に検討することで,この
アップした(利用者ごとに特にアクティブに支援
間,筆者が何に準拠,留意しケアマネジメントに
した期間が網掛け部分)
。これら16事例の支援経
取り組んでいたのかを意識化,言語化してみるこ
過を概観することで,当該6カ月間に筆者が複数
とにした。
の利用者に対し,いつどのような支援を展開して
また,ある時期のケアマネジャーの多忙さは,
いったのかを把握し,特に複数の利用者への支援
達人ケアマネ vol.9 no.5
表1❖新規利用者への支援の概要
事例
内容
繁忙な時期
A
利用者が入院する急性期病院のメディカル・ソーシャルワーカー(以下,MSW)から支援要請あり。
利用者は食思不振,ADL低下にて入院。入院中から利用者などと面接。住宅改修,訪問介護,通所介護,
配食サービスなどの活用を前提に,サービス調整の上,自宅へ退院。退院直後から週単位,さらに短い
単位でケアプラン修正を続ける必要があり,頻回なサービス担当者会議,介護サービスの調整などを要
した。
1〜3月目
B
本人から直接,支援依頼あり。在宅生活継続中。利用者は高齢で高血圧などの現症があるものの,障害
高齢者の日常生活自立度はA2レベルで,要介護認定は「要支援」
。地域包括支援センター(以下,地
域包括)と相談の上,介護予防支援を受託。具体的な調整は更新認定申請の代行,介護予防訪問介護の
活用支援程度であった。
1月目
C
MSWから支援要請あり。入院前から在宅酸素療法をしており,退院後も継続方針。家族と同居してい
るが日中は利用者1人になる。利用者本人の意向により,当面は介護サービスの利用を選択せず,新規
要介護認定申請の代行程度でいったん支援休止。約2カ月後,再入院〜退院。通所介護を利用する方針
となるも,サービスの調整などに迅速に着手できず,主治医を介して苦情あり。担当ケアマネジャーを
交代する結果となった。
2月目
D
MSWから支援要請あり。利用者はターミナル期。従前は地域包括による介護予防支援を利用していた。
「要介護」への移行を想定し,担当ケアマネジャーを引き継ぎ支援開始。入院中のカンファレンスを経
て,サービス調整の上退院。退院後,早期にケアプラン策定後も断続的にサービス提供責任者などと
サービス調整を続けるも,約1カ月後に再入院(
「入院時情報連携」実施)
。再入院から約2カ月後,退
院前カンファレンス,サービス調整などを経て自宅へ退院される。
3〜4月目
E
地域包括のケアマネジャーから支援要請あり。利用者は糖尿病などの疾患あり。従前から地域包括のケ
アマネジャーがアクティブに支援を続けていたが,更新認定で「要介護」となったため担当ケアマネ
ジャーを引き継いだ。従前のケアプランを踏襲することが適当であった(しかしながら,当該検証期間後,
利用者との信頼関係づくりが十分にできず,更新認定を機に元のケマネジャーに担当交代するに至る)。
3月目
F
利用者は,筆者が管理する事業所のほかのケアマネジャーが支援を担当していたが,家族から苦情があ
り,管理者として苦情対応を開始すると同時に,利用者が救急搬送され,急遽,担当ケアマネジャーを
引き継ぐことになった。利用者は腰椎圧迫骨折後,下肢機能低下,認知機能低下などの状態であった。
自身の健康管理に無頓着で入退院を繰り返すも,適切な服薬などが習慣化されず,自身の意向で介護
サービスの利用は選択しなかったものの,断続的に受診受療の支援など,アクティブな支援が必要で
あった。
3〜4月目
G
MSWから支援要請あり。利用者はパーキンソン病の現症があるものの独居で自立した生活を送ってい
たが,大腿骨骨折により入院。退院前にカンファレンスなどを経てサービス調整の上,介入からごく短
期で退院。退院後すぐ暫定ケアプランを実施しながら,状況に応じてケアマネジメントを継続。約1カ
月後に在宅生活に一定の安定が見られた。
4〜5月目
H
地域包括から急遽,支援要請あり。利用者は比較的若年で(初期)神経難病,内部疾患あり。自身の健
康管理に無頓着で入退院を繰り返していた。地域包括の主任ケアマネジャーと筆者は,利用者が入院中
の市外の急性期病院を訪問し,退院前カンファレンス,サービス調整などを経て,退院〜在宅支援を開
始するも,約2週間後に再入院。入院後も療養生活上必要な支援,家族との相談,病院職員とのカンファ
レンスが断続的に必要であった。その後,再入院から約1カ月後にリハビリテーション・療養継続目的
にて転院。
4〜6月目
I
MSWと地域包括のケアマネジャーから支援要請あり。利用者はターミナル期。ホスピス病棟入院も念
頭に,早期に退院し在宅生活を再開する方針にて支援開始。急ぎサービス調整などを実施する中,ホス
ピス病棟入院を選択,入院となった。
4〜5月目
が煩雑に重なっている時期(特に忙しかった時
情に至った業務の反省点についても,並行して支
期)を確認した(囲み部分)
。
援する新規・継続利用者との関連を踏まえ振り
この結果を基に,繁忙期において,筆者がどの
返った(表3,P.6〈ケアマネジメント実践に有
ような工夫をしながらそれぞれの新規利用者へケ
益であったと思われる観点や活動に下線,反省点
アマネジメントを実践していったか,また,当該
に二重下線を引いた〉
)
。
繁忙期を何とか乗り切れたその他の理由,後に苦
表3から抽出できる,ケアマネジメント・プロ
達人ケアマネ vol.9 no.5
3
表2❖繁忙期の新規利用者と継続利用者の支援経過 新規
利用者
A
継続
B
C
1
2
9カンファ(病 9連絡調整
院)
3
4
5
1月目
9-10電話相談 6モニタリング 2,3面接
5緊急対応
10サ 担 会 議 等(居宅)
5,
6連絡調整
(居宅等)
(居宅)
9連絡調整
9サ担会議(病院)6情報連携
(病院)
2月目
18カ ン フ ァ レ 12ア セ ス( 居
ンス(居宅等) 宅),連絡調整
19同(病院)
13カンファ(病 16院)
20連絡調整
16-21連絡調整
25ベッド搬入,17サ 担 会 議
カンファ
(居宅)
26モニタ(居宅)
29退院
2427連絡調整
21,26サ 担 当 26サ担会議(居 20入院
16サ担会議等(老
会議等(居宅) 宅)
24-28家 族 面 健)
27「軽度者申請」 接等(居宅) 25連絡調整
28照会
8カンファ,モ
ニタ(居宅)
415連絡調整
6-7 サ ー ビ ス 6,
7連絡相談 49モニタ(居宅) 10連絡調整
調整
10連絡調整
7入院
15サ担会議(居
宅)
1629連絡調整,
相談
15朝, 依 頼 17モニタ,サ担
(MSW)夜,家族 会議等(居宅)
面接(病院)
25退院
2129面接(居宅)
27連絡調整
1-
6
13照会
1724連絡調整
10退院,連絡調整 7カンファ
12モニタ(居宅) (病院)
14入所
10情報連携
(病院)
断続的に連絡調整 6-8連絡調整
等継続
9カンファ
(病院)
15-16連絡調整 11退院
15再入院
1727連絡調整
31照会
6連絡調整
3連絡調整
19小 規 模 多 機
能施設利用方針
へ
12連絡調整
19モ ニ タ( 居
宅)
26サ担会議(小
規模多機能施
設)
26連絡調整
26連絡調整
3-6
連絡調整・照会
3-4 権 利 擁 護
支援※(居宅)
13モ ニ タ( 居
宅)
13-
14連絡調整(救
急搬送)
24転院
30利用者面接(老 23転院
健)
18連絡調整
3月目
4月目
検証期間(支援経過)
P OIN T●
①
新規利用者3人と継続
利用者6人,合計で9
人の利用者への支援が
重複することとなる。
円滑に支援するために
は,ケアマネジメント
の技術を高めること,
関係する事業所との良
好な関係づくり,業務
量の可視化などの対応
が重要となる。
8再入院
22面接(病院) 31連絡調整
(23以降,対応
保留)
8主治医よりク
レーム,担当交
代
5月目
24カンファ(病
院)
28同(病院)
30照会
6カンファ・権利
擁護(老健)
28電話相談
4モニタ(居宅)
21入 院 時 情 報
連携(病院)
17権利擁護支援※
(老健)
10「 退 所 前 訪 問 9 カ ン フ ァ
指導」(居宅) (病院)
14住 環 境 整 備
(居宅)
18緊急時対応,
救急搬送,入院
19カ ン フ ァ
等(病院)
18権 利 擁 護 支 援 30連絡調整
(老健)
22-31連絡調整
1-8連絡調整
7サ担会議
13サ担会議等(老(病院)
健)
8-10照会
6月目
16カンファ等
(居宅等)
17-20連絡調整
10退院
13連絡調整
20モ ニ タ 等( 居 2023連絡調整
宅)
28-30
連絡調整
*数字は日付。
( )内は該当業務の実施場所か応対した者。16-29,1- 8などはこの期間中,毎日〜 1/2 日程度,断続的に該当業務が行われたことを示す。
※認知症などの利用者へ行った法定後見人などとの連携の支援や,預貯金管理の支援など。
4
達人ケアマネ vol.9 no.5
:アクティブに支援した期間 新規
D
E
F
:特に忙しかった時期
継続
G
H
I
5(再掲)
6(再掲)
7
利用者
P OIN T●
②
1月目
2,3面接
5緊急対応
5,6連絡調整 (居宅等)
9サ担会議(病院) 6 情 報 連 携
(病院)
10退 院, 連 絡 調 7カンファ
整
(病院)
12モニタ(居宅) 10情 報 連 携
14入所
(病院)
新規利用者と継続利用者の支援が重複し繁
忙期となる。
日頃からケアマネジメントの技術を高め,
関係する事業所との良好な関係づくりは必
須である。しかしながら,繁忙期は次のこ
とを意識して対応する必要がある。
16サ 担 会 議( 老
健)
25連絡調整
・同時進行する事例のニーズの見極め
・優先順位の設定
2月目
断続的に連絡調整 6-8連絡調整
9カンファ
等継続
(病院)
・迅速な初期対応の実施
・多職種とのカンファレンスの実施
30利用者面接(老 23転院
健)
10朝,
19サ担会議(居 19午 前-夕, 苦
依頼(MSW) 宅)
情対応
午後,連絡調整
20朝-夕, 緊 急
対応(居宅)
,情
報連携
3月目
17権 利 擁 護 支 援
(老健)
5アセス等(居
宅),連絡調整
6,7照会等
19情報連携
10アセス等
12家 族 面 接
(居宅),連絡調
整
6カンファ・権利
擁護(老健)
7受診受療支援
(救急)
19朝,依 頼,夜
カンファ(病院)
20朝-夜
カンファ
19電話相談
26モ ニ タ( 居 17入院
(22退院,個別 27依 頼( 包 括
宅)
23退 院( サ ー ケア会議(ケア センター)
ビス利用なし) マネ不在)
31カンファ(病
院)
2転院
2-14連絡調整 314連絡調整
24電話相談
25モ ニ タ( 居
宅)
14依 頼, カ ン 10「 退 所 前 訪 問 9 カ ン フ ァ
ファ(代理ケア 指導」(居宅) (病院)
マネ)夜,面接
(病院)
16朝,照会(医
師)昼退院,夕
サ 担 会 議( 居
宅)
2緊急対応
3-11連絡調整
9カンファ(居
宅)
19カ ン フ ァ 22,24カンファ
等(病院) (居宅)
5月目
14モ ニ タ リ ン 24サ担会議
14退院
グ(居宅)
27モニタ
15アセス等
14面接(居宅)17,18サ 担 会
議(居宅)
4月目
10-17照会,サ
担会議
18入院
6カンファ(病院)
7家族面接(居
宅)
9退院
検証期間(支援経過)
13カンファ(病 21サ ー ビ ス 開 21情報連携
院)
始
25カンファ(病
28モニタ(居宅) 院)
15退院
23-28連絡調整 21-25連絡調整 1-18サービス 18権 利 擁 護 支 援 30連絡調整 25連絡調整
28モ ニ タ( 居 27入院
調 整( 在 宅 医,
(老健)
28権 利 擁 護 支
28情報連携(病 訪看)
宅)
22-31連絡調整
援
院)
23入院
29面接(居宅)
7カンファ(病
院 ), 照 会, 連
絡調整
7連絡調整
(MSW)
8カンファ(病院)
12カンファ(病
院)
13-連絡調整
30転院
1-8連絡調整
7サ担会議
13サ担会議等(老(病院)
健)
8-10照会
16カンファ等
(居宅等)
17-20連絡調整
10退院
13連絡調整
6月目
16退院,照会
連絡調整
29サ ー ビ ス 再
開
30モニタ(居宅)
20モ ニ タ 等( 居 2023連絡調整
宅)
28- 30
連 絡 調整
サ坦会議は「サービス担当者会議」
。カンファは「カンファレンス」
。照会は「サービス担当者への照会」
。モニタは「モニタリング」
。情報連携は「入院時情報連携」
。アセスは「アセスメント」を示す。
➡続きは本誌をご覧ください
達人ケアマネ vol.9 no.5
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