野生動物学ー国内およびアジアでの現況ー 野生動物の

野生動物学ー国内およびアジアでの現況ー
木村順平
(ソウル大学獣医学部)
野生動物学は 野生動物に関する基礎から臨床・応用について追究する学問領域であり、
また、人と野生動物との共存を目的とした関係学問のプラットホームと考えられている
(羽山 2015)。 近年その重要度は特に増し、我が国の獣医学教育においてもコアカリ
キュラムの一つの科目に位置づけられた。 研究においても、設立30年になる日本野
生動物医学会の活発な活動に加え、日本獣医学会の一分科会として「野生動物学分科会」
が立ち上がり、それとともに 2013 年から日本獣医学会会誌 The Journal of Veterinary
Medical Science(JVMS) に新たに設立された“野生動物学分野”への国内外からの投
稿数が増加している。この学問の守備範囲は広く、通常の獣医学が主に家畜を対象に、
解剖学から臨床までを扱うのと等しくあるいはそれ以上の範囲で、野生動物の全ての事
象を扱っている。生物多様性、分類学、個体群動態学、動物園水族館学、絶滅危惧種の
保全および外来生物学などは、この分野の特徴的なカテゴリーであろう。日本における
野生動物学研究の動向を把握することは容易くないが、JVMS においては、野生動物の
解剖学あるいは病理学に関する論文の掲載が多い傾向にある。 日本野生動物医学会の
口頭・ポスター発表では症例報告を含む動物園動物の病理学や臨床についての演題が多
く見られる 。
野生動物のホットスポットを多く有するアジアに目を向けると、Asian
Society of Zoo and Wildlife Medicine
(アジア野生動物医学会)が 1995 年
に設立され、この 10 年間で飛躍的に活動が活発化している。2014 年に Asian
Society of Conservation Medicine
(アジア保全医学会)と名称変更したこ
とからも分かるように、One Health や Disease Ecology という新たな概念をも
包含する Conservation Medicine(保全医学)の展開とともに、新たな野生動物
学の模索が始まっている。