社会科教育研究部 【平成28年1月現在】 主任 對馬 秀孔 部員 小林 雅人,秋田 真 研究主題 社会的な見方・考え方を育成する社会科授業 目指す児童の姿 社会事象について自分の考えを説明できる児童 研 社会事象について自分の考えを説明できる児童を育成するために,課題を追究する場面 究 においてワークショップ型の活動を設定し省察させることが,社会認識を形成させたり, 目 合理的な意思決定させたりすることに有効に働き,社会的な見方・考え方の育成につなが 標 ることを実践より明らかにする。 研 課題を追究する場面でワークショップ型の活動を設定し省察させることが,社会認識を 究 形成させたり合理的な意思決定をさせたりすることに有効に働き,社会的な見方・考え方 仮 を育成することになり,社会事象について自分の考えを説明できる児童を育成することが 説 できる。 Ⅰ 研究主題と研究目標及び目指す児童の姿 1 研究主題~社会科のねらいから~ 学習指導要領では,小学校社会科において究極的なねらいは公民的資質を養うことであ るとしつつ,公民的資質の基礎を養うために,社会的な見方・考え方を養うことを重視す ることが明記されている。また,中教審による「論点整理」(2015.8)で記された次期学習 指導要領へ向けた改訂の具体的な方向性においても,「小学校社会科については,社会的 な見方や考え方の育成を一層重視する」ことが示されている。これらのことから,本研究 部では「社会的な見方・考え方を育成する社会科授業」について研究を進める。 社会的な見方・考え方については研究者の立場によって論を異にするが,本研究部では 社会的な見方 …複数の事実認識を関連付け社会認識を形成する力。概念装置の形成。 社会的な考え方…未知の社会事象間の関係を予測したり,未来社会を推理したりする力。 価値判断 *1に関わる問題に対して価値分析し合理的な意思決定 *2をする力。 と定義する。 2 新しい研究として~昨年度までの研究から~ 今年度は,課題を追究する場面でワークショップ型の活動を設定し省察させることにつ いて研究していく。これは,昨年度までの研究において,自分の考えを表現することがで きていない児童が見られたことによる。児童のこのような状況は,資料の読み取りに時間 を要したり,不十分な理解にとどまったりしたことに起因している。 ワークショップとは,「主体的に参加したメンバーが協働体験を通じて創造と学習を生 み出す場 *3」であり,具体的な活動としてはロール・プレイング *4やシミュレーション *5 等 が挙げられる。これらの活動は社会事象を特定の視点から抽象し,単純化することから体 験的・直観的な理解を可能とする。これまで資料の読み取りに時間を要したり,不十分な 理解にとどまったりすることで,話合いで思考を深められなかった児童が情報を得ること ができるようになり,学級内で情報の共有化を図られるようになる。また,これらの体験 的な活動に取り組ませることで,演者には主観的に,観客には客観的に社会事象を捉え直 すことを促し,実感を伴った理解をさせることも期待できる。 省察とは,自分の経験を振り返り意味付けることである。「子どもは,生活の中でいろ いろ経験したことを言語によって意識化し,さらに抽象化・一般化することによってそれ *1岩田一彦は,社会的な見方・考え方と知識・思考の関係の説明の中で,価値判断を知識の種類 が規範的知識であると述べている。岩田『授業設計の理論』東京書籍,1991,p57 *2合理的な意思決定とは,主張の根拠が感性的なものではなく論理の整合性と論拠の科学性を伴 った一定の価値選択とする。言い換えると,主張の根拠は社会認識である。 *3掘公俊『ワークショップ入門』日経文庫,2008,p32 *4ロ ー ル ・ プ レ イ ン グ と は 、 心 理 劇 の 場 面 の 中 で , さ ま ざ ま な 役 割 を 自 発 的 に 演 ず る こ と 。 役 割 演 技 と も い う 。 森 分 孝 治 他 『 社 会 科 重 要 用 語 300の 基 礎 知 識 』 明 治 図 書 ,2000,p286 *5シ ミ ュ レ ー シ ョ ン と は 、 実 際 に 体 験 が 困 難 な 事 象 や 結 果 の 予 測 , 分 析 の た め に 行 わ れ る 実験。須本良夫「シミュレーションで見えない現実を拡張しよう」明治図書『社会科教 育 』 2014,No657,p3 を知識・( 科学的)概念として頭の中に定着させる *6 」ことから,ワークショップ型の活動 と省察活動は不可分なものといえる。 3 目指す児童の姿とその具現化に向けて 本研究部では,課題を追究する場面において既有の知識や獲得した情報を基に友達と話 し合い,社会事象について自分の考えを説明できる児童の具現化を目指す。 (1) 「課題を追究する場面」とは なぜ疑問と価値判断に関わる問題の解決へ向けての活動である。 なぜ疑問とは,社会事象や事象間の因果関係を捉えさせる学習課題のことである。岩 田は「どんな事象も,原因と結果の関係を事象毎に蓄積していくことが重要なのである *7」 と述べている。なぜ疑問について追究する場面では,既有の知識や獲得した情報を関連 付けて思考することになる。複数の社会事象が関連付けられることで社会認識は深まっ ていくことになり,社会的な見方の育成につながる。 価値判断に関わる問題とは,社会事象やその事象間の関係を根拠に未来社会を推理さ *8 せ,その結果についての価値を判断させる学習課題である。社会論争問題 のような課 題に対して多様な価値を顕在化させ,それぞれの立場で論じさせたり,合理的な意思決 定をさせたりすることによって社会的な考え方を育成する。 (2)「既有の知識や獲得した情報を基にする」とは 児童が形成している社会認識や統計的資料,年表,写真,映像,インタビュー活動, ロール・プレイングやシミュレーション等などから獲得される情報を思考・判断・表現 の材料とすることである。反橋義明は「説明のために大切なのは,基礎となる情報を豊 *9 かに獲得することである 」と述べ,獲得した情報そのものは物事の説明に当たらず, 情報はあくまで説明するための材料に過ぎないとし,説明には情報が欠かせないことを 示唆している。 (3) 「友達と話し合う」とは *10 間主観 的に吟味していく過程である。森分孝治は知識の習得過程を「子どもが各自 理解したことにもとづき説明し合い,どの説明が正しいかを検討し合う過程として捉え *11 ることができる 」としている。自分の考えを友達に伝え話し合うことは,集団の中で 妥当性を吟味したり,言葉を精錬したりすることになり,より科学的・合理的な考えへ と高めていくことにつながる。また,表現することによって,一度思考・判断したこと をさらに深めたり,修正したりすることにもなる。 (4) 「自分の考えを説明できる」とは 学習を通して児童が自らの中に社会を見る概念装置を作り上げていき,社会事象の因 果関係を語れるようにすることである。また,児童それぞれが形成した社会認識を基に 推測した未来像や決定した意思について,判断の理由を語れるようにすることでもある。 前者がなぜ疑問,後者が価値判断に関わる問題についての説明に当たる。 以上の3点から,「社会的な見方・考え方を育成する社会科授業」を研究主題として設定 し,研究を進めていく。また,この研究を進めていく中では,社会認識を形成する力・問題 を発見する力・批判的思考・問題解決的思考・社会に参画する力・市民的資質等のような力 の育成も視野に入れていく。 Ⅱ 研究内容と方法 課題を追究する場面において,ロール・プレイングやシミュレーション等のワークショッ プ型の活動を設定し省察させ,複数の社会事象を関連付けて因果関係を明らかにさせること や顕在化させた多様な価値を基に合理的な意思決定を行わせる。その際,課題を追究する場 面でなぜ疑問や価値判断に関わる問題を設定させる。 (参考文献) 北俊夫「「表現」の変更に伴う授業の工夫点」明治図書『社会科教育』2010,No.619 澤井陽介「各教科等の特質を踏まえた言語活動の充実と授業改善(その1)」東洋館出版『初等 教育資料』2013,No.901 *6井上尚美『思考力育成への方略-メタ認知・自己学習・言語理論-』明治図書,2007,p26 *7岩田「社会が見えくる窓」明治図書『社会科教育』2013,No.655,p17 *8社会論争問題では,ある特定の集団や職業,町内などの小さなコミュニティから日本国内や国 際社会などまで種々の価値判断に関わる問題を扱う。 *9反橋義明「説明につながる豊かな情報の獲得」明治図書『「言語力」をつける社会科モデル』2 008,p59 *10間主観とは,二人以上の人びとによるコミュニケーションを中心とした相互作用によって生 み出される新しい意味づけや解釈であり,より創造的で革新的な性格をもつものである。松野成 悟「情報戦略における意味形成のパースペクティブ」1999 *11森分『社会授業構成の理論と方法』明治図書,1978,p86
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