チリ経済情勢報告(2015年6月)

2015年7月17日
在チリ日本大使館経済班
チリ経済情勢報告(2015年6月)
<概要> 景気は停滞している。
● 消費は減速している。
● 生産は弱い動きをしており,企業マインドは悪化している。
● 失業率はやや高くなっている。
● 消費者物価はやや大きく上昇している。
● 貿易は黒字が継続している。
● 銅価格および為替は下落,株価はやや下落した。
先行きについては,銅価格及び為替の動向が国内経済に与える影響に引き続き留意する
必要がある。
1.経済指標
(1)経済活動指数(IMACEC)-前年同月比0.8%-
5月のIMACECは前年同月比0.8%と予想(同2.
0%)を大きく下回る結果となった。季節調整済前月
比は0.0%となった。中銀によると,サービス業が主なプ
ラス要因となった一方,製造業,鉱業,卸売業がマイ
経済活動指数(IMACEC)
(%)
15.0
10.0
5.0
ナス要因となった。
中銀アンケートによる6月IMACECの予想は前年
同月比1.9%(中央値)となっている。
0.0
-5.0
・
・1
0
N
・1
10
2
・
・1
0
N
・2
10
2
・
・1
0
N
・3
10
2
前年同月比
(2)消費-減速している-
①5月の小売商業販売指数(実質,INE公表)は,
前年同月比3.1%となった。同指数(除く車)は同5.
・
・1
0
N
・4
10
2
12ヶ月移動平均
・
・1
0
N
・5
10
2
3 ヶ月移動平均値
(20 0 1
=1 0 0)
消費 関連指標
(%)
30.0
150
4%となった。
140
②5月のスーパーマーケット販売額(実質,INE公表)
は,前年同月比5.0%となった。
20.0
130
120
10.0
③5月の商業販売額(チリ商工会議所公表,サンティ
アゴ首都圏,暫定値)は前年同月比4.6%となった。
110
100
0.0
90
80
④5月の消費者認識指数(CIEN公表)は103.9と前
月(98.8)から改善した。現状指数(106.8)も将来指
数(103.1)も,ともに改善した。
⑤6月の新車販売台数は22,632台(前年同月比▲
12.3%)と大きなマイナスが続いている。
1
-10.0
・
・
1
・
・
7
2011
・
・
1
・
・
7
2012
・
・
1
・
・
7
2013
・
・
1
・
・
7
2014
・
・
1
2015
小売商業販売(3ヶ月移動平均)
スーパーマーケット販売額(3ヶ月移動平均)
サンティアゴ首都圏商業販売(3ヶ月移動平均)
消費者認識指数(右目盛)
70
鉱 工 業 生産(前年同 月比、%)
40.0
(3)鉱工業生産,電力-生産は弱い-
5月の工業生産指数は,前年同月比▲3.3%となっ
た。セクター別では,化学物質・製品が同19.3%とプラス
に寄与したが,たばこ製品が同▲25.8%,一般金属が
30.0
20.0
10.0
同▲23.7%,機械・設備が同▲21.8%,紙・紙製品が
同▲9.2%,印刷・出版が同▲8.7%とマイナスに大きく
-10.0
寄与した。
-20.0
0.0
・
・
N1
・
1
1
0
2
5月の鉱業生産指数は前年同月比▲0.4%となり,う
ち銅は同2.1%となった。
・
・
N7
・
1
1
0
2
・
・
N1
・
2
1
0
2
・
・
N7
・
2
1
0
2
工業生産
・
・
N1
・
3
1
0
2
・
・
N7
・
3
1
0
2
・
・
N1
・
4
1
0
2
工業生 産 (3ヶ月 移動平均)
・
・
N7
・
4
1
0
2
・
・
N1
・
5
1
0
2
鉱業生産
5月の電力指数は前年同月比1.2%となった。
企業業況判断指数(IMCE)
(ポイント)
(4)企業の業況判断-悪化している-
65
6月のIMCE(企業業況判断指数)は47.14ポイントと,
中立点である50ポイントを引き続き下回ったものの,前
月から若干改善した。前年同月差は3.40ポイント,前
月差は0.69ポイントとなった。内訳を見ると,建設業が3
9.93(前月差5.64ポイント),製造業が41.72(同0.68
ポイント)と改善したが,鉱業が65.21(同▲1.60ポイン
ト),商業が46.93(同▲1.20ポイント)と悪化した。
60
47.14
55
50
45
40
35
・
・
N1
・
1
1
0
2
・
・
N7
・
1
1
0
2
・
・
N1
・
2
1
0
2
・
・
N7
・
2
1
0
2
・
・
N1
・
3
1
0
2
・
・
N7
・
3
1
0
2
・
・
N1
・
4
1
0
2
・
・
N7
・
4
1
0
2
・
・
N1
・
5
1
0
2
建 築 許 可面積(前年 同月比、%)
(5)不動産-大きく減少-
80.0
5月の建築許可面積(INE公表)は前年同月比▲2
建築許可面積(3ヶ月移動平均)
60.0
0.1%(3か月移動平均)と前月に引き続き大幅なマイ
40.0
ナスとなった。内訳を見ると,住居が同▲15.3%となり,
非住居も同▲25.5%といずれも大幅なマイナスとなって
いる。
20.0
0.0
-20.0
-40.0
・
・
6
(6)雇用-失業率はやや高くなっている-
・
・
2
1
・
・
6
2011
・
・
2
1
2012
・
・
6
・
・
2
1
2013
・
・
6
・
・
2
1
2014
2015
3~5月期の失業率は6.6%と前月から悪化した。前
年同期比で見ると,労働力人口は124,289人増加(前
雇用情勢
(千人)
(%)
年同期比1.5%),就業者数は92,253人増加(同1.
8,500
10.0
2%),失業者数は32,036人増加(同6.1%)となった。
セクター別の就業者数伸び率では,行政・社会保障
8,000
8.0
(同9.8%),ホテル・レストラン(同7.5%)が大幅なプラ
7,500
6.0
スとなった一方,自営業者(同▲6.2%)が大きなマイナ
スとなった。
7,000
4.0
5月の賃金は,名目は前年同月比6.2%,実質は同
2.1%となった。
6,000
2
就業者数
6,500
・
・
1
N0
・
1
1
0
2
・
・
7
N0
・
1
1
0
2
・
・
1
N0
・
2
1
0
2
・
・
7
N0
・
2
1
0
2
・
・
1
N0
・
3
1
0
2
・
・
7
N0
・
3
1
0
2
・
・
1
N0
・
4
1
0
2
失業率
・
・
7
N0
・
4
1
0
2
2.0
・
・
1
N0
・
5
1
0
2
0.0
(7)物価-やや大きく上昇している-
6月の消費者物価指数(総合)は,前月比は0.5%,
前年同月比は4.4%となった。品目別に前年同月比の
動きをみると,主にアルコール飲料・タバコ(13.0%),レス
トラン・ホテル(7.9%),食料品・飲料品(7.5%),保健
医療(6.1%)が大きく上昇した一方,燃料(▲15.7%),
衣料品・靴(▲6.5%)が大きく低下している。生鮮野菜
消 費 者 物価の動向
(%)
10.0
8.0
インフレターゲット
(2~4%)
6.0
4.0
2.0
0.0
果実及び燃料を除くコア指数は,前月比は0.5%,前年
同月比は5.4%となった。
-2.0
-4.0
中銀アンケートによる7月の消費者物価指数(総合)の
予想は前月比0.3%となっている。インフレ期待は1年
・
・
N1
・
1
1
0
2
・
・
N7
・
1
1
0
2
・
・
N1
・
2
1
0
2
・
・
N7
・
2
1
0
2
・
・
N1
・
3
1
0
2
総合
・
・
N7
・
3
1
0
2
・
・
N1
・
4
1
0
2
コア
・
・
N7
・
4
1
0
2
・
・
N1
・
5
1
0
2
政策金利
後:3.2%(前月3.0%),2年後:3.0%(前月3.0%)と
引き続き安定している。
5月の生産者物価(全産業)は,前月比は2.2%,前年同月比は▲1.7%となった。
(8)貿易-貿易黒字が継続-
①6月の輸出額(FOB)は57.2億ドル(前年同月比▲6.
2%)となった。内訳を見ると,鉱業品33.4億ドル(同1.
輸出入の動向
(前年同月 比、%)
(百万ドル)
80
70
6%),農林水産品4.2億ドル(同8.1%),製造業品19.
3,500
60
50
6億ドル(同▲19.0%)となった。鉱業品のうち銅は30.9
億ドル(同1.1%),銅を除いた輸出総額は26.3億ドル
2,500
40
30
1,500
20
(同▲13.6%)となった。
10
②6月の輸入額(FOB)は49.4億ドル(前年同月比▲1
0.7%)となった。内訳(CIF)は,消費財15.0億ドル(同
▲6.5%),中間財29.3億ドル(同▲9.1%),資本財8.
3億ドル(同▲17.4%)となった。
500
0
-10
-500
-20
-30
-1,500
-40
-50
貿易収支
・
・
1
③6月の貿易収支(FOB)は7.8億ドルの黒字となった。
・
・
7
2011
・
・
1
輸出
・
・
7
2012
輸入
・
・
1
・
・
7
2013
・
・
1
・
・
7
・
・
1
2014
2015
(9)対日・中・韓貿易
①対日貿易(FOB):5月の貿易額は,輸出額4.5億ドル(前年同月比▲40.6%),輸入額1.7億ドル
(同▲16.0%),貿易総額では6.2億ドル(同▲35.3%)となった。
②対中貿易(FOB):5月の貿易額は,輸出額12.5億ドル(前年同月比▲10.9%),輸入額9.8億ドル
(同▲10.7%),貿易総額では22.3億ドル(同▲10.8%)となった。
③対韓貿易(FOB):5月の貿易額は,輸出額3.4億ドル(前年同月比▲6.9%),輸入額1.5億ドル(同
▲35.5%),貿易総額では4.9億ドル(同▲17.7%)となった。
3
-2,500
2.市場の動き
(1)国際銅価格-下落-
6月の国際銅価格は,1ポンド2.7082ドル(1日)で始
国際銅価格と銅在庫の推移
(セント/ポンド)
まり,1ポンド2.5950ドル(30日)で終了した。前半は中
国製造業の軟調さを示す統計の公表等により緩やかな
500
下落が続き,後半に入っても中国経済に対する先行き
400
(千トン)
1000
900
800
不透明感やギリシャ債務問題への懸念等の影響をうけて
緩やかな下落が続いた結果,前月末比▲6.0%で終了
した。
6月の銅在庫は,497,431トン(1日)から464,345トン
700
300
600
500
200
400
(30日)と前月末より若干の減となった。
銅価格
100
4
/
1
/
1
1
0
2
4
/
7
/
1
1
0
2
300
銅在庫(ロンドン・NY・上海合計)
4
/
1
/
2
1
0
2
4
/
7
/
2
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0
2
4
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1
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3
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3
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0
2
4
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1
/
4
1
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2
4
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7
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4
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0
2
200
4
/
1
/
5
1
0
2
(2)為替-下落-
6月の為替は,1ドル616.66ペソ(1日)で始まり,1ドル
634.58ペソ(30日)で終了した。前半は米国における雇
用,製造関連の経済指標が市場予想を上回ったことや
銅価格の下落等に伴いペソ安が進行,後半に入るとギリ
シャ債務問題に対する懸念等から上げ下げが繰り返され
る日々が続いた結果,前月末比17.13ペソのペソ安・ド
ル高で終了した。
為替の動向(チリ・ペソ/ドル)
(ペソ/ドル )
650
600
550
500
450
400
3
/0
1
0
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1
1
0
2
3
/0
7
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1
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0
2
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7
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2
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0
2
3
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1
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3
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0
2
3
/0
7
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2
3
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1
0
/
5
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0
2
(注)チリ中銀Observado値(銀行間レートの加重平均値)
(3)株価-やや下落-
6月のIPSA値(サンティアゴ主要株式指数)は,4,004.
96ポイント(1日)で始まり,3897.10ポイント(30日)で終
IPSAサンティアゴ主要株価指数(2002/12/30=1000)
5,500
了した。前半は好調な米国市場に助けられた形でほとん
ど変化は見られなかったが,後半に入ると,ギリシャ債務
問題への影響が懸念され細かな下落が続いた結果,前
5,000
4,500
4,000
月末比▲3.7%で終了した。
3,500
3,000
2,500
2,000
4
3
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1
/
1
1
0
2
3
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7
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1
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0
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3
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1
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2
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0
2
3
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7
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2
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1
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0
2
3
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7
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3
1
0
2
3
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1
/
4
1
0
2
3
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7
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4
1
0
2
3
/
1
/
5
1
0
2
3.経済トピックス
(1)経済成長のための優先審議法案
6月1日,バルデス財務大臣は,経済分野において短期的に政府が推進させる法案のリストを公表した。
労働改革を推進すると同時に,今回の法案パッケージは現存する組織や規制を改善し,政府,市場の
信用や機能を強化するものである。加えて,新しい製品やサービスを提供しやすくし,特定分野の発展を
可能とし,新たな,かつより良い金融サービス開発のための条件整備をその目的としている。19法案すべ
てが成立するには時間がかかるものの,証券保険委員会や公共事業省におけるコンセッション事務局の創
設,省庁幹部登用の透明性確保が最優先法案となる。
(2)中銀経済見通しの公表
6 月 3 日,中央銀行は「金融政策レポート(IPoM,2015 年 6 月)」を公表した。2015 年の経済成長
見通しは前回(3 月)の 2.5~3.5%から 2.25~3.25%に下方修正された。消費者物価指数は,年末に
は 3.4%に達し,来年中は3%付近で安定するものと見込まれる。国内における最大のリスクは企業・消
費者期待の回復進捗で変わらない。この改善が予測よりも悪化すれば,需要回復が遅れることもありうる。
一方,予測より速ければ,特に 2016 年の経済を刺激し,更なる成長に繋がる可能性もある。
(3)外国投資誘致新体制に関する法案の成立・公布
6月16日,バチェレ大統領は,外国投資誘致のために新体制を設ける法律を公布した。主要な変更
点は外国投資家を誘致するため,消極的な戦略から積極的な戦略に変更することである。新たな枠組
みは,①更なる投資誘致,②法的枠組みの近代化,③契約選択の段階的な適用及び④外国資本誘
致のための新機関の創設の4本柱に基づく。現在までの外国直接投資にかかる政令600号(DL600)は,
現政権によればチリにおける現在のニーズを満たさないため,2014年9月に可決された税制改革法の一環
として2015年末をもって廃止される。
(4)労働改革法案の下院通過
6月17日,審議入りしてから6か月後,下院は上院に政府の労働改革法案を送付した。各個別の条
文に関する投票では,第361条(ストライキ権の行使が禁止される企業の定義)を除き全条文が可決さ
れた。ストライキ実施中における労働者の代替採用,ストライキ中における最低限のサービスに関する記述
ぶり及び雇用に及ぼしうる影響の3点が下院審議中最も議論が分かれた課題であった。
(以上)
5