Team approach with smile 〜重度高次脳機能障害患者が本来の自分

第10回 健育会グループ
チーム医療症例検討会 in 熱川
演 題 名
Team approach with smile
~重度高次脳機能障害患者が本来の自分らしさを取り戻すまで~
施 設 名
医療法人社団 健育会 竹川病院
発 表 者
○佐藤 千恵子・大村 倫加・菊池 舞・西村 嘉奈子・田村 政子
概
要
【はじめに】回復期リハビリテーション入院基本料
Ⅰの病棟においては、施設基準の要件の一つとして
30%以上の重症者を受け入れており、
思うようにリハ
ビリの介入が出来ないこともある。意思疎通がとり
にくい A 氏に対し、様々なニードが満たされないが
故に不満を感じ、その結果が「不穏」という状態に
なるのではないかと考えた。単独の職種では対応に
限界があり、チームでケアを統一した結果、予測以
上の改善を遂げた症例を経験したので報告する。
【症例紹介】A 氏、88 歳、元弁護士の男性。自宅で
転倒し、脳挫傷・急性硬膜下血腫・外傷性くも膜下
出血のため、重度の高次脳機能障害、失語症、せん
妄を認める。左耳難聴があり補聴器を使用しても意
思疎通が難しい状態であった。
前院では体幹ベルト、
両手ミトン、ツナギ着用していた。家族はチューブ
類の自己抜去や転倒・転落に対する不安感が大きく、
身体拘束の継続を強く希望していた。
【治療(ケア)計画】リハビリ 150 日以内・耐性菌
治療・2 次障害の予防・看護ケア計画:ADL 拡大と理
解力不足に関連した危険を最小限にし、入院生活を
安全安心に過ごすことが出来る。
【経過】家族は前医と同じ抑制衣や体幹抑制を希望
したが、管類の自己抜去を防ぐミトンのみ継続とし
た。家族は転倒防止のための体幹抑制や弄便予防の
抑制衣を希望されたが、入院後即中止とした。意思
疎通の取れない中で、患者の要望を推測するため、
患者が発する声や行動に着目した。大声、ベッド柵
を揺する行為、下半身に触れる動作等、細かい行動
を患者が発するサインととらえ、その都度、どんな
要望を伝えたいのかを考えた。1 か月後、排泄と人
恋しさのサインが多いことがわかった。患者の要望
に沿ったケアをするよう、他職種で目標を統一し情
報共有を図りケアを実践した。転倒を案じる家族に
は経過説明を繰り返した。2 か月後にはトイレ誘導
が始まり経口摂取への取り組みもすすんだ。夜間の
大声は続いたが、ベッドごとナースステーション前
に移動し、寂しさの緩和に努めた。転倒しやすい行
動はすべて排泄と関連していることが明らかになり、
終日のトイレ誘導をおこなった。3 か月経過し、経
口摂取も簡単な会話も可能となり、他者への労いの
言葉もきかれた。4 か月後退院時にはシルバーカー
歩行見守りレベルとなった。
【結果】A 氏は、自分からナースコールを押して知
らせる事は出来なかったが、センサーで患者の動き
をキャッチできた。自分の行きたい時にトイレに行
けるようになったA氏は「起きたい・車椅子に乗り
たい」など、その他の訴えも出来るようになった。
コミュニケーションの改善が図られ、夜間大声を出
すなどの不穏症状も無くなり、家族の不安も消失し
ミトンを外す事が出来た。その後の転落も発生しな
かった。FIM は入院時 18 点から退院時 60 点まで改
善した。
【考察】今回、患者が大声を出すなどの看護者だけ
ではどうしようも出来ない事へのアプローチをどう
すべきか考える事にした。
大声を出す A 氏に対し
「他
の患者の迷惑になる」
「転落もしているし危ないか
ら」という理由でステーション前にベッドを移動し
て見守る事にした。ベッドサイドにマットレスを敷
いた事は、危険防止には繋がったが A 氏のニードや
気持ちに寄り添った看護ではなかった。ナイチンゲ
ールは「患者の欲求に寄り添った関わりをする」事
を提言している。A 氏がこういった行動を起こすの
は、認知症とは違う別の理由があるのではないかと
考えた。患者への視点を変え、A 氏が行動を起こし
た時に「どうして起きたいと思ったのか」問いかけ
を続けていくうちに、実はトイレに行きたいという
欲求が存在した事が分かった。それは普段、日常的
なケアに密に接する介護士ならではの気付きであっ
た。夜間帯に A 氏が体動を始めた頃を見計らい「ト
イレへ行きましょう」と誘導するケアを介護士が提
案、
段階を経てトイレでの排泄が成功する様になる。
今回の事例では、患者の細かなサインに注目する
ことで早期に患者の要望を捉え対応できた。患者、
家族に常に寄り添い、他職種で情報共有し、同じ目
標に向かってそれぞれの職種の力を最大限発揮する
ことにより、目覚ましい効果が得られたと考える。