日本人の食事摂取基準 2015 年版ダイジェスト

日本人の食事摂取基準
2015 年版ダイジェスト
日本人が健康を維持するために摂らなければならない栄養素とその量を示したガイドラインが
2010 年版と大きく様変わりした。策定目的に、生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎
臓病)の発症予防とともに重症化予防を加えた点に大きな特徴がある。また、エビデンスを基に管
理栄養士らが個々人の健康維持にどのように食事摂取基準を役立てて行くかが示されており、重症
化予防の考え方も参考資料として示されている。全ての項目で科学的根拠が列挙され、現状の栄養
学、日本人の栄養さらには保健機能食品やいわゆる健康食品/機能性表示食品の利用を検討する上で
の起点ともいえるレポートともなっている。以下はそのダイジェストである。
1. エネルギー:体格(BMI)が指標に
エネルギーの過不足の評価は食事記録やエネルギー必要量推定式ではなく「摂取量と消費量の
差を」の原点に立ち返った。これを最も明確に示すには体重の増減であり、長期的には身長と
体重のバランス(体格)を健康的に維持することが重要であるとして BMI(*)を指標とした。成
人期を3つの区分に分け、目標とする BMI の範囲を提示した。肥満とともに、特に高齢者では
低栄養の予防の重要性が記述されている。適切な BMI の範囲が総死亡率との関連について行わ
れた研究成果などから示された。その結果、これまでの常識は覆され、特に高齢者は BMI が 22
以上になると寿命にほとんど差がないが、20 を下回ると急激にリスクが上昇する。BMI が 25 を
上回っても死亡率は変わらないが、管理しなければならない疾患が増加するため、70 歳以上の
人達の目標は BMI 21.5~24.9 とされた。高齢者では BMI が 21.5 より低い人たちが 1/3 を占め
ており、将来的に虚弱(Frailty フレイリティ)が懸念される。
(*)Body Mass Index の略で、体重(kg)を身長(メートル)で二回割った値(kg/m2)
。
 私見:身長の変化が少ない世代の人達にとっては体重の変化が一義的に重要であること
を改めて認識しなければならない。
2. 栄養素の指標:推定平均必要量あるいは目標量
エネルギー源としてだけではなく、体の構成分である蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルなど
の各種栄養素については 2010 年版とは変わらず推定平均必要量(EAR)を指標としている。し
かし、食塩、脂質並びに食物繊維については変更点がある。
1) 食塩(Na)の目標量引き下げ
推奨量の設定はなされず、生活習慣の重症化を防ぐための目標量が定められた。WHO の推奨
値と日本人の摂取量の間を取って、男性 8.0g 未満/day、女性 7.0g/day とした。2010 年版
と比較して男性で 1.0g、女性で 0.5g 下がった。
 私見的補足:食塩 8g は薄口しょうゆ約 50ml(濃口では食塩 7g)に相当する。
http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/salt.html
ちなみに、しょうゆラーメンの食塩含量は 5~6gとされている。
http://www.shoroku.net/food/ramen.htm
2) コレステロールの目標量はなくなる
脂質については摂取不足を避けるために脂質、n-6 系脂肪酸、n-3 系脂肪酸について目安量
が定められた。特にコレステロールについては、米国の食事ガイドライン案(2015 年 2 月
公表)が「コレステロールは、過剰摂取が問題となる栄養素ではない」と記述し、300mg/day
という推奨上限値を撤廃した。日本での見解は米国のそれとかなり異なっている。
① 経口摂取されるコレステロールが体内で合成されるコレステロールの 1/3~1/7 を占め
るにしか過ぎないことを示し、摂取量が血中総コレステロールに反映されるわけではな
いことを説明している。
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② コレステロールの摂取量と癌リスクに正の相関があることも説明し、欧米での対象研究
の報告を引用しながらも「目標量を算定するに十分な根拠は得られなかったことから、
目標量の算定を控えた」と記述している。
③ 高齢者への注意としてコレステロール摂取を制限すると動物性タンパク質摂取量が低
下して低栄養となることを喚起している。
④ 10 年版では EPA や DHA についても記述が行き届いており、目標量も設定されていたが、
15 年版ではそれが無くなった。理由として、摂取量と冠状動脈疾患に負の関連がある
とする報告が多い一方で、メタアナリシス(*)で明らかな予防効果が認められないこと
を挙げている。
⑤ 脂質関係での特徴とし、大切なのは必須脂肪酸である n-6 系と n-3 系の脂肪酸であり、
間違ってもトランス脂肪酸や EPA/DHA など、より細かな部分から話し始めないようにと、
世の風潮に警鐘を鳴らしている。
(*)システマティックアナリシスとほぼ同義。
3) 食物繊維の目標量、小児も設定
従来からの成人の目標量に加えて小児(6-17 歳)の目標量も設定された。小児についての
研究が増加してきたことに加え、
小児期から生活習慣病予防を意識して食習慣を作っておく
ことを目指す観点からである。トクホなどで目標量の算定に用いられた研究の多くは通常の
食品に由来する食物繊維であり、
通常の食品の代わりに同じ量の食物繊維をサプリ等によっ
て摂取しても策定検討会報告書に示されているものと同等の健康利益を期待できる保証は
ない、と記している。
3. 生活習慣病重症化予防のための具体策
2010 年版までは食事摂取基準策定の目的は国民の健康の保持増進や生活習慣病の発症予防のた
めであったが、15 年版では生活習慣病の重症化予防を視野にいれたことも大きな特徴である。
項目ごとに重症化予防のためにどう基準を用いるかが記されている。
(これに関しては、管理栄
養士など保健医療関係者向けの記述なので、ここでは割愛した)
一方で、食品の機能性に関する記述が目立っている。例えば高齢者のくだりでは、1)酸化作
用と関連のある栄養素、2)ホモシステインとこれに関するビタミン、3)認知機能低下およ
び認知症と栄養の関係など、興味深い項目が並び、さまざまな文献を挙げて説明している。し
かし「十分な科学的根拠は得られておらず、文献的考察にとどめた」としたものが殆どである。
15 年版に関わった栄養学者の大勢が食品成分の個別の機能性について慎重であることをうかが
わせる。
私見:追記すべき特徴として、ライフステージ別の留意点が、妊婦・授乳婦、乳児、小児、高齢者
ごとに記述されている点であろう。レビューの方法の項では「他の医学分野と異なり、エビデンス
レベルを判断し明示する方法は、人間栄養学、公衆栄養学、予防栄養学では十分に確立していない」
ことを前提に行われ、従来の健康栄養研究の課題に取組んだ成果であると評価することができる。
主な参考文献
1. 厚生労働省:日本人の食事摂取基準
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/syokuji_kijyun.html
2. 厚労省・食事摂取基準(2015 年)策定検討会報告書
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000083869.pdf
以上(文責松尾:7/9/15)
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