(ウェブ公開版) 第 55 回真空夏季大学 演習 I, I I, I I I 問題 [解説] 重要な定数 名称 記号 値 ボルツマン定数 気体定数 アボガドロ数 k R NA 1.381 × 10−23 J K−1 8.314 J mol−1 K−1 6.022 × 1023 個 mol−1 2015年 日本真空学会 真空夏季大学演習 演習 I 1 I - 1. 気体の質量 1 気圧 0の窒素 1 m3 の質量はいくらか.窒素の mol 質量を 28 g·mol−1 とする. 【解】 1 気圧 0 ℃で 1 mol の気体の体積は 22.4 L なので, 1 m3 × 28 g·mol−1 = 1.25 kg 22.4 L·mol−1 または,pV = νRT より, ν × 28 g·mol−1 = pV 1.013 × 105 Pa × 1 m3 × 28 g·mol−1 = × 28 g·mol−1 = 1.25 kg RT 8.314 J·K−1 ·mol−1 × 273K 1997 年に標準状態(STP:Standard Temperature and Pressure)が 0,1bar に変更されたため,その 体積は 22.7 L になると教わった人がいるかもしれない.この問題は(旧)STP,つまり 1 気圧(1.013 bar) なので 22.4 L である. I - 2. 圧力の単位変換 以下の圧力を Pa 単位で表しなさい. 3.65 mbar, 2.7×10−4 Torr, 0.58 atm, 0.3 MPa ♣ 気体の圧力 1 mbar = 100 Pa, 1 Torr = 133.3 Pa, 1 atm = 1.0133×105 Pa 【解】 3.65 mbar = 3.65 mbar × 100 Pa = 3.65 × 102 Pa 1 mbar 2.7 × 10−4 Torr = 2.7 × 10−4 Torr × 0.58 atm = 0.58 atm × 133.3 Pa = 3.6 × 10−2 Pa 1 Torr 1.0133 × 105 Pa = 5.9 × 104 Pa 1 atm 0.3 MPa = 0.3 × 106 Pa = 3 × 105 Pa 注.有効数字の桁数を問題に与えられた数値のそれにそろえてある. I - 3. 気体分子の速度 空気の主成分である窒素の 25における分子の平均速度を求めなさい. 【解】 窒素の mol 質量を 28 g·mol−1 として,窒素分子の質量 m は, m= 28 g·mol−1 = 4.65 × 10−26 kg 6.02 × 1023 mol−1 真空夏季大学演習 演習 I 2 なので, √ v̄ = √ 8kT = πm 8 × 1.38 × 10−23 J·K−1 × 298K = 4.75 × 102 m·s−1 π × 4.65 × 10−26 kg I - 4. 平均自由行程 25 ℃の空気の平均自由行程が次の寸法よりも小さくなる圧力をそれぞれ求めなさい. ( a ) 研究用の真空容器の代表的な直径 30 cm ( b ) ガス導入に用いるステンレススチール配管の内径 3 mm ( c ) 真空フランジのシール部に発生する漏れ傷の幅の想定値 3 µm ( d ) ハードディスクのヘッドとディスク距離の典型値 30 nm 【解】 25 ℃の空気の圧力 p での平均自由行程 λ は, λ= 6.6 mm·Pa p なので,平均自由行程がそれぞれの寸法 D より小さくなる圧力 p は,一般に, λ= 6.6 mm·Pa 6.6 mm·Pa <D ⇔ <p p D と求められる.よって,それぞれの D に対して, ( a ) p > 2.2 × 10−2 Pa ( b ) p > 2.2 Pa ( c ) p > 2.2 × 103 Pa ( d ) p > 2.2 × 105 Pa I - 5. 入射頻度 気体の入射頻度は,圧力 p,温度 T ,気体分子の質量 m を用いて次の式で表されることを示しなさい. Γ =√ p 2πmkT 1 ただし, nv̄ を出発点とする. 4 また温度 T = 300 K,圧力 p = 2.5 × 10−7 Pa の水(H2 O)についてその値を求めなさい. ♣ 【解】 入射頻度 √ 8kT 1 Γ = nv̄, p = nkT, v̄ = ,水の mol 質量 = 18.0 g·mol−1 . 4 πm 真空夏季大学演習 演習 I 3 入射頻度は,以下の様に変換される. √ 1 1 p 8kT p pNA Γ = nv̄ = =√ =√ 4 4 kT πm 2πM RT 2πmkT 300 K, 2.5 × 10−7 Pa の水蒸気では, Γ =√ 2.5 × 10−7 Pa −3 kg mol−1 2π 18.0×10 6.02×1023 mol−1 × 1.38 × 10−23 J K−1 × 300 K = 9.0 × 1015 個 m−2 s−1 または, Γ =√ 2.5 × 10−7 Pa × 6.02 × 1023 mol−1 2π · 18 × 10−3 kg · mol−1 × 8.314 J · mol−1 · K−1 × 300 K = 9.0 × 1015 個 · m−2 · s−1 I - 6. 流量とコンダクタンス コンダクタンス C = 5.6 ×10−3 m3·s−1 の配管の両端の圧力が,p1 = 2.8 ×10−4 Pa,p2 = 4.5 ×10−5 Pa のとき,配管を通過する気体の体積流量 Q [ Pa·m3 ·s−1 ] を求めなさい. ♣ 流量とコンダクタンス Q = C∆p. 【解】 式に各値を代入して, ( ) Q = C (p1 − p2 ) = 5.6 × 10−3 m3 s−1 2.8 × 10−4 Pa − 4.5 × 10−5 Pa = 1.3 × 10−6 Pa m3 s−1 I - 7. 実効排気速度 真空容器に,コンダクタンス C = 0.04 m3 ·s−1 の配管を介して,排気速度 S = 0.25 m3 ·s−1 の真空ポ ンプを取り付けたときの,真空容器に対する実効排気速度 Seff を求めなさい. 【解】 Seff = SC 0.25 m3 ·s−1 × 0.04 m3 ·s−1 = 0.034 m3 ·s−1 = S+C 0.25 m3 ·s−1 + 0.04 m3 ·s−1 I - 8. 気体分子数 内容積 V = 0.027 m3 の真空容器内の圧力が p = 1.0 × 10−4 Pa,温度が T = 300K であるとする.容 器内の空間にいる気体分子の数 NV を求めなさい. 【解】 NV = 1 × 10−4 Pa × 0.027 m3 pV = = 6.5 × 1014 個 kT 1.38 × 10−23 J·K−1 · 個−1 × 300K 真空夏季大学演習 演習 II 4 ボルツマン定数 k の単位は原子・分子 1 個当たりであることから厳密には, 「J· 個−1 ·K−1 」であるが,通 常「個」だけを省略して表記する.この問題では, 「個」という単位がどこから生ずるかを明らかにする ため,元の詳しい単位表記をした. I - 9. 吸着分子数 内表面積 A = 0.54 m2 の真空容器の内表面に気体分子が一分子層の厚さで付いているとする.分子 の大きさを 0.32 nm として,分子は図のように規則正しく密接して正方格子状に吸着しているとする. 容器表面に存在する分子の数 NS を求めなさい. a 【解】 気体分子 1 個当たりが表面上に占める面積は,一辺 a の正方格子状に並んでいる場合,図のように a2 であるから, NS = 0.54 m2 = 5.3 × 1018 個 (0.32 nm)2 個−1 II - 1. 気体の平均速度に関する問題 ( a ) 20 ℃の窒素および水素の平均分子速度を求めよ.また,油拡散ポンプの作動液である DC-705 (分子量 546)の蒸気の温度が 200の時の平均分子速度はいくらか. ( b ) ターボ分子ポンプは回転翼の速さが大きくなるほど最大排気速度や最大圧縮比が大きくなる. ターボ分子ポンプの回転翼端の直径を 12 cm としたとき 20 ℃の窒素ガスの平均速度と回転翼端 の速度を等しくするためには毎分何回転 (rpm) で運転すればよいか.また,回転翼端の直径が 50 cm の場合にはいくらか. 【解】 ( a ) 窒素分子の分子量は 28.0 で,分子の質量 m は m= 28.0 × 10−3 kg mol−1 = 4.65 × 10−26 kg 6.02 × 1023 mol−1 平均速度は,以下の式に数値を入れて計算すると, √ v̄ = 8kT = 4.71 × 102 m·s−1 πm 水素分子の分子量は 2.02 で,同様に計算すると,v̄ = 1.8 × 103 m·s−1 . 分子量 546 の DC-705 では,v̄ = 1.4 × 102 m·s−1 ( b ) 回転翼端の直径を d,回転数を f とすると,翼端の速度 u は, u = πdf 真空夏季大学演習 演習 II 5 d = 12 cm で,u = v̄ = 4.71 × 102 m·s−1 となる f は f= 4.71 × 102 m·s−1 u = = 1.25 × 103 s−1 = 7.5 × 104 rpm πd 3.14 × 1.2 × 10−1 m d = 50 cm の時も同様に計算して, f = 1.8 × 104 rpm II - 2. 平均自由行程に関する問題 −6 300 K の真空容器内に窒素ガスを導入する.この真空容器内の圧力が,1 気圧および 1 × 10 Pa のと き,各々の圧力における平均自由行程を求めなさい.また,1 個の分子が他の分子と衝突する回数は 毎秒いくらになるか,計算しなさい.さらに,得られた平均自由行程は分子直径のおよそ何倍になる か求めなさい. 【解】 平均自由行程 λ は,分子直径を d とすると, kT 1 =√ (p = nkT より) 2πd2 n 2πd2 p 1.381 × 10−23 J·K−1 × 300 K 6.6 × 10−3 =√ = m p [ Pa ] 2π(3.75 × 10−10 m)2 × p [ Pa ] λ= √ したがって, 1 気圧では 6.6 × 10−8 m, 1 × 10−6 Pa では 6.6 × 103 m 分子–分子の衝突頻度は ϕ = ここで,平均速度 vN2 は √ vN2 = v̄ −1 [s ] λ v u 8kT u 8 × 1.381 × 10−23 J·K−1 × 300 K =u = 4.8 × 102 m·s−1 t πm 28.01 × 10−3 kg·mol−1 π× 6.022 × 1023 mol−1 したがって, 1 気圧では 7.3 × 109 s−1 , 1 × 10−6 Pa では 7.3 × 10−2 s−1 最初に得られた λ と N2 の分子直径の比 λ は, d 1 気圧では 180 倍, 1 × 10−6 Pa では 1.8 × 1013 倍 真空夏季大学演習 演習 II 6 II - 3. 表面に入射する分子に関する問題 温度 20の大きな真空容器内に温度 77 K に保った表面積 0.1 m2 の板が置かれている.真空容器内の 気体分子はすべてヘリウムガスであり,圧力は 1 × 10−4 Pa である. ( a ) 単位時間内に 77 K の板に入射する気体分子の個数を求めなさい.ただし,板に入射する気体の 温度は真空容器の温度と同じとする. ( b ) 熱的適応係数を 0.22 とするとき,板から反射する気体分子の温度は何度になるか. ( c ) 表面に入射あるいは反射する気体分子の平均エネルギー E と温度 T の関係は,E = 2kT で表 すことができる.ヘリウムガスの入射および反射によって 77 K の板が受け取る正味のエネル ギーは単位時間あたりいくらになるか. 【解】 ( a ) 入射頻度を Γ とすると,単位時間当たりの入射分子数は 1 pA Γ A = nv̄A = √ 4 2πmkT =√ 10−4 Pa 4.003 × 10−3 kg·mol−1 2π × × 1.381 × 10−23 J·K−1 × 293.15 K 6.022 × 1023 mol−1 = 7.69 × 1017 s−1 ( b ) 入射ガス分子,板,反射ガス分子の温度を Tg , Ts , Tr とすると,α = × 0.1 m2 Tr − Tg より Ts − Tg Tr = Tg + α(Ts − Tg ) = 293.15 K + 0.22 × (77.00 K − 293.15 K) = 245.60 K ( c ) 入射ガス分子と脱離ガス分子の平均エネルギーの差が板の受け取るエネルギーである. E = Γ A(Eg − Er ) = Γ A × 2k(Tg − Tr ) = 7.69 × 1017 s−1 × 2 × 1.381 × 10−23 J·K−1 × (293.15 K − 245.60 K) = 1.0 × 10−3 Js−1 II - 4. 気体分子数に関する問題 窒素でパージ後,排気を開始した球形真空容器がある.真空容器の空間に存在する窒素 分子数 NV に対する容器内表面に単分子層として吸着している分子数 NML の比率を,圧力が 100 Pa,10−1 Pa, 10−5 Pa および 10−10 Pa である場合について求めなさい.ただし,容器の内直径は 300 mm,容器温 度は 23,窒素の単分子吸着層の形成に必要な分子数は 8 × 1014 個 ·cm−2 とする. 【解】 テキスト 2015 年版 B-3 参照. 容積 V 中の温度 T の気体分子の数 NV は圧力を p とすると NV = pV kT 真空夏季大学演習 演習 III 7 表面積 A に形成された単分子層に含まれる分子の総数 NML は単位面積あたりの分子数を σm として NML = σm A したがって,両者の比率は単位に注意して計算すると, 2 2 −23 J·K−1 × 296 K 8.0 × 1018 個 ·m−2 × 4π( 0.3 NML σm AkT 0.65 Pa 2 ) m × 1.381 × 10 = = = 4 0.3 3 3 NV pV p p [ Pa ] × 3 π( 2 ) m よって,それぞれの圧力では 圧力 [ Pa ] 比率 100 6.5 × 10−3 0.1 6.5 10−5 6.5 × 104 10−10 6.5 × 109 すなわち,圧力が低くなると気体分子はほとんど容器表面に吸着していることを示している. II - 5. 熱遷移と真空計に関する問題 図のように温度の異なる2つの真空容器がパイプで繋がれており,それぞれの真空容器には同種の真 空計が取り付けられている.系全体が分子流領域にあるとき,真空計の種類が (a) 隔膜真空計,(b) ス ピニングロータ真空計,(c) 電離真空計の場合について,圧力の指示値の比を求めなさい. なお,2つの真空容器の温度は T1 ,T2 とし,真空計センサ部の温度はそれぞれの真空容器の温度に等 しいとする. T1 T2 G1 G2 【解】 分子流領域における定常状態では,パイプの両側における入射頻度が等しい. 1 1 n1 v1 = n2 v2 4 4 p1 p2 すなわち,√ = √ T1 T2 ( a ) 隔膜真空計は隔膜の表裏に作用する力の差,すなわち圧力差 p を測定している. √ p T1 1 出力 ∝ p ··· = p2 T2 ( b ) スピニングロータ真空計は,気体の粘性力 f を測定している. √ / M p1 p f1 · √2 = 1 出力 ∝ f ∝ p =√ · · 2πRT f2 T1 T2 ( c ) 電離真空計は気体分子の密度を n を測定している. √ / p1 p2 n1 T2 · = = 出力 ∝ n · · n2 T1 T2 T1 真空夏季大学演習 演習 III 8 III - 1. 気体の混合に関する問題 図のように体積が 1.0 m3 の 2 つの真空容器が,自由に開閉できる面積 1.0 cm2 の小さなアパーチャー を介して接続されているとする.それぞれの容器は独立して温度を変えられるとし,中央の接続部の 厚みは無視する.また,気体分子の反応,吸着,脱離,リーク,アパーチャーの開閉時の脱ガス,開 閉に要する時間は無視し,気体分子は剛体球で近似できるとして次の問いに答えなさい. A B He Xe 3 3 VA=1.0 m VB=1.0 m -3 pA=1.0x10 Pa TA=300 K -3 pB=1.0x10 Pa TB=300 K (a) 今,中央のアパーチャーが閉じられていて,A にはヘリウム (原子量 4.003,分子直径 0.218 nm) のみ,B にはキセノン (原子量 131.3,分子直径 0.485 nm) のみがそれぞれ入っており,圧力はど ちらも 1.0 × 10−3 Pa,温度は 300 K である.分子の衝突に関する平均自由行程を容器 A および 容器 B についてそれぞれ求めなさい. (b) ある時,中央のアパーチャーを開いた.その瞬間における,アパーチャーに入射する単位時間当 たりの分子数を,容器 A 側と容器 B 側についてそれぞれ求めなさい. (c) アパーチャーを開いた後,容器 A の全圧はどの様に変化するか?次の中から選びなさい. (1) 変化しない (2) 増大して一定値に近づく (3) 減少して一定値に近づく (4) 一度増大した後,減少して一定値に近づく (5) 一度減少した後,増大して一定値に近づく (d) アパーチャーを開いてからじゅうぶん時間が経って平衡状態になった後,容器 A だけを 100 K ま で冷却した.じゅうぶん時間が経って再び平衡状態になった後の容器 A と B 内のヘリウム分圧の 比 (pA /pB ) および分子数の比 (NA /NB ) をそれぞれ求めなさい.その間,各容器の温度は変化し ないとする. (e) 1.0 気圧のヘリウムガスを容器 A と B の両方に満たしてから問 (d) と同じように,容器 A のみを 100 K に冷却した場合,容器 A と B 内のヘリウム分圧の比 (pA /pB ) および分子数の比 (NA /NB ) はいくらになるか.それぞれ求めなさい. 【解】 (a) 容器 A 内のヘリウムガスの平均自由行程は λHe = √ kT 1.381 × 10−23 JK−1 個−1 × 300 K 1 √ = = √ 2 n 2 p 2πσHe 2πσHe 2π × (0.218 × 10−9 m)2 × 10−3 Pa He He = 19.62 · · · m ≈ 20 m 平均自由行程は,温度と圧力が等しければ分子直径の二乗に反比例する.従って容器 B 内のキセノ ンガスの平均自由行程は ) ( 0.218 2 = 3.96 · · · m ≈ 4.0 m λXe = λHe × 0.485 真空夏季大学演習 λ≫ √ 3 演習 III 9 1 m3 なので,どちらの容器でも分子条件が成り立っていると考えられる. (b) 容器 A については p·S 1 ΓA,300K · S = nv̄He · S = √ 4 2πmHe kT 10−3 Pa × 10−4 m2 =√ −3 kg·mol−1 2π × 4.003×10 × 1.381 × 10−23 J·K−1 · 個−1 × 300 K 6.022×1023 個·mol−1 = 7.602 · · · × 1015 個 ·s−1 ≈ 7.6 × 1015 個 ·s−1 容器 B については √ p·S mHe 1 15 −1 = 7.60 × 10 個 ·s × ΓB,300K · S = nv̄Xe · S = √ 4 mXe 2πmXe kT √ 4.003 = 7.60 × 1015 個 s−1 × = 1.327 · · · × 1015 個 ·s−1 ≈ 1.3 × 1015 個 ·s−1 131.3 (c) (a) の結果からアパーチャーを開いた瞬間には A から B に入射するヘリウム分子数の方が B から A に入射するキセノン分子数よりも多いので,A 内の分子数が減少し圧力は下がる.じゅうぶん時間 が経つと各ガスについて平衡状態となり,A 内および B 内の分子数は等しくなるので A と B の圧 力は等しくなり,元の 10−3 Pa に戻る.従って (5) 一度減少した後,増大して一定値に近づく ことになる. ¶ 定量的に解析する.He について容器 A,B 内の分子数を NA (t), NB (t) とすると,まず N0 = NA + NB 孔を通じての気体分子の流量を考えて ṄA = − 1 τHe NA + 1 τHe NB = − 1 τHe NA + 1 τHe (N0 − NA ) = − 2 τHe NA + 1 τHe N0 であるから,初期条件 NA (0) = N0 より ( ) ( ) N0 N0 t N0 N0 t NA (t) = + exp − , NB (t) = N0 − NA = − exp − 2 2 τHe /2 2 2 τHe /2 ただし,τHe = V /(ΓV,He S) = 31.7 s(S = 1 × 10−4 m2 ,ΓV,He = v̄He = 315 m·s−1 ).Xe についても,同様 4 に考えて τXe = 181.8 s として, ( ( ) ) N0 t N0 N0 t N0 ′ ′ − exp − + exp − , NB (t) = NA (t) = 2 2 τXe /2 2 2 τXe /2 ∗ は 従って,容器 A 内の全分子数 NA ( ( ) ) N0 t t N0 = N0 + = NA + exp − exp − − 2 τHe /2 2 τXe /2 ( ( [ ) )] N0 t t 1 1 ṄA∗ = exp − exp − − + 2 τHe /2 τHe /2 τXe /2 τXe /2 NA∗ NA′ t ∼ 0 においては NA∗ (t) ∼ N0 − N0 t τ∗ 1 1 1 1 = − = τ∗ τHe τXe 38.5 真空夏季大学演習 演習 III 10 ṄA∗ = 0,すなわち NA∗ が極小となる時間 tm は, ( ) ( ) 1 t 1 t 0=− exp − + exp − τHe /2 τHe /2 τXe /2 τXe /2 [ ] ([ ] ) τXe 1 1 τXe / 2 = 33.5 s = exp − + 2t ∴ tm = log τHe τXe τHe τHe τ∗ 2 p / p0 1.5 1 £ 0.5 0 0 100 200 300 400 500 t [s] (d) アパーチャーを開いてからじゅうぶん時間が経った後,冷却前には A と B のなかのヘリウムの分圧 と分子数は等しくなっている.この状態から冷却を始めて充分時間が経つと、A から B へ入射する 分子数と B から A へ入射する分子数が等しくなる.入射頻度は Γ =√ p p ∝√ T 2πmkT であるので, p p √A = √B TA TB pA ∴ = pB √ TA = TB √ 100 1 =√ 300 3 また, 1 1 Γ = nv̄ = n 4 4 √ √ 8kT ∝n T πm とも書ける.A と B の体積は等しいので結局, √ √ NA TA = NB TB であり,分子数は温度の平方根に反比例する. √ √ NA TB 300 √ = = = 3 NB TA 100 つまり,分子流領域では低温側 (A) の方が圧力は低く,密度は高い ことがわかる. (e) 1 気圧のヘリウムガスの場合,分子条件が成り立たない. (粘性流領域) 粘性流領域では,局所的な圧力の平衡が成り立ち, pA = pB よって pA =1 pB 真空夏季大学演習 演習 III 11 また N= pV kT より TB 300 NA = = =3 NB TA 100 つまり 粘性流領域では,圧力が等しくなり,分子数は温度に反比例する. III - 2. 希薄気体の熱伝導:多層断熱 図のように N + 2 枚の十分に広い平行平板があり,互いに接触せず配置されている.i = 0 番目, i = N + 1 枚目の温度はそれぞれ Th , Tc であり,Th > Tc の状態である.平板のある空間が平板間の間 隔に対して分子流条件が成立する圧力 p の気体で満たされているとき,気体分子の運動の自由度を f , 質量を m,ボルツマン定数を k として,以下の問いに答えなさい. T0 = Th T1 T2 T3 i=0 i=1 i=2 i=3 Q TN+1 = Tc i = N+1 ( a ) i = 0 から i =√ N + 1 の板に向かって,単位面積あたり Q の熱伝導量があるとき,i = 1 の板の 温度の平方根 T1 が √ √ √ Q 2πm T1 = Th − (f + 1)p k となることを示しなさい.熱放射による熱伝導は無視し,熱的適応系数は 1 として計算を行い なさい. ヒント:テキスト A-27 ページ,2-39 式を使う. ( b ) i 番目の板の温度の平方根 √ Ti を f, i, k, m, p, Q, Th を用いて表しなさい. ( c ) N 枚の中間板を挟むことで,熱伝導量が 1/(N + 1) になることを示しなさい. ヒント:(b) の解答に i = N + 1 を代入し,Q について解く. 【解】 ( a ) 自由分子熱伝導の式 TA , TB に Th , T1 を代入して, √ √ (√ √ ) (√ √ ) Th + T1 Th − T1 f +1 k 2 k √ p(Th − T1 ) = (f + 1) √ √ √ Q= p 2 2πm Th + T1 2πm Th + T1 √ (√ √ ) k = (f + 1) Th − T1 p 2πm √ √ √ Q 2πm T1 = Th − ∴ (f + 1)p k 真空夏季大学演習 演習 III 12 ( b ) 2 番目の板の温度の平方根は (a) と同様に計算すると, √ √ √ Q 2πm T2 = T1 − (f + 1)p k √ T1 に (a) の答えを代入すると, √ √ √ Q 2πm T2 = Th − ×2 (f + 1)p k √ 同様に計算してやると i 番目の板の温度の平方根 Ti は, √ √ √ 2πm Q i Ti = Th − (f + 1)p k √ TN +1 = Tc を代入して Q について解いてやると, √ √ √ √ Q 2πm TN +1 = Th − (N + 1) = Tc (f + 1)p k √ √ √ k Th − Tc ⇔ Q = (f + 1)p 2πm N + 1 1 ∴ Q∝ N +1 ( c ) (b) の答えの式に i = N + 1, √ 上式より,N 枚の中間板を挟むことで,熱伝導量が 1 になることがわかる. N +1 III - 3. 吸着に関する問題 2 充分圧力の低い真空容器内に,表面積 0.1m のガラス板が置かれている.キセノン (Xe) ガスを導入 して容器の圧力を 1 × 10−5 Pa に保った.Xe の脱離の活性化エネルギー Ed を 3.75 × 10−20 J 個−1 , τ0 = 1.2 × 10−13 s,凝縮係数を 1 ,mol 質量を 131.3 g mol−1 として以下の問いに答えなさい. ( a ) Xe ガスとガラス板がともに 300 K で,ガラス表面吸着相の Xe と気相中の Xe の間に吸着平衡 が成立しているときのガラス板上の Xe 吸着量(個 m−2 )を求めなさい. ( b ) (a) の状態で,Xe ガスは 300 K (真空容器を 300 K) に保ったまま,ガラス板を 200 K に冷却 した.冷却直後にガラス板が Xe に対して持つ排気速度を求めなさい. ( c ) (b) の状態で充分時間がたつと,再び吸着平衡が成立した.このときのガラス板上の Xe 吸着量 (個 m−2 )を求めなさい.ただし,真空容器内の Xe の圧力は 1 × 10−5 Pa に保たれていると する. 【解】 ( a ) 入射頻度の式より 300 K での入射頻度を計算: 1 p Γimp = nv̄ = √ 4 2πmkT =√ 1 × 10−5 Pa −3 kg mol−1 2π 131.3×10 6.02×1023 mol−1 × 1.38 × 10−23 J K−1 × 300 K = 1.33 × 1017 個 ·m−2 ·s−1 真空夏季大学演習 演習 III 13 300 K での滞在時間を計算: ( ) Ed τ300K = τ0 exp kT = 1.2 × 10−13 s × exp ( 3.75 × 10−20 J 1.38 × 10−23 J K−1 × 300 K ) = 1.03 × 10−9 s 吸着平衡が成立しているので,凝縮係数を c とすると, σ = cΓimp τ300K よって σ = cΓimp × τ300K = 1.37 × 108 個 ·m−2 . ( b ) 200 K での滞在時間 ( τ200K = τ0 exp = 1.2 × 10 Ed kT −13 ) ( s × exp 3.75 × 10−20 J 1.38 × 10−23 J K−1 × 200 K ) = 9.5 × 10−8 s ガラス板からの気体分子の脱離速度 Γdes は Γdes = σ τ200K 1.36 × 108 個 ·m−2 = = 1.4 × 1015 個 ·m−2 ·s−1 9.5 × 10−8 s 入射は (a) で求めた入射頻度.よってその差 Γads は Γads = Γimp − Γdes = 1.33 × 1017 個 ·m−2 ·s−1 − 1.4 × 1015 個 ·m−2 ·s−1 = 1.32 × 1017 個 ·m−2 ·s−1 板の面積を A とすると, 流量 = Γads × A × kT 排気速度 = 流量/p よって排気速度 S は S= Γads × A × kT 1.32 × 1017 個 ·m−2 ·s−1 × 0.1 m2 × 1.38 × 10−23 J K−1 × 300 K = p 1 × 10−5 Pa = 5.47m3 s−1 ( c ) 入射するガスは 300 K,脱離は 200 K で両者が平衡にあるとして σ200K = cΓimp × τ200K = 1.33 × 1017 個 ·m−2 ·s−1 × 9.5 × 10−8 s = 1.26 × 1010 個 ·m−2 真空夏季大学演習 演習 III 14 III - 4. 偏向磁場型質量分析装置の原理 偏向磁場型質量分析装置の概略構造を図に示す.イオン生成部では残留ガス等をイオン化し,加速電 極でパルス的にイオンを引き出す.そこで加速されたイオンは偏向電磁石の作る紙面垂直方向の磁場 で曲げられ,偏向電磁石の半径 r と一致するように運動するイオンが検出部に到達する.イオンの質 量:m,加速後のイオンの速度:v0 ,電荷数:z ,素電荷:e,加速電圧:V ,偏向磁場:B としたとき, 以下の問いに答えなさい. イオン生成部 偏向電磁石 B +V 0 r イオン検出部 ( a ) 加速電極により加速されたイオンの速度 v0 を求めなさい. ( b ) イオンの軌道半径が r となる質量電荷比 m/z と偏向磁場 B ,加速電圧 V の関係を求めなさい. ( c ) V = 5 kV,r = 0.5 m のとき,He+ が偏向電磁石部を通過するために必要な偏向磁場 B [ T ] を 求めなさい.ここで,e = 1.60 × 10−19 C,m = 6.65 × 10−27 kg とする. ( d ) (c) のとき,イオン検出部で測定された He+ のイオン電流が 10 nA であった.理想気体の状態方程 式 pV = N kT を用いて,このイオン電流に相当する気体の流量 Q [ Pa·m3 ·s−1 ] を概算しなさい. ここで,N:気体分子の数,k:ボルツマン定数,T:気体の絶対温度であり,k = 1.38×10−23 J·K−1 , T = 300 K とする.また,He+ のみがイオン検出部に到達していることとする. 【解】 1 ( a ) イオンは加速電極で zeV のエネルギーを得るため, mv02 = zeV が成り立つ.したがってイオン 2 の飛行速度は, √ 2zeV v0 = m となる. ( b ) 遠心力とローレンツ力の釣り合いの式 m が B 2 /V に比例することがわかる. v02 = zev0 B ,および問 (a) の解から次式が得られ,m/z r er2 B 2 B2 m = ∝ z 2V V √ 1 2mV (c) B = に数値を代入し,必要な磁場は 4.1 × 10−2 T となる. r ez ( d ) 毎秒 1.0 × 10−8 C の電荷量がイオン検出部に到達していることから,毎秒 1.0 × 10−8 /1.6 × 10−19 = 6.25 × 1010 個の He+ がイオン検出部に到達している.したがって,イオン検出部に到達した He+ の数,ボルツマン定数,気体の絶対温度を理想気体の状態方程式 pV = N kT に代入し,流量 Q = 2.6 × 10−10 Pa·m3 ·s−1 が得られる.
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