考古学概論(学史と資料論) 第 2 回 高瀬克範 考古資料論(考古資料の

考古学概論(学史と資料論) 第 2 回 高瀬克範
考古資料論(考古資料の性質と資料批判)
1.考古学と考古資料
・考古学=過去の人類が残した物質資料に基づいて人類の過去を研究する学問(浜田 1922)
→考古学資料(考古資料)=物質資料
2.考古資料論[近藤(1976,2001)を手がかりに]
(1)考古資料の性質
・人は行動をとおして自然界に変化をひきおこす
・こうした変化のうち,こんにちまでモノとして残ったものが考古資料
・対象の自然物としての研究 + 行為の結果としての研究
・古環境の復元的研究
・行為もまた古環境をあらわす(ex.貝塚の貝の種構成の変化)
・労働の結果は直接映し出されるが,精神的活動は間接的
・文献史料(historical documents)=コピー可能,個人・集団の意思・感情をも具体的に伝達
・考古資料(archaeological materials)=自然物に対する改変行為の産物,沈黙資料,具体性
には乏しいが「発言」する
→もの言わぬモノに発言させるために,考古学の方法論が必要
3.考古資料の構造
(1)遺物
・「動産的」考古資料
・持ち運ぶことが可能で,移動されてもモノ自体の性質には変化はない
・製作物と非製作物に細分できる
→arifact と ecofact,非製作物としての遺物の認定には文脈依存性がある(ex.自然礫)
→その文脈を検証できる情報が記録されているか否か(発掘調査報告書)
(2)遺構
・「不動産的」考古資料
・特定の場所と不可分にむすびついており,切り離せない
・住居は完結的遺構,炉は部分的遺構,炉を構成する個々の石は遺物
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(3)遺物・遺構の諸関係
・遺物=製作→使用→破損→再加工→廃棄/遺棄/隠匿/安置→放置→埋没→発見
・他の遺物や遺構との一定の関係
・出土状態にも一定のパターン(完形,破損,まとめて廃棄,遺棄)
・遺物の諸関係も記録の必要
・遺構にも同様の関係がある
→考古資料はウソはつかないが,発掘調査の報告書で諸関係がどこまで記録されているかによ
って,研究での利用範囲や情報の精度がかわってくる。
→発掘調査報告書は,発掘調査の技術や調査者の問題意識の持ち方によって内容に大きなバラ
ツキがある=考古誌(五十嵐 2004)
→考古誌の批判的検討とその限界をおさえることが,考古資料の資料批判(ex. 掲載遺物の選択,
断層,)
(4)遺跡
・遺跡は一定の空間的拡がりのなかにある遺物・遺構群の集積か?
→否! 遺跡=遺物・遺構の諸関係の総体(すべての「関係」が保たれているもの)
→平面的位置関係,層位的位置関係,行為の結果としての位置関係,自然的・人為的改変の
結果としての位置関係…
・遺跡の価値=諸関係のどれほどが正確に把握されるかにかかっている
→より厳密にいえば,遺跡はもっと広大に,もっと網目状につながっているはず。考古学な
「遺跡」と,埋蔵文化財行政でいう「包蔵地」は同じようで違う概念(五十嵐 2004)
4.考古資料の分類概念
(1)型式(type)
・考古資料は千差万別で,同じものは二つとない(特殊性)
⇔ 個別性をこえた共通の物的特徴もある(普遍性)=型式(図 1)
・主体が生み出した思想・行動概念の具体化→共通性は集団の自己表現
・V・G・チャイルド
「ひとり製作者の頭脳の中だけではなく,個々の全成員に優越しいっそうの持続性をもつ社
会そのものの頭脳の中に存在しているという点で客観的である」
「具体的な個々人ではなく,そうした個々人が貢献してつくりあげた伝統をともにする人々
という抽象的な集団」
・型式として分類されてはじめて,空間的・時間的位置があたえられる
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・型式が集団,地域間の近縁性の指標となる
(2)種類(form)
・人間の目的・意図をみなす道具の物的特徴
・機能・役割の共通性によって分類された概念=「種類」,「形式」,器物のばあいは「器種」
・機能・役割による種類の設定,そのなかにいくつかの型式がふくまれる
・古墳時代後期の製塩土器の例(図 2)
・ベッドの例…身体を伸展させ就寝・休息するための機能をもつ道具
シングル,ダブル,子供,二段,病人用,外科用などの種類があり,それぞれ多様な型式を
ふくむ
・石鏃のうち,有茎,無茎,平基無茎,凹基無茎は種類の差か,型式の差か
→かりに大形獣用,小形獣用,鳥類用,対人用などのより限定された目的をもっていたら?
→かりに製作者ないし製作グループごとの趣向・くせのちがいであれば?
・考古資料=種類と型式双方の重層的区分と修正がたえず追求される
(3)型式の組合せ
・型式の組合せ
=ある集団の考古学的表現
=発掘をへてとらえられる「共存関係」(association)によって求められる
・遺跡の性格の違い,遺跡における部分の性格のちがいなどから,一例の共存関係からすべて
の型式の組合せをとらえることはできない
→共存関係の実例は多ければ多いほど,集団を的確に捉えることができる
・種類のちがう遺跡について,集団性を敏感に反映し,普遍的に存在する型式(標準型式)を
もとに同時性と関連性をとらえる
【文献】
五十嵐彰 2004「近現代考古学認識論・遺跡概念と他者表象」『時空をこえた対話―三田の考古学―』六一書房
近藤義郎 1976「原始資料論」『岩波講座日本歴史 別巻 2』岩波書店(近藤義郎 2001『日本考古学研究序説 増補版』
岩波書店に「考古資料論」と解題して再録)
浜田耕作 1922『通論考古学』大鐙閣
Childe, V. G. 1956a Piecing Together the Past, London.
Childe, V. G. 1956b A Short Intgroduction to Archaeology, London.
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【次回授業キーワード】
遺跡の発掘調査報告書を読むにはどのような方法があるか?
杉久保型 茂呂型
図 1 ナイフ形石器の分類(近藤 1976)
図 2 製塩土器の分類(近藤 1976)
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考古学概論(学史と資料論) 担当:高瀬 第 2 回 出席票
学生番号 氏名 4