1.悪性肝腫瘍に対する RFA

2005 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」
:穴井 洋,他
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肝ラジオ波凝固術Ⅱ
1.悪性肝腫瘍に対する RFA
奈良県立医科大学 放射線科( 現四天王寺病院 放射線科・IVR 科)
*
穴井 洋 ,阪口 浩,吉川公彦
*
はじめに
悪性肝腫瘍に対するラジオ波凝固療法(RFA)は,簡便
で高い局所制御能を持つ局所アブレーション治療として
注目され,本邦においても 2004 年 4 月には保険認可さ
れ急速に普及しつつある。RFA は従来の穿刺治療に比
べ一度に得られる凝固範囲が大きく,治療回数の減少
や穿刺回数の低減により合併症が軽減し,在院日数減
少の可能性もある非常に期待された治療法である。しか
し,一見簡単に見える手技ではあるが単に電極針を穿刺
し通電し凝固するだけでは十分とはいえず,また安全性
も確保できない。本稿では RFA 治療の実際について当
科での経験をもとに,とくに腫瘍の局在から概説する。
原理
標的組織に穿刺した電極針と通常大腿部に貼付した
対極板との間に,約 450KHz の周波数(いわゆるラジ
オの中波放送)をもつ交流電流を通電することにより
局所組織のイオンの運動を誘発し運動するイオン同士
によって生じた摩擦熱によって標的組織を熱凝固させ
る方法である。
電極の種類と選択
現在本邦で使用できる RFA 機器は,RITA 社,Radiotherapeutics 社,Radionics 社の 3 社である。前 2 社で
は展開型の電極針を,後 1 社で単針型の電極針を供給
している。
展開型の電極針と単針型の電極針の各特徴は表に示
す(表 1)
。仕様,能力といった面をはじめ治療成績や
合併症の発生頻度においていずれの電極針も大きな差
はない。ただいずれの電極針でも最終的にはほぼ球形
から卵形の凝固範囲が得られるが,特に最初の凝固の
表 1 単針型電極針と展開型電極針の特性
凝固範囲の予測
手技中針の固定
穿刺針サイズ
穿刺針の切れ
凝固径
凝固範囲の調節
穿刺し直し
単針型
困難
やや困難
17G
良い
4(∼ 5)b
出来ない
可
展開針型
容易
容易
12 ∼ 17G
やや悪い
4 ∼ 5b
容易
不可
され方が大きく異なる。展開型電極針では展開された
フック先端から凝固が始まるに対し,単針型電極針で
は電極針の両端から凝固が始まり次第に電極周囲,次
第に遠く離れた部分が凝固される。実際の症例におい
て我々はどちらの電極針も使用しているが特に優劣を
感じることはない。Shibata らの報告をみても結果や
合併症に有意な差はなく,双方の電極針の特性,凝固
のされ方の差異を習熟し適応に応じた電極針の選択が
1)
理想的ではある 。しかし一般的には,従来生検針や
PEIT などの穿刺手技に慣れていると単針型電極針の方
が穿刺自身は容易と考えられる。我々は,展開させた
フックが周囲の大きな脈管を穿刺する場合などでは単
針型の電極を用い,また逆に呼吸性変動が大きく通電
中電極針が大きく移動しそうな場合などでは展開型電
極針の方が安定すると考え使い分けを行っている。
適応
肝細胞癌では腫瘍径 3b 以下・3 個以下,または単発・
5b 以下を,転移性肝癌では 3b 以下・5 個以下を原則
としている。また患者背景としては出血傾向がなく(血
小板 3 万以上,PT% 30%以上)
,肝機能は肝障害度Ⅰ
またはⅡとしている。
近年 RFA の重篤な合併症として報告されている消化
管穿孔や横隔膜損傷,出血・播種,肝膿瘍などはその適
応に問題があるとされており,消化管に接した病変や
胆道系の手術の既往や胆管炎・肝膿瘍の既往のある症
例に対しては一般的に禁忌とされ,肝表面に存在する
場合には経皮的穿刺治療には慎重さが求められている。
穿刺方法
播種の予防や出血に対する追加処置を考慮して,穿
刺に際して外套針を用いて電極針を挿入する方法を行
う施設もあるが,最終的に穿刺する針の大きさが必要
以上に大きくなると考え,また穿刺経路を凝固すること
で出血や播種も予防できると考え我々は行っていない。
腫瘤の局在,性状,周囲組織との関係などを参考に
US ガイド,CT ガイド,CT アシスト下 US ガイドなど
様々な方法で穿刺を行う。通常は US ガイドで穿刺す
ることが最も多く,その利点は何よりも簡便でありリ
アルタイムであることである。しかしドーム下,深部
など US で確認が出来ない場合には CT 下に穿刺を行う
ことがある。特に最近では CT 透視の有用性が指摘さ
(443)73
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れており,透視も適宜使用することで放射線被曝の問
題も軽減し,正確に穿刺を行うことが可能となってき
ている。また腫瘍は同定できなくても血管や胆管など
周囲の構造物から部位が予測できる場合には,Chiba 針
などの細経針で仮穿刺を行い CT で部位を確認し,そ
の後細径針に沿って RF 電極針を穿刺する CT アシスト
下 US ガイドがある。これは穿刺角度の選択が自在で
リアルタイム性に優れている US,客観的な判断が可
能な CT の両方の利点を活用している。最近では CT や
MRI の 3 次元的なデータを利用した Virtual Sonography
2)
の有用性も報告されている 。
術前準備
術中疼痛を訴える患者も少なくなく,術前処置とし
て我々は,ボルタレン坐剤 25 ㎎を出室時に挿肛し,硫
酸アトロピンとペンタゾシンを筋注もしくは静注する。
また RFA 通電開始後にもペンタゾシンとジアゼパムを
静注することもある。
凝固方法
Cool-tip では通常 60w から開始し,毎分 10W ずつ上
昇させ,最大出力を 100 ないし 120W と設定する。そ
の後 Break といわれる急激な組織抵抗の上昇を少なく
とも 3 回認めるか,最終組織温度が 60℃を越えれば終
了とする。しかし疼痛が強い場合には出力を維持また
は低下させ,時間をかけて凝固することで Break を得
られるよう努力する。Break が得られなければ同様に
組織の最終温度が 60℃となることを目標とする。
LeVeen 針の場合,展開径 2 ㎝,2.5 ㎝,3 ㎝の各電極
針で異なり,それぞれ 30,40,50W を開始出力とする。
そして毎分 10W ずつ出力を開始し,急激な組織抵抗の
上昇が得られたこと示す Roll-off が得られるまで出力を
上昇させる。Roll-off が得られ 1 分間の通電休止後に先
の最終最高設定出力の約 70%程度の一定の出力で Rolloff するまで通電を施行する。疼痛が強い場合は Cooltip の際と同様,やや低出力で Roll-off するまで時間を
かけることとなる。また展開径をやや可変させた場合
は,各電極展開径の種類に応じた開始出力より 10W 低
い出力で開始している。Roll-off するまで時間のかかっ
ている症例では,一旦展開径を小さくして Roll-off させ,
その後展開径を元に戻して RFA を再開すると Roll-off
が得られやすくなることもある。
術後管理
術後 2 時間を安静とし,血圧などのバイタルサイン
の確認を行っている。また安静解除時に穿刺部の出血
の確認を行っている。食事も特に制限を設けてはおら
ず,飲水も直後より可能としている。抗生剤は手技当
日より 3 日間内服で投与することが多い。
一過性の発熱や肝機能障害を認めるが,対症療法,
経過観察で十分なことが多い。術中に疼痛を訴えた方
74(444)
でも術後まで持続する疼痛は認めないことが多く,訴
えがあれば鎮痛剤を使用する。
腫瘍の局在別 RFA の工夫
腫瘍の局在や周囲組織との関係において RFA の適応
が困難な場合もある。横隔膜直下,肝表面,消化管や
胆嚢に隣接する場合など,通常原則禁忌としている施
設も多く,他治療が可能であれば優先的には施行しな
い場合も存在する(アプローチとして経皮的手技があれ
ば鏡視下や開腹下に施行する)
。しかしその他の治療が
困難な場合で RFA をどうしても施行しなければならな
い時には,以下の工夫を行い施行することもある。
1.横隔膜直下
電極針の穿刺角度によっては電極針先端やフックの
先端の位置の把握が十分行えず,凝固範囲が予想でき
ず横隔膜を熱障害する可能性が危惧される。特に展開
型電極針の場合に US ガイド下に穿刺を行うと展開し
たフック先端が十分に確認できず,誤って横隔膜を穿
刺している可能性もあり十分な注意が必要である。単
極型の電極針でも電極の先端周囲は特に熱凝固が早期
から起こり,また呼吸性の移動により電極針が動く可
能性もあり同じく慎重に行う必要がある。電極針が横
隔膜に直接触れていなくても凝固時間が長い場合など
熱の伝播が長時間にわたると横隔膜損傷の可能性が高
くなると考える。
2.肝表面
正常肝を介さず腫瘍を穿刺する際に以下の問題が生
じる可能性がある。一つは多血性腫瘍であることが多
く出血が危惧され,もう一つは播種の可能性である。
そのため穿刺経路として,正常肝を介して腫瘍に到達
するよう出来る限り変更する必要がある。TAE を先行
して同日に RFA を施行することで出血や播種も予防可
能ではないかと考えて施行することもある。しかし一
般的にはそれで施行しえない場合には,腹腔鏡下や開
腹下に施行することが多い。ただし出血や播種の問題
が解決したとしても,通常より強い疼痛を生じること
が多く,術中の疼痛対策は十分に行う必要がある。
3.消化管に隣接
我 々 の 施 設 で は 原 則 禁 忌 と し て い る。 後 述 す る
Livraghi らの報告においても死亡例には,隣接する消
化管への熱伝播による消化管穿孔が原因である症例が
3)
含まれており十分な検討が必要である 。隣接する消
化管と腸管の癒着などがない場合には炭酸ガスやブド
ウ糖液を腫瘍と消化管の間に注入しそれらを分離遮熱
することで手技が可能となる場合がある。しかし特に
液体の場合にはその液体自身も RFA により温められ熱
を持つ可能性があり慎重に行う必要がある。また注入
する液体として当初生理食塩水を用いた報告もあった
が,最近では生理食塩水は電解質溶液であり通電もし
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くはイオンによる摩擦熱を発生させる可能性を危惧し,
ブドウ糖液を用いることが多い。
4.胆嚢に隣接
胆嚢壁に隣接する腫瘍に対する RFA も胆嚢炎の発生
が危惧され,慎重に行う必要がある。特に穿破して胆汁
性腹膜炎を起こすことが危険である。しかし胆嚢に接す
4)
る腫瘍に対する RFA は安全であるという報告もあるが
全体に報告されている症例数は少なく,少なくとも胆嚢
壁を直接穿刺凝固することがないように気を付け,必要
以上に出力を上昇しすぎないことが肝要である(Fig.1)
。
5.グリソン鞘に隣接
通常径が 3 ㎜を超える血管では凝固範囲内にあって
も熱による損傷の可能性は低く,血栓化することはな
いとされている。そのため胆管,動脈,門脈を含んだ
グリソン鞘に与える影響も少ないと考えるが,肝門部
を含めたグリソン鞘周囲での RFA において,時に術後
緩徐に末梢胆管が拡張することがある。末梢の胆管拡
張が起こっても今まで臨床的には問題となった症例は
経験していないが,背景には慢性肝障害が存在してい
ることも多く十分な経過観察が必要である(Fig.2)
。ま
たグリソン鞘内の門脈や動脈の血流によるクーリング
a b c
Fig.1 胆嚢に接した HCC に対する RFA
a : 胆嚢肝床部に突出した 22 ㎜の HCC を認めた。LeVeen 針を用いて RFA を施行した。
b : RFA 直後の造影 CT では腫瘍濃染は消失した。またわずかに腫瘍に接する胆嚢壁の肥厚を認めたが臨床的
に無症状であったため経過観察された(矢印)。なお,肝表に連続する非濃染域は穿刺ルートの凝固によ
り生じたものである(白矢印)
。
c : RFA 7 ヵ月後の CT でも腫瘍の再発は認めず,
依然臨床的には無症状であるが胆嚢壁の肥厚を認めた(矢印)
。
a b c
Fig.2 グリソン鞘に近接した HCC に対する RFA
a : 肝 S7 に 2b 大の早期濃染を呈する HCC を認めた。Segmental Lipiodol-TAE と RFA の併用療法を施行した。
b, c : RFA 施行 9 ヵ月後には腫瘍部への Lp 集積は良好で,かつ Lp 周囲には非濃染域が十分取り囲んでおり,
治療効果は良好であったが,肝右葉後区域の末梢胆管は拡張しており(矢印),周囲淡い濃染も呈し,
慢性炎症性変化を呈していた。しかしながら臨床的には異常なく , 黄疸の増悪や胆道系酵素の異常な上
昇は認めなかった。
(445)75
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効果により腫瘍の焼け残しを生じ局所再発の原因とな
る可能性もあり,十分な Safety Margin の設定や慎重な
経過観察が必要とされる(Fig.3)
。先の胆嚢の場合にも
いえるが,これら胆道系の熱損傷を予防する方法とし
て,ENBD チューブを挿入し冷却水を還流させて遮熱
5)
を行うことの有用性も報告されている 。
胆道系などの術後症例では胆管周囲動脈叢の発達が
不良となっており,胆管炎,肝膿瘍といった合併症発
生の原因となるので注意が必要である。
治療成績
RFA による長期の治療効果の報告が散見されるよう
になってきた。HCC に対する局所制御能は Lencioni ら
によると 1 年 4%,3 年 10%,5 年 10%であり,5 年生
6)
存率は 61%であった 。また Tateishi らによると 4 年
7)
74%と高い累積生存率が報告されている 。また,転移
性肝腫瘍に対する RFA の治療成績は大腸癌肝転移病変
に限定した Lencioni らの報告によると 3 年 47%,5 年
24%と非常に良好である。しかし一般的には転移性肝
腫瘍に対する治療成績の方が HCC に対する成績に比
べて劣る。その大きな原因としては,腫瘍の辺縁部分
が Mets の場合 HCC ほどはっきりしていないことも多
く,十分な Safety Margin の設定が出来ず RFA の十分
な治療効果が得られないためと考えられる。
RFA の適応拡大
1.血流遮断下 RFA
血流によるクーリング効果が RFA の凝固範囲を規定
するため,血流を遮断することで凝固範囲が拡大する
ことが知られている。その血流遮断の方法にはバルー
9)
ンカテーテルによる肝動脈塞栓 ,もしくはそれ自身
も治療方法である経カテーテル的肝動脈塞栓術(TAE,
10,11)
特に Lipiodol-TAE)の先行併用がある 。我々の生体
ブタ正常肝を用いた実験では,TAE 先行併用 RFA 群は
10)
RFA 単独群の約 4 割大きい凝固径が得られている 。
臨床例では Yamakado らによると局所再発は 64 例中
2 例のみで,生存率は 1 年 100% 2 年 93%と非常に良
11)
好な成績であった 。
2.リザーバー動注併用 RFA
多発,もしくは腫瘍径が大きく,そのままでは RFA
の適応とならない場合,まずリザーバーによる肝動注
化学療法を施行し,個数を減じ,もしくは腫瘍径が 3 ㎝
以下など RFA の適応となったところで,RFA を施行す
ることで治療効果を上げようとしている。
RFA の合併症
RFA の合併症として,当科で施行した肝腫瘍に対す
る RFA のべ 172 症例の検討では死亡例はなかったが,
重篤な合併症として腹膜播種 1 例(Fig.4)
,対極板熱傷
(Ⅲ度)1 例,肝膿瘍 2 例(膵頭十二指腸切除後,肝膿瘍
の既往症例)を認めた。Livraghi らにより,イタリアの
多施設による 2320 患者 3554 病変について RFA の合併
症を検討した大規模 Study が報告されている。Morbity
rate は 2.2%で,Mortality rate は 0.2%であった。合併
症の内訳は,①穿刺手技に起因する血管損傷や胆管損
傷,播種,② RF によって発生した熱に起因する消化
管穿孔,胆管狭窄や対極板熱傷,③膿瘍などの感染,
④その他として肺塞栓,心停止が挙げられている。重
篤な合併症を引き起こした多くの症例は適応に問題が
あり,前述したように各適応に応じた工夫を行うなど
慎重に行うことで多くは回避できると考える。
a b c
Fig.3 グリソン鞘に接した腫瘍に対する RFA
a : 術前造影 CT では肝 S7 に 2b の早期濃染を呈する HCC を認め,門脈後区域枝(矢印)に接していた。
b : RFA 直後の CT では腫瘍部の早期濃染は消失し,特に門脈後区域枝に接した部位では safety margin は十
分ではなかった(矢印)
。
c : RFA 7 ヵ月後の CT では門脈後区域枝
(矢印)
に接した部分から早期濃染を呈する局所再発を認め
(白矢印)
,
門脈血流のクーリング効果による腫瘍の焼け残しが原因と考える。
76(446)
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a b c
Fig.4 RFA 施行後,腹壁播種を来した HCC
a : 肝 S2 に 1b 大の早期濃染を呈する HCC を認めた(矢印)。
b : やや辺縁不整であり RFA 施行に先立ち 21G Majima 針を用いて生検を施行した。RFA 施行直後の CT で
は腫瘍を包括して濃染されなくなり(矢印),また播種や出血の予防目的で穿刺ラインを凝固した部分も
非濃染域として認めた(白矢印)
。
c : RFA 施行 4 ヵ月後に穿刺部皮下に小結節を認め(白矢印),腹壁播種と診断。摘出術が施行され,HCC の
播種性病変と確定診断された。
まとめ
肝癌に対する RFA は簡便で,少ない治療回数で病変
を完全壊死させることが出来,患者の QOL を損なわず
に高い治療効果が期待できる局所穿刺治療方法である。
また TAE やリザーバーといった catheter intervention を
先行併用することでさらに治療効果の向上が期待でき
る。しかしピットフォールに陥いらないよう手技に習
熟する必要があり,本邦では我々 IVRist ではなく内科,
特に肝臓内科によって RFA を実際施行している施設も
多いかと思うが,RFA は肝にとどまらず多くの臓器の
腫瘍性病変に対しても普及しつつあり,我々 IVRist も
治療手段の一つとして十分に把握し,積極的に関与し
ていく必要がある。
【文献】
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and transcatheter chemoembolization for the
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(447)77
2005 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:柴田登志也,他
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肝ラジオ波凝固術Ⅱ
2.肝ラジオ波凝固術
京都大学医学部附属病院 放射線部
柴田登志也,平岡眞寛
はじめに
RF Electrode の選択
Tumor ablation therapy は肝悪性腫瘍に対する有効な
局所療法であるが,ablation therapy を大別すると薬
剤を腫瘍内に注入して腫瘍を凝固壊死させる chemical
ablation(エタノール注入療法;percutaneous ethanol
injection therapy,PEIT が代表的治療法)と腫瘍内に穿
刺針,Electrode を挿入し,その Electrode が熱などを発
生して腫瘍を凝固壊死させる thermal ablation に分けら
れる。日本国内の肝細胞癌(hepatocellular carcinoma,
HCC)に対する ablation therapy の変遷をみると,1980
年台前半に千葉大学消化器内科が PEIT を始め,その治
療法が国内はもとより世界中に広がり,小肝細胞癌の
局所療法の standard therapy となった。その後国内で
はマイクロウェーブ発生装置を用いて腫瘍の凝固壊死
を図るマイクロウェーブ凝固療法が行われた。しかし
1990 年代後半から導入されたラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation,RF ablation)はマイクロウェーブ凝
固療法よりも 1 回で凝固できる範囲が広く,治療回数
1)
も少なくすむという長所があり ,また RF ablation と
PEIT を比較すると,RF ablation の方が腫瘍の局所コン
2)
トロールに優れており ,現在では RF ablation が最も広
く行われている。
RF Electrode は大きく 4 種類に分けられる。
1.展開針
(Expandable Electrode)
:4 ∼ 10 本の展開する
針が内蔵されており,腫瘍内に Electrode を挿入した
後,近位端のスイッチを押して内臓された針(Tines)
を展開する。市販されているのは LeVeen Needle
(RadioTherapeutics)と RITA Needle(RITA Medical
System)である。
2.Internally-cooled Electrode:Thermal ablationの欠点
の一つに,高出力をかけると組織が完全に炭化して
針に付着し熱伝導が不良となり,十分な凝固範囲
が得られないという問題がある。Internally-cooled
Electrode は 組 織 の 急 激 な 凝 固 壊 死 を 防 ぐ た め,
Electrode 内を冷却水が還流し Electrode 近傍組織の
急激な温度上昇を抑える。市販されているのは Cooltip Needle(Radionics)である。
3.Perfusion Electrode あるいは Wet Electrode:組織に
生理食塩水を滴下して組織の熱伝導性を高め,より
広い凝固範囲を得ようとする方法。Electrode に側孔
が付いており,そこから生理食塩水を滴下する。
4.
Bipolar Electrode:上記 1∼3 は Monopolar Electrode
であるが,最近 Bipolar Electrode も開発されている。
適応
一般的に直径 3 ㎝以下の肝腫瘍,腫瘤数は全肝に 3
個まで,加えて門脈腫瘍栓,遠隔転移が認められない
2)
症例が適応となる 。しかし直径 3 ㎝以上の腫瘤に対し
ても多数回 RF ablation をすることにより,あるいは経
カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization,TAE)との併用療法により根治をめざす場合も
3)
ある 。また転移性肝癌(大腸がんの肝転移など)に対し
ても RF ablation は行われているものの,その治療効果
は HCC に対するものと比べると劣り,一般論として転
移性肝癌は RF ablation の良い適応ではない。
禁忌
1.
著明な出血傾向;血小板 4 万以下,あるいはProthrombin activity 40%以下
2.中等度以上腹水
3.胆管に関連した手術歴の既往
などが RF ablation の禁忌となる。
78(448)
以上 4 種類だが,国内に輸入されているのは Cool-tip
Needleと展開型の LeVeen Needle,RITA Needleである
(Fig.1)
。Cool-tip Needle と展開針を比較した場合,腫
瘍に対する局所コントロール,局所再発率,生存率な
4)
どの成績では特に有意な差異は認められない 。しかし
ゲージが小さい,先端の形状が鋭利であるなど,Cooltip Needle のほうが穿刺は容易である。また展開針は
Tines が展開していく行程が US では十分同定できず,
肝表面に存在する腫瘍,他臓器と隣接した腫瘍に対す
る治療の場合やや危険性が高くなるという問題がある。
手技
1.前処置として絶食,静脈ラインの確保,前投薬は硫
酸アトロピン 0.5 ㎎筋注,ペンタジン 15 ㎎静注ある
いは筋注。
2.
両大腿部に対極板を 2 枚貼る。
3.
US で穿刺ラインの決定:穿刺ラインに太い門脈,肝
静脈が入らないようにプローベの位置・方向,ある
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技術教育セミナー / 肝ラジオ波凝固術Ⅱ
a b c
Fig.1
a : Cool-tip Needle;一般的に使用されているのは1本針だが(上段),3 本の針を平行に並べ,広い範
囲の凝固壊死が得られる Cluster Needle もある(下段)。
b, c : LeVeen Needle(展開針)
;10 本の Tines が内臓されている。
a b c
Fig.2 66 歳・女性,C型肝炎,超音波・腹部 Dynamic CT で HCC が同定され,RF ablation 施行。
a : 肝右葉,S5 に直径約 1.7 ㎝の high-echoic mass を認める。尾頭側の穿刺ルートでは腸管がルートに入るおそ
れがあったため,頭尾側の穿刺ルートをとった。
b : RF electrode の先端は腫瘍後縁をやや越えるところまで進める(矢印)。
c : RF ablation 施行中:時間が経過するとともに組織に水蒸気が発生し,エコーパターンは highechoic となる。
Fig.3 60 歳・男性,S7 に直径 2.6 ㎝の HCC を認める。
a : RF ablation 施行前の Dynamic CT では HCC は hypervascular nodule として同定される。
b : LeVeen Needle(展開針)を用いて RF ablation を行った。矢印は展開した tines。
c : RF ablation 施行後 10 日後の Dynamic CT では腫瘤は low density に変化している。
a b c
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いは Patient の体位を変換し至適ラインを選択する。
また穿刺ラインに腸管が入らないように慎重に検索
する。
4.皮膚の消毒,局所麻酔(1%キシロカイン)
5.US ガイド下穿刺
6.通電:Cool-tip Needleでの治療は普通 12 分間(Fig.2)
7.Electrode の抜去
8.術後約 3 時間の安静
9.治療効果判定は Dynamic CT で行うのが一般的である
(Fig.3)
。Enhanced lesion が消失し腫瘍よりも広い範
囲の凝固壊死が得られていることが必要である。
成績
当科で行った HCC に対する RF ablation の結果を示
す。対象患者は 1 ∼ 3 個の肝細胞癌を持つ 189 例,腫瘤
の大きさは平均 2.2㎝,肝機能は Child A or B。1,
2,
3,
4,
5 年生存率はそれぞれ 95%,81%,72%,57%,41%で
あった。Tateishi R らは RF ablation を初回治療とした
319 症例の 1,2,3,4,5 年生存率はそれぞれ 95%,86%,
78%,67%,54%であったと報告しており,肝切除術と
5)
匹敵する成績が示されている 。
合併症・問題点
RF ablation 施行後の major complications の頻度はお
5 ∼ 7)
およそ2.2 ∼ 4.0%,PEI 施行後よりはやや頻度が高い 。
RF ablation 後の Major complications の特徴は
1.胆道系の合併症− Biloma,肝膿瘍などの頻度がやや
高い:禁忌の項でも述べたように胆管に関連した手
術歴のある場合−胆道再建後(bilioenteric anastomosis)症例の場合は腸内細菌による胆管内への上行
感染があり,Thermal ablation を施行した壊死組織に
8)
感染が併発され膿瘍が形成されやすい 。
2.稀だが重篤な合併症である腸管穿孔が起こりうる:
腸管に近接した腫瘍に対して RF ablation を行うと,
発生した熱が腸管を傷害し穿孔をおこす危険性があ
る。特に壁の薄い大腸,十二指腸が腫瘍に近接して
いる場合は危険であり,また手術歴がある場合はし
ばしば肝と腸管が癒着しており危険性が増す。人工
腹水,あるいは腹腔内にCO2 ガス注入後に RF ablation
を施行する方法もあるが,危険性が高いと判断され
る場合は RF ablation は施行しないほうが良いと思わ
れる。
3.播種の頻度は高い?:2001 年に Llovet JM らが HCC
に対して RF ablation 施行後,高率に(4/32 = 12.5%)
9)
Tumor dissemination が起こったことを報告した 。
しかしそれに対する反論も多数発表され,現在のコ
ンセンサスは,播種は起こりうるがそれほど高率に
発生するわけではないというところである。また播種
が起こった場合でも,広範囲,瀰漫性に広がっていな
10)
ければコントロール可能であることもある
(Fig.4) 。
4.RF ablation 施行後の急速な再発:このような例の
Case report が散見されるが,一つの注意事項として,
特に Cool-tip Needle を用いた場合は急激に出力を上
げず,できれば popping を避ける工夫が必要かと思わ
れる。Cool-tip Needle は最高 200 Watt まで出力が上
げられるが,3-㎝ bare tip needle にしてもせいぜい
130W までの出力で十分治療可能であり,また 2-㎝
bare tip needle ではさらに低出力(90W 程度の最高出
力)で治療可能である。
5.
Heat-sink effect(あるいは Cooling effect)
:大血管近
傍に存在する腫瘍に対して RF ablation を行っても温
度が十分上昇せず,十分な腫瘍の凝固壊死が得られ
ないことがある(Fig.5)
。Heat-sink effect を克服す
るための手段として,
(1)肝動脈血流を減らすため
に−① TAE+RF ablation の併用療法 ②血管造影施行
のもとで,肝動脈を balloon occlusion しながら RF
a b c
Fig.4 69 歳・男性,S5 の HCC に対して RF ablation を施行した。
a : 9 ヵ月後の follow-up CT で腹壁に tumor implantation が同定された(矢印)。
b : 右 11 番肋間動脈から Farmorubicin 10 ㎎ +Lipiodol 1 ㎖とスポンゼルにて TAE を行った。
c : TAE から 1 年後の CT,肝内の腫瘍の増殖,腹水を認め Patient は肝不全となったが tumor implantation はコント
ロールされていた(矢頭)
。
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a b
Fig.5 57 歳・男性
a : S7 の 下 大 静 脈, 右 肝 静 脈 近 傍 の
HCC に対して経皮的に 3 回 RFA 施
行していくも,腫瘍辺縁部,左側に
局所再発を繰り返す。4 回目の RFA
は開胸下,経横隔膜的に行う。術後
の CT では治療効果は complete と
診断(矢印)。
b : 9 ヵ月後の dynamic CT で再発,下
大静脈内に腫瘍塞栓(白矢印)を形
成。大血管近傍の mass に対する
RF ablation は heat-sink effect のた
め十分な治療効果が得られない場
合がある。
ablation を行う方法などがあり,また(2)肝動脈と
門脈血流を減らす方法として ①開腹下に Pringle 法−
肝動脈と門脈のクランプ−を行いながら RF ablation
施行 ②血管造影施行のもとで,肝動脈と肝静脈を
balloon occlusion しながら RF ablation を行う方法な
どがあるが,最も一般的な方法は TAE+RF ablation の
併用療法である。これは一般的には TAE を先行し,
3)
1 ∼ 2 週後に RF ablation を追加治療する 。局所再
発率は RF ablation 単独の場合よりも優れており,良
好な局所コントロールが得られることが多い。
結論
RF ablation は小肝細胞癌の有効な,確立された治療
法である。RF ablation の長所・短所を念頭に安全な治
療を心がける必要がある。
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