高等部 研究テーマ 「作業班における自立~他教科間と手だてをつなげる~」 1 テーマ設定の理由 高等部では生徒たちがより自分の力を発揮するためには、より良い環境の中で作業を行 うことが有効であると考え、 「作業室環境チェック」に取り組んでいる。その結果、環境面 での課題が多数見つかり、 「支援の手だて」「方法」 「教材教具の工夫」なども含めた、いろ いろな視点から課題を見つめ直すことが必要と考えた。 そこで今年度は、従来の学年単位での研究体制を改め、作業班単位での研究とし、各作 業班でテーマを決め、検討することにした。 2 研究方法と経過 ①7/16 高等部校内研究について(学部全体) ⑥12/2 研究冊子原稿の作成、公開授業の準備 ②9/8 各作業班話し合い ⑦1/16 【作業班】(1年職員を除く2,3年の ・実態把握・課題検討 職員) ・支援、手だて等 研究冊子原稿の作成、読み合わせ 【国数グループ】(1年職員) 公開授業指導案読み合わせ ③9/24 各作業班話し合い ⑧2/9 (・取り組んでみたい課題検討) 各作業班研究内容発表会(学部全体) 今年度の運営(研究)に関するアンケー ト記入 ④10/21 各作業班話し合い (・取り組んでみたい課題検討) ⑨3/6 年度末研究報告会発表内容確認(学部 全体) 今年度の運営評価と次年度の方向性 ⑤11/12 各作業班の取り組みから見えてきた 支援の手だてを、高等部1年生の国数 の教員と情報共有。 今回の研究では作業学習を取り上げたが、作業学習は学年を超えた授業のため、作業班 内の他学年の教員と生徒の情報を共有し合うことや、課題を見つけて話し合っていくこと で、学年を越えて支援の方法を統一することができた。生徒にとっては支援の方法が統一 されることによって見通しを持って学習に取り組むことができ、そのことによって次のよ うな効果が見られた。 1.支援方法が統一されることによって安心して取り組める。 2.手順や道具が見て分かりやすくなった。 3.教材教具、環境の設定をすることで教員の支援(言葉かけ等)を減らしてできること が増えた。 4.教科が変わっても(作業→国・数)共通した支援を取り入れることができた。 3 考察 今年度は、公開授業が作業学習ではなく、国語数学の時間であったため、作業班で取り 組んできた研究内容「支援の手だて」「方法」「教材教具の工夫」などを高等部1年生の国 語数学の授業につなげ、共有するという試みをした。まだ、確実ではないが、教科を越え て「支援の手だて」 「方法」「教材教具の工夫」などを共有することは、生徒一人ひとりの 自立を高めるために有効であったと考えている。 4 今後の課題 今年度の高等部の研究は作業班単位で行ったため、他学年の教員や生徒と多く関わるこ とができた。また作業班で取り上げた「支援の手だて」、「方法」、「教材教具の工夫」を他 教科につなげることで、国語数学グループでの学習に少なからず生かすことができた。今 後は国語数学だけではなく、その支援方法が生きるように各教科や日常生活場面などにも 取り入れていき、その効果の客観性や有効性についても探っていきたい。 <参考> 各作業班の研究テーマ 作業班名 クリーニング班 陶芸班 農園芸班 木工班 リサイクル班 紙工班 手工芸班 研究テーマ 「一人で取り組む時間を延ばす」 「各自が進んで作業に取り組むための環境つくり」 「腐葉土の運搬先を分かりやすくする工夫」 「生徒同士のコミュニケーションを増やす作業設定について」 「作業班の指導方法を整理する(マット作成)」 「カレンダー作りにおける教材教具の工夫と成果」 「生徒が見通しを持って主体的に取り組むための支援」 高等部作業 クリーニング班 研究テーマ 「一人で取り組む時間を延ばす 」 1 テーマ設定の理由 対象生徒1年Aさん男子(以下Aさんと表記)は、作業には積極的に取り組むが、工程に 見通しが持てなかったり、周囲の状況や人の動きに気を取られたりすると、必要以上に教員 に支援を求める、或いは何度も工程の確認をしてしまうなどの様子が見られる。その積極性 を生かした作業への支援方法を検討していくことにした。 2 研究方法と経過 作業工程マニュアル(写真)を作成した。工程が分からなくなった時はマニュアルを自分 で見に行くように指示し、教員に質問する機会を減らした。マニュアルがあると安心したよ うで、作業途中で次の工程が分からなくなった時は、教員が指示をしなくても自分でマニュ アルを見に行って確認をしていた。 それぞれの工程の作業時間を口頭で指示し、タイマーが鳴るまで一人で取り組ませた。タ イマーを頻繁に見て終わりの時間を気にするが、時間内は集中して取り組めた。タイマーの 時間入力は教員が指示をしなくてもできた。 作業中に「できた」 「おわった」などの言葉使いをしてきたら、正しい言葉使いを教えるの ではなく反応をせず本人にどう伝えるべきか考えさせてみる。教員間でこの指導を統一して いった。 3 考察 取り組み方が分からなくなった時に、教員が「教える」のではなく、本人の「気づき」を 大切に指導を行った。以前は作業を指示された時に内容がよく理解できていなくても頷いて いたが、現在は理解できた上で「はい」と返事ができるようになってきている。 「ひとりでできる」という自信は次への意欲につながっていくと思われる。 4 今後の課題 ・次年度の作業(班)への引き継ぎをどのようにしていくか。 ・作業(仕事)に対する「責任」を自覚し作業に取り組ませたい。 ・仲間と協力して作業を進められるようにさせたい。 <研究者名> 米山賀代子 早坂奈美子 石神智仁 伊藤伸子 三田裕介 武富有紀 鍋倉洋平 高等部作業 陶芸班 研究テーマ 「 各自が進んで作業に取り組むための環境つくり」 1 テーマ設定の理由 陶芸班は主に皿、小鉢づくりを行っている。作業内容は粘土板からの成型、磨き、釉薬か けが中心である。一年間を通し、繰り返し同じ作業を行うことで各自が作業に見通しを持ち、 ひとりで行えることが増えていく。しかし、教員の言葉かけを待って行動できる生徒もいる ので次の4点について話し合い、生徒が進んで作業に取り組めるよう実施することにした。 ①分かり易く道具類を配置する。②道具の写真と名前を一致させる。③作業工程を生徒に合 わせる。④作業日誌をひとりで記入できるように工夫する。 2 研究方法と経過 ①道具類は「エプロン、マスク」 「粘土板、たたら板、布、のし棒」をそれぞれ一か所にま とめ使わない道具は目の届かない所に置いた結果、一度に道具を運ぶことができた。 ②よく使用する道具の写真に名前をつけA4版を3枚印刷し、生徒それぞれのファイルの 見開きに貼り付け、説明時に利用した。 ③作業工程を作品乾燥後に磨くことで仕上がりの完成度が向上した。 ④日誌用のプリントは文字を書けない生徒用に作業内容を記入しておき○で囲む形式にし た。また、プリントと同じ形式で作業内容を貼付し、自分で見て記入できるようにした。 3 考察 これまでの話し合いで、より生徒の実態に合った環境つくりができたと考える。各自が作 業に見通しを持ち、準備から後片付けまでスムーズに行えるようになった。特に、道具を一 か所にまとめたり、作業工程を見直したりしたことで、作業時間が十分とれ、丁寧で完成度 の高い作品ができるようになった。また、午後は清掃の時間やお茶を飲むゆとりもできた。 これが各自の作業意欲を高めることにつながった。 4 今後の課題 作業の取り組みに余裕ができたので、これまで教員が行っていた「窯入れ、窯出し」も作 業に取り入れ、安全に慎重に作業する力もつけさせたい。また、焼成板に釉薬がつかないよ うにすることでより完成度の高い作品を目指したい。その為の環境つくりを教員で話し合っ ていきたい。 <研究者名> 八木淳 斎藤淳 宮下真人 宮代有寿美 渡邊清枝 高等部 作業農園芸班 研究テーマ 「腐葉土の運搬先をわかりやすくする工夫」 1 テーマ設定の理由 高等部農園芸班では、腐葉土作りの一環として、腐葉土の掘り起こしと移動作業を行なっ ている。言葉による指示や一斉教示を理解して作業を進められる生徒もいるが、腐葉土を掘 りおこす場所とその運搬先となる堆積場所が離れていることや、堆積場所が複数あるため、 何処の堆積場所へ運んでよいか戸惑う生徒も数名いる。そこで腐葉土の運搬経路と運搬先を わかりやすくする支援方法を検討することした。支援の対象は、簡単な日常生活の指示理解 (一語・二語程度)ができ、経験を重ねることで、作業に見通しが持てるようになると自主的 に活動できる生徒である。 2 研究方法と経過 腐葉土を掘りおこす場所とその運搬先 (腐葉土の堆積場所)の間に、運搬経路の導線として、 黄色の標識ロープを地面に這わせて固定し、運搬経路の途中に、運ぶ方向を指し示す矢印マ ークの標識を立てた。また、バケツから腐葉土を捨てる本人の様子を撮影した写真を支柱に つけ、それが標識となるように所定の堆積場所の入り口に立てた。 当初は教員の手を引いて手助けを求め、教員が付き添うかたちで腐葉土を運んでいた生徒 も、運搬経路を何回か往復する中で、教員の力に頼らずに、運搬経路から外れず、自分自身 で腐葉土を運ぶことができるようになってきた。 3 考察 運搬作業を何度か繰り返すうちに、生徒の戸惑いが減り、運搬経路を覚え、生徒自身で活 動ができるようになってきた。 4 今後の課題 ・運搬作業に限らず、戸惑いなく作業を進められるようにするための更なる工夫。 ・道具の使い方、身体の動かし方などの指導方法の工夫。 <研究者名> 金田広能 石井浩司 上田麻寿美 菅原敦 高橋洋之 保福正明 高等部作業 木工班 研究テーマ 「生徒同士のコミュニケーションを増やす作業設定について」 1 テーマ設定の理由 生徒たちが学校から社会・職業へ円滑に移行するために、他人の意見を聞いて自分の考え を正確に伝える力を育てることがキャリア教育の観点から求められている。卒業後は支援者 だけでなく、ともに働く同僚とも円滑な関係を築く力が必要と考えるが、これまでの木工班 の作業学習では、 「教員の指示通りに作業する」 「分からなかったら(教員に)質問する」 「一 人で最後まで作業する」などを目標に取り組んでおり、生徒同士のコミュニケーションを大 きな目標にはしていなかった。また、作業環境や設定自体もコミュニケーションをとらなく ても完結できるものであった。そこで、生徒同士のコミュニケーションを増やすために、ど のような作業設定をし、どのような支援を行なえばいいかを検討することをテーマとした。 2 研究方法と経過 1)生徒の実態 言葉(音声)でのコミュニケーションが可能な生徒5名。彼らは、ある程 度教員の指示通りに作業に取り組むことができる。また、声の大きさや言葉遣い、作業に 取り組む集中力や態度に課題が見られた。 2)作業設定の変更 箱の組み立て作業(ボンドと釘で板を接着する)について、 「教員が固 定し生徒が釘を打つ」という設定から、 「生徒が固定し、別の生徒が釘を打つ」設定に変更 した。また、固定と釘打ちは生徒が交代して行うこととした。作業を行なうペアは、異な る学年の生徒で組んだ。作業中の教員の指示をできるだけ減らしたが、技術的な指導につ いては引き続き行なった。 3)生徒の様子の変化 「釘を打ってください」 「お願いします」 「 (釘が)曲がってるよ」と いったやりとりが見られるようになった。作業への集中力が上がり、40分間1コマの作 業中ずっと取り組み続けられるようになった生徒もいた。生徒間の言葉遣いについては指 導しなかったため、ですます調ではないやりとりも見られた。 3 考察 二人一組で作業し教員の指示を減らしたことで、コミュニケーションをとらないと作業が 進まないため、自発的に言葉を掛け合うことが増えたと思われる。副次的な効果として、教 員から指示がないために作業へ主体的に参加するようになり、また異なる学年のペアのため に普段の友達関係ではない緊張感から作業への集中力が高まったと思われた。 4 今後の課題 (音声での)言葉がない生徒のコミュニケーションを増やす設定、言葉遣いの指導は今回 取り組めなかったため、今後の課題とする。 5 参考文献・資料 文部科学省(2011) 「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」 (答申) <研究者名> 原口一郎 矢崎雄一 打出崇樹 片瀬俊哉 金子悦子 松島公子 高等部作業 リサイクル班 研究テーマ 「 作業班の指導方法を整理する(マット作成) 」 1 テーマ設定の理由 リサイクル班では木枠に縦に二色の糸を交互に張り、古いシーツを染色し紐状に裂いた布 を通してマットを製作している。マット製作の生徒の実態として、大きく分けて二つのグル ープに分けられる。一つ目のグループ(以下Aグループ)は、製作の方法を理解していて二色 の布を間違えずに交互に縦糸に通していく作業ができる。二つ目のグループ(Bグループ)は、 一人でのマット製作は難しく、多くの支援が必要なグループである。今回の研究では、Aグ ループには、3色4色の多色織でのマット作成に向けた支援と、Bグループには、少ない支 援でマットを仕上げる方法の2点について検証を行うことで、幅広い実態の生徒がマット製 作をできるようになるのではないかと考えた。 2 研究方法と経過 Aグループには、布を入れるカゴに仕切りを作り仕切ったスペースに番号を振り、通して いく布の順番を指定した。また、仕切りを使わずに通していく布の順番を表にして、一つ終 わるごとにシールを貼っていく方法にも取り組んだ。Bグループには、木枠を小さくし布を 通す回数を減らしたり、布を縦糸に通す時に布を引っかける道具を使ったり、布を一回で縦 糸を通せるような長い板につけ、引っ張るだけで布を通せるようにしてマット製作に取り組 んだ。 3 考察 Aグループは、通していく布の順番を番号で示していく支援が有効であり、多色織のマッ トができるようになった。Bグループは、布を引っかけて通せるバレッタのような形の道具 を使うことで、通す布を指でつまむ動作を省くことができ、マット織の工程が少なくなった ことで理解が進み、ほぼ一人でマットを仕上げることができるようになった。また、長い板 を使って縦糸に布を通しマットを製作していた生徒は、繰り返すうちに工程を覚え、引っ張 るだけでなく反対の手を使って板を押して布を縦糸に通すことができたり、布が抜けないよ うに自分で長さを調整して止める動作などができるようになったりした。どちらの生徒も道 具を本人の動きに合わせて準備し、使うことで支援の量が減り、より自分一人でできるよう になった。 4 今後の課題 提示の方法や道具を工夫することで、製品を作ることができることは今回の研究で検証で きた。今後は、作った物を製品として作っているという意識付けをどのように指導していく かが課題である。 <研究者名> 内山伸吾 狩野伸太郎 森郁子 相田実代 金子美里 椎野頼人 南條剛士 高等部作業 手工芸班 研究テーマ 「 生徒が見通しを持って主体的に取り組むための支援 」 1 テーマ設定の理由 1 学期途中から、作業時間になっても移動を渋り、作業室に入ってからも落ち着かず大声 を出したり作業を拒否して寝転がったりするようになった。作業に苦手意識のある生徒に対 して、どうすれば集団の中で主体的に興味を持って取り組むことができるようになるかを班 担当の教員全員で模索した。 2 研究方法と経過 現状を話し合いながら共有し、手立てを具体的に作業に取込んでいった。 ◇なぜ、作業が嫌なのか? ⇒いつまでやったら休憩や終わりになるのかがわからないから嫌なのではないか。 本人の思いより作業時間が長いのかもしれない。 ◇作業内容に問題はないか。主体的に取り組ませるためには、どんな支援(工夫)が必要か? ⇒やっている作業(ステンシル等)は嫌いではないと思う。やり方に工夫が必要なのではないか。 本人独自の作業用日課表を作って使用してみる。 手工芸班の実施している既定の作業時間でなく、本人の納得する作業時間を設定し、 無理のない短いスパンで作業回数をこなす。作業内容を言葉がけでなく写真やイラス トで提示し、作業の終わり(節目)がわかるように工夫する。 ※支援の手だて参照 写真やイラストを用い「作業」と「休憩・終わり」の区別をわかりやすくし、負担のない 作業量を繰り返す方法により、本人が納得して「成果表に載っている事だけはやる」という 気持ちで作業に取り組めるようになり、落ち着いて作業を続ける場面が増えてきた。 3 考察 対象生徒は、学校生活の他の場面を見ていても、 「身体を動かす」 「ずっと同じことをする」 ことが苦手なようである。視覚支援を工夫し、本人にとって負担の少ない作業量とわかりや すい提示により、興味・意欲が出て作業の成果も上がってきたように思う。 教室から作業場所へ移動する拒否感も少しずつではあるがなくなっている。 4 今後の課題 今後も継続して、本人が主体的に取り組めるよう成果表を使って作業を進める。 いろいろな作業を体験させ本人の興味・行動を観察しながら、適した作業を増やしていく。 <研究者名> 小橋川貴郭 大石昌子 小倉さゆり 加藤和美 野沢勝智 鰐川治美 高等部作業 紙工班 研究テーマ 「カレンダー作りにおける教材教具の工夫と成果 」 1 テーマ設定の理由 今年度紙工班には 11 名の生徒が所属しているが、生徒の実態は幅広く、認知理解や巧緻性 の程度がまちまちであるため、各生徒に合わせた支援が必要になる。またできるだけ自分た ちで教具を使用した上で製品の品質を保つには、それぞれの教具を扱いやすくする工夫が求 められる。今回はカレンダー作りを題材に、そこで用いられる教具や指導の工夫を検討した。 2 研究方法と経過 カレンダー作りでは、はがきサイズの用紙に小型印刷機で印刷するのだが、器具の適切な 位置に手を置き、ある程度の力で一定時間押さないときれいな印刷ができない。またズレを 防ぐために用紙を印刷台の適切な位置にセットする必要があったため、以下の①②を工夫し た。 ①器具の両端に手の形をしたマークをつけ、そこに手を重ねて押すようにした。また印刷中 は声に出して 5 つ数え、その間は器具を押し続けるよう指導した。 ②印刷台の上部に丸いシールを 2 つ貼り、そのシールと用紙に開けた 2 つの穴が重なるよう 見本をみせる形で指導した。 ①より、手を置く場所を意識し力が入りやすくなり、カウントをしている間は器具を押し続 けることができ、きれいな印刷ができるようになった。また②より、シールと穴を重ねるこ とを少しずつ意識してセットできるようになってきた。 3 考察 器具を押す位置については、手本や言葉かけの教示よりも視覚的手がかりを提示した方が 効果的であった。手の形のシールを貼り付けることによって、手の向きも正しく置くことが できた。また声に出してカウントすることによって、押す力を保持することができるように なった。 4 今後の課題 丸いシールを目印にして用紙をセットする意識が出てきたが、細かい位置の調整について は教員の支援を必要とすることがあった。今後は平面のシールではなく、突起物で穴に引っ 掛け、セットすることでズレをなくすような教具の工夫が求められる。 <研究者名> 土屋潤 小野崎敦子 石川紗矢花 藤井孝平 山田登美子 高等部作業 クリーニング班 支援の手だて 研究テーマ「一人で取り組む時間を延ばす」 視覚提示、気づきを待つ <どんな子?> ・作業には積極的に取り組むが、必要以上に支援を求めたり、方法を確認したりする。 ・指示に対する理解は良いが、周りに気を取られて落ち着きのない行動をとる。 ・正しい言葉遣いをしないといけないことは分かっているが、使えないことがある。 <めざす姿は?> 決められた時間内は、1 人で落ち着いて作業に取り組めるようになる。 <具体的な支援策は?> ・工程が分からなくなったら、自分で振り返りができる支援をする。 ・正しい言葉遣いができない時は、教員間で本人が気づいて言い直すという指導を統一しておく。 具体例 1) 靴洗いの写真です。1 か所磨くのに必要な時間を伝えると 自分でタイマーにその時間を入力し、タイマーが鳴るまで磨く。 具体例 2) 靴洗いの工程が分からなくなった時は、右の写真を自分で見 に行くようにする。 具体例 3) 作業が終わった時、 「できた。 」 「おわった。」と言ってきたら 反応をせずに自分でどう言うべきか考えるよう促した。 繰り返し指導を統一して行うことで、9月頃から、最初から正 しい言葉遣いで話すことが増えた。 取り組み方が分からなくなった時に、教員が「教える」のではなく、本人の 「気づき」を大切に指導を行った。以前は作業を指示された時に内容がよく理解で きていなくても頷いていたが、現在では理解できた上で「はい」と返事ができるよ うになってきている。 「ひとりでできる」という自信は次への意欲に繋がっていく と思われる。 高等部作業 陶芸班 研究テーマ「 各自が進んで作業に取り組むための環境つくり」 支援の手だて 視覚提示、言葉かけ <どんな子?> 「皿つくり」ではほぼ一人で行えるが、自分の思い込みで作業するため正確さに欠ける。 日誌の記入は文字が書けないため教員の援助が必要である。 <めざす姿は?> 見通しをもって一人でできることを増やす。 正確な作業をする。 <具体的な支援策は?> ①道具は写真と実物で確認させる。 ②粘土板を作ったところで報告し、次の作業の指示をもらう。 ③作業日誌と作業ボードのマッチングをさせる。 具体例 1) ①道具を写真と実物で確認する 一度に全ての道具を準備できるように配置を工夫した。 具体例 2) ③作業日誌と作業ボードのマッチング 日誌に作業内容を記入しておき、ホワイトボードの作業 内容を見て○で囲むようにした。 繰り返し作業を行うことで準備から片づけまでの流れに見通しを持ち、指示を 待たず、一人でできるようになってきた。また、日誌も一人でホワイトボードを見 て、作業内容を○で囲むようになった。正確な作業はまだできておらず、区切りの ところで「できました。 」と報告することを定着させたい。 高等部作業 農園芸班 研究テーマ「腐葉土の運搬先をわかりやすくする工夫」 支援の手立て 視覚提示 <どんな環境?> ・腐葉土を掘りおこす場所とその運搬先となる堆積場所が離れている。 ・堆積場所が複数あるため、何処の堆積場所へ運んでよいか戸惑う生徒がいる。 <めざす環境は?> ・運搬経路から外れず、自分自身で腐葉土を運ぶことができる。 <具体的な支援策は?> ・運搬経路の導線として、地面にロープを張る。 ・運搬経路の途中に、運ぶ方向を示すマークを立てておく。 ・腐葉土の運び先に、目印となるものを立てておく。 具体例 1) ・腐葉土を掘りおこす場所とその運搬先 (腐葉土の堆積場所) の間に、運搬経路の導線として、黄色の標識ロープを地面 に這わせて固定した。 具体例 2) ・運搬経路の途中に、運ぶ方向を指し示す矢印マークの標識 を立てた。 具体例 3) ・バケツから腐葉土を捨てる本人の様子を撮影した写真を支 柱につけ、標識として所定の堆積場所に立てた。 ・標識を見て運搬作業を何度か繰り返すうちに、戸惑いが減り、運搬経路を覚え、 生徒自身で活動ができるようになってきた。標識ロープや矢印を設置すること による視覚提示をすることで、運搬経路がわかりやすくなり、経路に沿って運 搬をする生徒が増え、上記のサインの意味理解が難しい生徒も、経路に沿って 運搬作業できるようになった。 高等部作業 木工班 研究テーマ「生徒同士のコミュニケーションを増やす作業設定について」 支援の手だて やりとりを引き出す作業設定 <どんな子?> 言葉(音声)でのコミュニケーションが可能な生徒数名。 ある程度教員の指示通りに取り組むことができる。 <どんな課題?> ・声が小さすぎる ・声が大きすぎる ・言葉遣いが悪い ・作業への集中力が続かない。 ・生徒同士のおしゃべりはあるが、作業中の生徒同士のやりとり、協力はない。 <どんな作業内容・環境?> 箱の組み立て。 (ボンドと釘で接着する) 教員が板を固定し、生徒が釘を打つ。 (改善前) 生徒は教員の指示を聞きよく取り組んでいた。 生徒からの主体的な発信や生徒同士のコミュニケーションが見られなかった。 <めざす姿は?> 仲間とやりとりしながら作業に取り組む。 (卒業後に向けて、支援者の指示通りに取り組むだけでなく、自分で考え、仲間と協力して作 業に取り組む経験を積んで欲しいと考えた。) <具体的な支援策は?> 組み立てを生徒2人1組で行った。(1 人の生徒が固定し、もう 1 人の生徒が釘打ち) 、 具体例 1) 生徒2人 1 組で作業する。 やりとりがないと作業が進まない設定。 具体例 2) 教員の指示をできるだけ減らす。 具体的な技術の指導は引き続き行なった。 具体例 3) 異なる学年の生徒でペアを組む。 友達同士という感覚をなくし、作業への緊張感を持つ。 写 真 「釘を打ってください」「お願いします」「(釘が)曲がってるよ」といったやりと りがみられるようになった。二人一組で作業し教員の指示を減らしたことで、自 発的に言葉を掛け合うことが増えたと考えられる。教員の指示を聞いて作業を行 なう場合よりも集中して取り組む時間が延びた。異なる学年のペアのため、普段 の友達関係ではない緊張感から作業への集中力が高まったのではないかと思われ る。 高等部作業 リサイクル班研究テーマ「作業の指導方法を整理する(マット作成)」 支援の手だて 視覚提示と作業の単純化 <どんな子?> ①2色織りができる ②マット織りが難しい <めざす姿は?> ①3、4色マット作成ができるようになる。 ②マット織りが、少ない人的支援でできるようになる。 <具体的な支援策は?> ①布を入れるカゴに仕切りを作り、更に番号をふって色の順番を分かりやすくする。 ②布を通すときに自助具を工夫する。 具体例 1) ・右図のようにカゴに仕切りを作り、番号をふった。 他にも仕切りは使わずに色の順番を表にし、一つ 終わるごとにシールを貼る手だてもしたが、前者 のほうがシンプルで効果的であった。 具体例 2) ・右図のように布を板につけ、引っ張るだけで布を通 せるようにした。 ・布を引っかける道具により、つまみながら 布を動かす必要性をなくした。 ・縦糸と通す布の色を揃えることで分かりやすくした。 具体例 3) ・作業はできるが、作業量の見通しが立てられず、手が止まることが多い生徒に対し ては、縦糸の本数を減らすことで作業速度の改善ができた。 ・自助具を使うことで作業を単純化したり、意識しなければいけないことを減らすことで 作業の改善を図ることができた。 ・今後は更なる自助具等で、教員の手を離れてできる作業を増やすことが課題である。 高等部作業 紙工班 研究テーマ「カレンダー作りにおける教材教具の工夫と成果 」 」 支援の手立て わかりやすい視覚提示 <どんな子?> 手指の巧緻性に課題があり、対象物に対して適度に力を入れることが難しい。 <めざす姿は?> 一人できれいにプリントしよう <具体的な支援策は?> プリントごっこの下両端に手の形をしたシールを付け、それを目印に手のひらを重ねて 5 秒間 押しつけるようにする。 具体例 1) 丸いドットのシールに、パンチで開けたカレンダーの 穴に重なるようにセットする。 具体例 2) 手の形をしたシールを貼り、それを目印に手で押し、 5 秒数える間おさえ続ける。 はじめはどこを押していいのか分からず、力の入れ具合も曖昧であったため、プ 写 真 リントされた用紙はインクのむらができてしまうことが多かった。手の形のシー ルをつけることで押す位置を意識し、それによって力も入るようになり全体にイ ンクがのるようになった。ドットのシールをつけることによって、ずれないよう に用紙をセットする意識が出てきたが、細かい位置については教員の支援を必要 とすることがあった。 置の修正はさらに練習が必要である。 高等部作業 手工芸班研究テーマ「 生徒が見通しを持って主体的に取り組むための支援」 援 」 」 支援の手だて 予定の細分化と視覚提示 <どんな生徒?> 見通しを持つことが苦手な生徒。また要求が通らないと大声、脱衣、自傷、他害などの問題行動 が表れる。 作業に対して「見通しが持てないことをやらされる」というマイナスイメージが強い為か、担当 教員が作業教室への移動を促すと、強い拒否が見られる。その為、作業教室に向かうことさえ難 しいことが多い。また移動しても作業用具を見るや、上記のような行動を取ることもある。 <めざす姿は?> 作業教室に移動し、集団の中で作業に取り組むこと。作業に取り組む中で、「義務感」ではなく 「自己肯定感」や「達成感」を感じられるようになってほしい。 <具体的な支援策は?> 「作業に行く」と考えることが不安(ストレス)と仮定し、マイナスイメージを持たせない為 に作業担当者と異なる担任が移動を一緒に行ったり、クラス全体で作業教室へ移動したりした。 また提示する予定表を細分化することにより、見通しを持ちやすくし、さらに作業中は作業量や 休憩がわかるように成果表を提示した。 具体例 1(視覚支援により見通しを持たせる) ①「給食までの予定表」 ① ② 作業日の午前に提示する。 ②「一日全体の予定表」 作業日の給食後、移動ができた際に提示する。 ③「作業中の成果表」 見通しが持てないことに苦手意識がある為、 具体的な作業量(例:ステンシルの枚数)を 提示し、「作業を終えたら成果表にシールを貼り、休憩」 という流れを認識させる。 一緒に移動する教員を替えたことで作業教室への移動がで きることが増えた。また作業量が明確になったことで、生徒自 身が数を確認しながら行う様子も見られ、見通しを持つことが容易になっ た。結果、休憩時間には笑顔が見られるようになり、集団の中で落ち着いて 作業に取り組めている。 これらの結果、「苦手なことを考える時間(ストレス)を減らす」ことが 対象生徒にとっては苦手克服のための大切な支援であったと思われる。また 「視覚提示」と「予定の細分化」の重要さを改めて認識した。 ③
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