中学部

中学部
研究テーマ
「社会生活能力の向上
1
~一人ひとりの自立のために~」
テーマ設定の理由
中学部では一昨年から、社会生活能力をテーマとして研究に取り組んできた。昨年度は「社
会生活能力を身につけるための授業実践~毎日の授業、生活を社会生活能力の視点で見直そ
う~」を学部テーマとし、さらに各学年において意志交換や集団参加といった学年テーマを
設定した上で研究実践を行い、一定の成果を得ることができた。しかし同時に、今後も支援
を継続していく必要性や、能力を向上・発展させていく必要性も見て取れた。
社会生活能力とは、何であろうか。以下に社会生活能力の構成領域を示す。
「社会生活能力」の構成領域
※「新版S-M社会生活能力検査」
(日本文化科学社)より
Ⅰ.身辺自立
衣服の着脱、食事、排泄などの身辺自立に関する生活能力
Ⅱ.移動
自分の行きたい所へ移動するための生活行動能力
Ⅲ.作業
道具の扱いなどの作業遂行に関する生活能力
Ⅳ.意志交換
ことばや文字などによるコミュニケーション能力
Ⅴ.集団参加
社会生活への参加の具合を示す生活行動能力
Ⅵ.自己統制
わがままを抑え、自己の行動に責任を持って目的に方向付ける能力
社会生活能力は、以上のように多岐の領域に渡る能力である。また、一つの課題を達成し
ても、段階を追うごとにまた新たな課題を達成していく必要がある。したがって、生徒一人
ひとりが無限に向上・発展していける可能性のある能力だと言える。
そこで、今年度も引き続き「社会生活能力の向上」を中学部テーマとして据え、生徒の社
会生活能力を向上・発展させていく機会にしたいと考えた。また、全校テーマが「一人ひと
りの自立を考える~支援をつなげていくために~」であることを受け、今年度は特に生徒一
人ひとりの自立とは何かという点に焦点を当て、テーマのサブタイトルを「~一人ひとりの
自立のために~」とした。
2
研究方法と経過
学部テーマの共有と共に、昨年度も実施したアセスメント「新版S-M社会生活能力検査」
を全学年、全生徒を対象として実施した。研究実践については、学部としての規模が大きい
ことを考慮し、今年度も学年単位で進めることとした。各学年においてアセスメントの結果
を共有し、社会生活能力の構成領域から、取りあげたい領域をピックアップした。学部テー
マと取りあげた領域に基づいて、学年テーマを決定し、それぞれの学年テーマに適した方法
で研究実践を行った。以下に各学年のテーマを示す。
3
1学年
「ピクトグラムカード」
2学年
「高等部につながる清掃方法の共有化の試み」
3学年
「意志交換」
考察
全生徒を対象にアセスメントを実施することにより、生徒の実態を客観的な視点から改め
て見直すことができた。また、アセスメントの結果を学年団で共有することによって、今現
在、また将来必要性が高いと考えられる各学年の生徒の課題を見出し、それぞれの学年テー
マとして設定することができた。研究実践においては、学年単位で行うことによって、実際
の支援に当たる教員が生徒の実態とめざす姿を共有すること、また、具体的な支援策を逐一
見直すことが可能であった。その結果、どの学年においても、一定の成果が得られたものと
考えられる。
4
今後の課題
私たちは、日頃の支援・指導において、つい目先の課題に捕われがちになる恐れを常に抱
えている。しかし、この研究を通して、高等部やその先の将来といった、中学部の生徒一人
ひとりの「自立」について、改めて考えることができた。生徒の社会生活能力の向上と発展
の先に「自立」があることを常に念頭に置きながら、今後も支援を継続していくことが重要
である。また、これまで継続して社会生活能力を研究テーマとして取り上げてきた結果、社
会生活能力が多岐の領域に渡る能力であると共に、段階を追うごとに新たな課題を設定し達
成していく必要があること、さらに、中学部段階にある生徒の成長発達には、社会生活能力
が特に大きな役割を果たすだろうことを、多数の教員が認識できたと考えられる。今後は、
各学年のこれまでの取り組みについて理解を深めることや、共有の財産として日頃の支援・
指導の中へ取り込み活用させていくことが課題であると考えられる。その他の課題について
は、今年度末に集約予定の反省の結果をふまえ、次年度に申し送る。
5
参考文献・資料
旭出学園教育研究所 日本心理適正研究所 (1980)「新版S-M社会生活能力検査」
(日本文化科学社)
中学部 1 年 研究テーマ
「ピクトグラムカード」
1
テーマ設定の理由
絵カードや写真カードは、相手に近づきすぎない適度な距離を保ちながら、確実に自分の
要求を伝えることができるコミュニケーション手段の一つとして学校生活ではよく使用され
るものである。このカードが学部、学年、クラスによって変わることなく活用できるように
学年で共通してピクトグラムカードを使用することとした。ピクトグラムは、地と図に明度
差のある2色を用いて表したい概念を単純な図として表現する技法が用いられたカードであ
る。東京オリンピックやその後のオリンピックでも使用され、世界共通のものである。日本
では公共の場において多用され、共通語の役割を果たしている。今回の研究では、生徒がこ
のピクトグラムカードの表す意味を知り、活用することで、高等部や将来に繋げることがで
きるように研究テーマに設定した。
2
研究方法と経過
学年では始め、今までの絵カードと併用しながら、教員が携帯する、教室に表示するなど
の方法でピクトグラムカードの活用を実施した。対象生徒には、1日の予定の確認や本人の
意思表示、教員からの指示にこのカードを用いた。2回実施された校外学習では、事前学習
で学んだマーク(ピクトグラム)を施設内で見つけたり、マークと矢印に従って「トイレ」や
「非常口」などの目的まで移動したりした。また、生活単元学習では、課題別の 1 グループ
において矢印とマーク表示に従って校内の目的地に到達する学習を行った。
3
考察
初見でピクトグラムカードの意味を理解することは難しい生徒も多いが、毎日の積み重ね
でいくつかのカードを活用することができ、コミュニケーション手段の一つとしての認識も
できてきた。また、各教科の授業をはじめ、校外学習でもその活動を盛り込むなど一貫した
取り組みが成果を得られた要因であると考える。
4
今後の課題
今後も継続してこのカードを使用し、定着を図りたい。そのために日常生活はもとより、
授業全般において、またあらゆる場面をとらえて活用していけるように次年度も取り組む環
境設定をしたい。今年度はじめに保護者にもこのカードの使用を伝えたので、家庭の協力も
得て外出先などでの活用が課題である。
<研究者名> 木村佳代子
村木志織
岡本宏史 川村藍子
村嶋遥
村田有未
田中寛葵
和木一晃
中村和広
武藤大志
中学部 2年 研究テーマ
「高等部につながる清掃方法の共有化の試み」
1
テーマ設定の理由
本学年における清掃活動の実態は、クラスごとに様々である。毎日の「清掃」の時間を日課と
して、ほぼ習慣化できているクラスもあれば、なかなかできていないクラスもある。そこで高等
部につながる清掃方法を学年全体で取り組むことにより、今後の学校生活のみならず日常生活で
の生活能力向上も図れるのではないかと考え、本テーマを設定した。
2
研究方法と経過
研究に先立ち、高等部での清掃方法を基準として、雑巾とほうきの技能に関するアセスメント
を、生徒一人ひとりを対象に行った。その結果に基づき3グループを構成し、それぞれの生徒の
現在できることに応じた手だてを考案した。さらに高等部教員の助言も指導に生かし、主に生活
単元の授業において定期的に「清掃の練習」の時間を設けながら、グループ毎にその実施にあた
った。
3
考察
各グループにおいて、生徒の実態に合わせて視覚的な支援を設定することで、用具の使い方や
手順が明確化された。それにより各生徒への指導目標も明確になり、生徒の清掃への意識を高め
ることができた。また、いつもはクラスや学年の「集団」として行っている清掃活動を、生徒が
現時点でできることを基準にグループ分けすることで、個々の生徒により細かな支援ができるよ
うになった。さらに他の生徒の活動を「見て学ぶ」ことで生徒間の相互的な成長に繋がった。
今回の研究を通して、清掃活動に対する学年全体の技能の底上げが確認できた。クラス単位で
の清掃のみならず、給食時の清掃も一人ひとりの生徒が多様な作業を担うことができ、また習慣
化することができつつある。
4
今後の課題
今回、生徒のできることに合わせたグループ単位での指導を行うことで個々の力量をきちんと
把握でき、それをもとに、より生徒に合った支援を実施することができた。引き続き、生徒の力
に寄り添った支援の中で、使用できる道具を徐々に増やしたり、
「集団」としての清掃活動をこれ
まで以上に取り入れたりすることにより、高等部や将来の社会生活における「使える技術」とし
ての定着を図っていきたい。
5
参考文献・資料
職業自立を推進するための実践研究事業 「みてわかるそうじのきほん」DVDマニュアル
<研究者名> 清水功 加藤啓介 笹谷佳生 佐藤聖一 澤井美和 高橋拓也 西村義次
原田佳奈
舩渡川明香 山本志津子
中学部 3年 研究テーマ
「意志交換」
1
テーマ設定の理由
3学年では、生徒のアセスメント結果を共有した上で、社会生活能力の構成領域から、研
究で取りあげたい領域を話し合った。その結果、候補として身辺自立、意志交換、自己統制
といった領域が挙げられた。アセスメントの結果を見ると、Ⅰ.身辺自立、Ⅱ.移動、Ⅲ.
作業については一部の生徒について点数が低い結果が見られるが、全体としての落ち込みは
見られない。しかし、Ⅳ.意志交換、Ⅴ.集団参加、Ⅵ.自己統制に関しては、社会生活年
齢が1歳や0歳に当たる生徒も一定数いることが分かった。さらに、個人差があるとはいえ、
この3つの領域のいずれかについては、どの生徒についてもそれぞれに点数の落ち込みが認
められることが分かった。
本学年では、一昨年度は自己統制、昨年度は集団参加をテーマに研究実践を行ってきた経
緯がある。その中で、例えば自分のわがままを抑える自己統制力が高ければ集団参加が容易
になったり、集団参加がスムーズにできている点で自己統制力の高さが明らかであったりと、
社会生活能力の各領域は相互に関連し合っていることが確認された。意志交換についても、
例えば他人と円滑にコミュニケーションが取れることで、心理的安定や見通しを得て集団参
加につながったり、人とのやりとりを通して、自分の気持ちを目的に方向付ける自己統制力
が向上したりと、社会生活能力の他の領域と関連し合っていることが予測される。
そこで、今年度は意志交換をテーマとして研究実践を行うことで、昨年度までの研究実践
を生かしながら、本学年の生徒の社会生活能力をより向上させることができるのではないか
と考えた。
2
研究方法と経過
昨年度までは自己統制と集団参加という領域の特性上、学年集団での授業場面を中心に研
究実践を行ってきたが、今年度は「一人ひとりの自立」を考えるために、個に焦点を当てた
事例研究の形を取ることとした。また、細かな実態把握と毎日の支援、支援策の見直しの反
映がしやすいよう、実際の研究実践には各学級担任が当たることが適当と考えた。したがっ
て、各クラスで意志交換に課題を持つ生徒を抽出し、研究対象とする生徒を決定した上で、
めざす姿と具体的な支援策を話し合い、実践を行った。
3
考察
各クラスから1名ずつの対象生徒が挙がった。めざす姿において、
「意志交換を自ら行おう
とする態度や習慣を身に付けさせたい」という各担任の思いが共通しているが、生徒の実態
や、具体的な支援策はそれぞれ異なる。発語がある場合・ない場合、文字が有効な場合・絵
が有効な場合・音声が有効な場合など、タイプの違う事例が揃ったことで、他の生徒への支
援にも応用できる可能性が広がったと思われる。また、意志交換を自ら行える場面を増やす
という点では、それぞれの事例で一定の成果が得られた。これは各担任と対象生徒が、毎日
根気強く意志交換を繰り返すことによって得られた成果であろう。各事例の経過と考察につ
いては、次ページからの「支援の手だて」を参照のこと。
4
今後の課題
毎日の繰り返し支援によって、対象生徒の意志交換に変化が現れた。しかし、今回の研究
実践で取り上げた支援策は、人や環境が変わった場合には形を変えざるを得ないことも予想
される。人や環境が変わっても、生きる上での持てる力として定着するものであるかどうか
は、常に考察し続けながら支援に当たるべきであろう。これは、生徒自身がその意志交換の
必要性を理解し、実際に必要を感じているかどうかとも関連する。意志交換とは、双方向の
働き掛けがあって初めて成立するということを忘れず、生徒自身の意志交換への意欲を大切
にしていきたい。今回は3つの事例が挙がったが、これ以外の場面、これ以外の生徒と、ど
のように意志交換の機会を充実させていけるのか、また、学年全体としてはどのように意志
交換の能力を伸ばす支援や指導を行っていけるのかという点も、今後考えていくべき課題で
ある。
さらに、学部巻頭にもあるように、社会生活能力は、一つの課題を達成してもまた新たな
課題を達成していく必要がある、無限に向上・発展させていくべき能力である。今回実践し
た、意志交換に関するスモールステップの支援を、どのように続け、発展させていけるのか。
また、その生徒の意志交換の能力を伸ばすことが、社会生活能力の他領域である集団参加や
自己統制にはどのように影響し、さらにはその生徒の社会生活能力全般にどのような影響を
与えているのか。日々の指導に追われる中でも、私たち教員がこれらの関連を考察する機会
を持つことで、より深い生徒理解と、よりよい支援につながっていくのではないだろうか。
5
参考文献・資料
旭出学園教育研究所 日本心理適正研究所(1980)
「新版S-M社会生活能力検査」
(日本文化科学社)
<研究者名> 森田勉
飯塚仁朗
菅野由佳子
山岡りえ
伊藤英美花
菅原信希
渡邉佳隆
田代秀平
荻野民子 金子由美 酒巻順子
福寿谷智 水越達也
村上弘平
中1研究テーマ 「ピクトグラムカード」
支援の手だて 18
ピクトグラムカードを使って
<どんな子?>
明るく朗らかで、積極的に自分からコミュニケーションをとることを好む。自分が決めた
やり方以外の方法を提示されるのを嫌い、指示が通らないことがある。
<めざす姿は?>
スムーズにその場にあった適切な姿勢をとることにより、手遊びをすることが減り、朝の会
や授業に集中することができる。
<具体的な支援策は?>
① ピクトグラムカードを見せ、同じ行動をとることができるか一緒に確認をする。
② カードに飽きてしまうときは、図柄を変える。
③
具体例 1) カードの意味を確認する
カードを教員が持っていて、一緒にカードの意味を確認する。
必要な際に担任が提示する。
具体例 2) カードの図柄の工夫
同じカードに飽きてしまうときは別の図柄のカードを使用する。
(本人が正しい行動をとっている時の写真を使用することも行った。
その際「この姿勢は素敵だね。できるかな。」など言葉かけを行う。
・朝の会→「着席の姿勢」
「気をつけの姿勢」
・静かにするとき→絵カード
・体育、特別教室での授業→「体育座りの姿勢」
ピクトグラムカードの意味をおおむね理解し、正しい行動をすることができたが、
場面によっては難しい時もあった。その場合、本人をモデルにした正しい体育座りの
写真、気をつけの姿勢、着席の姿勢の写真カードを用意したことで、本人がより意欲
的に取り組むことができた。またその際に、写真を意識した言葉かけ、
「この写真の女
の子は、正しい姿勢だから素敵だね。」などの写真を意識した言葉かけを行う事で相乗
的な効果を得ることができた。また、10秒ほどの間であるが、絵カードを見て静か
にすることができるようになった。
中1研究テーマ 「ピクトグラムカード」
支援の手だて 19
ピクトグラムカードを使って
<どんな子?>
人と目を合わせる(生後 2 ヶ月の赤ちゃんができる課題)ことが難しく、本やテレビ、音楽
などには興味・関心をほとんど示さず、手で床を叩く、大きな甲高い声を出す、食べるなどを
好む。「自己統制」の力が弱く、自分の思ったことと違うと、大声で泣き叫んだり、うれしく
ても大人を叩きながら、甲高い大声を出す。学校では、小皿に取り分けて食べている給食のお
かわりがほしい時に、教員を叩いて教えるぐらいしか要求は見られない。
<めざす姿は?>
言葉、サイン、カード(絵・写真)などにより、これからすべき活動に見通しが持てたり、
自分がする活動(本を見る、水筒のお茶を飲むなど)を選んだりできるようになることで
安定した気持ちでいつでも過ごせるようになる。
(※ 太田ステージの StageⅠ-2 であり、学校で教育を受ける間に、StageⅡまで上げること
が望ましい。そうすることで、自分の体重を利用しての座り込みや、思ったことと違った
時の爪立て、叩き等の行動障害を獲得させないようにできるからである。)
<具体的な支援策は?>
① ピクトグラムカードを机に磁石で貼っておき、その中から選んで渡すように促す。
② 「連絡帳」
「着替え袋」「歯ブラシ・コップ」の写真カードに慣れたら、ピクトグラムカー
ドにも慣れさせていく。
具体例 1) 活動時にピクトグラムの要求カードを活用する
机の右横にピクトグラムの要求カードを貼っておき、やり
たい活動を「○○さん、どれ?」と教員が手を差し出して聞く
(日に何回も)
。
本、水筒のお茶を飲む、牛乳パックの係仕事 など
ピクトグラムカードで、3つの活動 (「牛乳パックの係仕事」「本」「水筒のお茶を飲
む」)を選ばせることにした(6月に始めた絵カードを9月にピクトグラムに変更し
た)
。まだ、その活動を本当にしたくて選んでいるかはわからないものの、教員がそば
に行った時に、自分からカードを選んで手渡したり、カードではないが、サインでト
イレを要求したりすることが少しずつ見られるようになってきた。また、
「連絡帳」
「着
替え袋」
「歯みがき」などの写真カードを見せながら、言葉でも伝えると、その実物を
手に取れることも増えてきた。
カードで提示された次の活動場所(食堂や集会室、美術室)などを理解して移動で
きたり、自分から好きな活動を絵カードなどで要求できるようになるには、引き続き
毎日の理解する力と要求する力を育てる支援が必要である。
中1研究テーマ 「ピクトグラムカード」
支援の手だて 20
ピクトグラムカードを使って
<どんな子?>
見通しが持てないことに強い不安を感じ、自傷や他害などの行動に出てしまうことが多い。
言葉を多く話すが、自分からの意思表示は苦手で視覚優位。
<めざす姿は?>
活動に見通しが持てることにより、他害や自傷が減る。
<具体的な支援策は?>
① ピクトグラムカードを使った日程表を提示する。
② 「静かに」
「怒っている」など、言葉と一緒にカードを出す。
具体例 1) ピクトグラムカードを使った日課表
朝登校してきてからの一日の流れをわかりやすく
ピクトグラムカードを使った日程表で提示し、活動に
見通しを持ちやすくする。
着替え→トイレ→日課表書き(勉強)
など
具体例 2) 行く場所や指示などをピクトグラムカードを使って提示する
・行く場所がわかりやすいようにカードで提示する。
・不適切な行動をした時や静かにしてほしい時に言葉での注意
と共にカードを提示し、その都度、行動の振り返りをさせる。
ピクトグラムカードを使った日課表を取り入れたことで、細かい活動はわから
なくても、おおまかな流れを理解できることにより、以前よりも不安定になるこ
とが少なく落ち着いて学校生活を送れるようになってきた。
また注意や指示も言葉だけでなく、カードと一緒に提示することにより、本人
に伝えたいことが明確になり自傷などの行動が減った。場面の理解や本人の安心
感を支える上でピクトグラムカードが有効であったと考えらえる。
中2研究テーマ「高等部につながる清掃方法の共有の試み」
支援の手だて
視覚的な支援を柱に個々の生徒が到達できる目標を設定する
<どんな子?>
・ひとつのことに集中することが難しく、対象物を見続けることが難しい。
・自分が興味を持つもの(支援物、具体物)があると少し集中することができる。
・教員の支援なしで、雑巾の握り絞り、横絞りがおおまかにできる。
<めざす姿は?>
・他の生徒の活動を見て、取り組むことができる。
・雑巾、布巾を縦絞りすることができる。
・机を決められた拭き方で拭くことができる。
<具体的な支援策は?>
・活動を順番に行い、一人ひとりを評価することで、自分の活動に自信を付けさせる。
・雑巾の中に棒を入れ、芯を作る。
・机の四隅に目印になるものをつける。
具体例 1) 活動を順番に行い、一人ひとりを評価することで、自分の活動に自信を付けさせる
授業の最後に一人ずつ友だちの前で発表する機会をつくり、
その生徒の活動を大いに褒めて自信をつける。
写真 1
具体例 2) 雑巾の中に棒を入れ、芯を作る
・雑巾を絞るとき握り絞りになってしまう生徒には、写真1の
ように芯を入れて握らせることで、縦絞りに挑戦できる。
・縦絞りを挑戦するうえで、芯を作らないと絞りにくいため縦
絞りのやり方を保持するためにも、芯があると便利であった。
具体例 3) 机の四隅に目印となるものをつける
・机の拭き方として、まず机のふちを拭き、その後左右へ徐々
写真 2
に下へ拭いていく方法を指導した。
・写真2のように机の四隅に目印をつけ、それを目指して拭い
ていけるようすることで生徒が視覚的に道筋を分かるようにし
た。
・写真2の形の印だけでなく、色の印、絵の印、テープで囲っ
た印等、様々な印を用意し、生徒の実態に合ったものを使用し
た。
個々の教員の考え方で清掃を進めるのではなく、学年で共通して意識した清掃方
法で指導することで、生徒にとっても混乱せずに学習を進めることができた。
次年度は今年度の清掃方法を引き続き学習し、更なる定着を図り、高等部やそれ
以降につなげていく。
中2研究テーマ「高等部につながる清掃方法の共有の試み」
支援の手だて
視覚的支援を活用し、正しく道具を使えるようにする
<どんな子?>
教員の簡単な言葉の指示を理解でき、
「雑巾を絞りましょう」
「ほうきで床をはきましょう」等
の言葉かけをすると、自ら道具を取ってそれらしき動作を行おうとする。しかし、対象物に注
目し続けたり、道具を正しく使って作業したりすることには課題が残る。
<めざす姿は?>
・自在ほうきを両手で持って、ごみに注目しながらはくことができる、
・どこにごみを集めるかを理解し、自分でその場所までごみを運ぶことができる。
<具体的な支援策は?>
・ほうきの柄の持つところに色テープで印をつける。
・シュレッダー紙を撒いてごみと見なすことで、対象物に注目させる。
・ごみを集める場所として、床の中央に四角くテープを貼ったり、ちりとりを置いたりする。
具体例 1) ほうきの柄のどこを持つかに注目させる
ほうきの柄の持つべきところに色テープを貼り、生徒が
どこを握れば良いのかを分かりやすくした。
具体例 2) シュレッダー紙を撒く
シュレッダー紙を撒き、それをごみと見なすことで、ごみ
を注視することが難しい生徒にも、作業内容が分かりやすく
なるようにした。
具体例 3) ごみを集める位置に注目させる
教室の床にテープで四角く印をつけることで、教室の中央に
ごみを集める意識を持ちやすくした。床のテープを認識するの
が難しい生徒には、教室の中央にちりとりを置くことで、ごみ
を集める場所を分かりやすくした。
始めは、今までの清掃の癖で、ほうきを片手で持ってしまう生徒が多く見られた
が、手本を見せながら繰り返し練習を行うことで、両手で持ってごみを掃くことが
少しずつ定着してきた。また、作業の際に対象に注視することが難しい生徒が多い
が、ごみや集めるところを可視化することで内容を理解しやすくなり、集中して清
掃することができた。今後は、ほうきを持つ時の親指の位置やほうきの動かし方等、
より細かい点に関する指導を高等部に向けて継続していきたい。
中2研究テーマ「高等部につながる清掃方法の共有化の試み」
支援の手だて
できることを着実に増やし、日常生活で使うことで定着させる
<どんな子?>
・言葉による指示で動くことができるが、初めての作業などでは動きがぎこちなくなる。
・作業に対する意欲は高いが、単純な作業を続けると集中力が切れてしまうことがある。
<めざす姿は?>
・自在ほうきを正しく使い、スムーズな動きで掃きながら前進することができるようになる。
・雑巾を半分にたたみ、机上を正しい手順でしっかり拭くことができるようになる。
<具体的な支援策は?>
・段階を踏んで体の動きや道具の使い方を身につけられるようにする。
・ローテーションを組み、ほうきと雑巾の練習を組み合わせることで飽きないようにする。
具体例 1) スモールステップで自在ほうきの練習をする
①足は動かさず、その場で横にまっすぐに何度も掃き、
「スーッ
・トン」の動きを覚える。
②一歩進んでは両足をそろえて止まり、掃いたら進む。
③掃きながら前進し、止まらずに最後まで掃き進む。
具体例 2) 4つの机を使用→4段階でラインを減らしていく
①拭き始めから終わりまでラインを引く。
②周囲のみ引く。
③拭き始め、中間、終わりにシールを貼る。
④ラインは引かない。
①
②
写 真
写
③
真
写
真
スモールステップで練習を重ねたことにより、1つ1つの動きを確認しながら進め
ることができた。高等部で行っている掃除の仕方が少しずつ身につき、教室掃除でも
このやり方で掃除ができるようになりつつある。給食後の食堂の片付けなどで実践す
ることで、一層定着を図ることもできた。
中3研究テーマ「意志交換」
支援の手だて
意思表示にカードやサインを用いる。
<どんな子?>
・日常生活において指示待ちになることがあるが、簡単な言葉かけで行動することができる。
・発語はないが、
「トイレ」をサインで伝えることができる。
・日常生活の中の行動と、絵カードをマッチングさせることができる。
<めざす姿は?>
・「トイレ」以外にも自分から意思を伝えることができるようになる。
・自立に向けて、サイン以外の手段でも意思表示をすることができるようになる。
<具体的な支援策は?>
校内では常にコミュニケーションカードを身に着けさせ、カードやサインを用いて意思表示を
する場面を増やす。
具体例 1) 着替えに行くとき
着替えに行く前に、必ず近くにいる教員に「きがえ」のコミュ
ニケーションカードを見せることにした。
具体例 2) トイレに行きたいとき
トイレに行くことをサインで教員に伝えたときには、サインと合わせてトイレのイラストが描かれ
たカードを見せるように反復させることで、同じ意味の意思をサインとカードの2通りの手段で伝
えることができるようにした。
中学 3 年生の 4 月当初は、
「トイレ」をサインで、
「しあげをしてください」をカー
ドを用いて特定の教員に伝えることができていた。そこで、卒業後の自立に向けて意
思表示をすることができる場面を増やすことができないかと考えた。災害時等、サイ
ンが通じない場面も想定して、日常生活指導の際にコミュニケーションカードで意思
を伝えさせるようにした。繰り返しカードを使用させることで、自分からカードを提
示するようになり、自分から提示できるカードの種類も増えてきた。また、カードを
身に着けていない時には、決まったサインではなく、身振り手振りで意思表示をする
場面も見られるようになった。
中3研究テーマ「意志交換」
支援の手だて ホワイトボードを使って、行き先を伝える練習を反復する
<どんな子?>
・明るく元気で人との関わりが好き。簡単な指示であれば言葉で理解する。
・気になることがあると突発的にそれに向かって行動してしまうことがある。
・周囲を見ずに行動することが多く、大きな怪我につながりやすい。
<めざす姿は?>
教員に行き先を伝えてから(カードもしくは言葉で)行動できる。
<具体的な支援策は?>
文字カードによって行き先を伝える言葉(定型文)を定着させ、それを教員に渡してから行動させる。
具体例 1①) 主な行き先を文字カードにする
本人の行動を観察し、主な行き先をカードにした。初めは文字カ
ードを持って教員と一緒に写真の場所まで行く練習をした。教室
の扉にホワイトボードを貼り、吹き出しの中に文字カードを貼っ
て、それを言ってから向かうことを目指した。
具体例1②) カードの種類を増やす
何も言わずに出るときはカードに無い行き先であったため、その
際の場所を新たに文字カードにした。
具体例2) 吹き出しを無くす
具体例1ができたので今度は吹き出しへ貼る作業を無くし、文字
カードを教員へ渡して、それを言ってから向かうことを目指した。
具体例3) ホワイトボードを無くす
具体例2ができ、文字カードの文章も覚えてきたので近くの教員
に文字カードの文章を言葉で伝えてから向かうことを目指した。
対象生徒は二語文までの会話による意志交換が可能であるが、朝の会の前や、帰りの
会の前の休憩時間には何も告げずに室外へ行ってしまうことが多かった。まず、文字
カードを貼る作業によって自らの行動を周囲に知らせることから始めた(具体例1)
。
貼って大きな声で読むことができるようになったので、今度は貼るのではなく教員に手渡す直接的
な意志交換ができることを目指した(具体例2)
。対象生徒には見本を見せてやり方を伝えたが、初
めは具体例1と同様、貼って出ていくことが多かった。しかし出て行ったあとに教員の言葉かけが
あると再入室しそのとき一番近くにいた教員に渡すこともできるようになった。練習を重ねると言
葉かけが無くてもカードを持った後に教員の方を振り返り、目があった教員や近くの教員に渡すこ
ともできるようになった。最終的には文字カードを無くした状況(具体例3)でも、
「えほんをよん
できます」
「といれにいってきます」等のよく使っていた定型文は、教員に伝えてから行動できるよ
うになった。突発的な行動が目に見えて減少し、安全な学校生活を送ることができるようになった。
ようになった。
中3研究テーマ 「意志交換」
支援の手だて
挨拶と要求の定型を反復する
<どんな子?>
・自分から挨拶することがなく、挨拶された時は会釈のような動きで反応する程度である。
・簡単な日常会話や指示理解に問題はない。内言語は多いと思われる。
・自分からの発信が少ない。嫌なことに対しては「いやだ」
「やめろ」等の言葉でのはっきりと
した意思表示があるが、好きなことや要求については意思表示が少ない。
・ゲームの世界に入ってしまい、うまく意志交換ができない場面がある。
<めざす姿は?>
自分から挨拶や要求、意思表示ができる。意志交換を楽しむことができる。
<具体的な支援策は?>
定型の反復練習を通して、言葉による意志交換の機会を増やす。
具体例 1) 挨拶「おはようございます」「さようなら」
・毎朝、少なくとも担任全員と必ず一対一で「おはようございます」の挨拶を行うことにした。
・下校時、担任と別れる際に必ず「さようなら」の挨拶を行うことを徹底した。
具体例 2) 要求「お願いします」「傘を取ってください」等
・自分だけでうまくできないことがあり、無言で近づいて教員に助けを求めてきた際、「お願いし
ます」と言うように指導することを担任間で統一した。
・雨天時には傘を持参するため、担任が保管し、帰りの支度の際に自分から「傘を取ってくださ
い」と言えるよう支援する機会を設定した。
具体例 3) 「ありがとう」「どういたしまして」
・具体例2の要求に対して、担任が支援を行った後には、必ず「ありがとう」と言うように繰り
返し指導した。また、逆に担任がゴミ捨てなどを依頼し、できた時には担任の「ありがとう」に
対して、「どういたしまして」と言うことを可能な範囲で指導した。
担任と一対一になり目を合わせ、まずは挨拶を返すことから反復練習することで、
自分から「おはようございます」「さようなら」の言葉が出てくるようになった。要求
の場面では、教員が「何て言えばいい?」と聞くことで、「お願いします」だけでなく
「手伝ってください」「かばんを閉めてください」といった言葉が自分から出てくるよ
うになった。さらに、
「何かしてもらった後は?」→「ありがとう」のやりとりを追加
することで、意志交換の機会を増やすことができた。教員に対して無言で近づいてきた
り、
「おい」と呼んだりすることなく、
「先生」と呼びかけられる場面もわずかだが出て
きている。また、
「体育は?」
「○○さんは?」など、自分が気になることを自ら質問し
たり、決まったセリフを口にすることで、友達との関わりを楽しもうとしたりする様子
も見られるようになった。このように、定型の反復練習を通して、言葉による意志交換
の機会を増やしたことで、指導した言葉だけでなく、本生徒が本来持っていた内言語や、
意志交換への意欲を引き出すことができたと考えられる。