不耕起栽培が熱帯サトウキビ畑の物理性の保全に及ぼす効果 Conservation of Soil Physical Properties by No-tilled Management in Tropical Sugarcane. 森 也寸志 1・荒井見和 2,4・Swibawa Gede3・Niswati Ainin3・金子信博 4・藤江幸一 4 1 岡山大学・2 農業環境技術研究所(現) ・3 ランプン大学・4 横浜国立大学 要旨(Abstract) インドネシア・スマトラ島のサトウキビ畑の収量回復を目指して,不耕起栽培と有機物マルチの 施用を行い,その効果を調査した.土壌水分や電気伝導度について耕起・不耕起で違う傾向が見 られたが有意な差ではなく,一方,間隙の飽和度を算出すると耕起区では深さ 10cm と 30cm で は違いがあり,30cm の深さで透水性が下がる傾向にあることがわかった.オーガーホール試験 では明らかに不耕起の方が排水性がよく,耕起・不耕起の違いは深さ方向に明確に現れた. キーワード:不耕起栽培,土壌構造,サトウキビ Key words: no-tillage, soil structure, sugarcane 1.はじめに 素・窒素量の計測を行い,土壌の肥沃土の指標 インドネシア・スマトラ島のサトウキビ畑で とした. 土壌の特性値計測では Hydra Probe は伝統的な耕起栽培が行われており,近年では II (Stevens)を,透水性試験では変水位透水試 明確な理由はわからないものの,土地がやせ収 穫量の減少が見られる.近年の気候変動の影響 のもとでは,極端な干ばつや豪雨が各地で報告 されており,風雨に対して脆弱な土壌帯は生産 基盤の損失につながる.このうち,透水性や有 機物量の維持は団粒形成や迅速な排水などそ の安定性に欠かすことが出来ない.そこで本研 究では,不耕起栽培を実践し土壌物理性の回復 を目指したフィールド実験の結果を報告する. 2.調査と実験の方法 図-1 圃場の体積含水率 スマトラ島南部にあるバンダーランプンの グヌ・マド・プランテーションにおいて,25m ×25m の畑を 20 枚用意し,A:耕起・バガスマ ルチ,B:耕起,C:不耕起,D:不耕起・バガ スマルチの 4 処理管理を 5 反復行い,毎年 7 月の収穫期直前に土壌環境調査を行った.バガ スとはサトウキビの絞りかすのことである. 2011 年,2012 年に 20 圃場にて土壌の特性 値を計測した後,未攪乱土壌を採取し,透水試 験を行った.また,現場では深さ 50cm のオー 図-2 土壌水の推定電気伝導度 ガーホール排水試験を行った.あわせて土壌炭 A:耕起マルチ,B:耕起,C:不耕起,D:不耕起マルチ 験を,土壌炭素・窒素量計測では,JM1000CN (J-Science Lab) を使用した.なお,土壌の 電気伝導度と土壌水分には二次関数で近似で きる関係があるため,ECb/θ2 という計算を行 い,土壌水の電気伝導度を推測した. 3.結果と考察 不耕起栽培では僅かに土壌水分が多い傾向 があった.解析から得られた土壌水の電気伝導 度(ECw)は耕起区の特に表層で高い傾向が あった.耕起区は土壌有機物が空気に触れやす 図-3 間隙の飽和度 い状況にあり,可溶性塩類が生じやすい状況に あると考えられるが,有意な違いではない.こ こで乾燥密度から間隙率を計算し,土壌水分に 対する飽和度を求めると図 6 のようになった. 耕起・不耕起の管理の影響は深さ方向に現れる と考え,深さによる違いを解析すると A の 10,30cm で p=0.053, B の 10,30cm で p=0.002 となり,B については明らかに 10cm より 30cm の飽和度が高いことがわかった. 間隙が少なければ飽和しやすくまた排水能 力が下がりやすい.実際,透水性試験をすれば, 図-4 透水性試験 ACD はあまり変わらないが,B では 10cm か ら 30cm にかけて値が大きく下がる結果とな った.これを重機往来の影響と考えれば,CD は土壌水分,乾燥密度,飽和度ともに保全的で ある.一方で,耕起栽培を行うと,AB では表 層の土壌環境は良好に見えるが,根群域直下で これらが変わると推測出来る.B は飽和度と透 水性について明らかにその傾向が出た.A は, 透水試験の上ではその影響が軽減される結果 となったが,バガスマルチの施用,つまり有機 物の投入が土壌構造の劣化を軽減していると 推測された.オーガーホール排水試験では,不 耕起栽培の方が排水性が良く,特に A,B と D は明らかに異なった.C のばらつきは明らかで はないが,いずれにしても深さ 30cm 以深に管 理の特徴が出る可能性を裏付けている. 4.おわりに これまで管理の違いを耕起・不耕起といった 図-5 オーガーホール排水試験 水平方向で比較検討してきたが,むしろ深さ方 向に視点を移すことでその違いが明らかにな ることがわかった. 謝辞 本研究の一部は,日本学術振興会「最先端・次 世代研究開発支援プログラム」 (GS021),科学 研究費補助金(基盤 B 26292127,基盤 S 25220104)の補助を受けて行われた.記して 感謝する次第である.
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