アルカリ溶融法による頁岩ダストからのフォージャサイト

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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):今井, 佐野, 和嶋
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◇論 文◇
アルカリ溶融法による頁岩ダストからの
フォージャサイト型ゼオライトの合成
Synthesis of Faujasite-type Zeolite from
Waste Shale Dust Using Alkali Fusion Method
今
井
敏
夫*, 佐
和
嶋
IMAI, Toshio*;
隆
野
奨**,
昌***
SANO, Susumu**;
WAJIMA, Takaaki***
要
旨
多くの天然砕石は, ケイ素・アルミニウムを主成分とする結晶質の石英, 長石および粘土鉱
物などから構成される. その SiO2 / Al2O3 モル比は5から 10 の範囲に入るため,アルカリ水熱法
やアルカリ溶融法などにより, イオン交換特性に優れたゼオライトに転換することができる.
本研究では, ゼオライト転換率が高いアルカリ溶融法を採用し, 人工軽量骨材の製造工程で
発生する頁岩ダストからのフォージャサイトの作製について検討した. アルカリ溶融法は,
アルカリ溶融処理, ゼオライトの前駆体を調製する熟成処理および前駆体をゼオライトに転換
する加熱処理の三つの処理からなるが, 本研究ではアルカリ溶融にロータリーキルンを用い,
その溶融条件がゼオライト化に及ぼす影響に焦点をあてた.
本研究の結果,フォージャサイト濃度 30% のゼオライト化物が得られた. しかしながら,フォ
ージャサイト生成量は NaOHの添加量, アルカリ溶融温度および水比により大きく変化した.
キーワード:頁岩ダスト, ロータリーキルン, アルカリ溶融, フォージャサイト,
ゼオライト化
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* 中央研究所 第3研究部 資源化学チーム Mineral Resources Chemistry Team, Central Research Laboratory
** 資源事業部 営業企画グループ Sales & Planning Group, Mineral Resources Business Department
*** 千葉大学 Chiba University
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ABSTRACT
Most of all natural stones consist of crystalline quartz, feldspar and clay minerals, all
of which are mainly composed of silicon dioxide (SiO2) and aluminum oxide (Al2O3). With
their SiO2/Al2O3 molar ratios being in a range from 5 to 10, they can be easily converted
into zeolitic materials with high cationic exchange ability by alkali hydrothermal or alkali
fusion method.
This study was an attempt to convert shale dust from industrial waste into
faujasite-type zeolite using alkali fusion method. Alkali fusion method consists of the
following three steps: alkali fusion treatment; curing treatment to create precursors; and
heating treatment to crystallize zeolites. A rotary kiln was used for the alkali fusion
treatment in this study to enable continuous production, and influence of the alkali fusion
conditions on zeolitization was investigated.
Zeolitic products with 30% faujasite were obtained successfully. The faujasite content in
the products was found to be highly dependent on the amount of NaOH added, alkali fusion
temperature and water/solid ratio.
Keywords:Shale dust, Rotary kiln, Alkali fusion, Faujasite, Zeolitization
1.は じ め に
資源の有効利用・再資源化は 21世紀において重要
な課題である. 近年, 循環型社会形成推進基本法や
資源の有効利用を促進するための各種政省令が制定
され, 砕石業でも, 粗砕・分級・洗浄や焼成・加工
後に発生する微粒分を地盤改良材や河床材など土木
工学分野に利用すべく研究・開発が行われている.
しかしながら, 土木工学分野の利用のみでは限りが
あるため, 新たな有効利用方法の開発が望まれてい
る. ところが, これまでに砕石ダストを機能材料へ
化学的に転換する研究はほとんど行われてこなかっ
た. 多くの天然砕石はアルミノケイ酸塩鉱物で構成
されているため, ダストの有効利用法の一つとして
ゼオライト物質へ転換する方法があげられる. ゼオ
ライトは, アルミニウムと珪素の四面体における酸
素原子の共有による三次元のネットワーク構造を持
つ水和アルミノ珪酸塩化合物であり, 40以上の結晶
構造をもつグループである. ゼオライトは, 特有の
細孔サイズと大きな表面積をもつため, 分子篩, 吸
着剤, 触媒など幅広い応用が可能な機能性材料であ
る1) 2). そのため, アルカリ水熱法およびアルカリ
溶融法などの方法により, SiO2 と Al 2O3 を非晶質相
中に含む石炭灰フライアッシュ, 製紙スラッジ焼却
灰, 都市ゴミ焼却灰, 磁器廃棄物, 溶融スラグ, 廃
ガラスなどの産業廃棄物からのゼオライト合成に関
する多くの報告がなされている3)~8). 重本らは, 水
熱法によるゼオライトの合成において不活性な結晶
成分であるムライトおよび石英を, アルカリ溶融に
よりいったん結晶成分から可溶相へ変化させること
で, 石炭灰を X 型ゼオライトヘ転換可能であること
を報告している 9). フォージャサイト型ゼオライト
には X 型および Y 型があるが, これらのうち特に X
型ゼオライトは, 陽イオン交換体や吸着剤としてだ
けでなく分子篩や触媒などとして幅広く利用が可能
な高機能ゼオライトである. そのため, X 型ゼオラ
イトは廃棄物からのゼオライト合成において, 重要
なターゲットの一つとなっている. また, 和嶋らは,
実験室レベルでアルカリ溶融法により砕石微粒分か
ら X 型ゼオライトを含む機能性材料を合成すること
に成功している10)~12). 高機能ゼオライト材料を工
業的な規模で合成することができれば, 砕石微粒分
の新たな有効利用方法として大いに期待される.
アルカリ溶融法によるゼオライト合成は, (1)溶
融によるアルミノケイ酸塩原料の易溶化, (2)溶融
した原料の溶解とゲル化, (3)加熱によるゼオライ
トヘの転換, の3ステップからなる.
本研究では, これら3ステップのうちの(1)の
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アルカリ溶融工程に連続処理が可能なロータリーキ
ルンを用い, 室内実験と同様の X 型ゼオライトが得
られるかについて検討した. 以下にその結果につい
て述べる.
2.試料および実験方法
2.1 試料
砕石微粒分には関西太平洋鉱産株式会社大阪工場
で人工軽量骨材を製造する際に発生する頁岩ダスト
を, アルカリ源には関東化学社製苛性ソーダ(顆粒
状, 以下 NaOH と記す)を用いた. 人工軽量骨材の原
料はいわゆる膨張頁岩と呼ばれるもので, 同社の内
田鉱業所で採掘されている. 頁岩ダストの化学組成
を Table 1 に示す. SiO 2 が 61.7 %, Al 2 O 3 が 19.6 %
含まれており, Si,Alを骨格構造にもつゼオライト
を合成するために十分な量を含んでいた.
(SiO2 /Al2O3)モル比は 5.35であることから, フォー
ジャサイトの Y 型ゼオライトを生成する組成要件を
備えている. Fig.1 に頁岩ダストの粉末 X 線回折線
図を示す. 頁岩ダスト中には石英, 長石, 緑泥石,
白雲母および方解石などが同定された. 石英の濃度
は14.6% であった. 入手した頁岩ダストは約10% 程
度含水していたため, 箱型乾燥器中において105 ℃
で一晩乾燥させた後に実験に供した. マイクロトラ
ックを用いた粒度分布測定の結果, 頁岩ダストの粒
子径はすべて 500μm未満であった.
Fig. 1 XRD pattern of crushed shale
powder
(頁岩砕石屑の粉末 X 線回折線図)
Fig. 2 Appearance of the rotary kiln
(使用したロータリーキルンの外観)
Table 2
2.2 アルカリ溶融
2.2.1 ロータリーキルンによるアルカリ溶融
ロータリーキルンを用いた溶融処理実験は株式会
社太平洋コンサルタント西日本技術部において行っ
た. 実験に使用したロータリーキルン(グローバル
社製)の概観および仕様をそれぞれ Fig.2 および
Table 2に示す. キルンは電気加熱の外熱式であり,
最高加熱温度は 1,773 K である. ゼオライト作製の
ためのアルカリ溶融は最高でも 773 K であることか
ら, 炉芯管には SUS310S 製を使用した. 炉芯管の
Table 1
Crushed
shale
Specifications of the rotary kiln
(使用したロータリーキルンの仕様)
Feed capacity (kg/hr.)
Temperature (K)
Heat source
Rated power (KW)
Rotational speed (rpm )
Tube
Material
Inner diameters(mm)
Length(mm)
effective heat length(mm)
Inclination
7
to 1,773
electrically heated
40
0.64 to 2.56
SUS310S
150
1560
700
0.02
Chemical composition of crushed shale fine powder
(頁岩砕石屑の化学組成)
ig.loss
SiO2
Al2O3 Fe2O3
CaO
MgO
SO3
Na2O
K2O
P 2 O5
mass%
TiO2
3.02
61.70
19.60
2.12
1.36
1.29
1.58
3.25
0.17
0.67
4.81
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全 長 は 1,560mm, 有 効 加 熱 幅 は 700mm, 内 径 は
150mmであった. 炉芯の傾斜は(2/100), キルンの
回転数は 0.64 から 2.56rpm の範囲で可変すること
ができ, 最大処理量(紛体)は7kg/hである. アル
カリ溶融処理温度は, 原料供給側の端部より 550,
750 および 950mm の位置に設置した熱電対により制
御した. キルンの制御温度とキルン内の材料温度と
は一致しないため, 実験中は熱電対により炉芯管内
部の中央部分の材料温度をモニタリングした. また,
加熱により NaOH の分解により発生した水は, 炉芯
管内の低温部で凝結して原料の流れを阻害するため,
炉芯管内の雰囲気を外部へ排気しながら溶融処理を
行った.
これまでに行った室内実験の手順を Fig.3 に示す.
室内実験の結果, ①頁岩ダストと NaOH の混合物の
アルカリ溶融は, おおむね 573K から 673K で完了す
ること, ②頁岩ダストと NaOH の混合割合について
は, 頁岩ダストに対して 1.4 倍(1:1.4)の NaOH を混
合することで X 型ゼオライトを生成するために十分
な溶融処理が行えること, ③加熱時間については,
約 30 分で前駆体中のほとんどの結晶ピークがなく
なり X 型ゼオライトが生成することなどを確認して
いる13)14)15). そこで, ロータリーキルンによるアル
カリ溶融処理は Table 3 に示す条件とした. すなわ
ち , 頁 岩 ダス ト と NaOH と の 混 合 割合 は , 1:1.2,
1:1.4 および 1:1.6 とし, 原料供給速度は材料のキ
ルン内充填率が 22%で一定となるように2kg/hない
しは4kg/h とした. 溶融処理温度は制御温度で673,
723および 773Kとした.
それぞれの処理条件で得られたアルカリ溶融物を
乳鉢で粉砕し, その溶融物 20 gを容量 280 mlのステ
ンレス製ビーカーに蒸留水とともに加え, マグネ
Table 3
ティクスターラーで撹拌(室温 24 時間, 1,000 rpm)
することで前駆体を得た. 以下, アルカリ溶融物に
対する蒸留水の質量比を水比と記すが, 水比は3, 4,
5, 6および 10と変化させた.
2.2.2 電気炉によるアルカリ溶融
ロータリーキルンを用いたアルカリ溶融処理との
差を比較するため, 電気炉によるアルカリ溶融処理
を行った. 20 g の頁岩ダストと28 g の苛性ソーダを
乳鉢により混合(1:1.4 ) し, 得られた混合物をニッ
ケルるつぼ中で空気雰囲気下にて 723 および 873 K
Crushed shale fine powder
1 : 0.6 - 1.4
NaOH
Mixing and grinding
STEP-1
Alkali fusion
573K, 0 – 24 h
Fused material
STEP-2
Aging
5 g / 20 mL-distilled water
Room temperature, 24 h
Precursor
STEP-3
Heating
373K, 6 h
Filtration
Washing and drying
Zeolitic Product
Fig. 3 Example of procedure in
the laboratory experiment
(室内実験の手順の一例)
Alkali fusion conditions
(本研究のアルカリ溶融条件)
NaOH/dust
Si/Al
Na/Si
mass ratio molar ratio molar ratio
Lab-1
1.4
2.68
3.45
Lab-2
1.4
2.68
3.45
RK-1
1.2
2.68
2.97
RK-2
1.4
2.68
3.45
RK-3
1.4
2.68
3.45
RK-4
1.4
2.68
3.45
RK-5
1.4
2.68
3.45
RK-6
1.6
2.68
3.94
RK-7
1.6
2.68
3.94
Lab-1 and Lab-2 : fused by electrical furnace
RK-1 ~ RK-7 : fused by rotary kiln
temperature
K
723
873
683
733
613
673
728
678
723
raw feed
kg/h
4
2
4
4
4
4
4
rotation filling ratio retetion time
rpm
%
min
10
10
2.66
22
40
1.33
22
80
2.66
22
40
2.66
22
40
2.66
22
40
2.66
22
40
2.66
22
40
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2.3 ゼオライト合成
それぞれの溶融条件で得られた前駆体からゼオラ
イト相を合成するため, 熟成後の前駆体を含むスラ
リーをオートクレーブ(ヤマト科学 Model SP-31)中,
温度 373K で6時間加熱した. 加熱後の固体生成物
を 5C ろ紙でろ過し, 蒸留水で洗浄した後, 箱形乾
燥器内 333K で一晩乾燥することでゼオライト化物
を得た.
2.4 頁岩中の石英の反応率およびゼオライト化率
の評価
原料の頁岩ダストの反応率およびゼオライトの生
成を確認するため, アルカリ溶融物, 前駆体および
ゼオライト化物を, 粉末X線回折法 ( 以下 XRD)に
より分析した. XRD装置には Bruker AXS社製
( D8 Advance ) を用いた. 測定電圧および電流は
それぞれ 35kV および 350mA, スキャンスピードは
0.13sec./stepとした.
頁岩ダストの反応率は石英濃度を指標としたが,
石英濃度は頁岩ダスト中, アルカリ溶融物中, 前駆
体中およびゼオライト化物中の石英の回折強度と
α型石英の回折強度との比から求めた. 頁岩ダスト
中および前駆体中の石英濃度の定量には(101)面の,
アルカリ溶融物中およびゼオライト化物中の石英
Table 4
NaOH/dust
mass ratio
Lab-1
Lab-2
RK-1
RK-2
RK-3
RK-4
RK-5
RK-6
RK-7
1.4
1.4
1.2
1.4
1.4
1.4
1.4
1.6
1.6
alkali fusion
temperature
K
723
873
683
733
613
673
728
678
723
濃度の定量には(100)面の回折強度を用いた. ゼオ
ライトの組成は, フォージャサイト, フィリップサ
イトおよび水和ソーダライトの濃度を定量すること
で決定した. フォージャサイト濃度は市販のゼオラ
イト13 X( 関東化学)とゼオライト合成物中のフォー
ジャサイトの(111)面の強度比から, フィリップサ
イトおよび水和ソーダライトの濃度は, 加藤ら16)の
方法にしたがって別に合成したフィリップサイトお
よび水和ソーダライトのそれぞれ(024)面および
(211)面の強度比から求めた.
3.結果および考察
3.1 ロータリーキルンによるアルカリ溶解とゼオ
ライト化
ロータリーキルンおよび室内電気炉で得たアルカ
リ溶融物を, 水比5で熟成し 373 K,6時間でゼオラ
イト化した結果を Table 4 に, また,上記の条件に
よる RK-5 のアルカリ溶融物, 前駆体およびゼオラ
イト化物の XRDパターンを Fig.4に示す.
●
Intensity / a.u.
で加熱した. できる限りロータリーキルンの温度プ
ロファイルに一致させるため, 常温から所定の温度
までは毎分 30K で昇温し, 所定の温度で 10 分間保
持した後, 293Kまで毎分 43Kで降温した. 得られた
溶融物は室温まで冷却し, 再び乳鉢で粉砕した. ロ
ータリーキルンで得られたアルカリ溶融物と同様に,
その溶融物 20g を容量 280ml のステンレス製ビーカ
ーに 100mlの蒸留水とともに加え(水比5), 室温で
24時間撹拌して前駆体を得た.
(C)
●●
●
○
●
○
● ◇
▽
10
●
● ●●
● faujasite
○ hydroxysodalite
● ●
●○
◆ calcite
◆
(B)
▽
▽
(A) ▽
5
◇ quartz
●
● ◇
15
▽▽
▼
▽
▽
▼▼ ▽▼ ▽ ▽
▽
▼▽
20
25
30
35
2θ / degree Cu-Kα
40
▽ Na4SiO4
▼ phonolite
45
Fig. 4 XRD patterns of (A) fused material,
(B) precursor and (C) zeolitic product
(アルカリ溶融物,前駆体および
ゼオライト化物の XRD パターン)
Results of zeolitization
(ゼオライト合成の結果)
fused material
quartz
mass %
0.6
0.9
1.2
1.2
1.3
0.0
0.6
0.0
0.0
precursor
zeolitic product
weight quartz weight quartz Faujasite Phillipsite hydroxysodalite
g
mass %
g
mass % mass % mass %
mass %
7.27
1.3
7.56
2.4
28.7
2.4
6.3
6.38
8.20
14.7
3.7
3.3
6.38
0.5
7.25
1.6
11.3
2.6
42.5
7.83
1.6
7.95
1.8
16.8
7.0
6.1
6.93
1.6
7.15
1.9
9.4
4.6
40.7
5.90
0.5
7.02
1.7
9.3
2.4
27.4
7.73
0.7
7.77
1.0
11.2
1.5
15.6
6.08
0.0
6.31
0.9
9.9
1.1
27.4
7.46
0.9
7.34
1.4
16.0
3.9
21.7
43
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15.0
Alkali fusion: 673K
W/S=5
Zeolitization: 372K 6hr.
10.0
Faujasite
Phillipsite
5.0
Hydroxysodalite
0.0
2.5
3.0
3.5
4.0
Na/Si molar ratio
4.5
Fig. 5 Effect of Na/Si molar ratio on
zeolite composition
(Na/Siモル比がゼオライト
組成に及ぼす影響)
した. ゼオライト化物の重量は前駆体の重量よりも
増加していることから, 前駆体の全量がほぼゼオラ
イト化物に転換したとみなすことができる. フォー
ジャサイト濃度は 9.3%(RK-4)から28.7% (Lab-1)で
あり, (NaOH/頁岩ダスト)質量比が 1.4 のものを電
気炉で 723K で溶融処理したもののフォージャサイ
ト濃度が最も高かった. ロータリーキルンでアルカ
リ溶融したものでは,滞留時間を2倍とした RK-2の
16.8%が最高であった.
以下, NaOH添加率, アルカリ溶融温度および滞留
時間などが, ゼオライト化に及ぼす影響について考
察する.
Fig.5 に( Na/Si)モル比とゼオライト濃度との関
係を示した. アルカリ溶融温度は約 673 K, 熟成時
の水比は5, ゼオライト化のための加 熱 条 件は
373 K,6時間である. ( Na/Si)モル比 2 .97, 3.45
および3.94 はそれぞれ RK-1, RK-4 および RK-6 に
対応する. 一般に(Na/Si)モル比が高いほど溶融が
進むと考えられるが,フォージャサイト,フィリップ
サイトおよび水和ソーダライトのいずれも(Na/Si)
モル比の増加に伴って低下する傾向が認められた.
前駆体のゲルの Na 濃度が高いとフォージャサイト
が生成しにくくなることが報告されており1), その
ため高 Na/Si 比でフォージャサイトの生成が減少し
たと考えられる.
Fig.6 にアルカリ溶融温度とゼオライト濃度との
関係を示した. 頁岩ダストと NaOHの質量比は 1:1.4,
熟成時の水比は5, ゼオライト化は 373 K,6時間の
加熱により行った. アルカリ溶融温度が613 K
(RK-3)および 673 K (RK-4)の場合のフォージャサイ
トはともに9% 程度であったものが, 728 K(RK-5)
Zeolites content / mass%
Zeolites content / mass%
アルカリ溶融処理によるゼオライト化に伴う相変
化は, おおむね以下のように進行した.
前述のとおり, 頁岩ダストは石英, 長石類および
粘土鉱物類で構成されていた. アルカリ溶融処理を
行うことで, 石英と NaOH との反応により Na2SiO3 お
よび Na4SiO4 などのケイ酸ナトリウムが, 粘土鉱物
類と NaOH との反応によりフォノライト(phonolite)
が生成した. フォノライトはネフェリン系列に属す
る準安定相鉱物である (Fig.4(A)). 上記の鉱物組
成を有するアルカリ溶融物を蒸留水中で 24 時間撹
拌し, ろ過および乾燥した前駆体 (Fig.4(B))には,
未反応の石英および長石類のピークが認められるも
のの, 2θ=29°に中心を持つブロードなハローが現
われており, アルカリ溶融物中のケイ酸ナトリウム
およびフォノライトが非晶質に変化したと考えられ
る. なお, (A)および(B)ともに, 頁岩ダスト中に認
められた白雲母および緑泥石のピークは消失した.
ゲル化した前駆体をろ過処理することなく 373K で
加熱することで得られた生成物が Fig.4(C)のゼオ
ライト化物である. ゼオライト化物中には, フォー
ジャサイト, 水和ソーダライトおよび未反応の石英
の3種が同定された. 前駆体中で同定された長石類
のピークはゼオライト化物中では消失した. また,
本研究の実験条件の範囲内において, ゼオライト化
物中にフィリップサイト(P 型ゼオライト)が認めら
れるものもあった.
Table 4 にアルカリ溶融物 20g から得られた前駆
体の重量およびゼオライト化物の重量, また, アル
カリ溶融物中および前駆体中の石英濃度, ゼオライ
ト化物中の石英濃度, フォージャサイト濃度, フィ
リップサイト濃度および水和ソーダライト濃度を示
15.0
W/S=5
Zeolitization: 372K 6hr.
10.0
Faujasite
Phillipsite
5.0
Hydroxysodalite
0.0
600
650
700
750
Alkali fusion temperature / K
Fig. 6 Effect of alkali fusion temperature
on zeolite composition
(溶融温度がゼオライト組成に
及ぼす影響)
44
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20.0
Alkali fusion: 723K
W/S=5
Zeolitization: 372K 6hr.
15.0
10.0
Faujasite
Phillipsite
5.0
Hydroxysodalite
0.0
0
Faujasite cintent / mass %
Fig. 7
50
100
Retention time / min.
Effect of kiln retention time on zeolite
composition
(キルン滞留時間がゼオライト組成に
及ぼす影響)
30
③
25
20
RK-1
RK-2
RK-3
RK-4
RK-5
RK-6
RK-7
②
15
10
①
5
0
2
3
Fig. 8
4
5 6 7 8 9
Water/Solid ratio
3.2 熟成およびゼオライト合成条件
頁 岩 ダ ス ト お よ び NaOH の 配 合 質 量 比 を 1:1.4
( Na/Si= 3.45)としアルカリ溶融温度を 728Kとした
RK-5 のアルカリ溶融物を用い, 水比を3,4,5,6 およ
び 10 と変化させて熟成処理を行い, 373Kで6時間
加熱することでゼオライト化を行った. その結果,
同一のアルカリ溶融物を用いても, 熟成時の水比の
違いによりフォージャサイト濃度が大きく変化する
ことが判明した. 異なる配合およびアルカリ溶融温
度で得られるアルカリ溶融物の最大フォージャサイ
ト濃度を知るために, RK-5以外のものについても異
なる水比での熟成処理およびゼオライト化を行った.
その結果を Fig.8に示す.
熟成時の水比とフォージャサイト濃度との関係は,
以下の三つのグループに大別された. ①アルカリ溶
融温度が低い場合( RK-3 および RK-4 )および滞留時
間を 80 分とした場合(RK-2)などは, 水比5でフォ
ージャサイト濃度が最大となり, それより高い水比
で低下した. 頁岩ダストと NaOH の質量比が低い場
合(RK-1)には, 水比 10 のゼオライト化物中のフォ
ージャサイト濃度(11.7 % )が水比5の場合の11.3 %
よりも高くなったが, Naの不足によりアルカリ溶融
物の組成が不均一であることが原因のひとつとして
考えられる. ②NaOH と頁岩ダストの質量比が 1:1.4,
アルカリ溶融温度 728 K の場合(RK-5)および頁岩ダ
ストと NaOH の質量比が 1:1.6, アルカリ溶融温度
678 K の場合(RK-6)などは,水比6でフォージャサイ
ト濃度が最大となり, それより高い水比であっても
フォージャサイト濃度はほぼ一定またはわずかに
40
Faujasite content / mass %
Zeolites content / mass%
のものは 11%程度となりわずかに増加した. フィリ
ップサイトおよび水和ソーダライトは, 溶融温度の
上 昇 に 伴 い そ れ ぞ れ 4.6% か ら 1.5% に , お よ び
12.9% から 5.0% に単調に減少した. フォージャサ
イトの生成を目的とするゼオライト化の場合, アル
カリ溶融温度が高いほうが有利であった.
Fig.7 にアルカリ溶融処理時のロータリーキルン
内の滞留時間とゼオライト濃度との関係を示した.
キルン内滞留時間が 40 分の場合(RK-5 )のフォージ
ャサイト, フィリップサイトおよび水和ソーダライ
トの濃度は, それぞれ 11.2 ,1.5 および 5.0 % で
あった. これに対してキルン内滞留時間が 80分の
場合(RK-2)の濃度は, それぞれ 16.8 ,7.0 および
6.1 % であった. フォージャサイト,フィリップサイ
トおよび水和ソーダライトともに, キルン内滞留時
間が長いほど生成量が増加した. 本研究の実験条件
の範囲では, フォージャサイトの最大濃度は, アル
カリ溶融温度 733 K, 滞留時間 80 分とした RK-2 の
場合の 16.8%であった.
RK-7
30
20
RK-6
RK-1
RK-4
0
550
10 11 12
Effect of water/solid ratio on zeolite
composition
(水比がゼオライト組成に及ぼす影響)
RK-2
RK-3
10
RK-5
Fig. 9
600
650
700
750
Alkali fusion temperature / K
800
Relationship between alkali fusion
temperature and faujasite content
(アルカリ溶融温度とフォージャ
サイト濃度との関係)
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):今井, 佐野, 和嶋
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減少した. ③頁岩ダストと NaOH の質量比が 1:1.6,
アルカリ溶融温度723Kの場合(RK-7)は, 水比の増加
とともにフォージャサイト濃度も増加を継続した.
水比とゼオライト化物の組成との関係についてみ
ると,おおむね,水比が高い場合(RK-3,水比 10 など)
はフィリップサイトが, 水比が低い場合(RK-5,水比
3など)は水和ソーダライトが, より安定的に生成
したが, この傾向は既報17)18)19)と一致した.
フォージャサイト濃度が最大となる水比は, 頁岩
ダストと NaOH の質量比に対応したが, これは
(H2O/Na2O )モル比が変化したためであると考えられ
る. 隈元らは, シラスから X 型ゼオライトを生成す
る最適(H2O/Na2O)モル比は 40~60の範囲にあるとし
たが 1 9 ) , 本研究の(H 2 O/Na 2 O ) モル比は 36~80 の
範 囲 であった. 頁岩ダストと NaOH の質量比が
1:1.6 で水比が小さい場合, 頁岩ダストと NaOH の
質量比が1:1.2で水比が大きい場合などは, 最適
(H2O/Na2O)モル比から外れるためにフォージャサイ
ト濃度が低下したと考えられる.
このように熟成時の水比によりフォージャサイト
濃度が異なるため, 同一のアルカリ溶融物から異な
る水比で作製したゼオライト化物のうち最もフォー
ジャサイト濃度の高いものを選び, アルカリ溶融温
度とフォージャサイト濃度とを Fig.9で比較した.
アルカリ溶融温度が 673 K より高くなると, フォ
ージャサイト濃度は溶融温度の上昇とともに増加し
た. また, 前述の Fig.5 では 673 K のアルカリ溶融
では ( Na/Si)モル比の効果が現われなかったが,
NaOHと頁岩ダストの質量比が 1:1.6 と高い RK-6
および RK-7 のフォージャサイト濃度が明らかに高
く, (Na/Si)モル比の効果が明瞭となった.
アルカリ溶融温度が 613K および 673K と低かった
RK-3 および RK-4 などのフォージャサイト濃度は
10% 程度でほぼ一定であった. このことから, ロー
タリーキルンを用いたアルカリ溶融では, 673K以下
の温度では十分な溶融が起こらなかったと考えられ
る. 本研究の実験条件の範囲では, 熟成時の水比を
変化させることでフォージャサイト濃度が約 30% の
ゼオライト化物を得ることができた. しかしながら,
本研究と同様の頁岩ダストを用いた電気炉実験では,
頁岩ダストと NaOHの質量比が 1:1.4, アルカリ溶融
は 673K,20 分間,熟成時の水比は5の条件で, フォ
ージャサイト濃度が約 40% のゼオライト化物を得て
いる15). ロータリーキルンでアルカリ溶融したもの
から作製したゼオライト化物中のフォージャサイト
濃度が低かったが, これは, 電気炉とキルンとでは
伝熱様式が異なるために, 同一温度のキルンによる
加熱ではアルカリ溶融が不足した可能性があると考
えられる.
また, 筆者らの別の電気炉実験では, 同様の頁岩
ダストからフォージャサイト濃度 60% のゼオライト
化物を得ている13). この濃度は頁岩ダスト中のアル
ミナの全量がフォージャサイトの生成に消費された
場合の濃度にほぼ一致する. このときの実験条件は,
頁岩ダストと NaOHの質量比が 1:1.6, アルカリ溶融
は 873K,1時間,熟成時の水比は5,ゼオライト化は
353 K,8時間であった.
先の電気炉実験およびロータリーキルンのアルカ
リ溶融物から作製したゼオライト化物のフォージャ
サイト濃度とは大きな差があるが, アルカリ溶融温
度, 前駆体作製時の撹拌条件およびゼオライト化の
温度などの実験条件が異なっており, これらの条件
がフォージャサイトの生成に大きく影響していると
考えられる.
アルカリ溶融温度についてみると, Table 4 に電
気炉の 723 K および 873 K のアルカリ溶融物から作製
したゼオライト化物のフォージャサイト濃度を示し
たが, 必ずしも溶融温度の高い溶融物からの生成物
がフォージャサイト濃度が高いものではなかった.
ゼオライト化の温度についてみると, RK-1 から
RK-7 のアルカリ溶融物を用い 353K でゼオライト化
を行ったが, フォージャサイト濃度が 10% を超える
ゼオライト化物は得られなかった. これらのことよ
り, 他の要因がフォージャサイトの生成を大きく支
配していると考えられる.
Table 5 にフォージャサイトを定量するために用
いたモレキュラーシーブ 13X, 原料の頁岩ダスト,
本研究で得られた RK-5 の前駆体(水比5), 異なる
水比で RK-5 の前駆体から得たゼオライト化物の化
学組成分析結果を示した. モレキュラーシーブ 13X
はフォージャサイトに属する X 型ゼオライトである
が, その( Si/Al)モル比は 1.51,( Na/Si)モル比は
0.66 であった. 頁岩ダストの(Si/Al)モル比および
(Na/Si)モル比は, それぞれ 2.68 および 0.05 であ
った. これに対して, 前駆体の(Si/Al)モル比およ
び(Na/Si)モル比はそれぞれ 1.72 および 1.08 とな
っており, 熟成処理により Al よりも多くの Si が水
に溶解したことがわかる. RK-5のゼオライト化物に
ついてみると, 水比3では水和ソーダライト
(31.7% )が合成されたが, その(Si/Al)モル比およ
び(Na/Si)モル比はそれぞれ 1.56 および 1.42 とな
り, 水中の Na が水和ソーダライトの生成に寄与し
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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第168号(2015):今井, 佐野, 和嶋
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たことが推定される. 水比が5以上となると, 水比
の増加に伴い(Si/Al)モル比は増加, (Na/Si)モル比
は減少した. 最もフォージャサイト濃度が高かった
も の は水 比6 で 合成 した も ので あっ た が , その
(Si/Al) モ ル 比 お よ び ( Na/Si) モ ル 比 は そ れ ぞ れ
1.62および 0.86であった. Table 5には, 本研究で
得られたゼオライト化物のうち, 最もフィリップサ
イト濃度が高かった RK-3(水比10)および最もフォ
ージャサイト濃度が高かった RK-7(水比10)の結果
も併記した.
筆者らは別の実験のなかで前駆体の溶解量を求め
ているが, 673K のアルカリ溶融物の前駆体の Si お
よび Al の溶解量は, それぞれ5mmol/gおよび2
mmol/gであった 15). これらの溶解量から前駆体の
(Si/Al)モル比は約 2.5 と試算された. これに対し
て, 定量方法は異なるが, 本研究で得られた前駆体
の( Si/Al)モル比は 1.72であった. 両者の違いは前
駆体の作製方法であり, 前者の場合の撹拌速度が
300rpmであったのに対して, 後者の場合の撹拌速
度 は , 処 理量 を 増加 し撹 拌 器具 を変 更 した ため
1,000 rpmであった. この撹拌速度の違いにより,
本研究の前駆体の作製時に溶液中への Si の溶解が
過剰に進行したものと考えられる.
フォージャサイトは準安定相であり, 安定して生
成する前駆体の組成領域は( Si/Al)モル比が1.5~
3.0 の範囲であって20), 前駆体のゲルから結晶核の
生成を経てフォージャサイトの結晶化と Si の遊離
とが緩慢に進行することで得られる. また, 前駆体
のゲルの組成が最適範囲を外れると, より安定なフ
ィリップサイトおよび水和ソーダライトに容易に変
化することなどがわかっている.
上記の考察より, 本研究のフォージャサイト濃度
が最大 30%にとどまったのは, 前駆体作製時の撹拌
Table 5
Molecular sieve 13X
shale dust
RK-5 precursor
RK-5
RK-5
RK-5
RK-5
RK-3
RK-7
速度を高めた結果, 前駆体の(Si/Al)モル比がフォ
ージャサイトが生成する組成領域の下限近くにまで
低下し, 十分なフォージャサイトの結晶核の生成が
起こらなかったためであると考えられる.
4.結
論
本研究ではアルカリ溶融にロータリーキルンを用
い, その溶融条件がゼオライト化に及ぼす影響に焦
点をあて検討を行った.
ロータリーキルンを用いたアルカリ溶融法により
頁岩ダストからゼオライト物質を合成することがで
きたが,今回の実験では最高温度での滞留時間が短
かかったため, 電気炉の場合よりも, より過剰の
NaOHおよび温度が必要であった.
得られたゼオライトの組成は, (Na/Si)モル比,
アルカリ溶融温度, キルン滞留時間および熟成処理
の水比などで変化した. とりわけ水比の影響が大き
く, 水比が低い場合には水和ソーダライトが卓越し,
水比が高い場合にはフィリップサイトが卓越した.
フォージャサイト型ゼオライトのうちの X 型がよ
り利用価値が高いとされているため, 本研究におい
ても特に X 型ゼオライトの合成をターゲットとし
た.
本研究の条件範囲内の結果では, フォージャサイ
トの最大濃度はアルカリ溶融温度が 723K の場合の
30% にとどまった(RK-7 の水比 10 の場合). また,
最終的に得られたゼオライト化物の(S i/Al)モル比
は 1.62 であったが, 本研究の結果のみから X 型で
あるか Y 型であるかを判断することはできなかった.
さらに, 前駆体作製時の撹拌速度がフォージャサイ
トの生成に大きく影響した可能性が示唆された. こ
のことは, 今後のスケールアップを考えていくうえ
Chemical composition of zeolitic materials
(ゼオライト化物の化学組成)
water/solid
ratio
Faujasite
%
Phillipsite
%
Hydroxysodalite
%
5
3
5
6
10
10
10
0.0
11.2
17.9
16.9
0.0
27.6
3.4
1.5
5.9
6.0
58.8
10.1
31.7
5.0
3.6
1.3
0.0
0.0
Ig.loss
%
9.28
3.02
21.03
16.04
22.11
20.47
19.55
17.82
21.83
SiO2
%
44.54
61.70
33.59
32.49
32.73
35.43
36.80
36.88
34.50
Al2O3
%
25.07
19.60
16.64
17.68
18.36
18.61
18.36
19.20
18.06
Fe 2O3
%
0.76
4.81
4.63
4.48
4.41
4.35
4.84
4.85
4.69
Na2O
%
15.16
1.58
18.82
23.86
17.59
15.81
14.65
16.23
15.95
Si/Al
ratio
1.51
2.68
1.72
1.56
1.52
1.62
1.70
1.63
1.62
Na/Si
ratio
0.66
0.05
1.08
1.42
1.04
0.86
0.77
0.85
0.89
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での重要な知見であった.
以上, 本研究の結果が示すように, 従来利用価値
の乏しかった頁岩ダストを原料とする場合であって
も, 成分調整, アルカリ溶融条件, 熟成条件および
ゼオライト化条件などを最適化することで, より付
加価値の高い X 型ゼオライトに転換できる可能性が
高く, 新たな有効利用策として期待される.
謝
辞
本研究の実施にあたり, 株式会社太平洋コンサル
タント西日本技術部の村岡義正氏ならびに千葉大学
大学院工学研究科の大西真司氏より多大な尽力をい
ただきました. 深く感謝の意を表します.
参 考 文 献
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