リスクコミュニケーション - 株式会社アースアプレイザル九州

土壌汚染に関する
リスクコミュニケーション
事業者が行うリスクコミュニケーションの基本
~住民説明会の現場より見えてきたこと~
株式会社アースアプレイザル九州
平田利治
リスクコミュニケーションの方法・種類
① 説明文書の配布や回覧板・掲示板等で情報を伝達
・情報を伝えたい周辺住民にのみ伝達可能
・事業者に都合の良い情報のみ伝達しているとの疑念や
誠意が感じられないなどの不信感をもたれやすい
② 戸別訪問による説明
・信頼・理解を得やすいが、範囲が多いと労力がかかる
③ 住民説明会の開催
・一度に多くの住民に対面対応できる
・双方向の意見交換ができるため、信頼・理解を得られや
すいが、感情的な意見が出ると紛糾する
④ メディアへの発表やインターネットによる公表
・新聞等のメディアへ土壌汚染の情報を提供して発表
リスクコミュニケーションのタイミング
情報提供の順序とリスクコミュニケーションの流れの一例
リスクコミュニケーションを円滑に
すすめるための事業者と住民の関係
双方向のコミュニケーションが必要
・事業者は情報提供者であり、汚染原因者であるため、事業
者からの一方的な情報提供のみである場合、周辺住民は、
事業者が都合のよい情報だけを取捨選択して提供している
のではないかとの疑念や、事業者からの誠意が感じられな
いなどの不信感を抱きやすい
日常的なコミュニケーションが重要
・リスクコミュニケーションを円滑に進めるためには、土壌
汚染が生じて初めて、事業者と周辺住民が対面するのでは
はなく、日常的に周辺住民の方々と良好な関係を構築して
おくことが重要
リスクコミュニケーションで提供すべき情報
事業者が伝えたい情報のみでなく、周辺住民が欲しい
と思う情報を提供することが重要
【関係者に伝えるべき情報の例】
・事業所の概要や歴史
・土壌汚染調査を実施した契機や公表までの経緯
・土壌汚染が発生した原因
・土壌汚染の状況(汚染物質の種類や濃度、汚染範囲)
・汚染物質の使用履歴や現在の状況(用途や工程など)
・土壌汚染による健康影響について
・敷地外への汚染の広がりの可能性、地下水汚染の可能性
・今後の短期的、長期的対応計画
・対応体制と窓口(問合せ先など)
土壌汚染による健康リスク情報を伝える
土壌汚染が生じたことイコール周辺住民にすぐに
健康影響が生じるわけではない
×
×
土壌汚染によって生じる健康リスク
及び基準の設定方法①
直接摂取によるリスク(土壌含有量基準)
【直接摂取の例】
・砂場遊びや屋外活動で土壌が手に付着し、それを摂食
・土壌が飛散し、それが口に入って摂食
【土壌含有量基準の考え方】
①摂取期間
一生涯(70年)汚染土壌のある土地に居住した場合を想定
急性毒性の観点からも問題のない濃度レベルに設定
②一日当たりの土壌摂食量
子供(6歳以下)200mg、大人100mgと設定
土壌汚染によって生じる健康リスク
及び基準の設定方法②
地下水経由の摂取によるリスク(土壌溶出量基準)
・汚染土壌から特定有害物質が地下水に溶出し、その地下水
を飲用することによる健康リスク
【土壌溶出量基準の考え方】
①摂取期間
一生涯(70年)汚染土壌のある土地に居住した場合を想定
②一日当たりの地下水摂取量
1日2リットルの地下水を飲用することを想定
地下水環境基準や水道水質基準と同様の考え方により
基準を設定
土壌汚染対策法における自治体の役割
法律で自治体の役割が定められている
・法4条に基づき、土壌
汚染状況調査を命じ、
その結果を報告させる
・汚染土壌の措置を命ず
る など
法3条及び法4条の
調査結果の報告を
を受ける など
汚染がある土地の台帳作成
土壌汚染情報を公にする
リスクコミュニケーションおける
自治体の役割・立場
自治体が事業者と
周辺住民とのリスク
コミュニケーションに
どのように関わるか
は法律に定めはない
自治体には第三者
として客観的・公平
な立場で関与して
もらうことが重要
リスクコミュニケーションの事前準備
・リスクコミュニケーションを実施する際の責任者、各担
当者を決め、体制(チーム)づくりを行う
・想定問答集を作成し、様々な質問に対する回答を事前に
準備する
・事業所の規模によっては、社長や工場長などの責任者と
担当者のみといった少人数での体制となる場合もある
この場合は、社外の専門家などを活用しながら住民説明
会を行うとよい
・土壌調査を実施した会社がリスクコミュニケーションの
豊富な経験を有している場合もあるため、調査会社から
リスクコミュニケーションの実施方法についてアドバイ
スを受けたり、住民説明会で調査会社の担当者から汚染
状態や対策内容の説明を行ってもらうことも考えられる
住民説明会を重ねて見えてきたこと(1)
説明会が、土壌汚染以外の話題にそれないようにする。
・土壌汚染と関係のない意見(日頃の不満)が出ることがある。
・そのような意見については、「ご意見は承りました。本
日は土壌汚染に関する説明会ですので、その対応に関し
ましては、後日、別の担当窓口より回答致します」と回
答し、論点が土壌汚染からそれないようにする。
想定外の意見は、後日回答とする。
・想定外の回答に窮する意見等については、「ご意見はご
もっともです」と受け止め、「その件については社内で
改めて検討し、後日回答致します」として、周辺住民の
意見を真摯に受け止め、後日、企業として対応可能な範
囲を明確にして、対策を回答する。
住民説明会を重ねて見えてきたこと(2)
自治体の協力を得る。
・自治体には、事業者の調査や対策が法律や条例等を順守
して行っている旨の説明をしてもらう。また、企業単独
では 対応不可能な住民の要望について、対応の協力を
得る。(周辺住民の健康診断や井戸水の分析等の対応)
・そのためには、汚染判明時点より自治体に相談し、調査
対策の検討段階より自治体と調整を図りながら対応する。
また、住民説明会に同席して頂けるような関係を築く。
調査会社は住民説明会の主役となってはならない。
・調査会社は「住民と事業者の意見や見解が対立した時に、
中立の立場で客観的な見解を示す第三者」でなければな
らない。したがって、調査会社は説明会では脇役(中立
な第三者)に徹しなければならない。