main:<2015/6/2>(16:18) 2/284 序 文 円周を 3 次元ユークリッド空間に埋め込んだものを結び目という.結び目理 論においては,変形してうつりあう結び目は同じ結び目とみなして,結び目を 研究する.ひもの結び方はいろいろあるので,様々なタイプの結び目がある. では,結び目のタイプはどのようにして区別すればよいのだろうか? 結び目 に対して定められる値で,結び目を変形することに関して不変であるようなも のを不変量という.不変量を用いて結び目のタイプを区別することができる. 「結び目の不変量」が本書のテーマである. 結び目理論はトポロジー(位相幾何学)の 1 分野である.トポロジーでは, 空間(多様体)の大域的な形や,空間内の図形の性質でとくに図形の連続変形 で不変であるような性質を研究する.1920 年代に,ホモロジー群や基本群な どのトポロジーを研究する基本的な道具(古典的な不変量)が整備された.さ らに,1950∼60 年代に高次元の(5 次元以上の)多様体の分類理論が完成した が,その過程(h 同境定理)において,高次元空間では「結ばっているひも」は その空間内の変形ですべてほどけてしまう,ということが 1 つの重要なポイン トであった.その後,「3 次元」と「4 次元」が,高次元多様体論の手法が使え ない「謎の次元」としてトポロジーに残された.とくに,3 次元トポロジーで は,3 次元空間で「結ばっているひも」 (結び目)は一般に連続的な変形でほど くことができず,この「結び目」という現象が 3 次元のトポロジーを複雑に, そして,豊かにしている. 1980 年代に転機がおとずれ,数理物理的手法が低次元トポロジーに導入さ れて,3 次元トポロジーにおいては結び目と 3 次元多様体の膨大な数の不変量 (量子不変量)が発見された. (4 次元トポロジーには「ゲージ理論」がもたらさ れた.) 「量子不変量」は,数理物理に由来する量子群や共形場理論やチャー ン–サイモンズ理論を背景として,リボンホップ代数などの代数構造を用いて, kbdbook6a<2014/08/08>: pLaTeX2e<2006/11/10>+0 (based on LaTeX2e<2011/06/27>+0): 結び目の不変量 main:<2015/6/2>(16:18) 3/284 序 文 iv 構成される.量子不変量やこれに関連するトピックを研究する研究領域は量子 トポロジーとよばれる.古典的な結び目理論においては個々の結び目の個性を 個別に研究する研究が中心であったが,量子トポロジーでは多くの結び目を統 一的に研究できるように,すなわち,「結び目の集合」を研究対象として研究 できるようになった. 1980 年代に結び目の不変量が大量に発見される発端になったのは,1984 年 にジョーンズ多項式という結び目不変量が発見されたことである.その後, ジョーンズ多項式の構成法と同様の構成法により,統計物理で知られていたヤ ン–バクスター方程式の多数の解(R 行列)を用いて,大量の結び目不変量が 発見された.さらに,1980 年代後半に量子群が発見されたことにより,それら の大量の不変量は「量子不変量」として交通整理されて理解されるようになっ た.また,共形場理論に由来する KZ 方程式を用いて量子不変量を再構成でき ることが明らかになった.1990 年代には,これらの大量の量子不変量を統一 的に扱って研究する 2 つの手法が開発された.1 つはコンセビッチ不変量とい う 1 つの巨大な不変量にすべての量子不変量を統一することであり,もう 1 つ はバシリエフ不変量という「共通の性質」で不変量を特徴づけることである. さらに,2000 年代には,ジョーンズ多項式の圏化であるホバノフホモロジーが 導入されたり,コンセビッチ不変量がループ展開されることが証明されたり, 量子不変量と双曲幾何を関連づける体積予想の研究が進展するなど,これらの 不変量をめぐる研究が深化した. 本書の目的は,これらの不変量やこれに関連するトピックについて解説する ことである(次ページの図を参照されたい).数学を専攻する学部 4 年生や修 士課程の学生を読者として念頭においており,予備知識としてホモロジー群や 基本群などのトポロジーの基礎知識を仮定している.結び目の不変量をめぐる 量子トポロジーの研究は,量子群,ホップ代数,テンソル圏,表現論,作用素 環,共形場理論などの周辺分野と関連して大きな広がりをもっている.また, 不変量の値が数論的に非自明な性質をもつこともよくあり,トポロジーの研究 の数論的側面の観点からも興味深い.読者には,「結び目の不変量」の研究の 豊かさや広がりを感じとってもらえれば大変幸いである. kbdbook6a<2014/08/08>: pLaTeX2e<2006/11/10>+0 (based on LaTeX2e<2011/06/27>+0): 結び目の不変量 main:<2015/6/2>(16:18) 4/284 序 文 v 最後に,この原稿の草稿を読んでいただいて多くの貴重なご意見やコメント をいただきました小島定吉先生,横田佳之さん,高田敏恵さん,藤博之さん, 野坂武史さん,鈴木咲衣さん,伊藤哲也さん,望月厚志さん,成瀬透さん,小 松一宣さん,野崎雄太さん,石川勝巳さんと査読者に深く感謝いたします.ま た,STU 関係式の名称の由来について教えてくださいました Dror Bar-Natan さんと Sergei Duzhin さんに感謝いたします.また,本書の出版にあたって大 変お世話になりました共立出版の赤城圭氏と大越隆道氏に厚くお礼を申し上げ ます. 結び目図式による構成(第 1 章) 組みひもによる構成(第 2 章) タングルによる構成(第 3 章) 定義(第 8 章) ⇝ ジョーンズ多項式 ホバノフホモロジー 圏化 ∩ 定式化(第 11 章) ⇝ 色つきジョーンズ多項式 体積予想 漸近展開 ∩ 量子群による構成(第 4 章) KZ 方程式による構成(第 5 章) 定義(第 7 章) (第 7 章参照) - 量子不変量 @ I 普遍的 @ (第 6 章参照) バシリエフ不変量 普遍的 (第 7 章参照) @ コンセビッチ不変量 定義(第 6 章),ループ展開(第 10 章) kbdbook6a<2014/08/08>: pLaTeX2e<2006/11/10>+0 (based on LaTeX2e<2011/06/27>+0): 結び目の不変量
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