思春期精神病理の疫学と精神疾患の早期介入方策に関する研究

研究課題
課題番号
主任研究者
思春期精神病理の疫学と精神疾患の早期介入方策に関する研究
H19−こころ−一般−012
東京都立松沢病院 院長
岡崎祐士
1.平成20年度の研究成果
(1)津市 15.2%、長崎市 16.4 であった精神病症状様体験を含む「思春期精神病理に関する疫学調査」
を、三重県・高知県・長崎県・愛知県の中高生(一部小学生、大学生を含む)約 30,000 人を対
象として実施し解析中である。三重県の中学3年生は2年後跡調査に当たる。
(2)中学生・高校生・大学生および小学生保護者合計約 10,000 名を対象とした偏見を含むメンタル
ヘルスリテラシーに関する質問紙調査を行った。若者やその保護者を対象とした精神保健普及啓
発活動のあり方を検討する際の基礎資料が得られた。
(3)津市中学生 5,000 名を対象とした第一期疫学調査結果の論文が、Schizophrenia Research 誌上
に掲載された(Nishida et al, 2008)が、さらに若者の自殺関連行動と精神病様症状体験につ
いての関連等を見出し、国際学会で発表し(1.2)、論文投稿中である。
(4)津市中学校からの依頼で精神保健支援介入を開始した。ケースワーカーを派遣し、教師・養護教
諭と連携、生徒の相談、卒業前授業などメンタルヘルス啓発授業、教師向け啓発・研修、父母への
講演会を開始した。臨床例と思われる児童は父母の同意も得て、三重県立こころの医療センターの
多職種支援チームが学校、家庭への訪問相談・診療を行う体制を確立、ユースメンタルサポートセ
ンターみえを立ち上げた。四日市市と長崎県大村市でも、民間精神科病院が主体となった、学校へ
の啓発と早期介入の取り組みを立ち上げつつある。
(5)東京世田谷でも精神障害者の家族会の働きかけが契機となって、区議会で思春期精神病理体験に
関心が寄せられ、中学生の疫学調査実施について話しあわれている。
(6)思春期児童、家族、全学校関係者、開業医、地域を対象とする啓発素材を開発した。リーフレッ
ト、パンフレット、啓発本、ホームページに取り組んだ。大村市では作成に思春期児童に参加して
もらい、思春期児童や関係者にアピールし理解を促進するよう工夫した。
(7)英国の精神保健改革と早期介入サービス導入の背景・戦略・政策等を視察調査し、日本における
早期介入サービス内容と政策的課題の検討を行った。わが国では、子どもの発達に沿ってリスク
の高い精神病理的個体を発見する可能性がある機会や場所の全て(家庭、学校、地域、一般医ク
リニック、精神科クリニック等)に対する啓発と早期介入の具体化が必要との結論に至った。
(8)精神科病院での自殺防止、学校での摂食障害教育・自助組織の形成促進の基礎調査を実施した。
(9)脳画像や遺伝子研究は、総説、検査準備を終え、今年度から at risk mental state(ARMS)
の若者の検査を開始した。縦断的な研究が開始されたところある。
2.平成19年度の研究成果(19年度より研究を行っている者のみ)
(1)長崎市で 5000 人の中学生に「思春期精神病理体験」の疫学調査
(2)2006 年津市中学生(男女各半数)疫学調査に参加しなかった学校から追加調査の依頼があり、
450 名の中学生とその父母の約 600 名の調査を実施した。
(3)津市の調査結果を教師、父母向け報告会と講演会を開催。その反応として、追加調査や学校精神
保健への支援要請が生まれた。
(4)啓発資材(リーフレット、パンフレット、本、ホームページ)の試作を行った。
(5)早期介入チームの経済基盤を検討、都道府県立病院のダウンサイジングによるチーム設置経費可
能性の試算を行った。
3.行政施策への貢献の可能性
(1)思春期児童の理解、精神病症状体験だけでなく、「キレる」、いじめ、ひきこもり、希死念慮等
の悩みを抱えている実態と対策の必要性が明らかになった。
(2)我が国の実情を踏まえた学校ベースの早期介入モデルが実現しつつある。
(3)早期からの治療に焦点をおいた、精神保健・医療システムの具体案ができつつある。
4.発表論文等
(1) Nishida A, Tanii H, Nishimura Y, Kajiki N, Inoue K, Okada M, Sasaki T, Okazaki Y.
Associations between psychotic-like experiences and mental health status and other
psychopathologies among Japanese early teens. Schizophrenia Research 99(1-3):125-133, 2008