共創システムシンポジウム 2011 講演要旨 脳活動のゆらぎとその認知的効果: 個人のパフォーマンス変動から脳間コミュニケーションへ Slow fluctuations of brain activity and its cognitive effect: from intra-subject performance variance to inter-brain communication 野澤孝之 本講演では,まず脳の自発的な活動が示すゆらぎとその時間的コヒーレンスが表出する ネットワーク (RSNs, TCNs) に関して簡単に紹介したあと,脳活動のゆらぎが認知的プロ セスに及ぼす効果に焦点を当てる. (1)このゆらぎが個人内での認知課題のパフォーマン ス変動に及ぼす効果を示す fMRI 実験の結果を概説し,(2)集団的コミュニケーションに おける脳間の相互作用評価へとつなげる進行中の研究について紹介する. 先行研究により,脳活動信号のゆらぎから,同じ知覚や運動の課題を繰り返し行う際の パフォーマンスのばらつきを予測できることが報告されている.たとえば,微弱な感覚刺 激を感知できるか,ボタンがどれくらいの強さで押されるかなどを試行直前の活動状態を 表す blood-oxygen-level dependence (BOLD) 信号から予測するなどである.しかし,この ような脳活動ゆらぎの予測的効果が,認知課題の遂行時にも存在するかどうかは十分に明 らかでなかった.そこで我々は,ある種のストループ課題を用いた fMRI 実験を行い,各 試行における応答時間 (RT) と試行提示時刻周辺での BOLD 信号変化との相関を調べた. 類似の先行研究と比べて,試行はより散発的かつランダム性の高いタイミングで独立性が 高くなるよう設計された.被験者は健康な右利きの大学生/大学院生 48 名(うち女性 20 名;年齢 19-24 才)であった.まず行動データから,RT は試行間でほぼ独立であることが 確認された.これはセルフモニタリングや適応の影響が小さかったことを示している.fMRI データから,まず課題の遂行によって賦活する領域では,パフォーマンスが低い(RT が大 きい)試行ほど賦活が大きいという補償的活動が観察された.一方,前頭極などのデフォ ルトモードネットワーク(DMN)を構成する領域では,賦活に先立つ BOLD 信号と RT との 間に正の相関が見られた.これは,これらの領域が課題遂行前に高い活動状態にあるほど, 応答が遅いことを意味する.これらの結果は,脳血流信号として現れる自発的脳活動から ある種の「認知的かまえ」を読み取れる可能性を示唆する. また近年,言語/非言語コミュニケーションによって個人間の脳活動にも相互作用が生 まれるという結果が報告されている.我々はこれらの研究と上記の結果にもとづき,集団 的相互作用の質が「認知的かまえ」の関係性に反映されるという仮説を立てた.そして超 小型 NIRS を用いた多人数同時計測により集団的相互作用の質を評価する手法を開発すべ く,研究を進めている.このような手法が確立されれば, 「場」を測り操作する新たな方法 論につながると期待される. なお,本講演で紹介した研究は,JST 先端計測分析技術・機器開発プログラムおよび科 学研究費助成金若手研究(B)課題番号 23700137 の支援を受けている.
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