はじめに

﹃一代五時継図﹄と﹃注法華経﹄
I女人成仏を端緒として1
はじめに
関戸堯海
ヨ代五時継図﹄︵定本番号二九︶は﹃三宝寺本﹄﹃録外御書﹄等に収録されるが、真蹟は伝わらず、著作年次も不
明であり三代五時鶏図﹄よりもさらに後人の整理が加わっているとみることができる。一代五時とそこに属する各
宗派が拠り所とする経典および祖師などを図示するが、あわせて﹁開会の事﹂﹁是諸経之王と云う事﹂などの項目を
■一
立てて、関連する経論疏を引用している。このため経論疏の要文の引用は、標題の内容と直接関係しているので、
﹃注法華経﹄に注記される要文と対照してみることは、要文注記の目的を検証するための一つの方策であると考える
ものである。
薬王菩薩本事品の女人往生段について
二クハノナリクッノヲ
ハテニハシトノ
ヨ代五時継図﹄の.四十余年諸経論嫌女人﹂と標される部分には
①華厳経云女人地獄使能断二佛種子一・外面似二菩薩一内心如二夜叉一文。
﹃一代五時継図﹄と﹁注法華経﹄︵関戸︶
-19-
クヒレハヲクフノヲ上トヲトラルヲ
﹃一代五時継図﹄と﹁注法華経﹄︵関戸︶
ニクノノハストモニノノハクントノ
②又云一見臺於女人一能失一一眼功徳一。縦雛し見二大蛇一不し可レ見二女人一文。
ニクハヲ
スニニヤスコトセハツー
③銀色女経云三世諸佛眼堕二落於大地一法界諸女人永無二成佛期一文。
スルニノモト
④華厳経云見二女人一眼堕二落於大地一.何況犯一度堕二三悪道一文。
二ク
スルコトノノノヲ
⑤十二佛名経云假使遍二法界一大悲諸菩薩不し能し降二伏彼女人極業障一文。
一一
ニクノルコトナルスラクスノヲニヤスコト
テスト
⑥大論云女人見一度永結二輪廻業一・何況犯一度定堕二無間獄一文。
ニクトヒトトハセ
⑦往生禮讃云女人及根鉄二乗種不レ生文。
ニクハノナリヒセハノノストノー
トハル卜
③大論云女人悪根本也。一犯五百生彼所生虚輪二廻六趣中一文。
二ケ〃ハ
クスノヲ .ニハ
⑨華厳経云女人大魔王能食二一切人一・現在作二纏縛一後生為二怨敵一文。
︵定二四二七∼八頁﹀
とあって︵①∼⑨の数字は筆者が付したものJ爾前の諸経に女人の成仏が否定きれてきたことを示す経論疏として
﹃華厳経﹄﹃銀色女経﹄﹃大智度論﹂などが引用されている。これを﹃注法華経﹂の注記と対照してみると法華経巻七
に収録される薬王菩薩本事品第二十三と共通項を見出すことができる。
テクルニ
ノヲム
ノヲ
ルーノヲム
テクノハノノノニシテニハ
﹃守護国家論﹄﹁大文第六明依法華・浬藥行者用心者﹂の﹁第二明但唱法華経題目計可離三悪道者﹂に
ノヲソシテノームルヤ
ヲ
問云見一華厳・方等・般若・阿含・観経等諸経一勧二兜率・西方・十方浄土一・其上見二法華経文一亦勧二兜率・西
ノテ
方・十方浄土一.何違二此等文一但勧二此瓦礫荊練之稜土一乎○答日爾前浄土久遠實成程迦如來所現浄土實皆
ハ・
ニムルノヲ
ハメナリトヌ
機士也。法華経亦方便壽量二品也。至二壽量品一定二實浄土一時此土即定二浄土一了。︵定一二九∼三○頁・真蹟
曽存︶
-20-
とあり、華厳方等・般若?阿含・﹃観無量寿経﹄などの諸経をみると、それぞれに弥勒菩薩の兜率天や阿弥陀如来
の西方浄土や十方の浄土への往生を勧めており、法華経にも兜率天や西方浄土などへの往生を勧めているので、どう
してあえてこの煩悩に満ちた娑婆世界を浄土として勧めるのかと設問し、寿量品に来たって真実の浄土を定める時、
娑婆世界こそが真実の寂光浄土であると決定されたと答えている。この質問の中で法華経に西方浄土を勧めていると
いうのは、薬王菩薩本事品に﹁若し如来の滅後後の五百歳の中に、若し女人あって是の経典を聞いて説の如く修行
︵1︶
せぱ勺此に於て命終して、即ち安楽世界の阿弥陀仏の大菩薩衆の囲邊せる住処に往いて、蓮華の中の宝座の上に生ぜ
ん﹂を指すものであるが﹁注法華経﹄をみると、この経文の周辺に女人成仏に関する注記が集まっている。
特にヨ代五時継図﹂と対照してみると︵︹︺内の巻数と数字は山中喜八編著﹁定本注法華経﹄の番号︶、
︹七巻九四︺﹃華厳経﹄︵一代五時継図﹂の①︶
︵同②︶
︹七巻九五︺﹃華厳経﹄言
︹七巻九八︺﹃銀色女経﹄﹂︵同③︶
周壁
︹七巻九六︺:﹃華厳経﹄言
が共通することがわかる。
ノ
ノノーテ
ーー
テ
ヲクノセハテニシテテ
﹃薬王品得意抄﹄では薬王菩薩本事品の女人往生の段について、女人には五障・三従の成仏を妨げる障害があるこ
ノ
とを挙げ、﹃銀色女経﹄を引用するo
ノ
女人往生成佛段。經文云若如來滅後後五百歳中若有︾女人一聞一是經典一如レ説修行於レ此命終即往二安楽
二ニノヲクルヤノカテ
テク
ーセラレテスルニセンノ
世界阿弥陀佛大菩薩衆園逵住虚一生一蓮華中寶座之上一等云云。問日此經此品殊女人往生説有二何故一乎・答
﹁一代五時継図﹄と﹃注法華経﹄︵関戸︶
−21−
ク
クリキシシヘハノヲハノニニクシムヲ二テヲスレハヲ
﹁一代五時継図﹄と﹃注法華経﹂︵関戸︶
アリ・卜ハ↓
ニハシテハヒニシテヒニテフニノテ
ナラテヲスレハ
曰佛意難し測此義難レ決歎。但加二一料簡一女人衆罪根本破國之源也。故内外典多禁し之。其中以二外典一論し之三
ヲリ
k0ニハラQrニハラロトニハラ
従。三従申三シタカウト云也。一幼従一交母一、嫁従し夫、老従レ子。此有二三障一世間不二自在一。以二内典一論し
ニクノノハストモニノノハクシノ
之有二五障一・五隠昔ニーハ道輪回間処一男玉不し催二大梵天王・一示し作二帝鐸一・三不し作二魔王・四不し作二韓輪
聖尹・琴常藍ァ六道壁一三塁不し盛侃蝿翔埠銀色女經云三世諸佛眼堕二落於大地一法界諸女人永無二成佛
期一等云云。︵定三四一頁・真蹟断片︶
ハノナリクッノヲ
ハテニハシトノ
シテルノノ
また﹃法華題目紗﹄には﹃華厳経﹄﹃浬藥経﹄を挙げて︵これらの文は﹃注法華経﹂にもみえる。︹七巻九四︺﹃華
厳経﹄、︹七巻九九︺﹃浬藥経﹂一切大衆所問品︶、
ノ、
リ
ツ
だけが女人成仏を説くことを明らかにする。
ノスト
カ
へ.
ク
ノノノ
−22−
内典の中には初成道の大法たる華厳経には女人地獄使。能断二佛種子一・外面似二菩薩一内心如二夜叉一文。隻林最後
ト
の大浬藥経には一切江河必有二回曲一。一切女人必有二諸曲一文。又云所有三千界男子諸煩悩合集為二一人女人
業障一等一妻。大華厳経の文に、能断佛種子と説れて候は女人は佛になるべき種子をい︵焦︶れり。︵定四○○頁.
真蹟断片︶
ツ
と法華経以外の諸経に於いて女人成仏が否定されてきたことを示し、さらに、
力
五障三従と申て、五のさはり三したがふ事あり。されば銀色女經には、三世の諸佛の眼は大地に落とも女人は佛
になるべからずと説れ、大論には、清風はとると云ども女人の心はとりがたしと云へり。︵定四○一頁・真蹟断
一
と述べ、女人が成仏を否定される理由の一つとしての五障と三従を挙げ、ここでも﹃銀色女経﹄を引用して、法華経
片
このように薬王菩薩本事品の女人往生の段をめぐって、ヨ代五時継図﹄および﹃守護国家論﹄﹃法華題目紗﹂﹃薬
王品得意抄﹂に引用される経論疏が﹃注法華経﹄と共通することによって、﹃注法華経﹄の薬王菩薩本事品には、女
ニク
ト
人往生に関する要文が列記されていると推察できる。そのため、法華経の本文に関連する要文を集めるという﹃注法
キテクリニ
ノクレノナリヲテルヤルコトヲ
華経﹄の注記の特徴についての一端を確認することができる。
薬王菩薩本事品の後五百歳について
ノニク
﹃一代五時継図﹄には.可広宣流布法華事﹂と標して
ノークレハヲチノリノメレハヲノノレハヲチノ
ナリニク
傳教大師守護章云正像梢過已末法太有し近。法華一乗機今正是其時。何以得し知。安楽行品云末世法滅時文。
チスレハレテナルヲルヲ
秀句下云語レ代則像終末初。尋し地唐東掲西。原し人則五濁之生闘靜之時。經云如來現在猶多怨嫉況滅度鮒
ニル
ノー
ノークノレハ
後。此言良有二所以一也文。
ノ
ーク
ノ
今ンテ・ジト,シ
シーナ
ニン卜ムルコトセ
道暹和尚輔正記云法華教興權教即廃。日出星隠見レ巧知し拙文。
二クレノチ
法華経安楽行品云一切世間多し怨難レ信文。
二ク
ノ
ヲニシヲテ
ニクメテセントラセ
薬王品云我滅度後後五百歳中廣二宣流三布於閻浮提一無し令二断絶一文。
ノニクスタルノミニヲ
クトー
クシー
クスヲ
勧發品云我今以二神通力一故守二護是經一於二如來滅後閻浮提内一廣令二流布一使レ不二断絶一
ニク
文句一云非二一但當時獲二大利益一後五百歳遠沽二妙道一文。
ー乗要決云日本一州圓機純一朝野遠近同歸二一乗一綣素貴賎悉期二成佛一・
ノニクノニハテセヲテサヲノニハテサ
安然廣澤云彼天竺國有二外道一不し信二佛道一。亦有二小乗一不し許二大乗一・其大唐國有二道法一不し許一 佛法一。亦
ヨ代五時継図﹄と︾﹁注法華経﹄︵関戸︶
一ア
﹃一代五時継図﹄と﹃注法華経﹄︵関戸︶
サヲ力ニハシテヲシコトトシテルモノハヲ
二クニリ
タリノノミニスヤ二
有二小乗一不し許二大乗一○我日本國皆信二大乗一無し有一一人不咳願二成佛一。
玲伽論云東方有二小國一唯有二大乗機一・豈非二我國一文。︵定二四三三∼四頁︶
とあるが、ここで薬王菩薩本事品の﹁我が滅度の後、後の五百歳の中、閻浮提に広宣流布して断絶せしむることな
か塗という経文に関連して豈法華文包の﹁後の五百歳、遠く妙道に沽わん﹂の文を引用するが、これも窪法
華経﹂薬王菩薩本事品の﹁後五百歳中広宣流布﹂の経文の部分に注記されているものである︵︹七巻一○四︺﹃法華文
句﹄一上︶。この点によっても、法華経本文の内容に関連する要文を注記するという﹃注法華経﹂の注記の特徴をよ
く理解することができる。
﹁無量義経﹂との接点
ヨ代五時継図﹂には﹃注法華経﹂の開経、すなわち﹃無量義経﹂の行間に注記される要文と同じ文もみえ、標題
によって引用の意図に共通性を見出すことができる。
①説法品第二
リ
テノニ
ノヲノヲルーノハルト卜
三代五時継図﹄では。念仏可末代流布事﹂︵二四四二頁︶に﹃無量寿経﹄﹃往生礼讃﹂﹃西方要決﹂﹃法華玄義﹂
二ク
などが引用されるが、そこに﹃像法決疑経﹂から
像法決疑經云常施菩薩従二初成道一乃至浬藥於二其中間一不し見三如來説二一句法一・然諸衆生見レ有二出没説法度
人一文。︵定二四四二頁︶
−24−
と引用される文は、﹃注法華経﹄の﹁無量義経﹄説法品第二に注記される文と同じである︵︹開経六九︺﹃像法決疑経﹄︶。
﹃注法華経﹂では霊臺義経﹄に﹁四十余年未顕真実﹂亀開結﹂二○頁︶﹁次説方等十二部経摩訶般若華厳海空宣説菩
︵4︶
薩歴劫修行﹂という経文の付近に、経文の内容に直接関連していると思われる要文が集まっているが、﹃像法決疑経﹄
もその中の一つである。特に﹁像法決疑経﹂は﹁菩薩の歴劫修行﹂に関連して、法華経こそが末代に流布すべき正法
であることを明らかにするための注記の一つと考えられるので、雪代五時継図﹄で﹁末代に流布すべき法は念仏な
のであろうか﹂という主題のもと引用されるのと同基軸にあるといえる。
②十功徳品第三
ヒナリルーノニンヤ
ヨ代五時継図﹂に.伝教大師一期略記云﹂と標題がある部分に引用される﹃摩訶止観﹂﹃摩訶止観弘決﹄の文も、
﹃ 注 法華 経 ﹂ の ﹃ 無 量 義 経 ﹄
﹄十
十功徳品第三に注記される文と共通する。
︹開経九六︺﹃摩訶止観﹄五下
ノニクノートカヲ
︹開経九七︺﹃摩訶止観弘決﹂五之五
ノニクテノニタマフキノヲノハクルノニク
止観五云是故二夜不レ説二一字一文。︵中略︶
シテノータテラニフト
弘五云依二何密語一作壼如レ此説一・佛言依二二密語一。謂自證法及本住法。然一代施化豈無二権智被物之教一・但
約二此二一未二曽有咳説故云二不説一耳文。︵定二四四五頁︶
これらの注記についてみると︹開経九六︺﹁摩訶止観﹄︹開経九七︺﹃摩訶止観弘決﹄は﹃無量義経﹄で﹁十功徳力﹂
を述べる中で第四の王子不思議力について﹁諸仏如来、常に是の人に向かって而も法を演説したまわん。是の人聞
﹃一代五時継図﹄と﹃注法華経﹄︵関戸︶
タ
−25−
﹁一代五時継図﹂と﹁注法華経﹄︵関戸︶
き已って悉く能く受持し随順して逆らわじ。転た復人の為に宜しきに随って広く説か生とあるのに関連して﹁不説
一
壷︵
萩釈尊の証得した真理は文字言語にはできないとする考え︶についての要文を集めた中の一つではないかと推
一塁
察される。
以上のように十功徳品においても、ヨ代五時継図﹄の引用のいくつかに﹃注法華経﹂と同基軸にある例が存在す
ることを確認できる。
おわりに
ヨ代五時継図﹄には薬王菩薩本事品の女人往生についての説示に関連して、﹃華厳経﹄﹃銀色女経﹄などが引用さ
れるが、これらの要文が﹃注法華経﹄の薬王菩薩本事品の注記と共通することがわかった。さらに、女人往生に関す
る共通項を端緒として、三代五時継図﹄の引用と﹃注法華経﹄の注記の共通項を検証してみたところ、他にも薬王
菩薩本事品の﹁後五百歳﹂および羅臺義経﹄などの接点が見出された。このことによって、法華経の本文に関連す
る要文を一箇所にまとめて注記するという﹃注法華経﹄の特徴の一端についてあらためて確認することができたと思
われる。
註
した。
※文中引用の日蓮聖人遺文は立正大学日蓮教学研究所編﹁昭和定本日蓮聖人遺文﹄に拠り︵定○○頁・真蹟の存在有無︶と表記
︵1︶﹁
鑑識妙法蓮華経並開結﹄五二七頁︵以下﹃開結﹄と略称する。︶
−26−
ク
ノ
キフ
﹁開結﹄五二九頁。
ル
ここに示される﹃﹃華厳経﹄﹃銀色女経﹄はともに原典にこの文をみない。山中喜八編著﹃定本注法華経﹄索引を参照。
﹁開結﹄二二∼三言
0
︵2︶
︵4︶
1
﹃開結﹄三七頁。
頁
︵3︶
︵5︶
一
キタマフヲノヲ
ノ
ニクノクシス
える文にも﹁注法華経﹄に注記されるものがある。︵説法品第二︹開経六九︺﹃像法決疑経﹄、︹開経一四八︺﹃樗伽経乞。
ノ
フ
キルレノ二
ク
云。八萬菩薩も千二百羅漢も悉皆列座し、蕊聞随喜す。常施一人は不し見・可レ依一何説・﹂︵定一二頁︶とあるが、ここにみ
うノ
云不レ見二如來説二一句法一云云。如何。答是常施菩薩言也。法華經菩薩聞一是法疑網皆已除千二百羅漢悉亦當一作佛一と
ク
榴伽經文を引歎。本法自法の二義を不し知歎。不し學可レ習。其上於一彼經一者未顕眞實被レ破畢。何為一指南一・問云像法決疑經
テノヲ
ニハ
フハ
︵6︶
一
﹁蓮盛紗﹄には﹁一宇不説﹂について述べ﹁禅宗云法華宗は不立文字義を破す。何故ぞ佛は一字不説と説給哉。答汝
トレラヌソン卜テク
ノニ
ンハハシフノ
ノク
一
﹁一代五時継図﹄と﹁注法華経﹄︵関戸︶
ーー
−27−
二
二