エヒメアヤメ(愛媛植物研究会誌)第 46 号,2015 愛媛県伊予三島産のハマネナシカズラ標本を見いだす Discovery of a specimen of Cuscuta chinensis collected at Iyo-mishima 藤井伸二1・小林真吾2・牧 雅之3 Shinji FUJII, Shingo KOBAYASHI and Masayuki MAKI ハマネナシカズラ Cuscuta chinensis Lam. の国内分布については主要ハーバリウムの標本に基づいた概要 が明らかにされているが,伊予(愛媛県)と度会郡(三重県)の 2 標本については詳細な産地情報が不明であっ た(藤井 2013) .今回,東北大学学術資源研究公開センター植物園のハーバリウムにおいて伊予三島市(現, 四国中央市)中之庄産の標本を見いだしたのでここに記録する. 四国地方からは徳島県と高知県の太平洋岸地域,そして香川県の瀬戸内海地域から記録されていた(藤井 2013) .愛媛県については 1922 年に牧野富太郎によって採集された標本が首都大学東京の牧野標本館に所蔵さ れているが,標本ラベルには「伊予」と記されているのみでその詳細産地は不明であった(藤井 2013) .また, 愛媛県レッドデータブックにおいて本種は情報不足とされている(愛媛県 2014).今回の伊予三島市中之庄産 標本(図 1,2)の発見によって愛媛県の瀬戸内海地域に生育していたことが判明した.標本のハマネナシカズラ はハマゴウ Vitex rotundifolia L.f. に寄生しており,台紙上に一緒にマウントされていた(図1) . 現在の中之庄では,西に隣接する具定町との境界に流れる大谷川河口部を除いた海岸部のすべてが埋め立てら れている.唯一の自然海岸が残されている大谷川河口について 2015 年 4 月 16 日に現地調査を行ったところ,ハ マゴウがわずかに生育するもののハマネナシカズラの生育は確認できなかった.一方,アメリカネナシカズラ Cuscuta campestris Yuncker がハマゴウに寄生しているのを確認した.以上より,中之庄のハマネナシカズラは 絶滅したものと考えられる. なお,近隣の中国地方においては岡山県と山口県での標本記録がある(藤井 2013).また,大分県の中津・ 宇佐低地からの文献記録があるが,1953 年以降の生育は確認されていない(荒金・辻 2011) . 本研究の一部は科学研究費補助金基盤 B(課題番号 24310168 および 26281051)の補助を受けた. 証拠標本:愛媛県伊予三島市中之庄,1939 年頃採集,T.Yamanaka 516 (TUS) 引用文献 荒金正憲・辻 寛文.2011.APG 分類体系による大分県高等植物目録.佐伯印刷,大分. 愛媛県(編) .2014.愛媛県レッドデータブック 2014—愛媛県の絶滅のおそれのある野生生物—.岡田印刷,松山. (次のサイトで閲覧可能:http://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/) 藤井伸二.2013.ハマネナシカズラ(ヒルガオ科)の国内分布.分類 13:103-107. 1 2 3 人間環境大学人間環境学部(〒444-3505 岡崎市本宿町上三本松 6-2) 愛媛県総合科学博物館(〒792-0060 新居浜市大生院 2133-2) 東北大学学術資源研究公開センター植物園(〒980-0826 仙台市青葉区荒巻川内 12-2) 13 藤井伸二・小林真吾・牧 雅之:愛媛県伊予三島産のハマネナシカズラ標本を見いだす 図1.伊予三島市産のハマネナシカズラ標本(東北大学植物園所蔵) 図 2.同標本のラベル部分の拡大. 14
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