侵略的外来種対策について-侵略的外来種リスト(仮称)を中心に

侵略的外来種対策について-侵略的外来種リスト(仮称)を中心に
環境省自然環境局 野生生物課 外来生物対策室 谷垣佐智子
1.背景
外来種による影響は、開発等の人間活動、自然に対する働きかけの減少、地球温暖化な
どの地球環境の変化と並んで、我が国の生物多様性を脅かす危機の一つであることが、平
成 24 年9月に閣議決定された「生物多様性国家戦略 2012-2020」に位置付けられている。
今後も貿易量の多いアジア地域の経済発展などに伴い、侵略的な外来種が導入される危険
性は高まると思われる。
国際的にも、生物多様性の保全のために外来種対策の強化が必要とされている。平成 22
年に開催された生物多様性条約第 10 回締約国会議において、生物多様性に関する世界目標
である「愛知目標」が採択され、このうち個別目標9として、
「2020 年までに、侵略的外来
種とその定着経路が特定され、優占順位付けられ、優先度の高い種が制御され又は根絶さ
れる。また侵略的外来種の導入又は定着を防止するために定着経路を管理するための対策
が講じられる。」が掲げられた。
我が国においては、平成 17 年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関す
る法律(外来生物法)」が施行され(図 1)、同法に基づき外来種対策が実施されてきた。外
来生物法では、我が国の生態系、人の生命又は身体、農林水産業に被害を及ぼす外来生物
を特定外来生物として指定し、その輸入・飼養等を規制するとともに、防除を実施するこ
ととしており、現在、植物 13 種類を含む 112 種類(約 1200 種)が特定外来生物に指定さ
れている。
図1
2.外来生物法の施行状況の検討と法改正
平成 24 年には、施行から5年以上が経過したことから、中央環境審議会において外来生
物法の施行状況の検討が行われた。同年 12 月にはこの検討結果がとりまとめられ、「外来
生物法の施行状況を踏まえた今後講ずべき必要な措置」が中央環境審議会から主務大臣(環
境大臣及び農林水産大臣)に対して意見具申された。この意見具申において、外来生物法
の施行により、輸入・飼養等の規制や防除の取組の拡大等、一定の効果がみられるものの、
一層の外来種対策の進展のためには、対策が必要な外来種の整理、交雑種への対策の推進、
予防的観点にたった特定外来生物の追加指定、非意図的に導入される外来種への対策の強
化、国内由来の外来種問題への対応、計画的・効果的な防除の推進等、多くの課題がある
ことが指摘された。
こうしたことを踏まえ、平成 25 年6月には外来生物法の一部が改正された。この改正に
より、交雑種の特定外来生物への指定、防除の推進に資する学術研究目的での特定外来生
物の放出等の許可、特定外来生物が付着・混入している輸入品等の検査及び消毒等の命令
等が可能になった。平成 26 年6月にはこの改正法が施行され、それにあわせて交雑種を含
む特定外来生物6種類が追加指定されている。
3.外来種被害防止行動計画(仮称)と侵略的外来種リスト(仮称)
平成 25 年の外来生物法の改正は、同法の施行以来初の大幅な見直しを伴う改正であった。
これは、外来生物法の施行以来明らかになった課題に対して、法的な面から対処したもの
だが、さらに、環境省は関係省庁と協働して、2020 年までの外来種全般に関する総合戦略
である「外来種被害防止行動計画(仮称)」(以下「行動計画」という。)と、特定外来生物
のみならず、特に侵略性が高く、我が国の生態系等に被害を及ぼす外来種のリスト「侵略
的外来種リスト(仮称)」
(以下「リスト」という。)について、検討を進めている(図2)。
図2
これらは、
「生物多様性国家戦略 2012-2020」において、愛知目標の達成に向けた我が国
の主要な行動の一つとして位置付けられており、意見具申で指摘されている様々な課題に
対応するためのものでもある。
○外来種被害防止行動計画(仮称)
行動計画については、環境省、農林水産省及び国土交通省が協働して、平成 24 年度から
「外来種被害防止行動計画策定会議」において検討を進めている。この中では、わが国の
生物多様性の保全等を図るため、外来種対策を社会の中で主流化するための基本的な考え
方、外来種対策における各主体の役割や行動指針、とるべき対策の優先度や国内由来の外
来種の対策の基本的な考え方等を整理することとしている(図3)。行動計画の策定により、
外来種の取扱いに関する国民全体の認識の向上と各主体による適切な行動の促進、優先度
を踏まえた効果的・効率的な防除の推進、多様な主体の役割分担と連携に基づく広域的な
防除の推進、非意図的に導入された外来種や国内由来の外来種の対策の推進等の効果を期
待するものである。
図3
○ 侵略的外来種リスト(仮称)
リストは、環境省と農林水産省で協働して、行動計画と同様、平成 24 年度から「愛知目標
達成のための侵略的外来種リスト作成会議」において検討を進めている(図 4)。さらに、
植物については、特に牧草や緑化植物など産業的に利用されている種類が多く、また種類
も膨大であることから、植物に特化したワーキンググループを設置している。リストの掲
載種については、最新の定着状況、我が国における具体的な対策の方向性、利用上の留意
点等についての情報をわかりやすく示すことで、適切な行動を呼びかけ、様々な主体の参
図4
画のもとで外来種対策の一層の推進を図ることを目的としている。
4.侵略的外来種リスト(仮称)掲載種のポイント
このリストの掲載種が、ただちに外来生物法の規制の対象となるものではない。もちろ
ん、リストの作成により、対策を行うべき外来種が最新の知見に基づいて整理されるため、
輸入・飼養等の規制をすることが効果的な外来種が特定外来生物に指定されるという効果
も期待される(これまで特定外来生物の指定は、外来生物法制定直後のまとまった指定以
降は、その都度必要に応じて散発的に指定を行ってきたため、どういった外来種が指定に
向けて検討されるのか分かりづらいとの指摘があった)が、生態系等に被害を及ぼす一方
で、産業的に重要な役割を果たしている外来種も多くあり、一律にこうした利用を法的に
規制することが現実的でないものも多い。こうしたことから、リストでは、対策の方向性
や緊急性を示すカテゴリ区分を設けるとともに、特に産業的に利用されている外来種につ
いては、利用上の留意事項も示すことで適切な管理を呼びかけることとしている。
例えば、掲載種のうち牧草類については、「産業上適切な管理が必要な外来種」のカテゴ
リに分類し、牧草地外への逸出を防ぐために結実前の刈り取りなどを呼びかけることを想
定している。このほかにも、防除の緊急性や実効性が高い「緊急的防除種」のカテゴリを
設け、各主体において最優先で防除に取り組むことを呼びかけることとしている。
また、まん延しており、どこでも普通に見られる種類については、どのような環境でも
一律に防除をするということは現実的ではない。特に、植物については、どのような環境
で問題となるかも対策を考える上で重要である。このため、リスト掲載種については、定
着段階(「定着初期」「分布拡大〜まん延期」など)を示し、定着段階ごとの対策目標の基
本的な考え方を整理することとしている。さらに、特に問題となる環境(例えば「海岸砂
丘」「湿地」
「自然草原」など)を示すことを予定している。
今回のリスト作成をこのような考え方で進めることとした背景には、平成 17 年に公表さ
れた要注意外来生物への様々な指摘がある。要注意外来生物は、外来生物法の規制の対象
とはならないものの、生態系に悪影響を及ぼしうる外来種を選定したものであり、生態系
に係る被害の指摘はあるものの法的な規制による社会的な弊害が懸念されるもの、被害に
係る科学的知見が不足しているもの、また、緑化植物など総合的な対策の検討が必要とさ
れるものなど 148 種類が挙げられている。要注意外来生物については、その選定の基準や
評価の過程が明確でなく十分な議論を経ずに選定されたものであるといった指摘や、外来
生物法の規制の対象でないとしながらも、とるべき対策の方向性等が示されず、
「使っては
いけない外来種」として誤った認識が広まってしまったといった指摘があった。
今回の侵略的外来種リスト(仮称)の作成により、要注意外来生物は発展的に解消する
こととしている。要注意外来生物に対する指摘も踏まえ、選定の基準や評価項目を整理す
るとともに、上述のとおり対策の方向性や定着段階等を示すことで、リストを活用する者
が問題点を理解でき、適切な対策が進むことを目指して検討を進めている。
なお、外来生物法の対象となっておらず、要注意外来生物においても選定対象とされて
いなかった国内由来の外来種についても、今回のリストでは掲載する予定である。
5.今後の外来種対策に向けて
来年で外来生物法が施行されて 10 年となる。特定外来生物の指定や防除の実施、法改正
など、外来生物法の枠組みの中での対策は一定の進展があったといえる。しかし、外来種
には、私たちの社会に欠かせない役割を持っているものもあり、外来種問題への対処は法
律による規制のみならず、広範な視点で検討される必要がある。今回の行動計画とリスト
の作成にあたっては、このことが強く意識されている。
外来種問題の解決に向けては、国や地方公共団体などの行政機関だけでなく、外来種を
利用する事業者や国民等様々な主体の理解と協力が不可欠である。行動計画とリストでは、
特定外来生物のみならず、外来種全般に関する対策の基本的な考え方や各主体に求められ
る役割等を整理することとしている。外来生物法による厳しい規制によるだけでなく、様々
な主体が外来種のリスクを知り、それぞれの外来種との関わり方において適切な対応がな
されるよう、外来種に関する理解の促進を図っていきたい。