-1- 2015年度第1学期「比較政治Ⅰ――リベラル

2015年度第1学期「比較政治Ⅰ――リベラル・デモクラシーの比較政治――」
1.リベラル・デモクラシーとその多様性
2015.4.13
0.授業の進め方
担当者:小山
吉亮(おやま
よしあき):西洋政治史専攻
4月13日
1.リベラル・デモクラシーとその多様性
4月20日
2.政党
4月27日
3.選挙
5月
4日
休日
5月11日
4.議会と政府
5月18日
5.二院制
5月25日
6.財政・金融政策
6月
1日
7.福祉
6月
8日
8.利益集団
6月15日
9.クライエンテリズム
6月22日
10.新しい社会運動
6月29日
11.政治と宗教
7月
12.連邦制
6日
7月13日
13.地域統合
7月20日
試験
<主要参考文献>
レポート
*:入門レベル、○初級レベル
◎政治学・比較政治学に関する文献
*佐々木毅『民主主義という不思議な仕組み 』(ちくまプリマー新書、 2007 年)
*川出良枝/谷口将紀編『政治学』(東京大学出版会、2012 年)
*北山俊哉他『はじめて出会う政治学[第3版]』(有斐閣、2009 年)
*伊藤光利編『ポリティカル・サイエンス事始め[第3版 ]』(有斐閣、 2009 年)
○加茂利男他『現代政治学[第4版]』(有斐閣、2012 年)
○久米郁男他『政治学
補訂版』(有斐閣、2011 年)
○辻中豊『政治学入門』(放送大学教育振興会、2012 年)
○伊藤光利/真渕勝/田中愛治『政治過程論』(有斐閣、2000 年)
○阿部斉『概説
現代政治の理論』(東京大学出版会、1991 年)
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○岩崎美紀子『比較政治学』(岩波書店、2005 年)
○粕谷祐子『比較政治学』(ミネルヴァ書房、2014 年)
建林正彦他『比較政治制度論』(有斐閣、2008 年)
新川敏光他『比較政治経済学』(有斐閣、2004 年)
川人貞史他『現代の政党と選挙
新版』(有斐閣、2011 年)
レイプハルト『民主主義対民主主義
原著第2版』(勁草書房、2014 年)
◎西ヨーロッパの政治について
*河合秀和『比較政治・入門[改訂版]』(有斐閣、2000 年)
○加藤秀治郎編『西欧比較政治[第二版]』(一藝社、2004 年)
○小川有美他『EU諸国』(自由国民社、1999 年)
○森井裕一編『ヨーロッパの政治経済・入門』(有斐閣、2012 年)
網谷龍介他編『ヨーロッパのデモクラシー 改訂第2版』
(ナカニシヤ出版、2014 年)
リアクション・ペーパー:提出は任意、無記名、評価の対象外
成績評価
期末試験(80%):授業最終回(7月20日)の予定
レポート(20%):読書感想文1200字程度、6月22日〆切の予定
課題図書については後日
※
レポートを提出しない者は評価の対象としないので注意すること
1.比較政治とは何か
①政治学は政治に関わる諸学問の集合体である
政治学
Political Sciences / Political Studies
②政治学の他の分野との棲み分けが明確でない
比較:異なるものの類似と差異を記述・分析すること
何かの特徴を述べる=他のものとの違いを指摘する
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人文・社会科学では実験の代わりに比較を行う
理論に関する研究:比較を通じて理論の妥当性を検証する
個別事例に関する研究:他の事例との比較を通じて特徴を見出す
→具体例の比較から新たな理論が生まれることも
応用
理論
←
↓↑
検証
比較
↓↑
理論化
相対化・検証
→ 個別事例研究
比較政治の位置づけ:理論系科目と地域政治系科目の中間
個別事例を参照・紹介しながら、理論との関わりについて考える
2.多極共存型デモクラシー
デモクラシー democracy(民主主義・民主政・民主制)
リベラル・デモクラシー(自由民主主義)liberal democracy
=自由主義+デモクラシー=少数者保護+国民主権(参加・多数決)
自由主義(リベラリズム ):個人の自由や自律性を尊重し絶対的権威・権力を拒絶
国家・権力による人々の自由・権利の侵害に否定的
多様性を最大限尊重、少数派を保護
リベラル・デモクラシーはどのようなときに安定するのか?
古典的な見方
英米:政治文化が同質的→リベラル・デモクラシーは安定
政治的目的・手段が広く共有されている
ヨーロッパ大陸諸国:政治文化が分裂→リベラル・デモクラシーは不安定
異なるイデオロギー・世界観によって分断→価値観の違いから争いへ
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ヨーロッパ大陸諸国のリベラル・デモクラシーは必ずしも不安定ではない
→レイプハルトの多極共存型デモクラシー論
英米型と異なるタイプのリベラル・デモクラシー
オランダ・ベルギー・スイス・オーストリア
柱状化/列柱状社会分割 (pillarization)
各政党の系列団体ごとの強固なネットワークによって社会が分割されている状態
それぞれの「柱」は階級横断的--それぞれに経営者団体や労働組合、農民団体
生活のあらゆる分野を包括
多極共存型デモクラシー (consociational democracy)
サブカルチャー間の対立を避けるために、
各サブカルチャーの指導者が協調して安定を維持する
クリーヴィッジ(社会的亀裂)
集団間の紛争がアイデンティティー・組織を通じて構造化・固定化されたもの
サブカルチャー(下位文化)
支配的な政治的指向(ナショナルカルチャー)と異なる指向を持つ人々の集団
柱: 組織化されたサブカルチャー
多極共存の仕組み
①権力の共有
主要なグループの代表が大連合を形成し、共通の争点の政策形成に参加
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②各集団の自治
共通の争点以外は各集団の自治に委ねる---教育・言語・宗教問題など
③少数派の保護
比例の原則:ポスト・資金を比例配分(少数派の過剰代表も)
選挙制度も比例代表制
少数派の拒否権(相互拒否権)
少数派にとって不可欠な利益については全会一致→少数派に拒否権
多極共存デモクラシーの前提条件
①社会全体にある程度の同質性が見られる
②大衆がエリートに決定を委任/エリートが大衆を統制できる
レイプハルトの議論の問題点
・エリート主導は民主的なのか?
・各国の実態と合っているのか?
オランダ
「柱」:カトリック・プロテスタント・社会主義・自由主義
4大勢力の「大連合政権」が形成されたのはわずか5年程度
「柱」の存在自体が安定を支えていたのではないか?
経営者と労働者の階級対立の激化を防ぐために「柱」を形成
→大衆を統制下に置いた上で協調
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オーストリア
「陣営」:キリスト教・社会主義(・ナショナリズム)
国民党(キリスト教系)・社会党の大連合(1947~66)
但し、戦間期(第1次大戦~第2次大戦)のオーストリアでは激しい対立
小国なので隣国ドイツとの関係をめぐって政治が混乱
スイス
2つの宗教:カトリック、プロテスタント
4つの公用語:フランス語、ドイツ語、イタリア語、レートロマン語(ロマンシュ語)
強固な地域主義
4大政党(キリスト教・社会主義・自由主義・農民)による大連合政権
「魔法の公式」:各政党の勢力配分比を固定(2:2:2:1)→2000年代に修正
言語・地域間の調整---特定の言語・地域が優位にならないように配慮
半直接民主政
イニシアティヴ(国民発議):国民が憲法・法律の制定・改廃を提案すること
条件:一定数以上の署名を集めること
レファレンダム(国民投票):特定の提案の可否について国民が直接投票を行う
多極共存:エリートでない人々や主要でない集団の意見は反映されにくい
レファレンダムは多極共存の例外
70年代以降、この4国では新党の登場や勢力比の変化
脱柱状化:サブカルチャーの凝集力の低下
アイデンティティーの弱体化、組織の弱体化
<参考文献>
レイプハルト『多元社会のデモクラシー』(三一書房、1979 年)
レイプハルト『民主主義対民主主義
原著第2版』(勁草書房、2014 年)
篠原一編『連合政治Ⅰ・Ⅱ』(岩波書店、1984 年)
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