1¨^3>1A< 顧客組織の強化を通じたマーケティングの促進 rZ¦§©z\bcNxtX¥bc\cTan{K アルビレックス新潟後援会との協働研究とその成果 DTa¦\c§ f¡&8A*9A#+?"1979 k Sg}jOb c¢]CbeUY4A&7A<!;2ERh R nF/A3<$? F$? (@ F.C.)i(1,.?!6A!&9A#+?" 2007 kz\bc Ml Facebook 5A%(www.facebook.com/num.fukuda.seminar)':~Q&8 新潟経営大学 准教授 福田 拓哉 A*0%-&Coq_J 顧客組織を通じた マーケティングへの注目 「顧客個人から顧客組織へ」―。 近年、顧客との長期継続的な関係構築を図る というCRM(カスタマーリレーションシップ プロフィール Takuya Fukuda 新潟経営大学准教授。立命館大学経営学研究科博士 課程後期課程修了。博士(経営学)。専門はスポーツ 2¨y マーケティング。 @¤dLG¤d9A#+?"Vp 1979年生まれ。北海道小樽市出身。大学院在籍中に @<0=)!&znvH!;2\Bm£|H[sbW 大家友和ベースボールクラブの事務局長を務め、その 後京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)、福岡 wvuI ソフトバンクホークスマーケティングを経て2007年か @2013 k8 k<0=)!&znvH[`P ら新潟経営大学に。公式Facebookページ(www. facebook.com/num.fukuda.seminar)にて、ゼミの活 動やスポーツビジネスを中心に情報配信を行ってい る。 マネジメント)の視点は維持したままで、関係 構築を図る対象を顧客個人から顧客組織に切り 替えようという動きが活発化しています。この 動きの背景にある狙いは、ある製品やブラン ド、そして企業自体のファンを組織化し、その ファン組織の中で繰り広げられる顧客同士の相 互作用を通じて顧客の維持・育成・新規開拓を 図ろうとするものです。 こうした顧客のファン組織はマーケティング 研究の分野において「ブランド・コミュニ ティ」と呼ばれており、実務分野でも関心が寄 せられています。なぜならブランド・コミュニ ティを通じたマーケティング活動は、企業と顧 客の間に強い絆を構築し、経営にポジティブな 影響を与えることが数多く報告されているから ■顧 客個人から顧客組織に焦点をあてた マーケティングの可能性。 ■ア ルビレックス新潟後援会がクラブ経営 に与える影響の検証と会員組織の拡大に 向けた理論的支援の提供。 ■2013年、8年ぶりにアルビレックス新潟 後援会員が増加。 です。 ブランド・コミュニティとしての アルビレックス新潟後援会 ブランド・コミュニティの効果を端的に表現 すれば、「活動を通じてファンがファンを育て る」ことに尽きます。ある製品やブランドの熱 狂的なファン達が共に活動を楽しむ中に初心者 を巻き込み、徐々に玄人に育て上げていくとい ホクギンMonthly 2015.5 う光景は、釣り、バイク、自動車、サーフィン、 スキーやスノーボードといった趣味性の高い産業 分野でよく見られる現象です。この現象を新潟で 最も端的に理解できるのがアルビレックス新潟 (以下「アルビ」)ではないでしょうか。 図2 アルビレックス新潟後援会がクラブの 財務に与える影響 (百万円) 200 150 後援会からの支援金額 営業利益 経常利益 純利益 100 50 しかし、2005年を頂点に観客動員数は減少の 0 一途を辿り、満員だったビッグスワンも今では -50 空席が目立つ状態が当たり前になってしまいま -100 -150 した。中身を分析すると、年間指定席(シーズ -200 ンパス)の売上減少が観客動員の減少とほぼ一 -250 致していることが分かります。一方でアルビ -300 レックス新潟後援会(以下「後援会」)の会員 数に着目すると、緩やかに減少しているもの 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 -350 出所:アルビレックス新潟後援会、Jクラブ個別経営情報より 筆者作成 の、会員数の減少割合は極端に低く、一定の規 模を保っている事が分かります(図1)。 ています。では、なぜ本業のサッカー関連ビジ 図1 後援会員・平均観客動員・シーズンパス 発行枚数の推移 25000 42000 シーズンパス発行数 (左) できるのでしょうか? このカラクリの1つが後援会からアルビにも たらされる支援金です。その額、毎年約1億 後援会会員数 (左) 平均観客動員数 (右) 20000 ネスが赤字にも関わらず、最終的に黒字を計上 36000 円。もし、この支援金が無かったら―。 アルビは慢性的な赤字体質に陥り、2013年か 15000 30000 ら施行されたクラブライセンス制度(3年連続 赤字計上でJリーグから退会)をクリアできな 10000 24000 5000 18000 かったかもしれません。その場合、もちろん選 手人件費を抑制することでやり繰りが行われる でしょうが、昇降格制度に基づくサッカーリー 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 出所:アルビレックス新潟後援会、アルビレックス新潟提供データ より筆者作成 グの世界に存在する残酷な現実と向き合わなけ ればならなくなります。それは中長期的にみる と、クラブの相対的選手年俸総額がリーグ戦平 では、この後援会はクラブ経営においてどの 均順位の約80%を説明するというものです。端 ような影響力を持っているでしょうか?財務的 的に言えば、選手人件費を抑制すると黒字を確 観点から見てみましょう(図2)。アルビの財 保しやすくなる代わりに、J2降格の危険性が 務的特徴の1つが営業損失と純利益との関係に 高まるということです(図3)。したがって、 あります。2005年以降2013年に至るまで、アル 相対的にライバルクラブよりも高い年俸総額を ビは毎年営業損失を計上しています。つまり、 選手に支払いつつ、クラブ経営上も黒字を確保 本業のサッカー関連ビジネスでは赤字が続いて するためには、ひとえにマーケティングを通じ いるということです。一方、純利益に着目する た売上拡大がプロスポーツの世界では必要にな と、2007年と2008年を除き、最終利益を確保し るのです。 ホクギンMonthly 2015.5 図3 Jリーグにおける年俸総額とリーグ戦 順位との関係(2005-2013) 平均年俸総額 0 0 500 1000 1500 2000 2500 アルビレックス新潟 5 も、これと同様の結果となりました。つまり、 後援会は会員個々の消費行動という側面から も、アルビが得る売上の土台を形作っており、 加えてビッグスワンの温かくも熱狂的な雰囲気 を作り出すプレーヤーでもあり、スポンサーメ 10 平均順位 リットの積極的な還元者でもあるのです。 15 20 y = -0.0142x + 32.543 R² = 0.83 25 表2 会員と非会員の行動的ロイヤルティの比較 入会者 (n=325) 非入会者 (n=425) 平均 SD 平均 SD アルビレックス新潟応援歴 9.22 2.66 7.51 3.53 7.48*** 昨年のJ1リーグホームゲーム観戦回数 16.4 5.59 11.39 6.73 10.83*** 昨年のナビスコ杯ホームゲーム観戦回数 1.84 2.81 0.88 1.19 5.62*** 昨年のJ1リーグアウェイゲーム観戦回数 3.12 3.89 1.72 3.19 4.66*** 昨年のナビスコ杯アウェイゲーム観戦回数 0.26 0.92 0.14 1.09 1.45 ユニホーム所有枚数 3.09 2.4 2.21 1.75 5.12*** 30 35 40 出所:Jクラブ個別経営情報およびJリーグ公式記録より筆者作成 アルビレックス新潟後援会を 対象とした研究 この売上拡大という側面において、後援会は p<.001 表3 会員と非会員のクラブへの愛着の平均値の差 どのような貢献を果たしているでしょうか?消 費者行動の観点から私が行った研究結果(福 田, 2013)を基に見ていきましょう。 まずはチケットの購買行動についてです。表 1に示したとおり、後援会員は非会員と比較し 入会者 平均 SD 非入会者 平均 SD t値 私にとってアルビレックス新潟は 生活の一部である 4.47 0.8 3.84 1.12 8.89*** 私は、チームの好不調に関わらず アルビレックス新潟を応援する 4.73 0.57 4.4 0.83 6.40*** 私は、アルビレックス新潟の一員 である 4.04 1.03 3.52 1.21 6.30*** 私は、アルビレックス新潟の熱烈 なサポーターである 4.41 0.72 3.96 0.89 7.68*** ことが明らかとなりました。 チケット種別 前売り券 当日券 招待券 シーズン パス その他 X 2値 有意 確率 (n=100) (n=10) (n=198) (n=430) (n=12) 5.80% 後 入会 援 会 非入会 19.10% 0.60% 6.80% 85.20% 1.50% 187.917 1.90% 41.40% 36.00% 0.000 1.60% 出所:福田(2013) 応援歴や観戦回数等についても、後援会員は 非入会者と比較してアルビにとって望ましい行 動を取っていることがわかります(表2、 3)。試合中の心理と行動の側面(表4)、ス ポンサーに対する評価の側面(表5)において ホクギンMonthly 2015.5 p<.001 表4 会員と非会員の応援時の心理と行動の平均値の差 入会者 表1 後援会員と非会員の使用チケットの比較 α 0.827 てシーズンパス保有率が圧倒的に高く、これと は逆に無料招待券を利用する割合が極めて低い t値 非入会者 t値 平均 SD 平均 SD 試合中は私も選手と共に闘ってい る 4.25 0.88 3.87 1.05 5.10*** 私は、応援歌の歌詞を一曲以上暗 記している 4.24 1.19 3.32 1.51 9.13*** 私は、試合中に応援歌を積極的に 歌う 3.75 1.31 3.06 1.42 6.71*** 試合中はユニホーム(またはT シャツ)を来て応援をする 4.4 1.14 3.69 1.55 7.19*** 試合中はタオルマフラーや旗など の応援グッズを使っている 4.58 0.89 3.99 1.39 6.94*** α 0.827 p<.001 出所:表2-4は全て福田(2013),p.52-54 【用語解説】 SD:標準偏差。データ群の平均値と各データの乖離やばらつき具合 を表したもの t値:2 つのグループ間に統計的意味のある差が存在するかの検定結 果を評価する指標。通常、-2以下、+2以上だと差が存在する ことになる。 α:クロンバックのα係数。アンケートなどで、目的とする特性を 測定する質問項目群であるかを判定するもの。具体的には0.8以 上であれば適正に測定できていると判断できる。 p:測定結果がどれくらいの確率で「偶然には発生しない」ものか を示す指標。本研究では、pは0.1%(0.001)のため、偶然でな い確率は99.9%以上といえる。 表5 会員と非会員のクラブスポンサーに対する 評価と行動の平均値の差 入会者 非入会者 t値 α るよう、「アルビと後援会との接点」を増やす と共に、「支援の形の見える化」を図ったとい うことです。 平均 SD 平均 SD アルビレックス新潟クラブスポン サー正答数 1.73 1.25 1.39 0.82 4.00*** クラブスポンサーはアルビレックス 新潟の存続・発展には欠かせない こうした努力は数字となって実を結びまし 4.74 0.57 4.4 0.81 6.62*** 私は、アルビレックス新潟のクラ ブスポンサーに愛着を感じる た。2013年にそれまで減少の一途を辿っていた 4.53 0.73 4.03 0.92 8.24*** クラブスポンサーも自分と同じサ ポーター仲間である 4.55 0.67 4.09 0.94 7.72*** クラブスポンサーはクラブを サポートすることで新潟の発 展に貢献している 4.56 0.69 4.24 0.88 5.45*** 私は、クラブスポンサーの商品を 購入するよう心がけている 4.42 0.82 3.9 1.06 7.51*** 0.918 後援会の入会者数が8年ぶりに増加したのです (図1参照)。2014年もこの傾向が続き、観客 動員数、シーズンパス発行枚数が減少する中で 唯一の2年連続増加を成し遂げました。2015年 p<.001 出所:福田(2013), p.52– 54 また、関連する研究(福田・今泉, 2013)では、 もこうした傾向が続けば、シーズンパス発行枚 数と観客動員数の増加にも良い影響が出るもの と考えています。 ①後援会に対する愛着が強い会員ほど試合観 戦、グッズ購入、後援会への勧誘、行事への参 まとめ 加といった活動を行っていること。 ②後援会への愛着を強化する源泉的要因がクラ ブ関係者への愛着であること。 以上のように、ブランド・コミュニティ研究 以上の2点が実証されました。これによっ の知見を後援会に応用した産学協働プロジェク て、ブランド・コミュニティとしての後援会を トは大きな成果を得ることができました。今後 活用したマーケティングの有効性と効果が明ら は後援会の成果をアルビのシーズンパス発行枚 かとなり、アルビ側がアプローチを行う際の基 数増加に応用することや、会員数や観客動員数 準となる考え方が示されたわけです。 の減少に悩む他クラブへの適用も視野に入れて 研究を継続したいと考えています。 実務への応用とその成果 本稿をお読みいただいている方々におかれまし ても、もちろん産業的特性と理論の適応性を考慮 する必要はありますが、これを機に顧客組織に注 先に示した研究結果を受け、後援会事務局は 目したマーケティングにご興味を持って頂き、一 会員との絆作りを活発化させました。その活動 度検討されてみてはいかがでしょうか。 は多岐にわたりますが、例えばスタジアムでの 会員名簿の掲出、ハーフタイムおよび試合終了 後の後援会員募集バナーのピッチ周回(既存会 員が参加)、新規入会者向けイベントの実施、 継続案内における支援金の使い道報告および選 手からの感謝コメント掲載といったものがその 一部です。また、私のゼミと共同で、後援会の 活動や参加者の声を映像化し、ウェブ上で公開 する試みも始まりました。 要は「アルビを支援している実感」が得られ 【参考文献】 ・福田拓哉(2013)「公式ファン組織がプロスポーツクラブ の経営に与える影響:入会者と非入会者との比較を通じ て」新潟経営大学紀要(19),pp.47-57 ・福田拓哉・今泉直史(2013)「ブランド・コミュニティの ロイヤルティ効果とその先行要因: J リーグ・アルビレッ クス新潟後援会のケース」スポーツマネジメント研究5 (1), pp.41-57 ・福田拓哉・吉留広大(2015)「プロスポーツ組織における 公式ファン組織の戦略的活用に向けた学術研究と実務実践 との相互関係:アルビレックス新潟後援会のケース」地域 活性化ジャーナル(21),印刷中 (平成27年3月10日寄稿) ホクギンMonthly 2015.5
© Copyright 2024 ExpyDoc