ねずみ鋳鉄における表面直下型ピンホール欠陥に及ぼす 鋳造方案と界面

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ねずみ鋳鉄における表面直下型ピンホール欠陥に及ぼす鋳造方案と界面反応の影響
研究論文
ねずみ鋳鉄における表面直下型ピンホール欠陥に及ぼす
鋳造方案と界面反応の影響
竹 本 義 明* 阿 部 峻**
Research Article
J. JFS, Vol. 87, No. 11(2015)pp. 751 ~ 758
Effects of Filling Systems and Interface Reactions on
Subsurface Porosity Defects in Grey Cast Iron
Yoshiaki Takemoto* and Shun Abe**
Subsurface porosity defects are usually detected during the machining process. It is essential to identify these defects to
maintain consistent customer satisfaction. A number of different theories have been proposed to explain the formation of the
defects. However, none of these theories reasonably explain how much gas pressure is necessary to diffuse into the casting
and why porosities are formed in the subsurface close to the core. This paper investigates the effects of filling systems and
interface reactions on subsurface porosity defects in grey cast iron. The results obtained are as follows:
(1)Porosity defects located on the subsurface close to the core were 1 to 5 mm in diameter, and were lined with oxide and
graphite. They occurred most often in section thicknesses ranging between 25 to 40 mm.
(2)Porosity formation was found to be very sensitive to core permeability and to gas pressure in the core. Severe porosity
defects were found at permeability less than 150 and gas pressure more than 1kPa.
(3)The filling system on the porosity formation tendency was found to be sensitive. An enlarged sprue with a conical basin
was also found to be very sensitive to porosity formation even when a ceramic form filter was used. However, the combination of the offset basin and a naturally pressurized sprue using a ceramic form filter reduced the porosity formation
tendency considerably.
Based on the above results, it appears probable that bifilms entrained in the turbulent filling process first enter into castings through the gate, then nascent hydrogen and nitrogen released during the pyrolysis of core binders diffuse and contribute to pore initiation on bifilms and subsequently grow. It is necessary to have more than 1kPa gas pressure for these gases
to diffuse into castings.
Keywords : subsurface porosity, grey cast iron, filling systems, interface reactions, bifilms, gas pressure
1.緒 言
鋳鉄鋳物の表面直下に生じるピンホール欠陥は,機械加
過飽和になって気泡が生じるとする伝統的な考え方
現在でもなお主体的である.しかし,T. Klemp
2 ~ 14)
が
15)
は焼成鋳型
を用いる精密鋳鋼品にも,表面直下にポロシテイが生じること
工後に発見される場合が多く,鋳物工場の信頼を傷つける
を指摘し,伝統的な考え方に異論を唱えた.また上記伝統的
ものの一つとして,経営的に喫緊の課題である.これまで
な考え方と同様であるが,A. L. Zuithoff
その真の原因の解明に,多くの研究が行われてきたが,研
案された酸化物と溶湯中の炭素が反応して生じる CO ガスが
究結果を反映した条件下でも,欠陥が生じる時もあれば,
原因とする反応ガス説がある
16)
によって最初に提
13, 17 ~ 22)
.これらガス気泡説に基
生じない時もあり,本質的な解決には至っていないのが実
づく気泡生成には,70,000 気圧以上の高いガス圧が必要であ
態である.
ると指摘され
23)
1)
問題となっている.そこでピンホール欠陥には
J. V. Dawson が最初に提案したように,界面反応や鋳型の
酸化物を伴うことから,酸化物が気泡生成の核として働くと
熱分解で生じた水素や窒素が鋳物に侵入し,凝固中に濃縮し,
した研究もおこなわれている
24 ~ 26)
.しかしながら,仮に酸化
受付日:平成 27 年 5 月 20 日,受理日:平成 27 年 9 月 3 日(Received on May 20, 2015; Accepted on September 3, 2015)
*
**
P000-000 研究論文 竹本義明.indd
岩手大学工学部 現:TCT Casting Technology
Faculty of Engineering, Iwate University Now, TCT Casting Technologies
岩手大学工学部 現:水沢工業(株) Faculty of Engineering, Iwate University Now, Mizusawa Industry Co.
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物が気孔生成の核として働くとしても,気孔生成に必要なガ
ス圧は,少なくとも 850 気圧が必要と J. Campbell
23)
は指摘し
ている.実際の溶湯にはそのような高いガス圧は存在しないと
して,E. T. Turkdogan
27)
は鋳型表面に存在するクレビスに気
泡が生成し,表面直下に入り込んだとした.この考えは表面
10K,10±2 秒を目標とした.
2. 2 鋳型材料と造型条件
鋳型材は豪州産と山形産 5 号けい砂を配合し,通気度が
100 ~ 300 になるよう粒度調整した.造型プロセスはフェ
ノールウレタン系とし,2.2%(フェノール / ウレタン= 50/50)
直下型気泡欠陥の生成理論として一般に受け入れられている.
を基本とし,1.6%,1.3% を加えた.混練は高速攪拌機で
しかし界面で生じた 1mm 以下の気泡が溶湯に入り込むには,
行い,混練むらが起こらないようフェノール樹脂に触媒
溶湯の表面張力や酸化被膜の影響で,気泡が侵入するには無
0.1% を加えて 60 秒撹拌後,イソシアネートを加え,さら
28)
に 60 秒撹拌した.混練後直ちに造型し,離型後 2 時間以
理がある .
29, 30)
そこで,大原ら
は微量の酸素を含むガスを溶湯に
上おいて注湯した.中子は造型のまま用いたが,一部は塗
通気した実験から,Al2O3 が水素気泡を増加する結果を得
型 ・ 乾燥(150℃,1 時間)したものを用いた.通気度は
た.そして Al2O3 のクレビスが気泡生成の起点となる可能
造型と平行してφ50*h50mm の試験片を成形し,通気度
性があることと,その成長も促すことを示唆した.また J.
試験機で計測した.
Campbell
23, 28)
は表面に生成した酸化被膜が湯流れの中で
2. 3 試験鋳物形状と鋳造方案
11)
巻き込まれ,これによって生成した Bifilms(以下 2 層皮膜
試験鋳物は R. L. Naro
片と呼ぶ)に含まれるガスが気孔サイトとなると結論し,
*h175mm を階段状の中子−7 段 25mm ピッチ)と同一と
が用いたもの(円筒鋳物−φ138
特に鋳物上面に生じる表面直下のピンホールは,乱流を伴
した.Fig. 1 に示すように,形状的には溶湯圧による押湯
う湯口系で生じた物理的な気泡も深く関わっているとし
効果をなくし,中子の巾木を大きく取ることにより,これ
た.R. Monroe
13)
とした.黒川ら
も湯口系で生じた気泡がその原因になる
31)
をはじめ多くの研究者から指摘された
らの影響を少なくし,鋳造方案の影響を見やすくしたもの
である.表面直下のピンホール生成が肉厚の影響を受け,
ように,ピンホール内面にも,形態や量は異なるが,その
肉厚が薄すぎてもまた厚すぎても生じない特性を考慮し
内面に酸化物があることが指摘されている.上記 2 層皮膜
たものである.中子の巾木が十分に大きいが,欠陥生成場
片や空気巻込みから気孔が生じるとすれば,酸化物を伴う
所との距離があるので,ガス穴の有無の影響も見るように
ことと矛盾はない.
した.
これらを考慮すると,ピンホールの基になる気孔生成が,
鋳造方案は Fig. 2 ~ 3 に示すように,3 種類の方案とし
湯流れの乱れによる酸化物や空気の巻込みに左右されると
た.図に示すように,いずれの方案も堰を鋳物最下端にし,
考えられる.しかし,これまでの研究報告を見ると,この
キャビテイ内での落下に伴う巻込みをなくし,湯口での湯
観点からの系統的な研究が殆ど見られない.本研究は湯流
れの良否,すなわち鋳造方案と表面直下型ピンホールの生
成条件を明らかにすることを目的として行われた.
2.実験方法
2. 1 溶解と注湯条件
目標成分は Table 1 に示すように,実際によく使われる
ねずみ鋳鉄成分とした.とくにポロシテイに関わると考え
られるアルミニュームとチタンは,出来る限り少なくなる
ようにした.
Table 1 Chemical composition of cast iron(mass%).
鋳鉄の化学組成(質量 %).
C
Si
Mn
P
S
Al
Ti
3.35
2.10
0.70
0.04
0.05
<0.015
�0.025
地金についても,錆びの少ない板金屑 60% に銑鉄を
40% 加え,Fe-Si, Fe-Mn, Fe-S で,目標成分になるよう成
分調整を行った.出湯前に鋳鉄用 Fe-Si 接種剤を 0.2% 添
加した.
溶解は高周波炉で行い,黒鉛坩堝を用い,溶解温度は
1788±10K,鋳込み温度と鋳込み時間はそれぞれ 1623±
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Fig. 1 Shape and dimensions of test casting(TP)and
sand mold.
試験片の形状と寸法及び砂型.
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ねずみ鋳鉄における表面直下型ピンホール欠陥に及ぼす鋳造方案と界面反応の影響
流れの影響を見やすくした.方案 1 はコーン湯口とし,大
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木型のためやむなくφ15mm となったため,初期堰流速は
きさも過剰にして,初期堰流速を 181 ~ 241cm/s とし,空
80 ~ 110cm/s となった.これらの条件で鋳込み時の流速や
気が巻込み易い形状とした.方案 2 はコーン湯口であるが,
空気の巻込み状況をシミュレーションした結果,方案 3 は
方案 1 よりやや小さくし,かつ湯道にフィルターを用い,
方案 1 や 2 に比べ大幅に改善できていた.
初期堰流速を 87 ~ 133cm/s とした.方案 3 は初期堰流速
2. 4 中子ガス圧の測定法とピンホール量の評価法
を 100cm/s 以下を狙い,2 本湯道と 2 個のフィルターを用
ガス圧測定器は,鋳物工場で用いられるガス圧計に加え
いた.また湯口棒をφ12mm まで小さくすべきであったが,
て,蒸気など過酷な雰囲気に耐えるシリコンダイヤフラム
式高精度ガス圧計を用いた.測定位置は Fig. 1 に示すよう
に,6 段目で,中子表面から 10mm 内部にガス管を取付け,
鋳物上部に圧力センサーを置き,これをガス圧測定の基本
とした.この他 4 段目,5 段目にも必要に応じて設置した.
ピンホール量は湯口中央で垂直に切断し,中子周辺に出
来たピンホールを計測した.ピンホールはφ1 未満,φ1 ~
3mm,φ3 ~ 5mm に分類し,それぞれの大きさを 1,2,3
と重みづけし,その総計をピンホール量とした.
3.実験結果
3. 1 ピンホール発生形態とその内面
表面直下ピンホールは Fig. 4 に示すように,主として
4 ~ 6 段目の中子面に生じる.その大きさと形状は,1 ~
5mm の大きさで,半球状のものである.その内面に酸化
物などが認められるので,EPMA 分析で組成を確認した.
Fig. 5 の比較的球状に近いものは,金属顕微鏡下では異物
を見ることが出来なかったが,EPMA 分析から黒鉛や鉄
酸化物皮膜が認められた.Fig. 6 の偏平状のものは Fe, Si,
Al からなる酸化物と黒鉛が混在する.
Fig. 2 Filling system designs of TP 1 and 2(dimension
mm).
試験片 1,2 の鋳込み方案図(寸法 mm).
Fig. 4 Evaluation of subsurface porosity defects(A:
Vertical section at gate, B: Horizontal section at step
6)
(TP 23, Filling system1, Sand: Fine 80+Coarse20,
Permeability115, Gas vent: Yes).
中子に近接した表面直下に生じたピンホール欠陥発生量
の評価法(A 断面は堰を中心にした切断面,B は 6 段目
の輪切り面)(TP 23, 方案 1,細粒砂 80+ 粗粒砂 20,通
気度 115,ガスベントあり).
Fig. 3 Filling system design of TC 3(dimension mm).
試験片 3 の鋳込み方案図(寸法 mm).
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OM(×100)
SEM(×1000)
Fe(×1000)
C(×1000)
O(×1000)
Si(×1000)
Fig. 5 EPMA analysis of subsurface porosity defects.(Any oxide is optically invisible inside pore, type1)
(Sampling:
Fig. 4, A)
ピンホール欠陥の EPMA 分析(金属顕微鏡では,欠陥内面に酸化物が認められない,タイプ 1)
(顕鏡部:Fig. 4,A 部).
OM(×100)
Fe(×1000)
Si(×1000)
C(×1000)
O(×1000)
Al(×1000)
Fig. 6 EPMA analysis of subsurface porosity defects(Oxide is optically visible, Type2)
(Sampling: Fig. 4, A)
ピンホール欠陥の EPMA 分析(金属顕微鏡で欠陥内面に酸化物が認められる,タイプ 2)
(顕鏡部:Fig. 4,A 部).
200
3. 2 ピンホール量と中子通気度の関係
す.通気度が増加するに従って,ピンホールは少なくな
り,通気度 200 以上ではほとんど発生しない.このことか
ら,表面直下型ピンホール欠陥に中子の通気度が大きな影
響を示すことが分かった.
3. 3 ピンホール量と中子ガス抜き 塗型の関係
・
中子のガス抜き有無の影響を見たものが Table 2 である.
ガス抜きを設置することで,ピンホール量は減少する.特
に中子に塗型すると,ガス抜き無しでは欠陥が急増するが,
ガス抜きを付けることで大幅に改善できる.今回の試験方
180
Amount of porosity defects
中子通気度とピンホール発生量との関係を Fig. 7 に示
160
140
120
100
80
60
40
20
0
80
1 00
1 20
1 40
1 60
1 80
2 00
2 20
2 40
2 60
Permeability of core
案は巾木上部が大きく解放されている条件下でも,塗型し
た中子では,
ガス抜きは非常に大きな影響を与えるといえる.
Fig. 7 Relationship between permeability of core and
amount of porosity defects.
中子の通気度とピンホール欠陥数との関係.
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ねずみ鋳鉄における表面直下型ピンホール欠陥に及ぼす鋳造方案と界面反応の影響
Table 2 Relationship between filling systems(FS),
core sand composition, permeability, coating, gas vents,
and porosity defects.
鋳造方案,中子の砂配合 ・ 通気度 ・ 塗型 ・ ガス抜きと
ピンホール欠陥の関係.
ピークがみられた.図に見るように,ガス圧ピークはいず
れも瞬時に起こり,長続きしない特徴を示した.第一ピー
クは溶湯が到達直前に起こり,第二ピークは鋳込み完了直
後に起こっている.このピーク高さに及ぼす測定場所の影
響を見たが,6,5,4 段では,測定位置が上になると,や
Perme- Core
ability coating
1 Fine 100
105
Fine 40
Coarse 60
163
2 Fine 100
109
3 Fine 100
111
Fine 70
Coarse 30
126
Fine 50
Coarse 50
150
Gas
vents
Porosity
defects
や低くなる傾向はみられるが,大きな変化はなかった.ま
た,これらのガス圧は,界面からの深さが 3 ~ 7mm の範
囲内では,あまり影響を受けないことが確認された.例
No
No
105�severe�
No
Yes
106�severe�
えば,センサーの位置を中子表面から 7mm の位置から,
3mm まで近づけると,ピーク発現時間はやや短時間側に
No
No
36�moderate�
No
Yes
24�trace�
No
No
136�severe�
No
Yes
97�severe�
No
No
19�trace�
Yes
Yes
49�moderate�
Yes
No
175�very severe�
No
No
Yes
Yes
41�moderate�
Yes
No
179�very severe�
No
No
0�none�
Yes
Yes
4�trace�
Yes
No
1�none�
142�very severe�
移るが,ピーク圧はあまり変化なかった.
ガス圧に及ぼす通気度の影響を Fig. 9 に示す.通気度
が大きくなるにつれ,ピーク圧が低下する.ピーク圧だけ
3.0
Gas Vent
� No
� Yes
Core coating
No
2.5
kPa
Sand composition %
2.0
Gas pressure
FS
1.5
1.0
0.5
0.0
90
110
130
150
170
190
210
230
250
270
290
Permeability of core
3. 4 中子のガス圧
中子の通気度やガス抜きがピンホールに対して非常に
大きな影響を持つことから,鋳型内のガス圧を確認してお
く必要がある.Fig. 8 に示すように,鋳込み直後の 1 ~ 2
秒後と 8 ~ 10 秒後に,それぞれ約 0.5 と 1.7kPa のガス圧
Fig. 9 Relationship between permeability of core and
maximum gas pressure.
中子の最大ガス圧と通気度の関係.
Fig. 8 Gas pressure at steps 4, 5 and 6 in core having fine sand 100% and permeability 109.
細粒砂 100%,通気度 109 の中子における 4 段,5 段,6 段のガス圧.
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でなく,バックグランド圧も低下する.このように通気度
増加とともに,ピーク圧やバックグランドが急激に低下し
た.同様にガス抜きを設けても,ピークガス圧は低下傾向
にあるが,通気度の影響ほど大きくなかった.この原因は
界面からガス抜きまでの距離に通気度が深く関わってい
ると思われるが,今後の研究が必要である.
3. 5 ピンホール量と鋳造方案の関係
ピンホール量は方案 2 に変えるとやや好転する傾向は認
められるが,大幅な改善は得られなかった.しかし,方案
3 に変えたところ,ピンホール欠陥は大幅な改善が得られ
た.このことから方案 1 と 3 に絞って実験結果を整理した
ものが Fig. 10 である.図に見るように,方案 3 は中子通
気度が低い条件でも,ポロシテイ欠陥は少なく,欠陥をな
くせる通気度条件が 180 ~ 200 から 140 ~ 150 に低減でき
ることが分かった.
140
Amount of porosity defects
120
�
Filling system 1
�
Filling system 3
100
80
60
Fig. 11 Simulation of air entrainment in three filling
systems.
40
20
3 つの方案における空気巻込みシミュレーション.
0
80
100
120
140
160
180
200
220
240
260
Permeability of core
Table 3 Simulation summary of air entrainment in
filling processes.
注湯工程における空気巻込みのシミュレーションの
まとめ.
Fig. 10 Effect of filling systems on subsurface porosity
defects.
表面直下に生じるピンホールに及ぼす鋳造方案の影響.
In Sprue
In Casting
Air entrainment
Violent entrainment of
occurs most of
air occurs for 5.2 sec.
filling process
in filling process.
Air entrainment
Violent entrainment of
ン湯口から堰鉢方案に変え,かつ堰流速を 180 ~ 240cm/s
occurs for 6 sec
air occurs for 3.5 sec.
から 80 ~ 110cm/s になるよう湯口設計を行った.さらに
Air entrainment
Air entrainment occurs
occurs only in 1
only in 1 sec., after that
sec..
calmly filling.
鋳造方案 1,2 と 3 の違いは,コーン湯口を用いたことと,
Filling
System
やや過剰気味の湯口大きさのため,湯口が一杯になるまで
の時間がかかり,空気の巻込みが多い点である.このこと
1
は Fig. 11 に示すように,湯流れシミュレーションでも確
認できた.空気の巻込みが少なくなるよう,方案 3 ではコー
湯道にフィルタも追加した.Table 3 に 3 つの方案につい
て,空気巻込みが緩和される変化点を示した.方案 3 では
湯口系や鋳物空間への流入時の空気の巻込みが少なく,か
2
3
つ短時間になることが予測された.方案 2 は鋳物空間内流
入時の空気の巻込みは大幅に改善されたが,コーン湯口で
きく影響を受けていることから,中子のガス圧から考察す
の空気の巻込みが長時間続いたことが,ピンホールが思う
る.中子の通気度が低くなると,ガス圧が上昇している.
ように改善できなかった要因と思われる.
中子内のガス圧が高い場合,ウレタン系の粘結材の熱分解
8)
4.表面直下型ピンホールの発生機構
で生じた原子状の水素や窒素は溶湯に拡散する .気泡生
成の最も一般的な考え方は,鋳型ガスが鋳物表面から内部
4. 1 中子ガス圧からの考察
に拡散し,凝固の進展により,残液中のガスが過飽和にな
前述のように,表面直下ピンホールは,鋳型通気度に大
り,気泡が生じたとするものである.しかし気泡が生成す
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るためには,Fisher
23)
の式から,仮に酸化物が気泡生成を
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なった事実と矛盾しない.
補助しても,少なくとも 850 気圧が必要である.このよう
以上の考察結果から,表面直下型のピンホールの生成機
な高圧は起こり得ないことから,溶湯中のガスの過飽和の
構は,第一義的には,湯口系で生じた 2 層皮膜片が気泡
ために気泡が生じたとする考察は無理がある.
生成の直接的な原因で生じたものである.中子から熱分解
ガス圧の測定結果から,溶湯が中子面に到達した直後に
で生じた発生期の水素や窒素が,中子のガス圧高い条件下
生じる瞬間的なガス圧ピークが 2 回現れることが観察さ
で,表面直下に拡散し,小さな気泡の生成と成長を促し,
れている.とくに中子の通気度が低い場合,Fig. 9 に見る
表面直下型ピンホールになったものと考える.これらの現
ように,第 2 ピークガス圧はかなり高くなる.この段階
象を逆説的にいえば,鋳造方案が悪く,空気,鋳型ガスや
では.温度計測の結果,中子表面は少なくとも液体状態と
黒鉛を巻込むような条件の下では,気泡欠陥の元をつく
考えられる.これらから「吹かれ」に似た現象が考えら
る.もしこのような欠陥の元が無ければ,鋳型内のガスが
れる.すなわち,Turkdogan
Campbell
32)
27)
が提案したクレビス説や J.
が提案したマイクロブロー説によって,小さ
な気泡が溶湯に侵入する場合である.気泡が溶湯に侵入す
るに必要なガス圧 Pi は次式を満足する必要がある.
高く,かつ発生期の水素や窒素が存在しても,表面直下型
のピンホール欠陥は生じにくいといえる.
5.結 論
Pi ≧ 2γ /r + Pe
フェノール−ウレタン粘結材を用いた中子附近に生じる
ここで γ は溶湯の表面張力,r は気泡の半径,Pe は溶湯中
表面直下型ピンホール欠陥を,鋳込み実験をもとに調査 ・
の気泡周辺の圧力である.表面直下の気泡の大きさがφ1
検討した結果,次のような結論を得た.
~ 5mm とすると,侵入時の気泡大きさは 10μ ~ 1mm と
1) ピンホール欠陥は中子側表面直下に,1 ~ 5mm の
32)
推定できる .溶湯表面が鉄シリケートで覆われている
2
とすると,表面張力は大幅に低下し,0.5N/m 以下になる
ことが既に指摘
33)
されている.侵入する気泡の最大直径
2
大きさで生じる.
2) この欠陥内面には,必ず酸化物や黒鉛皮膜が存在する.
3) 中子の通気度が 100 ~ 300 の範囲では,通気度が低
を 1mm,表面張力を 0.5N/m ,溶湯高さを 100mm とした
いほどこの欠陥が生じ易く,通気度が 200 を超えると
ときの,必要なガス圧は 8.8kPa 以上となる.第 2 ピーク
ほとんど皆無になる.
ガス圧の測定値が最も高い場合で 2.5kPa であった.また,
溶湯が到達した直後に第一ピークが生じているが,最大
0.5kPa であった.第一ピーク,第二ピークのガス圧では,
4. 2 湯口系で巻込まれた気泡と 2 層皮膜片
表面直下型ピンホールの原因として,R. Monroe
30)
巻込みが激しく,この欠陥が生じやすい.堰鉢とスリ
ムな湯口を用いた方案 3 では,欠陥は生じにくい.
5) 中子にガス穴を設置すると欠陥は軽減する.とくに
気泡は侵入できないといえる.
Campbell
4) コーン形状の湯口を用いた方案 1,2 では,空気の
中子に塗型するとガス穴は不可欠である.
13)
や J.
が指摘する湯口系で巻き込まれた気泡がある.
6) 以上の実験結果をもとに,表面直下型のポロシテイ
の生成機構は,湯口系で酸化被膜や黒鉛皮膜の巻込み
この場合は,溶湯中を浮上するので上型に生じる.今回の
によって生じた 2 層皮膜片が気泡生成の直接的な要因
表面直下ピンホールは,階段状になっていることと,空気
となっている.
が巻込み易い方案に多発するので,その生成の可能性が考
7) 2 層皮膜片から生じた小さな気泡は,中子から生じ
えられる.しかしながら,鋳型の通気度が高くなると欠陥
た発生期の水素や窒素が 2 層皮膜片上で気泡の生成
は生じなくなり,低くなると増加する.また,階段の上面
とその後の成長を促し,ピンホール欠陥となったと考
だけでなく,側面にも欠陥が生じているので,湯口系の乱
える.発生期のガスが鋳物に拡散するためには,鋳型
れからだけでこの欠陥を説明できない.
内のガス圧が 1kPa 以上必要と考える.そして表面直
湯口系で巻き込まれた気泡の他に,2 層酸化被膜片に含
まれるガスが気泡生成の元となる考え方
23)
がある.鋳型
中の粘結剤増加やイソシアネート粘結材の割合を高くし,
下にピンホール欠陥が集中したのは,鋳物の凝固が進
み,ガスの拡散が,相対的に早い凝固により規制され
たためと考える
かつ通気度が低下する時,欠陥が増加した.このことから,
中子が熱分解して生じた発生期の水素や窒素が,1kPa 以
謝辞
上では,溶湯内に拡散したと考える.その後凝固が進み,
本研究推進に当たって,多くのアドバイスを頂いた岩手
残液中の水素や窒素などのガス圧上昇で,酸化皮膜片内の
大学工学部マテリアル工学科の水本准教授と Birmingham
28)
ガス圧上昇を促し,酸化皮膜片から直接気泡が生じる .
大学 J. Campbell 名誉教授に心からお礼申し上げたい.
生じた気泡は非常に小さいが,金属−鋳型界面近くでは,
水素,窒素,CO ガスが気泡の成長を促し,表面直下にピ
参考文献
ンホール欠陥を形成したと考える.このように考えると,
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中子内でガス圧が上がっても,乱れの少ない方案では 2 層
皮膜片が少ないため,小さな気泡が少なく,欠陥が少なく
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